ハク。1stアルバム『僕らじゃなきゃ
ダメになって』を紐解くーー意識的に
熱を帯びた、20歳の急激な覚醒

2021年3月リリースの「アップルパイ」を聴いた時の衝撃を未だに忘れられない。冷静に自分自身を俯瞰で観察する現実的な歌詞は、現役女子高生が書いたとは思えず度肝を抜かれた。そして、そこに乗るメロディーは全く浮足立たない淡々としていてヒヤッとした浮遊感ある摩訶不思議なグルーヴがある。しかしポップかつキャッチーで耳に強烈に残る。まさしくアンファンテリブルである恐るべき子供たちでしかない。ようやく20代に突入したタイミングで発表された、8月9日(水)リリース​の1st Full Album『僕らじゃなきゃダメになって』。宇多田ヒカルなどのプロデュースや楽曲制作を手掛けてきた河野圭がプロデューサーとして参加。そのマッチングの妙もあり、全曲の作詞作曲を手掛けるあい(Gt.Vo)のクリエイティヴィティが大きく開花した。バンドが生み出すグルーヴ感も圧倒的な成熟を魅せている。明らかに新しい熱を感じ取れた。特筆すべきは、インタビュー中に何度も話題にあがる1曲目「回転してから考える」における音と言葉が研ぎ澄まされまくって爆発していること……。意識的に熱を帯びていると感じたし、完全に覚醒している。この興奮をあい本人にぶつけながら、覚醒の理由を語ってもらった。
ーー昨年11月リリースの「ナイーブ女の子」から今年3月のEP「僕ら」、そして今回の1stアルバム『僕らじゃなきゃダメになって』は、プロデューサー・河野圭さんと一緒に作業をされていますが、いかがでしたか?
結果的に言うと、当たり前ですけど円滑に進んでありがたかったです。本来なら悩んで息詰まってしまうところを100%とすると、そのうち70%は河野さんに助けてもらえました。凄い力だなと感謝していますが、次に繋げていかないといけないので……。たとえば今回、私が一番しんどかったのは「回転してから考える」の歌入れで、1回目のレコーディングでとりこぼしたりしたんです。そういう自分たちにできないことが増えたこともあるんですけど、その分、可能性が見えたアルバムだなと。
ーーこれまでのレコーディングとは違いましたか?
今回のアルバムレコーディングの方がちょっと大人な感じがしたというか。「僕ら」はスムーズに進みましたけど、今回は、河野さんからも自分からも「もうひとこえ!」というのが多くて。後、マスタリングも今回初めて立ち合いをしたんですけど、家とかでイヤホンから聴くのと、スタジオでスピーカーから聴くのでは全然違いましたね。河野さんやエンジニアさんにも専門的なことを恥ずかしがらずに結構質問したのも良かったのかもしれません。やっぱり何よりも河野さんの手助けが自分の心に余裕を生ませてくれたし、「ここってどうしたらいいですか?」というのを聞ける人がいなかったら、こんなアルバムは作れなくて苦しんでいましたね。一緒に作っているのがめっちゃ楽しいという気持ちで作っていましたから。もちろんキツいなと感じた事はありましたけど、「もう死ぬ~」とかは無かったので。この曲をどう表現していくか、どうやって歌っていくかというのをしっかり考えられました。
ーーそれこそ僕は専門的なことがわからないですけど、このアルバムは1曲目「回転してから考える」から出音がすごく良いですよね。
音に関しては深みをめちゃくちゃ感じるなと思っていて。耳に直接くるというか……。でも楽器も変わってないし、スタジオなのかな? それかエンジニアさんなのかな? でもエンジニアさんも今までと変わっていないし、何でなんやろ?
ーーその出音の良さの話でいうと、トラックメイキングの音かなというくらいに4人の生演奏グルーヴもすごく良いんですよ。
今回はギチギチにデモを私と河野さんで作ってからみんなで練習したので、みんなの心持ちもあるのかな。楽曲制作の時に河野さんとマンツーマンで話したんですけど、いろいろ提示してくれて。ハイハットをどれくらい開くかとか、自分の知らないコードも練習しないといけなかったり。自分だけでデモを作る時も、それくらいこだわりたいなと。なので、今回は楽曲の〆切に追われる感じよりは楽曲が仕上がっていく楽しさの方が大きかったし、みんなのデモへの反応も楽しかったですね。みんなは演奏できるかなと思いながらも、「いや! やってくれるっしょ!」みたいな感じでした。ただ、ライブでの見せ方は悩んでいます。自分だけの話でいえば、ライブをしている時に、前まではヤバくて焦って心がぽっきり折れることがあったんですけど、それは無くなりました。それと知り合いからもらった言葉ですが、「劣ってるとか劣ってないとか気にせず、今、自分にできることをやればいいよ」と言われて、気持ちが楽になりました。今でもライブの1、2曲目はフワフワしますけど、頭でクルクル回していくと、心の波が落ち着いて大丈夫になっていくので。
ーーライブでの思考の変化はあったりしますか?
自分がアーティストとしてどうあるべきかという具体的なことを考えるようになりました。メンバーにも共有するようになりましたし。見せ方についても考えながら、演奏している時に、ここがズレていたとか、ドラムとギターが揃ってなかったとか、弾きにくいと言われたとか、そういうところを修正していくことで良くなってきたなと感じます。だから、他のメンバーの音も共有するようになったし、ギターのエフェクターに詳しいメンバーから自分のギターの音にアドバイスをもらったりもしていますね。みんなで意見を言うようになってきて、こう言ったら傷つくんじゃないかということも、ちゃんと伝えられるようになりました。「一緒にずっとやっていきたいから言うんだぜ。嫌いだから言うんじゃないんだぜ」というか。私がスパっと言っちゃえるタイプだったらかっこいいけど、そんなタイプではないから、本当にちょっとずつ言っていく感じですけどね。
ーー2曲目「自由のショート」もそうなんですが、とにかくスタートダッシュが素晴らしいアルバムなんですよ。
「ワタシ」(2021年4月リリース)が曲調は全然違うんですけど、そこにある自分の熱いものは一緒かなと思っていて。でも、同じように聞こえてもいいのかなという疑問があったので、「回転してから考える」は叫びという感じで自分として歌ったらいいのかなと思うことができました。歌詞もどんどん変わってきているし、これからも変わっていくと思うんですけど、現時点でこれが自分の思っていることであり、これが自分の表現の仕方だというのが出せているかなとは思っています。自分の音楽を知るのは大切なことですよね。
ーー1曲目「回転してから考える」は歌詞でかなりブチ抜かれたんですけど、明らかに歌詞の熱量も変わりましたよね。
歌入れの日まで考えていた歌詞もあって、ヤバイヤバイとなったりもしていましたけど、自分のLINEに想ったことを書いて送ったりとか、バイト中でも思いついたらメモしたりとか、そういうのが歌詞を書くことへの助けになっていますね。それから、歌詞は自問自答が多くなりました。直接的な歌詞で届けた方が良いかなと思ったりもしましたが、でも、それを歌いたいわけじゃなかったので。このアルバムは個人的なことを書いていますし、「回転してから考える」ばかりにスポットライトを浴びせていますけど、この曲のサビの意味はよくわからないじゃないですか?
ーー<回転してんだベイべー>というサビの歌詞は、意味がどうとかじゃなくて、ただただ突き刺さる異様な強さがありますけどね。
すっと出てきたのが、これで。本当にそう思ってたんですよ。冴えていたのかな? 「君は日向」(8曲目収録)とかも歌詞の意味がわからないかもしれないですし、「この曲は何!?」と思われるかもしれませんが、この歌詞が好きな人もいるのかなと。1曲1曲、全体のキャラクターは違うんですけど、「絶対やってやるぜ」みたいなのは自分の中にあって。このアルバムを歌いきって、絶対に人の心を動かすし、絶対に何人かでも人を救うと思っています。曲を書いているその時によって心情は変わりますけど、アルバムができて、改めて聴いた時に、そんなことをより思いました。今までそんなこと無かったですから。
ーー僕も「回転してから考える」にばっかりスポットライトを浴びせてますけど、でも、この曲で始まることよって、アルバムに尋常じゃない説得力が生まれているんですよ。
しっかりとリズムキープをして、集中して、汗をかく楽曲は無かったので、今のターニングポイントみたいな感じかも知れませんね。手応えはありましたけど、ただ気持ちを叫ぶ曲にしたくなかったし、手応えがありつつも、ここからどうしようかみたいのはありました。どこかで落ち着いたライブをしたいと思う自分もいたし、自分のなりたいものと違うなと思いつつも、ちゃんと自分の中に熱いものがあって……。その熱いものを伝えたいと思うなら、ちゃんと言った方が良いし、その方が新しい一歩を踏み出せますから。バンドとしても一個上に上がっていけるかなと思っています。かっこのつけ方も方向性がわかってきて、例えば、自分がライブで動きたいなら、別に恥ずかしがらなくてもいいし、それはきっと目に焼き付くものになるでしょうし。手札をどう使っていくかですよね。早くライブで、このアルバムの楽曲をみんなに聴かせたいです。
ーー今、なぜこの熱さが生まれてきたんですかね?
ライブハウスに行き始めて、色々な人のライブを観て、「こんなに言葉はダイレクトに刺さるんや……」というかっこいい迫力を知ったからですかね。今までも歌を書く時に、そういう熱はあったと思うし、大きな炎として歌ってきたけど、最近の方がもっと熱いというか….…。自分の中に凛としたものがあって、芯があって、そして熱があるみたいな。そういうイメージを持ちながら歌うことが増えましたね。
ーーこの1stアルバムは本当に凄いので、多くの人に広がって欲しいし、次のアルバムにも確実に繋がっていくなと思っています。
手応えはありますし、自分たち次第で(これからを)どう持っていけるか、持っていけないかが賭かってくるとも思っていますので、絶対に頑張ろうという気持ちであります。今は今の私を歌に書き残していますし、自分のことを歌って、それを人に届けていますけど、次は人に届けるために歌を書いてみようと考えています。自分の実体験は混じった方がいいですけど、人に届けるために書いてみることを次はやろうと。「ハク。」とはなんなのかを考えながら作っていかないといけないですし、「ハク。」の良さとかについて客観的意見も知っていくべきですよね。土台としては、ぶっとい心強い1stアルバムができたと思います。
取材・文=鈴木淳史 撮影=渡邉一生

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着