【Lucky Kilimanjaro インタビュー】
バンドというもの自体を
もっと新しい方向に持っていきたい
最終的にはバンドで出力するのが
一番カッコ良い
Lucky Kilimanjaroは新しい音楽を標合し、実際にそれを作っているバンドであることが確認できました。そして、その中でこれまでになかった、言わば新発明みたいなものが生まれてきていると思うんですね。今作で言えば、8曲目「千鳥足でゆけ」。私は「木曽節」や「相馬盆唄」を思い出したんですが、日本民謡のお囃子をオフビートのダンスミュージックに取り込んでますよね?
インタビューで、日本っぽいと結構言われて“あっ、なるほど!”と思っていたところです。実はあんまり意識はしていなくて。歌詞にもあるんですけど、神保町に『酔の助』という飲み屋さんがあって…もう潰れちゃったんですけど、大学の時よくそこで呑んでいたんです。そこには提灯があったり、店の近くには古本屋があったりして、そこをイメージしながら曲を作っていたからそうなるのかなと思ったんですけど…何だろうな? 景色とダンスミュージックを合わせているところで面白みを感じてもらえてるのかなと。
民謡とは言いましたけど、ちょっとカリプソっぽいサウンドも入ってきますので、いろんなビートが融合されていると申したほうがいいでしょうか。いろんなビートの融合で今までどこにもなかったものが出てくる。それを今回で言えば「千鳥足でゆけ」で大きく感じたところですね。
ジャズの複雑なコードを使っていて、ちょっと時代や場所を訳分からなくするというか、それも酔っ払っている感覚とすごい近くて(笑)。“今、自分はどこにいるんだろう?”みたいな。ある場所に点を置かないような感覚、どこにいるのかグラグラしているような感覚というのが、コードだったり、サウンドだったり、リズムだったり、グルーブだったり、いろいろなところで出したいと思っていたんです。それゆえに、みなさんからいろさまざまな意見をいただけるのかなと。
「千鳥足でゆけ」が一番大きな新発見を感じたところですけど、そういう要素は他の楽曲にも随所にあって。ループミュージックの中でリズムが落ちたり、パーカッションが差し込まれたり、サックスが嘶いたりと、他では聴けない組み合わせがあるので面白いです。
僕はそういうジャンルのレガシーな部分に対して乱暴なところがあって。文脈的に言えば訳が分からないんだけど、面白いと思ったからOKみたいなことを結構やっちゃっているので、そこが新鮮さや新しい踊りにつながっているのかもしれないですね。
あまり躊躇なく、思いついたらポンとやっちゃう感じですか?
もとの文化を壊したくないというのはありますけど、その中でどうやって派生として面白さを出していこうかという時に、“どれだけ俯瞰して、どれだけはめ込んで、どれだけ混ぜることができるか?”というところは面白いと思っているので、いろいろやっていますね。
だから、本能的な気持ち良さもあるんでしょうね。
そこが大事ですね。いろいろ要素を組み合わせて、その要素が説明できても、気持ち良くないものは作らないようにしているので。最終的に脳を空っぽにして聴いて気持ち良いものを大事にしていてますし、そこがお客さんに楽しんでもらっている部分だろうから、一番大事にしているところですね。
あと、細かいところで、11曲目「闇明かし」が顕著ですが、アウトロがカットアウト気味に終わるじゃないですか。他にもこのアルバム収録曲には楽曲が突然終わるというか、いい意味で期待を裏切られるみたいなところはありますよね。
今回は特にハウスミュージックのマナーでアウトロを長くしたり、ドンと終わる感じじゃなくてスッと終わったり、フッとなる感じを大事にしていて。僕らのライヴって過去の楽曲も含めてDJのマッシュアップみたいにどんどんつないでいって、インタールードを作ったりして、1時間半とか2時間とかノンストップでやるんですけど、そういうところに対して接続性をより面白くしたくて、過去の曲と今回のアルバムの曲がどんどん接続していく感覚を持ってもらえたらいいなと思っていますね。
そうですか。いろんなことを考えて作品を作っていらっしゃることが、今のエピソードだけでも分かります。
やっぱりそれが楽しいですね。ずっと“これ、絶対にワクワクするだろう!”って思いながら作っているので、それが少しでも伝わればいいなと。
なるほど。Lucky Kilimanjaroはいろいろと複雑なことをやっていながらも、楽曲の聴き応えはポップであって、しっかりと肉体的な気持ち良さがあるわけですが、それは根底にあるものがバンドサウンドだからなんだと思うのですが。
そうですね。最終的にバンドでアウトプットしているかたちに憧れがずっとありますし、自分もギターが好きで、バンドが好きなので、どんなかたちでも最終的にはバンドで出力するのが一番カッコ良いと思うところがあって…うん、そこはずっと向き合い続けていますね。高校生からバンドをやり始めて、大学生でもやって、バンドだから面白くなる部分ってすごくたくさんある…というか、“それが一番面白いよね”みたいなのがある(笑)。エレクトロミュージックをやっているけど、それをどうバンドに落とし込むかというところを僕らはやっているので、ライヴが自分たちの一番の見せ場というか。
ライヴ空間にこそ、バンドの良さがあるという。
ライヴで表現されるからこそ、もとの曲がより理解できるようになってくる…そういうふうに言ってくれる方もいますしね。
極端な話、熊木さんひとりでDJのようにライヴパフォーマンスすることもできますよね。
できるんですけど、“それだとつまんなくない?”って。そこは言語化できないんですよね、自分も。バンドじゃない状態をイメージした時、すごくつまらないんですよ(笑)。
やっぱりこの6人でやっているのがいいんですね。
僕が観たいとしたらこっちだし、絶対に面白いと思うのもこっちなので、そこに芯を感じているんだと思います。
こうしてLucky Kilimanjaroのような新しいことをやるバンドが今いることをとても心強く思います。
ありがとうございます。バンドというもの自体をもっと新しい方向に持っていきたいと思っていて。バンドの可能性…“演奏って面白いんだな”というところとか、演奏とシーケンスとが混じることで“実際の演奏ではできない要素も追加できるんだな”とか、そういう面白さをもっと出していきたいですね。
取材:帆苅智之
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アルバム『Kimochy Season』2023年4月5日発売
ドリーミュージック
『Lucky Kilimanjaro presents. TOUR “Kimochy Season”』
5/28(日) 石川・EIGHT HALL
6/03(土) 北海道・SAPPORO FACTORY HALL
6/10(土) 大阪・Zepp Namba
6/11(日) 愛知・Zepp Nagoya
6/17(土) 宮城・仙台PIT
6/24(土) 広島・CLUB QUATTRO
6/25(日) 福岡・Zepp Fukuoka
7/01(土) 東京・豊洲PIT
7/02(日) 東京・豊洲PIT
ラッキーキリマンジャロ:同じ大学の軽音サークルで出会った6人で結成。彼らが自ら考案し、掲げる“世界中の毎日をおどらせる”というバンドのテーマは、Lucky Kilimanjaroの音楽性と精神性を如実に反映した言葉である。そして、2018年にEP『HUG』でメジャーデビュー。その後、20年にはメジャー初のフルアルバム『!magination』を、21年にはメジャー2ndフルアルバム『DAILY BOP』をリリース。作詞作曲を手がける熊木幸丸(Vo)の多作ぶりとバンドとしてのリリーススピードの速さで周囲を驚かせながら、作品を経る毎にクリエイティビティーとキャパシティーを広げており、その音楽世界の根幹にあるのは、やはり熊木のソングライティング。時代や自己の内部に深く向き合いながらも、まるで友達のように親密な語り口で聴き手に寄り添いながら、明日をよりよく生きるための新たな視点と提案をもたらす歌詞をはじめ、先鋭的なポップミュージックのビート感やサウンド感を貪欲に取り入れながらも、きっと多くの人が懐かしさを感じるであろう、日本語の歌としての喜びを突き詰めていく彼のソングライティングはさまざまな音楽家たちから高く評価されている。Lucky Kilimanjaro オフィシャルHP
「Heat」MV
「一筋差す」MV
「ファジーサマー」MV