【HIROBA×橋本愛 インタビュー】
HIROBAは自分が今まで
出会ってないものと出会える
橋本さんからは小田和正さんに
通ずる部分をすごく感じ
それでは、水野さんにHIROBAというプロジェクトの持つ意味みたいなものをおうかがいしたいと思います。そもそもHIROBAは「ただ いま(with 橋本愛)」がそうであったように、参加アーティストの方が持っているポテンシャルを引き出そうと企図したところはあったのでしょうか?
水野
いやいや。おこがましくも僕の側から“引き出す”みたいな感じは持っていないです。あくまでも自分の作品の中に他者が入ってきてほしくて、自分と異なる人と一緒にひとつの物事を作ることで、“自分が今まで出会ってないものと出会えるんじゃないか?”とか、“今まで作れていないものが作れるんじゃないか?”っていう気持ちがあってHIROBAを始めていて。作家、アーティストのみなさん、役者さんもそうで、どれひとつも同じコラボレーションはなくて、それぞれの関係性があってこそなんですね。今回の橋本さんには作詞をやってもらうっていうところで本当にご無理を言ったと思うんですけど、ひとりの作り手としてその場にいてくれたから、一緒にその場で遊んでもらったというか(笑)。
まさに“HIROBA=広場”で遊んだという。
水野
はい。なので、すごくいいかたちでアルバムができたと思います。僕も陥ったことがありますけど、よくありがちなのは自分がある程度作ったものに乗っかっていただくことで。でも、それは他の方でもできることですけど、少なくとも今回の僕と橋本さんが出会ったことによって出来上がったものはそうではない。言い方を変えれば、出会いがないとできないものが、橋本さんがすごく誠実に作品に向き合ってくれたおかげで、より分かったし、実現できたと思います。
なるほど。“引き出す”というのではなく、“一緒にかたちにしていきましょう”というのがHIROBAなんですね?
水野
そうですね。HIROBAを始めたのは、“ひとりのアーティストや一組のアーティストがカリスマみたいになって、その世界観の中だけで作品が生まれていくことは本当に面白いんだろうか?”と思ったりもしていて、“場所や作品自体を主人公にして、それを囲んでいろんな才能ある人たちが自分自身の意見や考えていることを差し出していったら、その作品がちょっと面白いものになるんじゃないか?”と考えたからで、なかなか解説するには難しいことやっています(苦笑)。その意味では、これもおこがましい言い方になっちゃうけど、「ただ いま(with 橋本愛)」はすごくHIROBAらしい作品になったと思いますね。
HIROBAでは水野さんご自身のアーティストとしてのエゴみたいなのは封印してる感じなんですか?
水野
いや~。それは結果としてめちゃくちゃ出ているものだと思いますけどね(苦笑)。
(笑)。そこはアルバム『HIROBA』に関して特に訊きたかったところでして。水野さんが作詞作曲の9曲目「I」はもろにそれが出ていますよね?
水野
そうですか!? それは恥ずかしいですね(苦笑)。
個人的には「I」を作るためにHIROBAはあったのではなかろうかと想像したくらいです。
水野
これは半分反省がありまして。HIROBAで初めて音楽を作ったのは小田和正さんと一緒にやった「YOU」なんですけど、最初の半年間で小田さんとずっと作り続けていた別の曲があったんです。それが半年経って“さぁ、レコーディング!”という時に、小田さんが急に“いや、これではないな”と言ってボツになったんですよ。
水野
それで「YOU」っていう曲が出来上がったんですけど、いろいろと話し合っていく中で小田さんから“やっぱり一緒に歌うんじゃなくて、水野がひとりで背負ったほうがいい”と。こちらとしては“いやいや、待ってくれ!”ってなりましたね(苦笑)。 “この曲に小田さんの声がきたら僕の声が負けるのは分かっているし、自分がひとりで歌うことによって意味が生じることも分かっているけど、小田さんと向き合いたいから「YOU」だけは“ふたりでやらせてください”と言いましたが、“水野は自分の曲をひとりで背負う経験をしたほうがいい”って言われて。“だったら、「I」は僕ひとりで最後までいくんで、「YOU」はふたりでやらせてほしい”という話をしたんです。
水野
それで“やってくれないんだったら、このプロジェクトは止めます”みたいなことも現場で言ったりして。そうしたら、小田さんはやさしい方なので、“じゃあ、仕方ないな~。水野がひとりで歌ったほうがいいと思うけど歌うよ”と突然に歌い出したんです。みんながそれを聴いて“やっぱりいいじゃん!”みたいになって(笑)。だから、「I」はそういう曲だったんですね。今振り返ると、当時は頭でっかちに考えていた言葉がいっぱい乗っていて、小田さんから言わせても、今の僕から言わせても、力が入りすぎていたと思います。“自分が作った音楽を自分は歌えるだろうか?”ということに向き合った少し恥ずかしい曲だけど、そこから3年が経って、それこそ橋本さんが参加してくれた今となっては、自分を出すことだけではなく、自分を出して相手にも何かを出してもらうことで、その中から生まれるもののほうがより大きなものになることを感じさせてくれる…そんな反省の曲だと思っていますね。
橋本さん。今、水野さんと小田和正さんのエピソードを聞きながら、時に頷いたり、驚いたりされてましたけど、お話を聞いていてどんなふうに思いましたか?
水野
こんなことを言ったら小田さんは苦笑いするかもしれないですけど、橋本さんからは小田さんに通ずる部分をすごく感じました。
水野
橋本さんはやりとりをしてる時に嘘をつかないんです。作品に対して誠実ですから。どうしてもあるじゃないですか。ちょっと遠慮したいこととか、あとは“期日のことを考えるとやっぱりこの修正はこの時間では難しいんじゃないかな?”とか。大人としてはそういう能力は必要だと思うんですけど、一方でそれは作品に対しては関係のないことだから、作品がいいものになるんだったら変えるものは変えるべきだし、言うことは言うべきなんです。橋本さんはまさにそういうことに対して誠実なんですよ。それはビシビシと感じていて、半年間かけて作って曲がボツになった時の感覚をすごく思い出しました。
水野
小田さんも橋本さんも別に強い言葉で言うわけじゃなく、“こっちのほうがいいでしょ?”って。目の前にあるペットボトルの場所を置き換えるくらいのテンションで言うんで(笑)。でも、そのくらい嘘をつかない感じには、すごく通ずる部分があると思います。だから、表現方法は違っても作品に対して思うところは同じなんでしょうね。
そうしますと、水野さんから見て橋本さんは十分ミュージシャン、アーティストとしても進んでいけるということでしょうか?
水野
やられないんですか? どんどんやっていかれたらいいのにって思いますよ。
水野
僕はすぐに勧めちゃうんで(笑)。“小説、書かないんですか?”“曲、書かないですか?”ってね(笑)。
橋本
そう言っていただけることが自信になるので、ありがたいです。
取材:帆苅智之
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アルバム『HIROBA』2023年2月15日発売
Epic Records Japan
- ESCL-5728~9
- ¥4,180(税込)
- ※CD+Blu-ray
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小説「おもいでがまっている」(清志まれ)2023年3月22日(水)発売
- 書籍定価:¥1760(税込)
- 書籍情報:
- https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163916736
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- <あらすじ>
- 今は古びた平成初期の新興マンション。
- その一室に、ひとりの年老いた男が、孫とともに住んでいた。
- 彼のもとを訪ねた、市役所の生活福祉課に勤める上村深春。
- 長い時を経ても変わらない、家具のひとつひとつ。
- 老人が訥々と語る、心温まる、この部屋の思い出。
- 孫はここで、ずっと母を待っている。
- この部屋に残された母の愛に囲まれて。
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- しかし深春は戦慄した。
- 男が語る思い出はすべて“嘘”だった。
- かつてこの男は、まだ幼かった深春と兄の駿介から、この部屋を奪った。
- 男は、兄妹たち家族の過去を漂白し、
- 孫のために“嘘”の過去をつくりあげていた。
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- 私たちから部屋を奪い、そして思い出までを奪った……。
- 風吹く部屋で、ずっと誰かを待ち続けた、ある家族と、男の物語。
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- 〈著者からのメッセージ〉
- すぐに話せて、すぐに理解できる。
- 待つことが少なくなったそんな世界において、
- 人に会えず、先が読めず、いつ終わるかわからない。
- 待つことを強いられた3年間でもありました。
- 今という瞬間を侵食する過去との向き合い方。
- そして場所に沈殿し、宿り続ける記憶。
- 人生という自分たちの時間を、
- 前に進めようともがく人々の物語です。
- (清志まれ)
『HIROBA FES 2022×2023 -FINALE! UTAI×BA-』
3/18(土) 東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
出演:水野良樹(HIROBA)、大塚 愛、亀田誠治、崎山蒼志、世武裕子、長谷川白紙、横山だいすけ、吉澤嘉代子、Little Glee Monster
ヒロバ:1982年12月17日、神奈川県出身のソングライターで、いきもがかりのリーダー・水野良樹が主宰するプロジェクト。『考える、つながる、つくる』をテーマにジャンルや世代を超えた様々な人々が出会い、繋がり、共創する「場」を目指し2019年に始動。小田和正、大塚 愛、高橋 優、坂本真綾などの⾳楽アーティストはもちろん、橋本愛、伊藤沙莉、柄本佑などの俳優、皆川博子、重松清などの小説家とも楽曲でコラボレーションを果たす。スペシャリストたちとの対談や、⾃⾝が⼿掛ける⼩説など多岐にわたる活動を展開。22年2月にこれまでの作品を含むフルアルバム『HIROBA』を発表。楽曲「ただ いま with橋本愛」の原作となった小説『おもいでがまっている』を3月に発売する。HIROBA オフィシャルHP
ハシモトアイ:1996年1月12日生まれ 熊本県出身。2010年に『Give and Go』で映画初出演初主演。同年映画「告白」に出演し注目を集め、その後多くの作品に出演した。13年に映画『桐島、部活やめるってよ』などで数々の映画賞を受賞。同年NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演し幅広い年齢から認知された。近年では、18年のNHK大河ドラマ『西郷どん』、19年の『いだてん〜東京オリムピック噺〜』と2年連続大河ドラマ出演を果たし、21年度『青天を衝け』では大河ドラマ初のヒロイン役を務める。22年にドラマ『家庭教師のトラコ』(日本テレビ系列)では民放連続ドラマ初主演を務める。女優業とは別に、20年にYouTube番組『THE FIRST TAKE』にて「木綿のハンカチーフ」を歌唱し話題になり、21年3月発売のトリビュートアルバム『筒美京平SONG BOOK』に参加した。22年にはXIIXとのコラボレーションデジタルシングル「まばたきの途中」を配信リリース。同楽曲の『THE FIRST TAKE』も公開され、話題となる。独自の感性を生かし、ファッション、写真、コラムなどの連載を持ち幅広く活躍中。橋本愛 オフィシャルinstagram
「ただ いま(with 橋本愛)」MV
「ふたたび(with 大塚 愛)」MV
『HIROBA』全曲試聴トレーラー