山路和弘×牧島 輝×朴 璐美インタビ
ュー~舞台『剣聖』ー運に見放された
男ーは宮本武蔵の“最後の物語”を描
いた二人芝居

2023年6月30日(金)~7月9日(日)サンモールスタジオにて、『剣聖』ー運に見放された男ーが上演される。
今作は、多方面で活躍する朴 璐美がプロデューサーを務める「LAL STORY」による公演で、原作・脚本は音楽朗読劇をはじめ、ミュージカル・ストレートプレイ・アニメ・ゲームの原作・脚本・演出を手掛けるなど幅広い活躍を見せる藤沢文翁。剣聖と呼ばれた宮本武蔵の老いた後の話を描いた今作で、宮本武蔵を演じるのは山路和弘、武蔵の養子・宮本伊織には、舞台『キングダム』(脚本:藤沢文翁)で朴と共演した牧島 輝で、山路と牧島は今回が初共演となる。
今作への思いを、山路、牧島、朴に聞いた。
小空間でひとつのものを共有できる作品を生み出したい
ーーまずはプロデューサーの朴さんに、今回の企画の意図をおうかがいします。LAL STORYとしては2020年8月の無観客・生配信公演となった『神楽坂怪奇譚』以来3年ぶりの公演となります。
朴:元々、声の届く小さな劇場でゴリゴリの濃密な芝居を上演したくてLAL STORYというものを立ち上げ、実験的な公演を行ってきました。2020年にコロナ禍で無観客の公演を打たざるを得ず、「生」で配信することにこだわった作品づくりをしたのですが、そのときにものすごく力を使い果たしてしまったんです。しばらくは休んでみよう、と思ったら3年も空いてしまいました。その間に役者として『千と千尋の神隠し』『キングダム』といった大きな劇場の作品へ出演させて頂き、たくさん得るものがあったのですが、この熱を圧縮させた、鬱陶しいほどの作品を手の届く小空間に生み出してみたい、と更なる欲が働いてしまい、今回再発起しました。
朴 璐美
ーーLAL STORYのストレイトプレイシリーズとしては、2018年の『死と乙女』、2019年の『さけび』に続く第三弾となります。過去2回とも会場はサンモールスタジオで、山路さんがご出演されました。
朴:以前より、藤沢文翁さんと山路に描きおろした舞台をやってみたいねと話をしていたんです。自分の配偶者のことを言うのも何ですが、山路のことは演劇人としてとてもリスペクトしているんです。それは藤沢さんも同じ気持ちでいてくれて、藤沢さんと「山路にどんな役をやってもらいたいか」という話をしていた流れで、才能があり余るほどあるのに運に見放された宮本武蔵の晩年を書いてみたい、と聞き、鳥肌が立ったんです。こういうカンは大切にしたいけれど、劇場を押さえるのが大変なんじゃないか、と思ったらちょうど押さえられちゃったんで(笑)、これはもうやるしかないのかな、と思いました。
ーー山路さんは今回もまたサンモールスタジオでの公演に挑むことになります。
山路:元々僕は小さい小屋が好きなんです。サンモールスタジオは抑圧された感じの空間が魅力的で、過去2回とも「あそこで出来るんだ」と思ったらつい引き受けてやっちゃった、という感じでした。ただ、だんだんね……何て言うのかな……。
朴:何ですか? 文句ですか?
山路:違うよ(笑)。役者としてだんだん出がらしになってきちゃったな、と思って。だから大丈夫かな、と実はちょっと思ってるんです。まあ、出がらしが最後にもう一回絞り出してね、そんな感じで牧島くんと接しようかな、と。
牧島:どんな感じなんですか(笑)。
朴:大丈夫、言ってるだけだからね、出がらしなんて(笑)。
(左から)牧島 輝、山路和弘
出演オファーをしたのはカーテンコールの舞台袖
ーー今回は二人芝居ということで、山路さんの相手役が牧島さんに決まった経緯を教えてください。
朴:山路を追い詰めることのできる相手って誰なんだろう、と思っていたときに、藤沢さんが『キングダム』で嬴政役の牧島くんを「めちゃめちゃいいね」と言っていて、でも牧島くんは本当に多忙でスケジュールが取れないだろうとわかっていたので、声をかけるかどうしようか悩んでいたんです。でもやっぱり、山路と対峙できる、対峙させてみたい、と思う今の役者と言ったら、やっぱり牧島くんだと思ったので、『キングダム』で共演中に博多座の袖幕で「ねえねえ、山路とお芝居やらない?」と、声をかけてしまいました。
ーー牧島さんは、最初に今回のお話しを聞いたときのお気持ちはいかがでしたか。
牧島:カーテンコールに出る直前の舞台袖でこの話をされまして……(笑)。
朴:なんか、今だ! って思っちゃったんだよね(笑)。
牧島:なかなか本番前後にお話しする時間がなかったんですよね。言われたときは、これが本当なのか冗談なのか、最初ちょっとわからなかったんですけど……。
朴:そうだよね、冗談とも取れちゃうよね……。
牧島:突然言われてびっくりして「今の何だろう」と思ってるうちに、璐美さんが舞台上に出て行っちゃったんで(笑)。
朴:もう出なきゃ! のタイミングで、なんか言い捨てて出て行った感じになっちゃって、申し訳ないです。
牧島:いえいえ、とんでもないです。僕はまだ演劇を始めて数年ですが、今の年齢で、そして今あるスケジュールの限られた時間の中で、できるだけ多くのことと対峙していたいと思っていて、その中でこうしていただいたお話がすごく魅力的だったので、ぜひやらせて欲しいとお返事しました。
ーー二人芝居で相手役が山路さんということについてはいかがでしょうか。
牧島:正直ビビッてます(笑)。でもやっぱり何事も楽しんでやりたい、というのが僕のモットーなので、ビビらずに楽しみながら作っていきたいなと思います。
ーー山路さんは相手役が牧島さんに決まったときのお気持ちはいかがでしたか。
山路:この人(朴)が、とにかくぶっ飛んだ芝居が好きなんですよ。その人が選んだ相手ならば望むところだな、と思っています。
宮本武蔵がどう生きてどういう戦い方をしたのか
ーー藤沢文翁さんの脚本を読んだ感想をおひとりずつ教えてください。
朴:第一稿は割とすっきりしたものだったんです。私はこの2人だったらセリフで斬り合うみたいな感じが出せるんじゃないかなと思っていて、だから1時間半の上演時間の中に2時間ぐらいのセリフ量をぶち込んでほしい、とオーダーしたんです。そうしたら第二稿では本当にぶち込んでくれまして(笑)、むしろ申し訳ないけどちょっとセリフを削らせてください、とお願いするくらいのものが上がってきました。藤沢文翁の文体というのは、初読みでは見えてこないものがたくさんあるけれど、掘っていくとすごいものが出てきたりするので、またすごい掘りがいのあるものを書いてくれたな、と思いました。
山路:まず題材の案がいくつかあって、その中でどれにしようかという話をしたときに、一番僕らしくないもの、これまでやったことのない人物の方が面白いんじゃないかと思って、宮本武蔵にしちゃったところがあるんですよ。殺陣下手なのに剣豪かぁ、とかいろいろ考えたけれど、でもやっぱりどうせやるならこの題材が一番面白いかなと思ったんです。
朴:実は、宮本武蔵案から二転三転と他にも候補案が出ていたんですが、山路は本当に貪欲なところがありまして……私にも内緒で藤沢さんに「わからない話を書いてくれ。そして俺に道を教えてくれ。だから一番見えない宮本武蔵が良い」とメッセージを送っていたんです。だから、この作品になったという経緯があるんです。
ーー山路さんとしては、あえての宮本武蔵だったわけですね。
山路:ちょっと後悔しています。
(一同爆笑)

(左から)牧島 輝、山路和弘、朴 璐美

ーー牧島さんは台本を読んでみていかがでしたか。
牧島:宮本武蔵の名前は多くの人が知っていると思いますが、彼がどんなふうに生きて、どういう戦い方をしてきたのか、というところまでは僕はあまり知りませんでした。武蔵という人がいて、その姿を見て伝えてきた人がいて、というところにすごくロマンを感じたのと、昨年たまたま宮本武蔵が作った刀のつばを手に取らせてもらう機会があって、非常に貴重な物に直接触れることができたときに、宮本武蔵は物語の中の人物じゃなくて、本当に生きてこれを作ったんだ、というすごく不思議な感覚がありました。その気持ちを改めて思い出して、本当に存在しているんだ、という思いで作っていきたいなと思います。
ーーお三方とも藤沢さんの脚本の作品には出演経験があって、特に朴さんと山路さんは藤沢さんの朗読劇などに何回もご出演されていますが、藤沢さんの作品の魅力はどのようなところにあると感じていらっしゃいますか。
朴:私は「闇」の部分が好きです。彼の作品の中には小さい子が存在していて、その子が見つけて欲しくて「ここにいるよ」って言っているのを感じるんですよね。そういう部分ってきっと誰もが持っていると思うから、そこが琴線に触れるんじゃないかなと思います。
山路:彼との付き合いは、人間的にまず好きになったのが始まりだったんです。あるとき彼が「こういうの興味ないですか? 機会があったらやってくれませんか?」って言って短い原作をポンと渡してきたんです。それで作ったのが、2017年度に毎日芸術賞をいただいたときの対象作品でもある一人芝居『 江戸怪奇譚〜ムカサリ〜』だったのですが、彼はあのときも「どうにでも料理してください」と言っていました。足そうが削ろうが、むしろ彼はそれを一緒になって喜ぶ度量の広さがあるんですよ。
牧島:僕が文翁さんとご一緒させていただいた『キングダム』は元々原作があるものだったので、文翁さんが原作の作品は今回が初めてになります。稽古場でお話ししたときに、この本はこういうところにこだわって作っている、遊びの部分も入れている、というようなお話をご本人から聞くことができたので、これから読み込んでいってそういう部分を探しながらやっていきたいと思います。
(左から)牧島 輝、山路和弘
武蔵と伊織 普遍的な親子の話
ーー小空間ですが、やはり殺陣はあるのでしょうか。
朴:どんな形でやるのかはまだこれから考えていかなければと思っていますが、殺陣はあります。
牧島:渥美(博)さんがクレジットされてますもんね。
山路:誰だよ、あっちゃん(渥美)呼んだの(笑)。
朴:でも、今作をやることになったきっかけのひとつが渥美さんなんですよ。『キングダム』の稽古で久しぶりにお会いしたときに「朴ちゃん、山路さんとなんかゴリゴリしたのやってよ。どんなに忙しくても参加するから」って言うから、そういうの間に受けるタイプなので「本当ですね?」って(笑)。
ーーそれはぜひ、渥美さんにゴリゴリの殺陣を付けていただかないと(笑)。殺陣もある中で、山路さんと牧島さんの親子役がどんな空気感になるのかも楽しみです。
朴:そうですね、誰もが抱える逃れられない親子関係。そこがしっかり作品に流れてくれたらと思います。自分の血に対するジリジリする思いってどうやったってあるじゃないですか。頭でわかっていても、感情が追いつかないというような。戦国時代から江戸初期にかけて、時代の流れから取り残され、老いと向き合う、壮絶な武蔵の生死感をきっちり作品に落とし込み、その武蔵を見つめ続けるしかない宮本伊織との物語を紡ぎたいと思います。
山路:老いだけはわかるんだけどね。
朴:やめて(笑)。
山路:昨日も台本を読みながら、リアリティはどこに一番あるんだろうって考えていて。老いはものすごく現実として感じるんだよね。
山路和弘
朴:ダメよ。まだ浅いわよ。その老いじゃないわよ。
山路:「その老いじゃない」って、どの老いよ(笑)。
朴:すみません、私たち夫婦で話すと漫才みたいになっちゃうんで(笑)。
ーーお2人はお稽古場でもいつもこんな感じなのでしょうか(笑)。
牧島:僕はお2人揃ってお会いするのは今回が初めてなのでまだよくわからないですけど、きっといつもこういう感じなんだろうなぁ、と思いながら見ています(笑)。
朴:そうだよね、まだ全然我々のこと知らないのに、それでよくこの若者は飛び込んで来ましたよね。
牧島:いやいや、自分で声をかけておいて(笑)。
いつかコラボしたいと思っていた切り絵作家との宣伝ビジュアル
ーー今回の宣伝ビジュアルが、切り絵作家の下村優介さんの作品とのコラボレーションになっています。
朴:以前から素晴らしい作品を作る方だな、いつか演劇でコラボできたらいいな、と思っていました。今回、どうしても下村さんの切り絵が頭から離れなくて……一枚一枚全部彼がひとりで書いて切っているところが武蔵の精神に近いのでは、と思ってダメ元でご連絡してみたら、すぐにOKのお返事をいただくことができたんです。
ーー今回、見事に作品の世界とマッチしたビジュアルになっているなと思いました。
朴:ありがとうございます。でもちょっと撮影は苦労しました。いつも宣伝美術をお願いしている山下浩介さんとのヴィジュアル創りは刺激的なんです。アイディア勝負の一発撮りの撮影が基本なのですが、悔しいことに合成と間違われてしまうことが多く、今回は更にカメラの位置を工夫しないと切り絵の立体的な感じがなかなか出なくて……。
牧島:でも、アナログだからこそのビジュアルになったというか、デジタルではこの感じは出ないんじゃないかな、と思います。
朴:ピアノ線も一切消さずにそのまま写っていますし、撮影もフラッシュをたかずに地明かりのままで撮っているんです。試行錯誤しながらでしたが、やっぱりそのままが一番いいんだな、ということを教えてもらったビジュアル撮影でした。演劇もやっぱり、生じゃないと伝わらないものがありますから。
ーー今作はプロデューサーのこだわりが隅々まで詰まっているんですね。
朴:自分の思いにあぐらをかかないように頑張りたいと思います。
朴 璐美
山路:……その思いがね、ズシッと重くて。もう少し軽くしてほしいな、という感じですね。
朴:でも、山路は絶対に重いのが好きなはずです。ね?
山路:「思いが重い」で「おもい」が2個になっちゃってるから、「思いが軽い」くらいがちょうどいいんだけどなあ(笑)。
ーーでは最後におひとりずつメッセージをお願いします。
牧島:劇場に入った瞬間、芝居が始まる前から作品の中に入り込んでしまったような雰囲気を感じられる世界観になるんじゃないかなと思います。自分もお客様も、ひとつ覚悟を持って臨むような作品になるような気がしていますので、劇場のキャパシティ的に見たくても見られないという方も出てきてしまうかもしれませんが、ぜひ劇場で体感してもらいたいです。
山路:ちょうどいい疲労感を味わわせてあげますぜ、という感じですね。やる方はコテコテに疲れるんだろうな(笑)。
牧島:でしょうね(笑)。
山路:観客には程よき疲労感、ですぜ。
朴:「ですぜ」って何キャラなの(笑)。武蔵でもないよね?
ーー(笑)では、最後に朴さんからも一言お願いします。
朴:私はぜひお客様に違和感を持って、嫌な思いをして帰っていただきたいなと……。
山路:嫌な思いって(笑)。
朴:言い方が難しいんですけど、私は作品づくりをする時に「嫌だ」という感覚を持って欲しいと思っているんです。そこから、どうして嫌だと思ったのか、この気持ちは何なんだろう、と考えてもらいたいという思いがあるので、見ていてしんどいお芝居になると思います。めちゃくちゃ贅沢なことをやろうとしているな、という実感が自分でもあって、役者の息と、スタッフのテクニカルがピタリと重なったときのなんとも言えない空気感が、小劇場であればあるほど濃密なものになると思うんです。サンモールスタジオ自体が鬱陶しいほど息づくようなお芝居を目指して作りたいなと思いますので、限られたの席数にはなってしまうのですが、その贅沢を味わいに来ていただけたらなと思っています。
(左から)牧島 輝、山路和弘
取材・文=久田絢子    撮影=池上夢貢

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