INTERVIEW / STEREO CHAMP井上銘と山
本連が語る、ジャズメンらしからぬ新
作『The Elements』 井上銘と山本連
が語る、ジャズメンらしからぬ新作『
The Elements』

ギタリスト・井上銘率いるプロジェクト、STEREO CHAMPがニュー・アルバム『The Elements』を本日6月28日(水)にリリースした。
前作『MONO LIGHT』よりおよそ5年ぶり、3作目のアルバムとなる今作は、これまで以上にジャンルレスかつ多彩なサウンドを展開。Led Zeppelinの斬新なカバーも含む全10曲、ゲスト・プレイヤーには二階堂貴文(Per.)、高橋佳輝(Mellotron)、さらに新進気鋭若手噺家・春風亭昇咲が“rakugo”で参加するなど、もはや“ミクスチャー・ジャズ”という言葉で形容するのももどかしいほどに自由かつ遊び心に溢れた作品となっている。
今回はそんなアルバムの制作背景を紐解くべく、主宰の井上銘と、盟友ベーシスト・山本連にインタビューを敢行。この掴みどころのない、しかし中毒性の高い作品がどのようにして生まれたのか、話を訊いた。(編集部)
-聴けば聴くほど気持ち良くなれるよ
STEREO CHAMPの新しいアルバム
The Elements
はコズミックグルーブミュージック-
まだ見ぬ未来や宇宙への憧れをテーマに。
こんな感じの気持ち良さがあってもいいんじゃないかな?
という思いを真心で包んでお届けします。
2023.5.25 井上銘(セルフ・ライナーノーツより)
Interview & Text by Naoya Koike(https://twitter.com/naoyakoike)
Photo by Official(https://www.kanatarumi.com/)
多彩なアイディアを詰め込んだ新作
――資料として頂いたセルフ・ライナーノーツでは、本作の多様な音楽性を“コズミック・グルーヴ・ミュージック”として標榜されていますね。
井上:そうですね。ふと閃いたんです。
――そして、1曲目「Sprinter」は“祭”をイメージされたとか。ジャンベのリズム・パターンは馬の走るリズムをモチーフにしたと言われる、YMO「RHYDEEN」を彷彿とさせました。
山本:全力疾走みたいな感じですね。アルバム全体でチルっぽい曲が多かったので、激しいのも入れようと思って作りました。最初のベースは僕がペグを回して演奏してるんです。
井上:パーカッションは二階堂貴文くんがタンバリンも頑張ってくれました。カラオケにひとりは居てほしい存在(笑)。あと沖縄っぽいメロディは、突然れんぽ(山本連)がスタジオで弾き始めて。スタジオにあったエレクトリック・シタールも入れたり、ベーシスト・高橋佳輝にメロトロンを弾いてもらったりもしました。最近はクラスターなコードが気持ちよくて、そういう趣味も詰め込んでいます。
――エンディングのゴツいリフについては?
井上:れんぽの「キーも意味もないリフを入れたい」というアイデアからです。
山本:「何かあるのでは?」と勘ぐらせて何もないという(笑)。
井上:まだ数回しかライブで演奏していませんが、無限の可能性を秘めている曲なので、ツアー中に色々と試すのが楽しみですね。
――続く「O.I.C II」ですが、後半の収録曲「O.I.C」も含めてタイトルの意味を教えてください。
井上:ミステリアスなタイトルにしたいので、最近はライブで由来を秘密にしているんですけど、実は本作のキーパーソンであるカメラマン・大石くんのことです。高校の同級生で一緒に遊ぶ仲なんですよ。ただ僕らと違い、20代前半にクラブで遊んでいて、おしゃれで音楽も幅広く聴いてるんです。そこで彼に楽曲をプロデュースしてもらうのがおもしろいんじゃないかって思いついて。
山本:だからLogicの使い方を教えて「チャラいビート打ち込んでよ」とお願いしました。
井上:そうしたら全然チャラくないビートが出てきて。聴いたことがないパターンがおもしろかったので、「O.I.C」としてまとめました。アルゼンチンのSSW・Juana Molinaっぽい感じもあって、「これはおもしろそうだ」とピンときたんです。
山本:その後に僕がベースを入れ、銘くんがハーモニーとメロディを付けました。
井上:最後は僕らなりのHead Huntersトリビュート。最初は変なビートで混乱するけど、最後まで聴けばしっかりお釣りが返ってくる構造になっています。ライブで一番盛り上がる曲かもしれません。
――「O.I.C II」に落語で参加されている春風亭昇咲さんについては?
井上:完成前にラップを乗せるつもりが、ジャズ系だとわりとやられることの多いアイデアなので、早口な日本語と合わせようと考えました。そこで落語家さんを探していたら、ギタリストのTaka Nawashiroさんが高校時代の同級生・春風亭昇咲さんを紹介してくれたんです。当初は足し算的に落語が多めでしたが、最終的に楽器のひとつとしてフィーチャーする形になったかな。
山本:落語が彩を添えてくれましたね。
井上:いつかライブでも落語を入れてやりたいです。「O.I.C II」も大石くんのアイデアをもとに作ろうと思ったのですが、結局は僕たちが主導でやってしまった気がしますね。
――「REWAY」のようなジャム・バンド的な楽曲で、類家さんのトランペットが映えるなと改めて思いました。
井上:いつも「類家さんをどうセクシーに聴かせるか」と考えるんですけど、今回のアルバムはSTEREO CHAMPのこれまでの作品で一番上手くいったかもしれません。ただ最年長でリスペクトしている類家さんにお願いする割には、結構ふわっとしたディレクションだった気がしますね……。
山本:「ここで何かやってください」的な(笑)。
井上:自分たちの演奏するコードの上にトランペットが雲みたいにいたり、いなかったりみたいな感覚。
――またこの曲は「ふたりの音楽性が半分ずつ入っている」とライナーノーツで解説されていました。
井上:彼は誰もが気持ちいいと感じるベースを弾けるプレイヤーなので、その上に乗らせてもらう作り方でした。いつも彼のリズムから刺激を受けるんです。リズムの先生みたいな存在ですね。
山本:銘くんは独自の音色が魅力ですね。フレーズを聴いて誰か認識できるパターンも多いんですけど、音色で理解できる人は日本だと少ない。音色のセンスってAIでもコピーが難しい領域だと思うんですよ。
プレイヤーから指揮官に。バンドにおける役割変化
――「What You Want」は山本さんがアコギで弾き始めて生まれた曲だと。
山本:キーが特定できない、不思議なコード進行なんですよ。それで「これ何のキーに聴こえる?」と質問したところから始まったのですが、曲にまとめるのは想定外でした。
井上:最初、SMAP「夜空ノムコウ」かと思った(笑)。普通のコード進行に聴こえるけど、キーがFにもCにも聴こえるという好奇心から膨らませていったんです。その後にBセクションを加えました。あと、ライブ時の構成に関してはAセクションとBセクションをオープン(尺を決めていない)かつ繰り返せるようにして、自由にジャムれるということをコンセプトにしました。
――そうするとふたつのループを往復させる形になりますが、キュー出しで切り替える形でしょうか。
井上:そうですね。最近のライブでは僕がステージ下手で演奏して、サッカーでいうとトップ的な感じのイメージで、音楽全体の舵取りを担当しています。STEREO CHAMPのライブはキュー・ミュージックになりつつありますね。
山本:楽器を演奏してない瞬間も結構あるよね。指揮的な。
井上:リーダーシップの見せ方が“楽器を弾く”ということではないんですよね。全体を俯瞰して見ていなきゃいけない、船を運転するようなスリルが楽しい。次のツアーはハンド・サインとか作ってもいいのかなと思ってます(笑)。
――「Skiprope」は8/8 + 9/8拍子のアフロビートがおもしろかったです。
山本:これは難しかったですね。
井上:乗り切れない質感のリズムで、体に入るまで時間がかかりましたね。大縄跳びの順番が自分に回ってきたのに一歩踏み出すタイミングに勇気がいる、そんなイメージの曲です。
――前作『MONO LIGHT』でも、全く同じ拍子の「New Introduction」がありましたが。
井上:あれはインプロヴィゼーション部分が少ないので、「Skiprope」の方が難易度が高い。その分、ライブで演奏するのは楽しいですよ。みんなで大きな旅に出かけるような感じ。
――ピアノのリフがちょっとサルサっぽさもあり、不思議なグルーヴですが、こういう無国籍感が日本っぽいのかもしれません。
井上:そこも気に入ってますね。8分の17拍子で計算して入れていかなければいけないので、Logicでこの拍子を打ち込むのも労力がかかるんです。途中で何度4拍子にしようと思ったことか(笑)。でも、いい緊張感に繋がってよかったです。海外の人がどういう印象を持つのかも気になります。
――変わったグルーヴといえば「Strawberry Island」も同様の印象を持ちました。
井上:ドラムとパーカッションの関係性がおもしろいと思います。
山本:噛み合ってるのか、噛み合ってないのかよくわからない(笑)。最初は別のカバー曲にするつもりで、このビート上に別の曲のメロディが載っていたんです。でもボツにするにはもったいないのでオリジナルに変更しました。
井上:最初はもっとBPMが早くて、シンセがバキバキのLouis Coleみたいな曲だったよね。
――「Misty Mountain Hop」はLed Zeppelinのカバーですが、こちらを取り上げようと思った理由も気になります。
井上:「1曲はカバーをやりたいね」と話しながらも、曲が定まらなかったんですね。それから1月の九州ツアー終わりで僕とれんぽ、ショータくんと大石だけ延泊して温泉宿に滞在したんです。そのときにツアーのコーディネーターの人が「銘くんならZeppelinがいいんじゃない?」と提案してくれて。その直前、タバコを吸っているみんなを待ちながら、この曲のメロディが直前に浮かんでいたので不思議な縁を感じました。知らない人もいるかもしれませんが、有名な曲なんですよ。
山本:僕は知りませんでした(笑)。アレンジはシンセの積み重ねになっていて、僕も少しシンセ・ベースを弾いてます。
井上:ショータくんが頑張ってくれました。彼は2年前くらいにシンセ「Prophet」を導入したのですが、会う度に音色がアップデートされていくんですよ。シンセ以外にもプラグインでピアノの音に聴こえるようで、ピアノじゃない音を使ったり。彼の音作りにおける遊び心を楽しんでほしいです。
――皆さんの制作は、公園の遊具で遊んでいるような感じですね。ジャズメンぽいというよりもラッパーのクルーみたいな。
山本:基本的にDTMで作った曲が多いのも、ジャズメンらしさがないポイントかもしれません。構成も打ち込みだし、セッションっぽく録った曲もない。
井上:そうかもね。自分の楽器を弾き込んで作った曲はないです。今の世界にちょうどいい、温かみのあるアルバムになった気がします。
変わりゆく“ジャズ”を巡って
――そういえば、日本で最近活動しているサキソフォン奏者・Patrick Bartleyさんとおふたりは親交がありますね。
井上:今もスタジオで一緒ですよ(笑)。
――彼が少し前に問題提起されていた大型ジャズ・フェスにジャズ・ミュージシャンが少ない問題についてどう思いますか?
井上:足を運ぶプロモーションにもなりますし、ある程度は仕方ない側面があるかなと個人的には思います。
山本:「フュージョンはジャズじゃない」タイプの議論は昔からありますよね。
井上:Robert Glasperは好きだけど、他のジャズを聴かない人は多いと思います。これについては、みんなにも話を聞いてみたいですね。
山本:全員がジャズ・ミュージシャンじゃないフェスはないと思うので、盛り上がる方向にいくのであれば別にいいと個人的には感じます。主催者側の立場を考えると理解はできる気がしますし。
井上:普段聴かない人に“ジャズ”という言葉が浸透していくきっかけになるんじゃないのかなって。こういう話はこれからもなくならないと思いますね。
――“ジャズ”という言葉さえも使わない方がいい、という議論もあります。
井上:ジャンルの壁がすでになくなっているので、呼称がなくなることについても僕はあまり抵抗がないです。
山本:歴史もそこまで長くないしね。ただ、言葉がなくなることもないと思います。
井上:形が変わっていくのは真っ当なのかな。定義は変わっていくでしょうね。
――他にPatrickさんと演奏していて感じることは?
井上:音楽の化身のような人ですね。友だちになって、身近で様々な音楽体験ができることに感謝しています。演奏するイメージを全部口で歌えるのはすごい。一緒に演奏していて、最初はあのエネルギーに身構えていましたが、プレイしている内に彼のリズムやメロディの感覚がどんどん入ってくる感覚があります。リズムを取っている姿さえもグルーヴィ。僕も音のとらえ方を直感的にしたいと最近は思っています。
山本:今回のアルバムも感覚的に作っているところがありますよね。
井上:目をつむって聴くと、より楽しめるかもしれない。木の葉脈を見て美しいと思ったり、花を見て可愛いなと思う感覚を大事にして作りました。音だけど触れそうな感じというか。
――なるほど。「それってあなたの感想ですよね」と言われがちな世界で、素朴な感覚を大事にするというのは非常にクリティカルな気がします。
山本:そうかもしれない。
井上:これからは微細なものを大切にする時代になる気がします。
【リリース情報】

[Member]

井上銘(Gt.)
類家心平(Tp.)
渡辺翔太(Pf. / Synth. / Key.)
山本連(Ba.)
福森康(Ds.)

[Guest Musician]

二階堂貴文(Per.)
高橋佳輝(Mellotron)
春風亭昇咲(Rakugo)
※CD:デジパック仕様
【イベント情報】

『STEREO CHAMP “The Elemens” Release Tour』

日程:2023年6月28日(水)
会場:愛知・名古屋Tokuzo
日程:2023年6月29日(木)
会場:大阪Mr.Kelly’s
日程:2023年6月30日(金)
会場:福岡New Combo
日程:2023年7月1日(土)
会場:熊本CIB
日程:2023年7月2日(日)
会場:熊本・八代Bar Z
日程:2023年7月3日(月)
会場:鹿児島Live Heaven
==

『STEREO CHAMP “The Elements” Release Tour Final』

日時:2023年7月20日(木) OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京・渋谷WW
料金:ADV. ¥5,000 / DOOR ¥5,500 (1D代別途)
チケット一般発売中: e+(https://eplus.jp/stereo-champ/) / ぴあ(https://w.pia.jp/t/stereochamp-t/)
■ 井上銘/STEREO CHAMP オフィシャル・サイト(https://mayinoue.com/)
ギタリスト・井上銘率いるプロジェクト、STEREO CHAMPがニュー・アルバム『The Elements』を本日6月28日(水)にリリースした。
前作『MONO LIGHT』よりおよそ5年ぶり、3作目のアルバムとなる今作は、これまで以上にジャンルレスかつ多彩なサウンドを展開。Led Zeppelinの斬新なカバーも含む全10曲、ゲスト・プレイヤーには二階堂貴文(Per.)、高橋佳輝(Mellotron)、さらに新進気鋭若手噺家・春風亭昇咲が“rakugo”で参加するなど、もはや“ミクスチャー・ジャズ”という言葉で形容するのももどかしいほどに自由かつ遊び心に溢れた作品となっている。
今回はそんなアルバムの制作背景を紐解くべく、主宰の井上銘と、盟友ベーシスト・山本連にインタビューを敢行。この掴みどころのない、しかし中毒性の高い作品がどのようにして生まれたのか、話を訊いた。(編集部)

-聴けば聴くほど気持ち良くなれるよ

STEREO CHAMPの新しいアルバム
The Elements
はコズミックグルーブミュージック-

まだ見ぬ未来や宇宙への憧れをテーマに。

こんな感じの気持ち良さがあってもいいんじゃないかな?
という思いを真心で包んでお届けします。
2023.5.25 井上銘(セルフ・ライナーノーツより)
Interview & Text by Naoya Koike(https://twitter.com/naoyakoike)
Photo by Official(https://www.kanatarumi.com/)
多彩なアイディアを詰め込んだ新作
――資料として頂いたセルフ・ライナーノーツでは、本作の多様な音楽性を“コズミック・グルーヴ・ミュージック”として標榜されていますね。
井上:そうですね。ふと閃いたんです。
――そして、1曲目「Sprinter」は“祭”をイメージされたとか。ジャンベのリズム・パターンは馬の走るリズムをモチーフにしたと言われる、YMO「RHYDEEN」を彷彿とさせました。
山本:全力疾走みたいな感じですね。アルバム全体でチルっぽい曲が多かったので、激しいのも入れようと思って作りました。最初のベースは僕がペグを回して演奏してるんです。
井上:パーカッションは二階堂貴文くんがタンバリンも頑張ってくれました。カラオケにひとりは居てほしい存在(笑)。あと沖縄っぽいメロディは、突然れんぽ(山本連)がスタジオで弾き始めて。スタジオにあったエレクトリック・シタールも入れたり、ベーシスト・高橋佳輝にメロトロンを弾いてもらったりもしました。最近はクラスターなコードが気持ちよくて、そういう趣味も詰め込んでいます。
――エンディングのゴツいリフについては?
井上:れんぽの「キーも意味もないリフを入れたい」というアイデアからです。
山本:「何かあるのでは?」と勘ぐらせて何もないという(笑)。
井上:まだ数回しかライブで演奏していませんが、無限の可能性を秘めている曲なので、ツアー中に色々と試すのが楽しみですね。
――続く「O.I.C II」ですが、後半の収録曲「O.I.C」も含めてタイトルの意味を教えてください。
井上:ミステリアスなタイトルにしたいので、最近はライブで由来を秘密にしているんですけど、実は本作のキーパーソンであるカメラマン・大石くんのことです。高校の同級生で一緒に遊ぶ仲なんですよ。ただ僕らと違い、20代前半にクラブで遊んでいて、おしゃれで音楽も幅広く聴いてるんです。そこで彼に楽曲をプロデュースしてもらうのがおもしろいんじゃないかって思いついて。
山本:だからLogicの使い方を教えて「チャラいビート打ち込んでよ」とお願いしました。
井上:そうしたら全然チャラくないビートが出てきて。聴いたことがないパターンがおもしろかったので、「O.I.C」としてまとめました。アルゼンチンのSSW・Juana Molinaっぽい感じもあって、「これはおもしろそうだ」とピンときたんです。
山本:その後に僕がベースを入れ、銘くんがハーモニーとメロディを付けました。
井上:最後は僕らなりのHead Huntersトリビュート。最初は変なビートで混乱するけど、最後まで聴けばしっかりお釣りが返ってくる構造になっています。ライブで一番盛り上がる曲かもしれません。
――「O.I.C II」に落語で参加されている春風亭昇咲さんについては?
井上:完成前にラップを乗せるつもりが、ジャズ系だとわりとやられることの多いアイデアなので、早口な日本語と合わせようと考えました。そこで落語家さんを探していたら、ギタリストのTaka Nawashiroさんが高校時代の同級生・春風亭昇咲さんを紹介してくれたんです。当初は足し算的に落語が多めでしたが、最終的に楽器のひとつとしてフィーチャーする形になったかな。
山本:落語が彩を添えてくれましたね。
井上:いつかライブでも落語を入れてやりたいです。「O.I.C II」も大石くんのアイデアをもとに作ろうと思ったのですが、結局は僕たちが主導でやってしまった気がしますね。
――「REWAY」のようなジャム・バンド的な楽曲で、類家さんのトランペットが映えるなと改めて思いました。
井上:いつも「類家さんをどうセクシーに聴かせるか」と考えるんですけど、今回のアルバムはSTEREO CHAMPのこれまでの作品で一番上手くいったかもしれません。ただ最年長でリスペクトしている類家さんにお願いする割には、結構ふわっとしたディレクションだった気がしますね……。
山本:「ここで何かやってください」的な(笑)。
井上:自分たちの演奏するコードの上にトランペットが雲みたいにいたり、いなかったりみたいな感覚。
――またこの曲は「ふたりの音楽性が半分ずつ入っている」とライナーノーツで解説されていました。
井上:彼は誰もが気持ちいいと感じるベースを弾けるプレイヤーなので、その上に乗らせてもらう作り方でした。いつも彼のリズムから刺激を受けるんです。リズムの先生みたいな存在ですね。
山本:銘くんは独自の音色が魅力ですね。フレーズを聴いて誰か認識できるパターンも多いんですけど、音色で理解できる人は日本だと少ない。音色のセンスってAIでもコピーが難しい領域だと思うんですよ。
プレイヤーから指揮官に。バンドにおける役割変化
――「What You Want」は山本さんがアコギで弾き始めて生まれた曲だと。
山本:キーが特定できない、不思議なコード進行なんですよ。それで「これ何のキーに聴こえる?」と質問したところから始まったのですが、曲にまとめるのは想定外でした。
井上:最初、SMAP「夜空ノムコウ」かと思った(笑)。普通のコード進行に聴こえるけど、キーがFにもCにも聴こえるという好奇心から膨らませていったんです。その後にBセクションを加えました。あと、ライブ時の構成に関してはAセクションとBセクションをオープン(尺を決めていない)かつ繰り返せるようにして、自由にジャムれるということをコンセプトにしました。
――そうするとふたつのループを往復させる形になりますが、キュー出しで切り替える形でしょうか。
井上:そうですね。最近のライブでは僕がステージ下手で演奏して、サッカーでいうとトップ的な感じのイメージで、音楽全体の舵取りを担当しています。STEREO CHAMPのライブはキュー・ミュージックになりつつありますね。
山本:楽器を演奏してない瞬間も結構あるよね。指揮的な。
井上:リーダーシップの見せ方が“楽器を弾く”ということではないんですよね。全体を俯瞰して見ていなきゃいけない、船を運転するようなスリルが楽しい。次のツアーはハンド・サインとか作ってもいいのかなと思ってます(笑)。
――「Skiprope」は8/8 + 9/8拍子のアフロビートがおもしろかったです。
山本:これは難しかったですね。
井上:乗り切れない質感のリズムで、体に入るまで時間がかかりましたね。大縄跳びの順番が自分に回ってきたのに一歩踏み出すタイミングに勇気がいる、そんなイメージの曲です。
――前作『MONO LIGHT』でも、全く同じ拍子の「New Introduction」がありましたが。
井上:あれはインプロヴィゼーション部分が少ないので、「Skiprope」の方が難易度が高い。その分、ライブで演奏するのは楽しいですよ。みんなで大きな旅に出かけるような感じ。
――ピアノのリフがちょっとサルサっぽさもあり、不思議なグルーヴですが、こういう無国籍感が日本っぽいのかもしれません。
井上:そこも気に入ってますね。8分の17拍子で計算して入れていかなければいけないので、Logicでこの拍子を打ち込むのも労力がかかるんです。途中で何度4拍子にしようと思ったことか(笑)。でも、いい緊張感に繋がってよかったです。海外の人がどういう印象を持つのかも気になります。
――変わったグルーヴといえば「Strawberry Island」も同様の印象を持ちました。
井上:ドラムとパーカッションの関係性がおもしろいと思います。
山本:噛み合ってるのか、噛み合ってないのかよくわからない(笑)。最初は別のカバー曲にするつもりで、このビート上に別の曲のメロディが載っていたんです。でもボツにするにはもったいないのでオリジナルに変更しました。
井上:最初はもっとBPMが早くて、シンセがバキバキのLouis Coleみたいな曲だったよね。
――「Misty Mountain Hop」はLed Zeppelinのカバーですが、こちらを取り上げようと思った理由も気になります。
井上:「1曲はカバーをやりたいね」と話しながらも、曲が定まらなかったんですね。それから1月の九州ツアー終わりで僕とれんぽ、ショータくんと大石だけ延泊して温泉宿に滞在したんです。そのときにツアーのコーディネーターの人が「銘くんならZeppelinがいいんじゃない?」と提案してくれて。その直前、タバコを吸っているみんなを待ちながら、この曲のメロディが直前に浮かんでいたので不思議な縁を感じました。知らない人もいるかもしれませんが、有名な曲なんですよ。
山本:僕は知りませんでした(笑)。アレンジはシンセの積み重ねになっていて、僕も少しシンセ・ベースを弾いてます。
井上:ショータくんが頑張ってくれました。彼は2年前くらいにシンセ「Prophet」を導入したのですが、会う度に音色がアップデートされていくんですよ。シンセ以外にもプラグインでピアノの音に聴こえるようで、ピアノじゃない音を使ったり。彼の音作りにおける遊び心を楽しんでほしいです。
――皆さんの制作は、公園の遊具で遊んでいるような感じですね。ジャズメンぽいというよりもラッパーのクルーみたいな。
山本:基本的にDTMで作った曲が多いのも、ジャズメンらしさがないポイントかもしれません。構成も打ち込みだし、セッションっぽく録った曲もない。
井上:そうかもね。自分の楽器を弾き込んで作った曲はないです。今の世界にちょうどいい、温かみのあるアルバムになった気がします。
変わりゆく“ジャズ”を巡って
――そういえば、日本で最近活動しているサキソフォン奏者・Patrick Bartleyさんとおふたりは親交がありますね。
井上:今もスタジオで一緒ですよ(笑)。
――彼が少し前に問題提起されていた大型ジャズ・フェスにジャズ・ミュージシャンが少ない問題についてどう思いますか?
井上:足を運ぶプロモーションにもなりますし、ある程度は仕方ない側面があるかなと個人的には思います。
山本:「フュージョンはジャズじゃない」タイプの議論は昔からありますよね。
井上:Robert Glasperは好きだけど、他のジャズを聴かない人は多いと思います。これについては、みんなにも話を聞いてみたいですね。
山本:全員がジャズ・ミュージシャンじゃないフェスはないと思うので、盛り上がる方向にいくのであれば別にいいと個人的には感じます。主催者側の立場を考えると理解はできる気がしますし。
井上:普段聴かない人に“ジャズ”という言葉が浸透していくきっかけになるんじゃないのかなって。こういう話はこれからもなくならないと思いますね。
――“ジャズ”という言葉さえも使わない方がいい、という議論もあります。
井上:ジャンルの壁がすでになくなっているので、呼称がなくなることについても僕はあまり抵抗がないです。
山本:歴史もそこまで長くないしね。ただ、言葉がなくなることもないと思います。
井上:形が変わっていくのは真っ当なのかな。定義は変わっていくでしょうね。
――他にPatrickさんと演奏していて感じることは?
井上:音楽の化身のような人ですね。友だちになって、身近で様々な音楽体験ができることに感謝しています。演奏するイメージを全部口で歌えるのはすごい。一緒に演奏していて、最初はあのエネルギーに身構えていましたが、プレイしている内に彼のリズムやメロディの感覚がどんどん入ってくる感覚があります。リズムを取っている姿さえもグルーヴィ。僕も音のとらえ方を直感的にしたいと最近は思っています。
山本:今回のアルバムも感覚的に作っているところがありますよね。
井上:目をつむって聴くと、より楽しめるかもしれない。木の葉脈を見て美しいと思ったり、花を見て可愛いなと思う感覚を大事にして作りました。音だけど触れそうな感じというか。
――なるほど。「それってあなたの感想ですよね」と言われがちな世界で、素朴な感覚を大事にするというのは非常にクリティカルな気がします。
山本:そうかもしれない。
井上:これからは微細なものを大切にする時代になる気がします。
【リリース情報】

[Member]

井上銘(Gt.)
類家心平(Tp.)
渡辺翔太(Pf. / Synth. / Key.)
山本連(Ba.)
福森康(Ds.)

[Guest Musician]

二階堂貴文(Per.)
高橋佳輝(Mellotron)
春風亭昇咲(Rakugo)
※CD:デジパック仕様
【イベント情報】

『STEREO CHAMP “The Elemens” Release Tour』

日程:2023年6月28日(水)
会場:愛知・名古屋Tokuzo
日程:2023年6月29日(木)
会場:大阪Mr.Kelly’s
日程:2023年6月30日(金)
会場:福岡New Combo
日程:2023年7月1日(土)
会場:熊本CIB
日程:2023年7月2日(日)
会場:熊本・八代Bar Z
日程:2023年7月3日(月)
会場:鹿児島Live Heaven
==

『STEREO CHAMP “The Elements” Release Tour Final』

日時:2023年7月20日(木) OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京・渋谷WW
料金:ADV. ¥5,000 / DOOR ¥5,500 (1D代別途)
チケット一般発売中: e+(https://eplus.jp/stereo-champ/) / ぴあ(https://w.pia.jp/t/stereochamp-t/)
■ 井上銘/STEREO CHAMP オフィシャル・サイト(https://mayinoue.com/)

Spincoaster

『心が震える音楽との出逢いを』独自に厳選した国内外の新鋭MUSICを紹介。音楽ニュース、ここでしか読めないミュージシャンの音楽的ルーツやインタビュー、イベントのレポートも掲載。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着