ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』
映画館上映迫る~新世代スターが壮麗
でドラマティックな名演を披露

英国ロイヤル・オペラ・ハウスのオペラ&バレエを映画館で満喫できる「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23」(配給:東宝東和)の一環として、ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』が2023年8月25日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国公開される(8月31日(木)まで一週間限定)。『眠れる森の美女』は、ペローの童話を原作とするチャイコフスキー作曲の名作。今年の5月24日にロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスで上演・収録された舞台は、いま絶好調の名門が自信を持って贈る、古典中の古典の傑出した舞台なので見逃せない。
■カンパニーにとって格別の意義を持つ一大芸術財産!
【STORY】
国王フロレスタン24世とお妃は、 生まれたばかりのオーロラ姫の洗礼式に妖精たちを招くが、邪悪な妖精カラボスは洗礼式に招かれなかったことに激怒する。洗礼式に招かざる客として割り込んだカラボスは、オーロラは糸紡ぎで指を刺して死ぬという呪いをかけた。リラの精は、カラボスの呪いを和らげる贈り物を贈る。それは、オーロラは死なないが深い眠りに落ち、王子のキスによって目覚めるというもの。
オーロラの16歳の誕生日に、4人の王子たちが求婚しにやってくる。禁止されている糸紡ぎを使っていた女性たちが捕まるが、お妃のとりなしで無罪放免となる。好奇心旺盛なオーロラは老婆に変装したカラボスに渡された糸紡ぎで指を刺してしまう。オーロラは深い眠りに落ち、城全体も共に眠る。
100年後、狩りに出かけたフロリモンド王子は、リラの精にオーロラ姫の幻影を見せられ、魅了される。王子はリラの精に導かれて深い森に隠れた城を見つけ、キスでオーロラを目覚めさせる。邪魔をしようとしたカラボスは打ち負かされる。おとぎ話の登場人物たちが駆けつけて、ふたりの華麗な結婚式が開かれる。
『眠れる森の美女』は1890年にロシアの帝室マリインスキー劇場で初演された。名匠チャイコフスキーと振付を担当したマリウス・プティパが緻密に連携して創り評判を呼んだ。英国では1939年にビッグ・ウェルズ・バレエ(ロイヤル・バレエの前身)がレパートリーに加えた。第二次世界大戦後の1946年2月、コヴェントガーデンのロイヤル・オペラ・ハウスの再開を飾ったのも『眠れる森の美女』で、1949年のアメリカ・ツアーでも上演された。ロイヤル・バレエの創始者ニネット・ド・ヴァロワが手がけたこの舞台は、名花マーゴ・フォンテイン主演で好評を博し、戦後の荒廃した世の中において舞台芸術が再興する先駆となった。その歴史的プロダクションは2006年、創立70周年を機に復元され新たな定番となっている。

【予告編】The Royal Ballet: The Sleeping Beauty cinema trailer

■珠玉の踊りの数々、卓越したマイムと芝居に注目!
冒頭、気鋭指揮者ジョナサン・ローが率いるロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団が奏でる重厚な序曲に導かれファンタスティックな世界へと誘われる。プロローグの舞台は秀麗なアーチを誇る王宮だ。国王フロレスタン24世(クリストファー・サウンダーズ)、女王(エリザベス・マクゴリアン)に仕える式典長カタラビュット(ベネット・ガードサイド)は、オーロラ姫(ヤスミン・ナグディ)の洗礼式の準備に余念がなく、招待客のリストを何度も確認している。そこへ妖精たち、妖精のキャバリエが入場し、祝典の舞がはじまる。
ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』Production photo of The Sleeping Beauty, The Royal Ballet (c)2023 ROH. Photographed by Andrej Uspenski
妖精たちのソロは気鋭や実力派のソリスト級が踊る見せ場。まずは、澄んだ泉の精(アネット・ブヴォリ)、魔法の庭の精(イザベラ・ガスパリーニ)、森の草地の精(前田紗江)、歌鳥の精(ソフィー・オールナット)、黄金のつる草の精(崔由姫)が踊る。逸材ぞろいで、音楽と調和した洗練された踊りで魅せる。日本出身のふたりの踊りも見事だ。のびやかさが目を惹く前田は、新シーズンからソリストに昇進が決まっており将来が嘱望される。崔は、豊富な舞台経験の持ち主で踊りのうまさが際立つ。妖精たちをつかさどるリラの精はマヤラ・マグリ。おおらかな踊りに安定感が増し、プリンシパルとしての風格がおのずとにじみ出てきた。最後の全員でのコーダは、姫の誕生を祝す高揚感に満ちて華やかである。
そこへ不穏な響きとともに現れるのが、洗礼式に招かれなかったカラボス(クリステン・マクナリー)。怒りが収まらないカラボスは「オーロラ姫は糸紡ぎで指を刺し死んでしまう」と呪いをかける。対するリラの精は、悪の呪いの力を弱め「オーロラの死が死ぬことはなく眠りにつき、王子の口づけによって眠りを覚ます」というようにする。ここではカラボス、リラ両者のマイム・演技が見もの。カタラビュットを責めるカラボスの仕草の一つひとつは可笑しく、怒ったかと思うと呵々大笑する姿には凄みがあり、悪の精ながらあっぱれ。対するリラの精の優美なマイムは、善の精らしく包容力にあふれる。マクナリーならびにマグリの好演を楽しめた。
ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』Christina Arestis as Carabosse and artists of The Royal Ballet in The Sleeping Beauty, The Royal Ballet (c) 2017 ROH. Photograph by Bill Cooper

■オーロラ姫役ナグディの初々しさ・愛らしさに目がくぎ付け!
第1幕はオーロラ姫の16歳の誕生日。4人の王子たちが姫に求婚するが、老婆に変装したカラボスに渡された糸紡ぎを受け取り指に刺してしまう――。序奏そして糸紡ぎを手にしている女性たちが追及される場面に続いて、両手で花輪を掲げた女性らが舞うワルツへ。そして、いよいよオーロラ姫の入場だ。軽やかなステップを踏んで現れ、人々から祝福される。英国の王子(ギャリー・エイヴィス)、フランスの王子(ニコル・エドモンズ)、インドの王子(デヴィッド・ドネリー)、ロシアの王子(トーマス・モック)と踊るローズアダージョは白眉といえる名場面。ナグデイは、バランス技などテクニックも危うげない。そして、役を生きることに秀でたバレリーナなので、どの瞬間を切り取っても初々しさが光る。その印象は、ヴァイオリンの華麗な響きと戯れるように踊るバリエーション(ソロ)で強くなる。「16歳の愛らしい姫」という役柄を、演技ではなくおのずと体現しているからこそ踊りに透明感が宿るのだ。
ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』Yasmine Naghdi as Princess Aurora in The Sleeping Beauty (c)2017 ROH. Photograph by Bill Cooper

■ナグディ&ボール、今をときめくスターが豪華共演!
待望の王子登場となるのが第2幕。狩りに出たフロリモンド王子は、リラの精の幻影に触れ、その手引きでオーロラ姫と出会い口づけする。ボールは、ロイヤル・バレエきっての貴公子でありながら鬼才マシュー・ボーン振付の『白鳥の湖』に主演するなど芸域を広げているが、ここでは理想的な王子であるだけでなく、そこはかとなく愁いを帯びた陰影のある王子像を造形。立ち姿は美しく、跳躍もあざやかだが、どこか内面に葛藤を抱えているというような風情だ。ボールの王子は、オーロラ姫にとって、また舞台を見守る観客にとって待ち望まれた存在であるが、同時に王子もオーロラ姫と出会うことで救われるというようなドラマを感じさせる。
ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』Matthew Ball as Prince Florimund and Yasmine Naghdi as Princess Aurora in The Sleeping Beauty (c)2017 ROH. Photograph by Bill Cooper
第3幕はオーロラ姫とフロリモンド王子の結婚式。ふたりが、深い愛と信頼の絆を踊るグラン・パ・ド・ドゥは絶品だ。アダージョでは、リフトもサポートも息が合い、一体となって古典美の妙を味わえる。ボールのソロは、ボディコントロールがきいた堂々たる踊り。ナグディのソロは、腕など上体のまろやかな用い方と繊細なポワントワークが同居して優雅なスタイルを崩さない。最後のコーダでも、それぞれ高度な技術力を示しながらユニゾン(同じ振り)での一心同体のような音楽性などパ・ド・ドゥ(2人の踊り)の醍醐味を堪能できる。両者は、マクミラン版『ロミオとジュリエット』をはじめ多くの舞台で共演しているだけに、相性がよいのに加え、いきいきとした化学反応を感じさせる。ほかの踊り手も優秀だが、ことに青い鳥のジョセフ・シセンズは弾むような跳躍が傑出していて素晴らしい。また第1幕で森の草地の精を踊った前田が、ここではフロレスタンの姉妹役として登場し「宝石の踊り」を披露するのにも注目したい。

ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』Matthew Ball as Prince Florimund and Yasmine Naghdi as Princess Aurora in The Sleeping Beauty (c)2017 ROH. Photograph by Bill Cooper
■ロイヤル・バレエの現在の精華をスクリーンで味わい尽くす!
ロイヤル・バレエが現在上演する『眠れる森の美女』は、クラシック・バレエ最高峰の格式と、演劇の国・英国にふさわしいドラマティックな総合芸術としての完成度を併せ持つ。ただ、規模が大きくキャラクタープリンシパルも含めた数多くの優れた演者がそろわないと高水準での舞台は望めない。その意味において、今回の上演は現在のロイヤル・バレエがいかに充実しているかを示す証といえよう。豪華フルコースにして旬な踊りを真空パックに詰め込んだような映像だ。ロイヤル・オペラ・ハウスからの豪華なバレエの宝箱をスクリーンで味わい尽くしたい。
【特別映像】ロイヤル・バレエ『眠れる森の美女』8月25日(金)公開
文=高橋森彦

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