L→R 鈴木慶一、松尾清憲

L→R 鈴木慶一、松尾清憲

【鈴木マツヲ インタビュー】
『ONE HIT WONDER』は
もう一回聴きたくなる気持ちが
特に強い

1970年代初頭に頭角を現し、以降moonridersの活動と並行して数多くのCMや映画などの音楽制作を手がけている鈴木慶一。そして、1980年にCINEMAのメンバーとしてメジャーデビューを果たし、1984年からシンガーソングライター/コンポーザーとして充実した活動を行なっている松尾清憲。そんな両名が“鈴木マツヲ”としてユニットを結成し、1stアルバム『ONE HIT WONDER』を完成させた。ポップ&スイートな世界に染め上げられた同作は、時代や世代などを超えた魅力を湛えている。両氏に処女作について語ってもらった。

イメージは“ONE HIT WONDER”の
ヒット曲を集めたようなもの

まずは結成の流れからうかがいたいのですが。

松尾
僕らは以前から知り合いで、遡ると40年くらいになるのかな? 慶一さんは僕が1980年にCINEMAというバンドでプロデビューした時のプロデューサーで、それ以来のおつき合いだから。で、2019年の2月に、なんかふたりで会ったんですよね?
鈴木
そう。なんで会ったのかは忘れたけど(笑)。ふたりだけで会うのは珍しいから、何か理由があったんだ、きっと(笑)。誰々が体調を崩したとか。
松尾
そうですよね。僕と慶一さんはアレンジャーとかプロデューサーという間柄だけど、一緒に音楽を作ったことはなくて。慶一さんと何か一緒にやれるといいなと思っていたし、ふたりで会ったことがちょっとしたきっかけになりましたね。周りでも“それ、やろうよ”という人がだんだん出てきたりして、2020年に入ってから曲作りを始めたんです。
鈴木
2020年になってコロナが流行り出したけど、その中でデモ作りを進めていって20曲くらいできたんだよね。このユニットは最初から“鈴木マツヲ”という名前でいこうと決めていたんだ。松尾スズキさんのオマージュということで。それに、アルバムのタイトルも“ONE HIT WONDER=一発屋”にしようと、かなり早い段階から思っていた。
松尾
ふたりでやるなら、今までとはまた違うテーマがあったほうがいいという話にもなって。慶一さんと僕は同い年で、60年代とか70年代にラジオから流れてきた曲をかなり重なって聴いているんですよ、すごくコアなものも含めて。一曲だけ大ヒットして、そのあとは全然売れずというアーティストと曲も共通してたくさん知っていて、一さんが“ONE HIT WONDER”というタイトルを出してきた時は面白いと思いましたね。

“一発屋”はあまりいいイメージではないかもしれませんが、“一発屋ソング”は時代を超えて残っていく名曲が多いですよね。

鈴木
そう。だから、イメージとしてはONE HIT WONDERの人たちのヒット曲を集めたようなかたちになるといいなと。それを意識して、ふたりでデモを作り始めた。コロナのせいで中断したり、延期したりして、ちゃんとレコーディングが始まったのは21年の4月くらいだったね。
松尾
レコーディングも飛び飛びでやったから、発売まで2年くらいかかってしまった。だから、“ようやく”という感覚がありますね。

とはいえ、キャリアを積まれているアーティストとしては驚くほどのスピード感だと思います。やろうと決めて一年で20曲書かれたのはすごいですし、レコーディングに時間がかかったのはコロナ禍があったためですよね。

松尾
そう。レコーディングの期間で言うと長いけど、実際にスタジオで労働している時間はすごく短かった。作業がどんどん進んで、あっと言う間に終わっちゃた感じだよね?
鈴木
早かった。すごく集中できたというか。急いでいるわけじゃないんだけど、できちゃったね(笑)。あと、今回はふたりだけで作ることにしたんだ。ゲストを入れなくても、なんとかなるだろうって(笑)。

えっ!? 楽器も全部おふたりで弾かれたんですか?

鈴木
うん。管楽器だけはゴンドウトモヒコくんにお願いしたけど。
松尾
それ以外は基本的にふたりでやった。ドラムとベースを打ち込んで、ギターを弾いて、キーボードも弾いて。僕はこんなにキーボードを弾いたことはないんですよ。ギターは慶一さんも僕も弾きますけど。自分の専門ではない楽器を弾くことで出てくるフレーズというのがあって、今回はそれがうまく絡んでいい感じになったと思っています。
鈴木
スタジオミュージシャンではない、バンドマンのフレーズというかね。
松尾
そう。僕らはそれぞれ作曲家だから、印象に残るフレーズにはなっている気がしますね。ギターもね、“慶一さん、こうくるんだ!?”みたいな(笑)。他のギタリストだったらこうはいかないんじゃないかというのが結構あって、それがすごく面白かった。ふたりだけで作るのは楽しかったですね。
鈴木
スタジオミュージシャンを呼ぶと、勢いの継続性がダウンすることがある。やりたいことを伝えないといけないから。我々ふたりでやっていると、“ここにこういうキーボードが入っているから、じゃあ、こういうギターを入れよう”というようなことを、その場で決められる。素早くね。だから、楽なんだよね。生ギターのストロークは松尾くんのタイミングがいい…私より全然いいので松尾くんにどんどん入れていってもらって、その上にキーボードを入れて、それを踏まえてエレキギターを入れて…というふうに一個一個構築していくことで、こういうサウンドが生まれた。スタジオミュージシャンを呼んでいたら違うものになっていただろうね。『ヤア!ブロード・ストリート』(1984年に発表されたポール・マッカートニーのアルバム)のようになるのは嫌だから。
松尾
そう思う。だから、ふたりだけで作ったのは正解だったと思います。

意欲的ですね。『ONE HIT WONDER』は躍動感がありつつウォームというテイストが本当に魅力的で、すごく品の良い音楽という印象です。

松尾
えっ? 慶一さんは俳優もやられていて品の良さは当然ですが、僕は九州の福岡でも田舎のほうの出身ですし、自分ではとても品があるほうだとは思いませんけど(笑)。
鈴木
松尾くんは音楽の育ちがいいんじゃない? 聴いてきた音楽の質が良かったんだと思う。私の育ったところもガラ悪いったらないよ。大田区の海側だから。
松尾
そうかもしれない。たぶん僕らはほとんど同じような音楽を聴いているわけで、どちらかが“これ、いいんだよね”という音楽はふたりともだいたい好きなんですよ。そういうものばかり聴いてきて70歳を超えたと…そういうことでしょうね(笑)。
鈴木
私たちは60年代の音楽も、70年代の音楽も、80年代の音楽もずっと聴いてきて、それは今でも続いている。いつの時代にもいい音楽というのはあって、新しいものだからといって敬遠したりしないんですよ。それも、いい方向に出ている気はするね。
L→R 鈴木慶一、松尾清憲
アルバム『ONE HIT WONDER』

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」