関西のジャズシーンを代表するサック
ス奏者 小曽根啓にインタビュー~最
新アルバムからライブ、今後の展望ま

関西のジャズシーンを代表するサックス奏者 小曽根啓のライブが、神戸の旧居留地に再オープンする神戸朝日ホールで行われる。今年1月、実兄で世界的ジャズピアニスト小曽根真のプロデュースによる初アルバムがリリースされ、話題となった小曽根啓が、関西の腕利きミュージシャンと共にどんな演奏を聴かせてくれるのか。神戸を愛し、神戸に拘って活動して来た彼だけに、特別なライブになる事が予想される。ライブの事やアルバムの事、ライフワークである若い人たちの指導・育成や将来の音楽家像まで、小曽根啓に話を聞いた。
アルバム『ユニゾン』の曲とスタンダード・ナンバーの両方を演奏
――神戸朝日ホールでライブをされます。どんなライブになりそうですか。
うちのミュージックスクール(オゾネミュージックスクール​)の近くに立派なホールが出来るみたいで、そこでライブをやらせてもらう事になりました。今年1月に兄貴のプロデュースで、アルバム『ユニゾン』をリリースしたので、このライブではアルバムの曲と、これまであんまりやって来なかったスタンダード・ナンバーとをミックスした感じの構成になると思います。
――『ユニゾン』、聴かせて頂きましたが、カッコいいアルバムですね。ビッグバンド「No Name Horses」でお馴染みの最強リズム隊、中村健吾のベースと高橋新之介のドラム、小曽根真のピアノに乗せて、小曽根啓さんの歌心溢れるサクソフォンが胸に沁みました。ソプラノの曲が多かったのが意外でした。
実は録音の当日、アルトの抜けが悪くて、急遽ソプラノに変えたのです。本当はほとんどの曲をアルトで吹くつもりでいたので、少し大変でした(笑)。どうしてもアルトで吹かないといけない曲、「マダム・レオ」と「バック・ストリート」だけアルトで吹きました。やってみると、意外に悪くなかったので、もうアルトは必要ないかなぁと思っていたぐらい。後日、改めてアルトを吹くと、抜けが良くなっていてメチャ気持ち良かったので、今回のコンサートはアルトをメインでやろうかなと思っています(笑)。
――そうだったのですか。当日の持ち替えで対応が出来るというのが、ジャズマンですね。何か他に、録音にまつわるエピソードなど聞かせてください。
デューク・エリントンの「イン・ア・メロウ・トーン」は、初日の録音を終えて、飲み屋で中村健吾氏と話をしていて、二人で何かやろうという事になり、急遽ワンテイクで録音しました。「ホワット・イズ・ジス・シング・コールド・ラヴ?」は先ほどのソプラノになった関係で、当日キーを上げて演奏しました。今回のリハーサルは、少し前に1回と、レコーディングの前日に1回やっただけです。皆さん忙しいですからね。レコーディングまでに曲の骨格を確認しておけたおかげで、録音はほぼワンテイクでできました。
――小曽根真さんがこのアルバムを絶賛されています。今年の「No Name Horses」のコンサートでも、アルバムのラスト・ナンバー、ミッチェル・フォアマンの「ゴージャス」をソロで弾いた後、啓さんの話しをされて、お客様にアルバムをよろしくお願いしますと言われていました。とりわけ、啓さんのオリジナル曲については、5曲とも良く出来ていると感心しておられました。
そうみたいですね。それは素直に、兄貴の評価だと受け取っています。それだけに、もっと良い曲を書いて、また兄貴とやりたいです。母親はずっと兄弟二人のCDが聴きたいと言っていて、兄貴は一緒にやろうと誘ってくれていた。僕が親不幸だったんですよ。もっと早く作っておけよという事ですよね。ただ、ぶっちゃけ、兄貴と僕では水準が違い過ぎるから、尻込みしてしまっていたんです。しかしココに来てようやく、自分の音楽が分かってきた気がする。母親が息を引き取る直前に、兄貴と一緒にCDをリリースする事を約束しました。
――出棺の際に兄弟同時に「ありがとう!」と叫んだことが、今回のアルバムタイトル『ユニゾン』の由来だそうですが、何とも素敵な話ですね。今回のコンサートのメンバーは、小曽根さんが普段一緒にやっているメンバーですか。
はい、そうです。ピアノは堀智彦さんベースは時安吉宏さんドラムは引田裕路さん。僕の演奏をいつもサポートしてくれる関西を代表する素晴らしいミュージシャンです。アルバムとは違ったカラーで面白いと思っています。アレンジも特に手を加える気はないのですが、メンバーそれぞれが自分なりにアレンジしてくれればいいと思っています。
――レコーディングが錚々たるミュージシャンという事で、今回のコンサートではメンバーの皆さんも、思う所がおありなのではないですか。
小曽根真に中村健吾さん、高橋新之介さんですからね。さすがに凄いと思いましたが、レコーディング自体は純粋に楽しかったです。バンドリーダーの立場から言うと、皆が僕の好きなリズムを刻んでくれて、間合いを取ってくれることが大切なのです。特に、ドラムはパルスがいちばん大事。今回のメンバーでどんな音楽が出来るか、楽しみしかありません。
「兄貴の凄さは僕がいちばんよくわかっています」
――そういう意味では、小曽根真さんも神戸でも活躍されていた訳ですし、関西のジャズ、神戸のジャズの現状は気にされているのでしょうね。
兄貴が神戸でのライブを聴きに来ていた時に、楽屋で「メンバーに一言だけ、言わせてもらってもエエかな?」と聞いて来たので、「まかせるわ!」と言ったところ、バックがフロントより主張してはならないと一言。本当は僕が言うべきだったのですが兄貴には感謝しております。兄貴は音楽に対してとても厳しい信念を持っている人です。
――なんだか小曽根真さんらしいですね。以前、ご本人にお話を伺った時、「若いジャズ屋に多いのが、もっとソロが欲しいと言って来るパターン!」と苦笑しておられました。啓さんは、ご自身のミュージックスクールで若い人たちの指導に当たられています。
スクールは親父が立ち上げ、おふくろが引き継いで、今は倅がやっています。僕は講師です。僕は、ジャズをマスターするには基礎を組み立てるのが重要だと思っているので、どんな曲でもエニーキーで対応できるように教えています。例えばCの曲でもBまで全部のキーで弾けるようになってもらいます。そして、コードを全部覚える。数学をマスターするためには、まず算数をマスターしなければいけないでしょ。その為には、九九でも1✕1から9✕9までは覚えないと、その次の段階にはいけません。ジャズの場合、アドリブは音符の遊び。 Cは覚えても、D♭やG♭が分からないでは、話にならない。
――どうしてもお兄さんの話を引き合いに出されると思うのですが。
小曽根真の弟だから仕方ありません。それ程、兄貴が凄いことは分かっていますから。チック・コリアとの共演を観に行った時、楽屋でチック・コリアに紹介してもらいましたが、その後に彼が亡くなったので、あの時にお会いできたことを光栄に思います。僕にとって貴重な思い出であると共に世界最高峰の音楽を堪能する事が出来ました。
――リスナブル(Listenable)という言葉をよく使われますね。小曽根さんの音楽のコンセプトですか。
もう一度聴きたい曲、聴いている人が楽しめる曲、みたいなメロディ重視の意味で使っています。これは親父も兄貴も共通だと思います。親父はリスナブルという言葉は使ってなかったと思いますが、来ていただいたお客さまが、「上手なのかもしらないけど、よくわからん!」と思って帰って頂くのではなく、「ジャズ全然知らなかったけど、今日来て良かった!」という音楽を奏でたいというような事をいつも話していました。僕も若い頃は、複雑な音楽や、音符の数が多くて、速いパッセージをバリバリ吹く事がカッコイイと思っていました。若いうちは皆そうだと思います。ある時、兄貴に言われた「休符も音符のうちやぞ」という言葉に衝撃を受けました。それからですね、音数を抜く発想を持つようになりました。実は、カーペンターズが好きなのです。彼らのような、いつ聴いても感動的な曲を作りたいです。
――後進の指導・育成をしながら、この先どんな活動をしていきたいですか。
大きなステージではなく、地元神戸でみんなが気軽に音楽を楽しめる所で演奏していきたいです。それこそ、ビアガーデンみたいな、ざっくばらんに聴けるところがいいですね。できればMCも無いほうがいい。そんな所でわいわいジャズを楽しんで聴いて貰えるのが理想です。
――最後に「SPICE」の読者にメッセージをお願いします。
アルバム『ユニゾン』を聴かれた方も、お聴きではない方も、兄貴のファンの方も、小曽根啓って誰やという方も、皆さん揃って神戸朝日ホールにお越しください。リスナブルでご機嫌な音楽をお届けします。おそらく、アルバム『ユニゾン』とはまた違った演奏になって、それはそれできっとお楽しみいただけるはずです。皆様のご来場を神戸朝日ホールでお待ちしています。
取材・文=磯島浩彰

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