INTERVIEW / showmore & Gimgigamコ
ライトで得た気づきと発見──異色の
コラボ作『Wonderland』制作の裏側
コライトで得た気づきと発見──異色
のコラボ作『Wonderland』制作の裏側

意外な組み合わせでありながら、蓋を開けてみればお互いの長所が混ざり合い、絶妙なマリアージュを奏でるコラボレーション作『Wonderland』。showmoreとGimgigamによる連名で今年3月にリリースされた本作は、小袋成彬Yaffle率いるTOKAとフジパシフィックミュージックによるコライト企画『TOKA Songwriting Camp 2022』で出会った2組による、有機的なコラボが結実した作品だ。
ジャズを下敷きに都会的で洒脱なポップス展開するshowmoreと、パーカッシブかつトロピカルな音像、そして多彩な引き出しを持つトラックメイカー・Gimgigam。今回は2組のインタビューを実施し、コライトで得た手応えや発見について改めて振り返ることに。果たして、それらが今後の活動にどのように反映されるのか。その行く末にも思いを馳せたい。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by ハヤシサトル(https://www.instagram.com/_satoruhayashi/)
コライト企画ならではの速度と鮮度感
――お互いの初対面は『TOKA Songwriting Camp』のセッションの日ですか?
根津:そうですね。
――そもそもどのような経緯で『TOKA Songwriting Camp』へと参加することになったのでしょう?
井上:僕らの2ndアルバム『too close to know』の出版権を管理してもらっているので、フジパさんとは以前から関係性があって。「こういう企画あるんですけど、いかがですか?」っていう感じでご連絡いただきました。
Gimgigam:僕もフジパさんとは前から繋がりがあり、今回ありがたいことにTOKAさんからも名前を挙げていただいたみたいで、参加させてもらうことになりました。
――組み合わせはコライト・キャンプの主催側が決めるんですよね。
井上:ただ、最初にご連絡頂いたときに、「ラッパーさんだったりシンガーさんよりはビートメイカー/トラックメイカーの方と組んだ方がおもしそうですね」っていう話はしていて。というのも、僕はデモ程度であれば作ったりもするけど、最終的なパッケージっていう感じでトラックを組んだりすることはないので。せっかくこういう機会を頂いたので、いつもとは異なる感じのスタイルにトライしたいなと。
Gimgigam:僕はトラックメイカーなので、自然とshowmoreさんとあっこゴリラさんとご一緒させてもらうことになりました。
――お互いの存在は以前から知っていましたか?
井上:僕らは「Gimgigamさんと一緒に組んでもらいます」っていう連絡がきて、初めて知りました。
根津:すぐに音源を聴いて、「カッコいい!」ってなりましたね。
Gimgigam:僕は名前は存じていたんですけど、しっかり聴き込んだことはなくて。
――じゃあ、本当にまっさらな状態から関係性を構築していったというか。
根津:ですね。しかもギムくんはアー写もミステリアスな感じですし、曲を聴いて勝手にイカつい人なのかなって想像してました(笑)。
Gimgigam:(笑)
――セッションの前に構想を練ったりはしましたか?
根津:ギムくんの音楽は私にとっては結構未知な世界って感じだったんですけど、なんとなくこういう言葉が合いそうだなっていうリストを作りました。結果的にはそのとき書き出した言葉は使わなかったんですけど。あとはカッティングエッジなトラックになりそうだから、私たちはキャッチーというか、ポップさみたいなものを意識した方がいいのかなって。
井上:あとは実際に会って話してみないとわからないなと思って、そういう意味ではぶっつけ本番に近かったですね。
――Gimgigamさんはいかがですか?
Gimgigam:showmoreの音源を聴いて、最初はEGO-WRAPPIN’のようなバンドや生音っぽい感じとかも考えたんですけど、それだと僕と一緒にやる意味がないかなと思って。なので、結構打ち込み色強めの、ビートだけみたいなトラックをいくつか作って持っていきました。
――そのうちのひとつが先行シングルとなった「Just a moment」になったんですか?
井上:確か3曲くらい作ってきてくれて。そのうち2つはコード進行が入っていて、もうひとつはパーカッシブなリズム・トラックだけっていう感じだったんです。ギムくんに「一番尖ったやつでやりたいです」って言ったら、「じゃあこれですね」って言われたのがそのリズム・トラックだけのやつで(笑)。
――「Just a moment」は途中でジャージ・クラブ的なキックが出てきたり、ドロップもあったりと、クラブ・ミュージックのマナーに沿ったトラックですよね。当たり前ですけどshowmoreのお2人にとってはかなりチャレンジングな1曲だったのではないでしょうか。
根津:私たちだけでは思いつかないよね。でも、制作はすごいスピーディに進んだんです。
井上:トラックを聴いて、ドロップを作りたいなって思ったんです。おっしゃる通り、showmoreでは中々そういうクラブ・ミュージック的な曲は作れないので、ギムくんにイメージをお伝えしつつ、骨格を組んでいきました。リズム・トラックを流しながら何となく鍵盤を弾いて、ギムくんに整えてもらうっていう感じで。
Gimgigam:イントロのカリンバは井上さんがその場で弾いてくれた音源がカッコよくて、最終的にセッション当日の音源を使用しています。
井上:普通ああいうのって後でMIDIで打ち直したりするんですけど、「Just a moment」はラフに手弾きした音源が使われています。後日、MIDIで打ち直してみたんですけど、どうもしっくりこなくて。当日に弾いた、少し揺れてたりする感じの方がよかったんですよね。
――セッションならではのお話ですね。そういった“揺れ”などはトラックメイカーには出しにくいポイントだと思いますし。
井上:本当に意図せずだったんですけどね(笑)。制作環境が意外とミニマムで。シンプルに僕のMIDIケーブルの長さが足りなかったからというのもあって、「後でMIDIで打てばいいや」っていう気持ちで弾いてたっていう。
Gimgigam:あのカリンバもピアニストだからこそ弾けるフレーズだと思うんですよね。トラックメイカーにはあそこまで複雑なフレーズは中々思い浮かばないんじゃないかなと。
井上:全部のセクションが1アイディアで進んでいった感じはありましたね。こっちでトラックを組んでいる間に、根津さんはメロと歌詞を考えていて。
根津:スタジオの場所が青山だったんですけど、なんだか“欲望”が漂っているような感覚を受けて。そこからギャンブルの曲にしようと思って、「Just a moment」の歌詞を書いていきました。
井上:その日に7割くらいは完成した感じですね。
――根津さんはシンガー/メロディ・メイカーとして、こういったダンサブルなトラックへアプローチしてみていかがでしたか?
根津:すごく新鮮でしたね。浮かんできたアイディアをみんなとその場でジャッジしたり、もしくはさらに膨らませていくことができたのがよかったですね。2人で作っていると悶々と煮詰まってしまうこともあるんですけど、ギムくんとのセッションはやっぱり勢いがあったなと。
――showmoreにとってはこういった制作方法は初めてですか?
井上:Shin Sakiura(「I love you」)と一緒に作ったことはあるんですけど、大きな違いは最終的なジャッジや責任の所在なのかなって。showmoreの作品にプロデューサー/トラックメイカーを迎える際は、もちろんクオリティ・コントロールは僕が担当するし、自分たちのカラーとプロデューサーの音楽性の混ざり具合などもすごく考えるんです。
井上:一方、コライトでダブル・ネームでのリリースとなると、いい意味で責任や負担が軽くなる。たとえばあるセクションが自分の好みでなくても、それがコラボ相手のやりたいことであればOKになる。そういう感覚が勢いとか鮮度に繋がるのかなって。せっかくいいメロやフレーズが浮かんでも、慎重になって温め続けると腐っていってしまうこともあるんです。
「Just a moment」で言えば、イントロのフレーズもひとりで作っていたらズレているところを全部弾き直してたかもしれない。だけど、今回はスタジオを使える時間も決まってたし、とりあえず先に先にという感じで進めていったことが、結果として曲の魅力にも繋がったのかなと。
――コライト・キャンプとしてはまさに大成功ですよね。
井上:そうですね。おそらく去年のコライト・キャンプの中ではリリースも一番早かったと思うし、結果的にEPにも繋がりましたし。
Gimgigam:2曲目の「Taxi driver」もあの日に作りましたよね。あのトラックは実は僕が前々からストックしていたもので。
井上:順調に行き過ぎて、最後の1時間に「もう1曲、いきますか?」っていう感じで。
――「Taxi driver」のトラックを選んだ理由というのは?
根津:やっぱりこれも“showmoreにない要素”っていうのが大きくて。私たちはお互いギターを弾かないし、ライブでもサポート・ギタリストはいなくて。「Taxi driver」の元のトラックには最初からギターのカッティングが入っていて、直感的に「これがいい!」って感じました。
井上:「Taxi driver」に関しては僕はほとんど手を出してなくて、トラックがほぼほぼ完成してたので、そこに申し訳程度にピアノを入れたくらい(笑)。「Taxi driver」っていう曲名、フレーズもあの日に決まってたよね?
根津:そう。元々showmoreとして「Taxi driver」っていう全然違うデモがあって、当時は曲として完成させることができなかったんですけど、ギムくんのトラックを聴いたときにそのワードが思い浮かんできて。その場でメロもサビも作りました。
井上:そういえば、シンセ・ソロもその場で録ってますね。変な感じのソロを弾いちゃって、「これはちょっと持ち帰るね」って言ったんですけど、後で聴き返したらそのヘロヘロな感じが妙によく聴こえてきて。これもやっぱりその場の勢いというか、鮮度が関係している気がしますね。
Gimgigam:何回か録ったけど、結局一番最初に弾いたやつがよかったんですよね。
井上:そう、トラックを聴きながらラフに弾いたやつ。これも僕らだけだったら採用してなかったと思うんですよね。
Gimgigamが引き出した“東京の風景”
――Gimgigamさんはご自身の作品だけでなく、日頃から他アーティストさんへの提供やプロデュースも多いですよね。そんな経験も踏まえて、showmoreとのコライトはいかがでしたか?
Gimgigam:僕は基本的にリモートでの制作しかやったことがなかったんです。なので、意見を出し合いながらその場で作業すること自体が初めてで、やっぱり新鮮な体験でしたね。このセッション以降、自分の制作スピードも上がった気がしていて(笑)。
井上:僕らは逆にリモートでの制作が向いてなくて。セッション後の詰め作業も別のスタジオに集まってやりました。そしたらギムくんがでっかいダンボールにiMacを入れて持参してきてくれて。マジで申し訳ないなと(笑)
Gimgigam:ラップトップを持ってなかったんです。でも、このセッションがきっかけでMacBook Proを買いました(笑)。
――セッションで2曲がほぼほぼ完成して、その後どのような経緯でEPの制作に発展したのでしょうか?
根津:シンプルに盛り上がっちゃったんですよね(笑)。「EP、作りたくない?」って感じで。ギムくんがトラックをストックしているのと同様に、私たちも2人だけでは完成させられなかったデモがいくつかあって、それをギムくんと一緒に作ったらおもしろいんじゃないかなって思いました。
井上:showmoreが持ってるアイディアをギムくんに具現化してもらったのが「Eraser」で、2曲の先行シングルと同じくギムくんのトラック先行の曲が「Wonderland」、そして最後にセッションのような形で作ったのが「Hold on」ですね。
――EPのタイトル・トラックにもなった「Wonderland」は、おそらくshowmoreリスナーにとっては一番意外性のあるダブ・トラックですよね。
根津:確かに。一番そういう声をいただいた曲ですね。
Gimgigam:シンプルに僕がダブをやりたくて(笑)。中々一緒にやってくれる人が思い当たらなかったんですけど、showmoreとだったらいける気がしたんですよね。
井上:でも、根津さんは元々そういう音楽も聴いてたんだよね。逆に僕は好きだけど詳しくはないので、showmore単体ではダブで説得力のある作品は中々作れないと思うんですよね。3rdアルバム『seek』にはラヴァーズ・ロック調の曲も入ってるんですけど。
――「style」ですよね。
井上:はい。あの曲はレゲエやダブに詳しいSoulflexのFunkyとTyapatii(野村帽子)の2人――Breaking Atomsが力を貸してくれたからできた曲でもあって。
根津:私もそんなに知識はないけど、そういう音楽は好きでよく聴いていて。「Wonderland」は確かにshoremoreとしては珍しいタイプの曲だけど、トラックを聴いた瞬間に「これ好き!」って感じたので、歌詞やメロディもすぐに浮かんできましたね。
――歌詞はタイトルとは裏腹に、どこか寂しさや切なさも感じられます。
根津:あの曲の舞台は下北沢で。……私にとって東京って砂漠や迷宮みたいなイメージで、中々目的地に辿り着けないなって思うんです。ある日、下北のシーシャ屋さんにいる若い子たちを見ながらそんなことを考えていて、みんなどこかに迷い込んでいるようなイメージをこの曲で描きました。
――なるほど。では、「Wonderland」の制作工程についても教えてもらえますか?
Gimgigam:最初はリモートで、トラックを送ったら仮歌とピアノを乗っけてくれて。ダブにジャジーでアドリブ風のピアノを乗っけるのはおもしろいなと思いました。
井上:イメージとしてはHerbie Hancockのようにいろいろなジャンルを越境するような感じ。そういうミクスチャー感を出せたら、ただのオーセンティックなダブではない魅力が出せるかなと。この曲も、僕はコーラス・ラインを作ったりはしたけど、基本的にはピアノを入れただけで。しかも、トラックを聴いてぬるっと弾いた1〜2回のテイクを採用しています。
Gimgigam:そうなんですね。
井上:尺も決まってなかったし、もちろん歌も乗ってない状態で弾きました。ソロって固め過ぎちゃうと上手くいかないので、いい意味でのラフさとか、ジャズマンの即興感を意識しましたね。
――その感覚は、やはりshowmoreの制作とは異なる感覚ですか?
井上:そうですね。やっぱりshowmoreのときだといろいろ考えすぎてしまうことが多いですし。あとはギムくんのトラックの完成度が高かったので、安心して脇役に徹することができたというか。この曲に関しては僕はフィーチャリング・ゲスト的な意識でしたね。
――では、逆にshowmoreが持ってるアイディアをもとにした「Eraser」についてもお聞きしたいです。この曲の制作はどのように?
根津:「Eraser」はメロから作ったんですけど、最初から「ダンス・ミュージックっぽくしたい」とはお伝えしていて。
井上:実は6〜7年前、showmoreがまだバンドだった時代にセッションしたボイスメモが残ってて。ずっと完成させることができずに寝かせてたんですけど、「トラックメイカーと組んで、ハウスっぽく仕上げることができたら」とは何となく思っていて。なので、今回は僕がデモ・トラックを作ってギムくんにお投げしたんですけど、デモとは全く違う感じで返ってきて。それが最高だったので、このままでいこうと(笑)。ただ、この曲は結構時間掛けたよね?
Gimgigam:そうですね。曲の尺とかでも悩みました。
根津:最初に返ってきたトラックは完成版よりもさらにギムくん色が強くて。象の鳴き声とか謎の儀式みたいな声が入ってたり(笑)。
Gimgigam:歌詞の世界観と合ってなさ過ぎでしたね。
井上:そのときはまだ歌詞はなかったけど、ギムくんのよさは残しつつも、根津さんの歌詞との温度感を合わせるっていう感じでしたね。
――Gimgigamさんはどのような意識でトラックメイクを?
Gimgigam:最初のトラックは4つ打ちのポップなハウスっていう感じだったんですけど、自分の色を出すならやっぱりトライバルかなと。それでパーカッションやシェイカー、アマピアノ(南アフリカ発のダンス・ミュージックのひとつ)で使われているようなリリースの短いベースを入れたりしました。
――この曲はリモートがメインだったんですか?
根津:井上くんが忙しくて、スケジュールが合わなかったんだよね。
井上:でも、結局対面のセッションもやったよね?
Gimgigam:セッションで作った音源を僕が持ち帰って、鍵盤をMIDIに打ち替えたり、さらに音を重ねたりっていう作業もありましたね。
根津:そうだそうだ。最終的な仕上げはエンジニアの向(啓介)さんに参加してもらって、みんなでやりましたね。
――そして、最後に「Hold on」をセッションで作ったと。
井上:4曲完成した後に、もう1曲作ろうかっていう話になって。
根津:「Hold on」は元々なんとなく「こういう曲にしたい」というイメージがあって、それぞれ役割分担しつつ、それを構築していったという感じですね。ギムくんがトラックを作って、井上くんが音を重ねて、私はメロと歌詞を考えるっていう。
井上:同じ空間にいるのに、3人それぞれ別の作業をしているっているね(笑)。
Gimgigam:これも結構スピーディーに進みましたね。1ヶ月くらいで完パケした記憶があります。
――根津さんはどのようなことを考えながら作詞しましたか?
根津:これは……新宿が舞台なんです(笑)。昔ゴールデン街でバイトをしていたこともあって、新宿には思い入れがあって。電車でもいろいろな路線が混じ合う場所だし、きっといろいろなところから人が集まってくる。そしてみんなそれぞれが新宿に慣れてくる。みんな歩くのが早すぎて、最初は私も怖かったんですけど、それでも次第に順応してしまう。その頃を振り返ると、「もうあの頃の自分はいないんだな」って少しだけ寂しく感じられたりして。だから“自分を繋ぎ止めよう”っていう意味で、《Hold on》っていうフレーズが出てきました。
――《Hold on, Hold on me》と歌うサビは、日本語の《ほどほどに》とも聴こえるようで、言葉遊び的な側面があるのかなと思いました。
根津:そういう声もよく頂くんですけど、実は意識してなくて。でも、歌詞の解釈は自由ですし、《ほどほどに》っていうフレーズもこの曲にすごく合っているなって思います。《Hold on》――それぞれのペースで自分を守りながら、“ほどほどに”頑張ろうよっていう。
――「Just a moment」は青山で、「Wonderland」は下北沢、「Eraser」は新宿と、それぞれが特定の場所からインスピレーションを受けているんですね。
根津:普段からこういう書き方をしているわけでもないし、最初から構想していたわけでもなくて、ギムくんのトラックが引き出してくれた要素なのかなって思います。ちょっと不思議な体験でしたね。ギムくんが持っているものが、私から見た東京だったり、そこに生きる人たちとリンクしたというか。
「テンプレ的なものにアゲインストしたい」
――Gimgigamさんのトラックを聴いて、“東京”が浮かぶというのがおもしろいですね。表面だけをなぞれば、やはり南国だったりを想起してしまうのかなと思いました。
根津:そうですよね。私も不思議に思います。最初にギムくんの作品を聴いたときは「ジャングルだ!」って感じたのに。
井上:これは僕らの間でもよく話すことなんですけど、僕らは記号的なもの、テンプレ的なものにアゲインストしたいっていう気持ちが強くて。たとえば形骸化してしまったシティポップやローファイ・ヒップホップなどは、「こういうサウンド/こういうアートワークにすれば都会っぽい」みたいな構図ができあがっているじゃないですか。全部を否定するつもりはないけど、あまりにも直線的で安直なものも多いなと感じていて。都会っぽいものを都会っぽく、もしくはジャングルっぽいものをジャングルっぽく仕上げてもおもしろくない。深みや奥行きがないというか。
特にこういう話をしたわけではないけど、『Wonderland』のアートワークがどこか異世界っぽい感じになったのも、今話したような内容とリンクしているのかなって思いますね。僕らのスタンスと、根津さんの妄想癖が組み合わさった結果というか(笑)。
――Gimgigamさんは、トロピカルだったりトライバルという言葉が似合うご自身のサウンドのオリジンについて、どのように考えていますか?
Gimgigam:子供の頃からどこか異国情緒溢れる音楽が好きだったんです。あと、群馬県の田舎で生まれ育ったからか、逆にグアムやハワイといった海沿いのリゾート地へのあこがれもありました。それが曲に出ちゃってるのかもしれないですね。
根津:バンドやってたんだよね?
Gimgigam:やってました。ただ、バンドのドラムがあまり上手くなくて(笑)、レコーディングしてもクリックに合わないので、自分が打ち込んじゃおうと。今振り返れば、それがトラックメイクを始めたきっかけでした。そこからバンドが解散しちゃったので、「じゃあ、ひとりでやってみるか」と。
――ディスコグラフィを遡ると、2017年発表の『Faded Utopia』が初リリースとなっています。これはひとりで作り始めた頃の作品ですか?
Gimgigam:作り始めて1〜2年くらいだったと思います。山下達郎さんや鈴木茂さんなどの作品が収録されたコンピレーション・アルバムに触発されて、そういうリゾート感のあるサウンドを作るようになったんだと思います。
ただ、最近では積極的にいろいろなジャンル、サウンドに挑戦してみようと思っています。
――今回のコライトでの経験は、今後の活動にどのような影響を及ぼすと思いますか?
根津:シンプルにギムくんとはまた一緒に作っていきたいですね。私の場合はこれまでメロから作ることが多かったんですけど、このやり方だけだと限界があるなと。刺激的なトラックに合わせる、もしくはトラックに引っ張ってもらうというやり方がとてもおもしろかったので、このやり方は今後も取り入れてみたいです。
長いことshowmoreとして活動しているうちに、気づかないうちに自分たちの枠を狭めていたのかもしれないって感じて。今回、今までとは違うやり方で曲作りに挑戦したけど、意外と私たちらしさは失われないんだっていうことがわかった。だからこそ、今後はもっともっと自分たちの幅を広げていきたいと考えています。
井上:「Just a moment」とか「Taxi driver」ってライブでも反響がいいんです。3月のワンマンのときにも感じたんですけど、いろいろなタイプの曲を持っていると、よりライブを構築しやすいんですよね。根津さんも言ったように僕ららしさを残したまま、新たな視点や要素を取り入れるという部分は、より意識的に取り組んでいきたいです。
井上:僕らは完全無所属で2人だけでやってるんですけど、そうしてるとやっぱり内向きになってしまうんだなっていうことに、今回のコライトを通して気づかせてもらいました。またすぐにギムくんや他のプロデューサーさんとコラボするかどうかはわからないですけど、どちらにせよ自分たちの今後の活動にはいい影響が出る気がしています。
――Gimgigamさんはいかがですか?
Gimgigam:個人的に今回の制作で驚いたのは、コーラス・ワークの緻密さ。たくさんのトラックを重ねることでこのコーラスを築き上げているんだなと。今まではあまりボーカルやコーラスの録音に立ち会うことがなかったので、それは大きな気づきでした。
あとは僕もどこにも所属せずに活動しているんですけど、そういったインディペンデントならではの活動スタイルっていう面でも、showmoreの2人から勉強させてもらいました。ぶっちゃけ、著作権とかもあまり詳しくはわかっていなかったので(笑)。
――『TOKA Songwriting Camp』はミュージシャン/クリエイターの権利面に対してもすごく意識的に取り組んでいるようなので、まさにコライト・キャンプの思惑通りの成果というか。
根津:手のひらで踊らされてますね(笑)。
――最後に、2組の今後の予定を教えてください。
井上:6月にBillboard Liveでの公演があるので、それに向けて準備をしているのと、また違った形での制作も進めています。ツアーも構想しているので、楽しみにしていてくれると嬉しいです。
Gimgigam:『TOKA Songwriting Camp』であっこゴリラさんと制作した曲もそろそろリリースされるはずです(5月31日リリースの「その1万で」)。
Gimgigam:自分の作品は中々手を付けれてないのですが、アルバムを作りたいなとは考えていて。僕の場合はいろいろなアーティストさんとコラボするスタイルでいきたいなと考えているので、showmoreのお2人とはまた作りたいですね。
井上 & 根津:いつでもどうぞ!(笑)
【プレゼント企画】
SpincoasterのTwitterアカウントをフォロー & 下記ツイートをRTでshowmore & Gimgigamのサイン入りチェキを3名様にプレゼント。発表通知はTwitterのDMにて行わせていただきます。
キャンペーン期間:6月14日(水)19:00〜6月21日(水)19:00

※3枚の中からランダムでの発送となります。

※当選のお知らせに対して48時間以内に返信がない場合、誠に勝手ながら辞退とさせていただきます。
※住所の送付が可能な方のみご応募下さい。頂いた個人情報はプレゼントの発送以外には使用いたしません。
※発送先は国内のみとさせて いただきます。
※フリマサイトなどでの転売は固く禁じます
【リリース情報】

作詞:根津まなみ

作曲:Gimgigam, showmore
Recording, Mixing, Mastering : 向啓介
Jacket design : SUZUNA MUNETOU
【イベント情報】

日時:2023年6月25日(日)

[1st Stage] OPEN 15:30 / START 16:30
[2nd Stage] OPEN 18:30 / START 19:30
会場:Billboard Live OSAKA
==

日時:2023年6月29日(木)

[1st Stage] OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd Stage] OPEN 20:00 / START 21:00
会場:Billboard Live TOKYO
==
■ showmore オフィシャル・サイト(http://showmore.tokyo)
■Gimgigam: Twitter(https://twitter.com/gimgigam) / Instagram(https://www.instagram.com/gimgigam_9/)
意外な組み合わせでありながら、蓋を開けてみればお互いの長所が混ざり合い、絶妙なマリアージュを奏でるコラボレーション作『Wonderland』。showmoreとGimgigamによる連名で今年3月にリリースされた本作は、小袋成彬とYaffle率いるTOKAとフジパシフィックミュージックによるコライト企画『TOKA Songwriting Camp 2022』で出会った2組による、有機的なコラボが結実した作品だ。
ジャズを下敷きに都会的で洒脱なポップス展開するshowmoreと、パーカッシブかつトロピカルな音像、そして多彩な引き出しを持つトラックメイカー・Gimgigam。今回は2組のインタビューを実施し、コライトで得た手応えや発見について改めて振り返ることに。果たして、それらが今後の活動にどのように反映されるのか。その行く末にも思いを馳せたい。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by ハヤシサトル(https://www.instagram.com/_satoruhayashi/)
コライト企画ならではの速度と鮮度感
――お互いの初対面は『TOKA Songwriting Camp』のセッションの日ですか?
根津:そうですね。
――そもそもどのような経緯で『TOKA Songwriting Camp』へと参加することになったのでしょう?
井上:僕らの2ndアルバム『too close to know』の出版権を管理してもらっているので、フジパさんとは以前から関係性があって。「こういう企画あるんですけど、いかがですか?」っていう感じでご連絡いただきました。
Gimgigam:僕もフジパさんとは前から繋がりがあり、今回ありがたいことにTOKAさんからも名前を挙げていただいたみたいで、参加させてもらうことになりました。
――組み合わせはコライト・キャンプの主催側が決めるんですよね。
井上:ただ、最初にご連絡頂いたときに、「ラッパーさんだったりシンガーさんよりはビートメイカー/トラックメイカーの方と組んだ方がおもしそうですね」っていう話はしていて。というのも、僕はデモ程度であれば作ったりもするけど、最終的なパッケージっていう感じでトラックを組んだりすることはないので。せっかくこういう機会を頂いたので、いつもとは異なる感じのスタイルにトライしたいなと。
Gimgigam:僕はトラックメイカーなので、自然とshowmoreさんとあっこゴリラさんとご一緒させてもらうことになりました。
――お互いの存在は以前から知っていましたか?
井上:僕らは「Gimgigamさんと一緒に組んでもらいます」っていう連絡がきて、初めて知りました。
根津:すぐに音源を聴いて、「カッコいい!」ってなりましたね。
Gimgigam:僕は名前は存じていたんですけど、しっかり聴き込んだことはなくて。
――じゃあ、本当にまっさらな状態から関係性を構築していったというか。
根津:ですね。しかもギムくんはアー写もミステリアスな感じですし、曲を聴いて勝手にイカつい人なのかなって想像してました(笑)。
Gimgigam:(笑)
――セッションの前に構想を練ったりはしましたか?
根津:ギムくんの音楽は私にとっては結構未知な世界って感じだったんですけど、なんとなくこういう言葉が合いそうだなっていうリストを作りました。結果的にはそのとき書き出した言葉は使わなかったんですけど。あとはカッティングエッジなトラックになりそうだから、私たちはキャッチーというか、ポップさみたいなものを意識した方がいいのかなって。
井上:あとは実際に会って話してみないとわからないなと思って、そういう意味ではぶっつけ本番に近かったですね。
――Gimgigamさんはいかがですか?
Gimgigam:showmoreの音源を聴いて、最初はEGO-WRAPPIN’のようなバンドや生音っぽい感じとかも考えたんですけど、それだと僕と一緒にやる意味がないかなと思って。なので、結構打ち込み色強めの、ビートだけみたいなトラックをいくつか作って持っていきました。
――そのうちのひとつが先行シングルとなった「Just a moment」になったんですか?
井上:確か3曲くらい作ってきてくれて。そのうち2つはコード進行が入っていて、もうひとつはパーカッシブなリズム・トラックだけっていう感じだったんです。ギムくんに「一番尖ったやつでやりたいです」って言ったら、「じゃあこれですね」って言われたのがそのリズム・トラックだけのやつで(笑)。
――「Just a moment」は途中でジャージ・クラブ的なキックが出てきたり、ドロップもあったりと、クラブ・ミュージックのマナーに沿ったトラックですよね。当たり前ですけどshowmoreのお2人にとってはかなりチャレンジングな1曲だったのではないでしょうか。
根津:私たちだけでは思いつかないよね。でも、制作はすごいスピーディに進んだんです。
井上:トラックを聴いて、ドロップを作りたいなって思ったんです。おっしゃる通り、showmoreでは中々そういうクラブ・ミュージック的な曲は作れないので、ギムくんにイメージをお伝えしつつ、骨格を組んでいきました。リズム・トラックを流しながら何となく鍵盤を弾いて、ギムくんに整えてもらうっていう感じで。
Gimgigam:イントロのカリンバは井上さんがその場で弾いてくれた音源がカッコよくて、最終的にセッション当日の音源を使用しています。
井上:普通ああいうのって後でMIDIで打ち直したりするんですけど、「Just a moment」はラフに手弾きした音源が使われています。後日、MIDIで打ち直してみたんですけど、どうもしっくりこなくて。当日に弾いた、少し揺れてたりする感じの方がよかったんですよね。
――セッションならではのお話ですね。そういった“揺れ”などはトラックメイカーには出しにくいポイントだと思いますし。
井上:本当に意図せずだったんですけどね(笑)。制作環境が意外とミニマムで。シンプルに僕のMIDIケーブルの長さが足りなかったからというのもあって、「後でMIDIで打てばいいや」っていう気持ちで弾いてたっていう。
Gimgigam:あのカリンバもピアニストだからこそ弾けるフレーズだと思うんですよね。トラックメイカーにはあそこまで複雑なフレーズは中々思い浮かばないんじゃないかなと。
井上:全部のセクションが1アイディアで進んでいった感じはありましたね。こっちでトラックを組んでいる間に、根津さんはメロと歌詞を考えていて。
根津:スタジオの場所が青山だったんですけど、なんだか“欲望”が漂っているような感覚を受けて。そこからギャンブルの曲にしようと思って、「Just a moment」の歌詞を書いていきました。
井上:その日に7割くらいは完成した感じですね。
――根津さんはシンガー/メロディ・メイカーとして、こういったダンサブルなトラックへアプローチしてみていかがでしたか?
根津:すごく新鮮でしたね。浮かんできたアイディアをみんなとその場でジャッジしたり、もしくはさらに膨らませていくことができたのがよかったですね。2人で作っていると悶々と煮詰まってしまうこともあるんですけど、ギムくんとのセッションはやっぱり勢いがあったなと。
――showmoreにとってはこういった制作方法は初めてですか?
井上:Shin Sakiura(「I love you」)と一緒に作ったことはあるんですけど、大きな違いは最終的なジャッジや責任の所在なのかなって。showmoreの作品にプロデューサー/トラックメイカーを迎える際は、もちろんクオリティ・コントロールは僕が担当するし、自分たちのカラーとプロデューサーの音楽性の混ざり具合などもすごく考えるんです。
井上:一方、コライトでダブル・ネームでのリリースとなると、いい意味で責任や負担が軽くなる。たとえばあるセクションが自分の好みでなくても、それがコラボ相手のやりたいことであればOKになる。そういう感覚が勢いとか鮮度に繋がるのかなって。せっかくいいメロやフレーズが浮かんでも、慎重になって温め続けると腐っていってしまうこともあるんです。
「Just a moment」で言えば、イントロのフレーズもひとりで作っていたらズレているところを全部弾き直してたかもしれない。だけど、今回はスタジオを使える時間も決まってたし、とりあえず先に先にという感じで進めていったことが、結果として曲の魅力にも繋がったのかなと。
――コライト・キャンプとしてはまさに大成功ですよね。
井上:そうですね。おそらく去年のコライト・キャンプの中ではリリースも一番早かったと思うし、結果的にEPにも繋がりましたし。
Gimgigam:2曲目の「Taxi driver」もあの日に作りましたよね。あのトラックは実は僕が前々からストックしていたもので。
井上:順調に行き過ぎて、最後の1時間に「もう1曲、いきますか?」っていう感じで。
――「Taxi driver」のトラックを選んだ理由というのは?
根津:やっぱりこれも“showmoreにない要素”っていうのが大きくて。私たちはお互いギターを弾かないし、ライブでもサポート・ギタリストはいなくて。「Taxi driver」の元のトラックには最初からギターのカッティングが入っていて、直感的に「これがいい!」って感じました。
井上:「Taxi driver」に関しては僕はほとんど手を出してなくて、トラックがほぼほぼ完成してたので、そこに申し訳程度にピアノを入れたくらい(笑)。「Taxi driver」っていう曲名、フレーズもあの日に決まってたよね?
根津:そう。元々showmoreとして「Taxi driver」っていう全然違うデモがあって、当時は曲として完成させることができなかったんですけど、ギムくんのトラックを聴いたときにそのワードが思い浮かんできて。その場でメロもサビも作りました。
井上:そういえば、シンセ・ソロもその場で録ってますね。変な感じのソロを弾いちゃって、「これはちょっと持ち帰るね」って言ったんですけど、後で聴き返したらそのヘロヘロな感じが妙によく聴こえてきて。これもやっぱりその場の勢いというか、鮮度が関係している気がしますね。
Gimgigam:何回か録ったけど、結局一番最初に弾いたやつがよかったんですよね。
井上:そう、トラックを聴きながらラフに弾いたやつ。これも僕らだけだったら採用してなかったと思うんですよね。
Gimgigamが引き出した“東京の風景”
――Gimgigamさんはご自身の作品だけでなく、日頃から他アーティストさんへの提供やプロデュースも多いですよね。そんな経験も踏まえて、showmoreとのコライトはいかがでしたか?
Gimgigam:僕は基本的にリモートでの制作しかやったことがなかったんです。なので、意見を出し合いながらその場で作業すること自体が初めてで、やっぱり新鮮な体験でしたね。このセッション以降、自分の制作スピードも上がった気がしていて(笑)。
井上:僕らは逆にリモートでの制作が向いてなくて。セッション後の詰め作業も別のスタジオに集まってやりました。そしたらギムくんがでっかいダンボールにiMacを入れて持参してきてくれて。マジで申し訳ないなと(笑)
Gimgigam:ラップトップを持ってなかったんです。でも、このセッションがきっかけでMacBook Proを買いました(笑)。
――セッションで2曲がほぼほぼ完成して、その後どのような経緯でEPの制作に発展したのでしょうか?
根津:シンプルに盛り上がっちゃったんですよね(笑)。「EP、作りたくない?」って感じで。ギムくんがトラックをストックしているのと同様に、私たちも2人だけでは完成させられなかったデモがいくつかあって、それをギムくんと一緒に作ったらおもしろいんじゃないかなって思いました。
井上:showmoreが持ってるアイディアをギムくんに具現化してもらったのが「Eraser」で、2曲の先行シングルと同じくギムくんのトラック先行の曲が「Wonderland」、そして最後にセッションのような形で作ったのが「Hold on」ですね。
――EPのタイトル・トラックにもなった「Wonderland」は、おそらくshowmoreリスナーにとっては一番意外性のあるダブ・トラックですよね。
根津:確かに。一番そういう声をいただいた曲ですね。
Gimgigam:シンプルに僕がダブをやりたくて(笑)。中々一緒にやってくれる人が思い当たらなかったんですけど、showmoreとだったらいける気がしたんですよね。
井上:でも、根津さんは元々そういう音楽も聴いてたんだよね。逆に僕は好きだけど詳しくはないので、showmore単体ではダブで説得力のある作品は中々作れないと思うんですよね。3rdアルバム『seek』にはラヴァーズ・ロック調の曲も入ってるんですけど。
――「style」ですよね。
井上:はい。あの曲はレゲエやダブに詳しいSoulflexのFunkyとTyapatii(野村帽子)の2人――Breaking Atomsが力を貸してくれたからできた曲でもあって。
根津:私もそんなに知識はないけど、そういう音楽は好きでよく聴いていて。「Wonderland」は確かにshoremoreとしては珍しいタイプの曲だけど、トラックを聴いた瞬間に「これ好き!」って感じたので、歌詞やメロディもすぐに浮かんできましたね。
――歌詞はタイトルとは裏腹に、どこか寂しさや切なさも感じられます。
根津:あの曲の舞台は下北沢で。……私にとって東京って砂漠や迷宮みたいなイメージで、中々目的地に辿り着けないなって思うんです。ある日、下北のシーシャ屋さんにいる若い子たちを見ながらそんなことを考えていて、みんなどこかに迷い込んでいるようなイメージをこの曲で描きました。
――なるほど。では、「Wonderland」の制作工程についても教えてもらえますか?
Gimgigam:最初はリモートで、トラックを送ったら仮歌とピアノを乗っけてくれて。ダブにジャジーでアドリブ風のピアノを乗っけるのはおもしろいなと思いました。
井上:イメージとしてはHerbie Hancockのようにいろいろなジャンルを越境するような感じ。そういうミクスチャー感を出せたら、ただのオーセンティックなダブではない魅力が出せるかなと。この曲も、僕はコーラス・ラインを作ったりはしたけど、基本的にはピアノを入れただけで。しかも、トラックを聴いてぬるっと弾いた1〜2回のテイクを採用しています。
Gimgigam:そうなんですね。
井上:尺も決まってなかったし、もちろん歌も乗ってない状態で弾きました。ソロって固め過ぎちゃうと上手くいかないので、いい意味でのラフさとか、ジャズマンの即興感を意識しましたね。
――その感覚は、やはりshowmoreの制作とは異なる感覚ですか?
井上:そうですね。やっぱりshowmoreのときだといろいろ考えすぎてしまうことが多いですし。あとはギムくんのトラックの完成度が高かったので、安心して脇役に徹することができたというか。この曲に関しては僕はフィーチャリング・ゲスト的な意識でしたね。
――では、逆にshowmoreが持ってるアイディアをもとにした「Eraser」についてもお聞きしたいです。この曲の制作はどのように?
根津:「Eraser」はメロから作ったんですけど、最初から「ダンス・ミュージックっぽくしたい」とはお伝えしていて。
井上:実は6〜7年前、showmoreがまだバンドだった時代にセッションしたボイスメモが残ってて。ずっと完成させることができずに寝かせてたんですけど、「トラックメイカーと組んで、ハウスっぽく仕上げることができたら」とは何となく思っていて。なので、今回は僕がデモ・トラックを作ってギムくんにお投げしたんですけど、デモとは全く違う感じで返ってきて。それが最高だったので、このままでいこうと(笑)。ただ、この曲は結構時間掛けたよね?
Gimgigam:そうですね。曲の尺とかでも悩みました。
根津:最初に返ってきたトラックは完成版よりもさらにギムくん色が強くて。象の鳴き声とか謎の儀式みたいな声が入ってたり(笑)。
Gimgigam:歌詞の世界観と合ってなさ過ぎでしたね。
井上:そのときはまだ歌詞はなかったけど、ギムくんのよさは残しつつも、根津さんの歌詞との温度感を合わせるっていう感じでしたね。
――Gimgigamさんはどのような意識でトラックメイクを?
Gimgigam:最初のトラックは4つ打ちのポップなハウスっていう感じだったんですけど、自分の色を出すならやっぱりトライバルかなと。それでパーカッションやシェイカー、アマピアノ(南アフリカ発のダンス・ミュージックのひとつ)で使われているようなリリースの短いベースを入れたりしました。
――この曲はリモートがメインだったんですか?
根津:井上くんが忙しくて、スケジュールが合わなかったんだよね。
井上:でも、結局対面のセッションもやったよね?
Gimgigam:セッションで作った音源を僕が持ち帰って、鍵盤をMIDIに打ち替えたり、さらに音を重ねたりっていう作業もありましたね。
根津:そうだそうだ。最終的な仕上げはエンジニアの向(啓介)さんに参加してもらって、みんなでやりましたね。
――そして、最後に「Hold on」をセッションで作ったと。
井上:4曲完成した後に、もう1曲作ろうかっていう話になって。
根津:「Hold on」は元々なんとなく「こういう曲にしたい」というイメージがあって、それぞれ役割分担しつつ、それを構築していったという感じですね。ギムくんがトラックを作って、井上くんが音を重ねて、私はメロと歌詞を考えるっていう。
井上:同じ空間にいるのに、3人それぞれ別の作業をしているっているね(笑)。
Gimgigam:これも結構スピーディーに進みましたね。1ヶ月くらいで完パケした記憶があります。
――根津さんはどのようなことを考えながら作詞しましたか?
根津:これは……新宿が舞台なんです(笑)。昔ゴールデン街でバイトをしていたこともあって、新宿には思い入れがあって。電車でもいろいろな路線が混じ合う場所だし、きっといろいろなところから人が集まってくる。そしてみんなそれぞれが新宿に慣れてくる。みんな歩くのが早すぎて、最初は私も怖かったんですけど、それでも次第に順応してしまう。その頃を振り返ると、「もうあの頃の自分はいないんだな」って少しだけ寂しく感じられたりして。だから“自分を繋ぎ止めよう”っていう意味で、《Hold on》っていうフレーズが出てきました。
――《Hold on, Hold on me》と歌うサビは、日本語の《ほどほどに》とも聴こえるようで、言葉遊び的な側面があるのかなと思いました。
根津:そういう声もよく頂くんですけど、実は意識してなくて。でも、歌詞の解釈は自由ですし、《ほどほどに》っていうフレーズもこの曲にすごく合っているなって思います。《Hold on》――それぞれのペースで自分を守りながら、“ほどほどに”頑張ろうよっていう。
――「Just a moment」は青山で、「Wonderland」は下北沢、「Eraser」は新宿と、それぞれが特定の場所からインスピレーションを受けているんですね。
根津:普段からこういう書き方をしているわけでもないし、最初から構想していたわけでもなくて、ギムくんのトラックが引き出してくれた要素なのかなって思います。ちょっと不思議な体験でしたね。ギムくんが持っているものが、私から見た東京だったり、そこに生きる人たちとリンクしたというか。
「テンプレ的なものにアゲインストしたい」
――Gimgigamさんのトラックを聴いて、“東京”が浮かぶというのがおもしろいですね。表面だけをなぞれば、やはり南国だったりを想起してしまうのかなと思いました。
根津:そうですよね。私も不思議に思います。最初にギムくんの作品を聴いたときは「ジャングルだ!」って感じたのに。
井上:これは僕らの間でもよく話すことなんですけど、僕らは記号的なもの、テンプレ的なものにアゲインストしたいっていう気持ちが強くて。たとえば形骸化してしまったシティポップやローファイ・ヒップホップなどは、「こういうサウンド/こういうアートワークにすれば都会っぽい」みたいな構図ができあがっているじゃないですか。全部を否定するつもりはないけど、あまりにも直線的で安直なものも多いなと感じていて。都会っぽいものを都会っぽく、もしくはジャングルっぽいものをジャングルっぽく仕上げてもおもしろくない。深みや奥行きがないというか。
特にこういう話をしたわけではないけど、『Wonderland』のアートワークがどこか異世界っぽい感じになったのも、今話したような内容とリンクしているのかなって思いますね。僕らのスタンスと、根津さんの妄想癖が組み合わさった結果というか(笑)。
――Gimgigamさんは、トロピカルだったりトライバルという言葉が似合うご自身のサウンドのオリジンについて、どのように考えていますか?
Gimgigam:子供の頃からどこか異国情緒溢れる音楽が好きだったんです。あと、群馬県の田舎で生まれ育ったからか、逆にグアムやハワイといった海沿いのリゾート地へのあこがれもありました。それが曲に出ちゃってるのかもしれないですね。
根津:バンドやってたんだよね?
Gimgigam:やってました。ただ、バンドのドラムがあまり上手くなくて(笑)、レコーディングしてもクリックに合わないので、自分が打ち込んじゃおうと。今振り返れば、それがトラックメイクを始めたきっかけでした。そこからバンドが解散しちゃったので、「じゃあ、ひとりでやってみるか」と。
――ディスコグラフィを遡ると、2017年発表の『Faded Utopia』が初リリースとなっています。これはひとりで作り始めた頃の作品ですか?
Gimgigam:作り始めて1〜2年くらいだったと思います。山下達郎さんや鈴木茂さんなどの作品が収録されたコンピレーション・アルバムに触発されて、そういうリゾート感のあるサウンドを作るようになったんだと思います。
ただ、最近では積極的にいろいろなジャンル、サウンドに挑戦してみようと思っています。
――今回のコライトでの経験は、今後の活動にどのような影響を及ぼすと思いますか?
根津:シンプルにギムくんとはまた一緒に作っていきたいですね。私の場合はこれまでメロから作ることが多かったんですけど、このやり方だけだと限界があるなと。刺激的なトラックに合わせる、もしくはトラックに引っ張ってもらうというやり方がとてもおもしろかったので、このやり方は今後も取り入れてみたいです。
長いことshowmoreとして活動しているうちに、気づかないうちに自分たちの枠を狭めていたのかもしれないって感じて。今回、今までとは違うやり方で曲作りに挑戦したけど、意外と私たちらしさは失われないんだっていうことがわかった。だからこそ、今後はもっともっと自分たちの幅を広げていきたいと考えています。
井上:「Just a moment」とか「Taxi driver」ってライブでも反響がいいんです。3月のワンマンのときにも感じたんですけど、いろいろなタイプの曲を持っていると、よりライブを構築しやすいんですよね。根津さんも言ったように僕ららしさを残したまま、新たな視点や要素を取り入れるという部分は、より意識的に取り組んでいきたいです。
井上:僕らは完全無所属で2人だけでやってるんですけど、そうしてるとやっぱり内向きになってしまうんだなっていうことに、今回のコライトを通して気づかせてもらいました。またすぐにギムくんや他のプロデューサーさんとコラボするかどうかはわからないですけど、どちらにせよ自分たちの今後の活動にはいい影響が出る気がしています。
――Gimgigamさんはいかがですか?
Gimgigam:個人的に今回の制作で驚いたのは、コーラス・ワークの緻密さ。たくさんのトラックを重ねることでこのコーラスを築き上げているんだなと。今まではあまりボーカルやコーラスの録音に立ち会うことがなかったので、それは大きな気づきでした。
あとは僕もどこにも所属せずに活動しているんですけど、そういったインディペンデントならではの活動スタイルっていう面でも、showmoreの2人から勉強させてもらいました。ぶっちゃけ、著作権とかもあまり詳しくはわかっていなかったので(笑)。
――『TOKA Songwriting Camp』はミュージシャン/クリエイターの権利面に対してもすごく意識的に取り組んでいるようなので、まさにコライト・キャンプの思惑通りの成果というか。
根津:手のひらで踊らされてますね(笑)。
――最後に、2組の今後の予定を教えてください。
井上:6月にBillboard Liveでの公演があるので、それに向けて準備をしているのと、また違った形での制作も進めています。ツアーも構想しているので、楽しみにしていてくれると嬉しいです。
Gimgigam:『TOKA Songwriting Camp』であっこゴリラさんと制作した曲もそろそろリリースされるはずです(5月31日リリースの「その1万で」)。
Gimgigam:自分の作品は中々手を付けれてないのですが、アルバムを作りたいなとは考えていて。僕の場合はいろいろなアーティストさんとコラボするスタイルでいきたいなと考えているので、showmoreのお2人とはまた作りたいですね。
井上 & 根津:いつでもどうぞ!(笑)
【プレゼント企画】
SpincoasterのTwitterアカウントをフォロー & 下記ツイートをRTでshowmore & Gimgigamのサイン入りチェキを3名様にプレゼント。発表通知はTwitterのDMにて行わせていただきます。
キャンペーン期間:6月14日(水)19:00〜6月21日(水)19:00

※3枚の中からランダムでの発送となります。

※当選のお知らせに対して48時間以内に返信がない場合、誠に勝手ながら辞退とさせていただきます。
※住所の送付が可能な方のみご応募下さい。頂いた個人情報はプレゼントの発送以外には使用いたしません。
※発送先は国内のみとさせて いただきます。
※フリマサイトなどでの転売は固く禁じます
【リリース情報】

作詞:根津まなみ

作曲:Gimgigam, showmore
Recording, Mixing, Mastering : 向啓介
Jacket design : SUZUNA MUNETOU
【イベント情報】

日時:2023年6月25日(日)

[1st Stage] OPEN 15:30 / START 16:30
[2nd Stage] OPEN 18:30 / START 19:30
会場:Billboard Live OSAKA
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日時:2023年6月29日(木)

[1st Stage] OPEN 17:00 / START 18:00
[2nd Stage] OPEN 20:00 / START 21:00
会場:Billboard Live TOKYO
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■ showmore オフィシャル・サイト(http://showmore.tokyo)

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