元宝塚歌劇団星組トップスター紅ゆず
るが語る、コメディ舞台『アンタッチ
ャブル・ビューティー』へのアプロー
チ「笑わせる気は一切ありません」

元宝塚歌劇団星組トップスターの紅ゆずるが、主演をつとめる舞台『アンタッチャブル・ビューティー~浪花探偵狂騒曲〜』が9月17日(土)から25日(日)まで、大阪松竹座にて上演される。同作は、大阪ミナミのはずれにあるシャッター商店街の探偵事務所を舞台に、見習い探偵の本間カナ(紅ゆずる)が、商店街をとりまく悪い噂の真相をつきとめていくハートフルコメディだ。宝塚時代は「稀代のコメディエンヌ」として劇場を沸かせていた、紅。今回はどんなアプローチで作品に臨もうとしているのか、話を訊いた。
紅ゆずる
●「足並みが揃っていないし、揃える気もない。それがおもしろい」
――『アンタッチャブル・ビューティー』は、大阪ミナミのはずれにあるシャッター商店街が舞台。大阪ならではの物語になりそうですね。
お芝居を通して「大阪らしさ」をあらわしたいですね。笑いに対しても、大阪の街はただ「おもしろいですよ」ではありません。なぜこのような笑いがあるのか、お笑い=大阪と思われている理由はなんなのか。そういった真髄がある。だからこそ苦しいこと、つらいこと、すべてを笑いに変えられる。強い街だと思うんです。だから、単純に「おもしろい」、「笑える」にはならない。コメディだからといってギャグの連発ではなく、今回はそれをお芝居に変えられる役者が集まっているので、物語として笑いを表現していきたいですね。
――感情に染み入る笑いということですね。
きっと、東京劇だとそうはならないはず。「シャッター商店街のなかでどうやって笑うの?」となりそうだから。切羽詰まっているだろうし。大阪劇だからこそ、みんなのなかにある底力を笑いに変えられます。しかもこのメンバーが揃っていますから。
――紅さんは宝塚歌劇団ご出身。さらに共演の内場勝則さん、末成映薫さんは吉本新喜劇でなんばグランド花月に立っている。この人たちが大阪松竹座の舞台に立つ。これ自体、ある意味でアンタッチャブルじゃないかと。
私の出身は宝塚歌劇で東宝系ですから、それが松竹の舞台を踏むことになりますし。そういう、ありえないデコボコ具合がおもしろいし、決して平らなお芝居にならないでしょうね。だからこそ、新たなものが出来上がるはずです。全然違う土俵でやっている人たちだからこその、ワチャワチャ感。松竹新喜劇さんのおもしろさ、吉本新喜劇さんのおもしろさ、そこに属さない私たち。良い意味で足並みが揃っていないし、揃える気もないという。それでも、気持ちの部分ではピッタリと合っていくと思います。
●「自分が笑いを起こすことで宝塚歌劇団という存在を身近に感じてもらいたかった」
紅ゆずる
――このメンバーが揃っていて、しかもコメディと聞くと、お客さんは「どうやって笑わせてくれるんだろう」と期待して観に来てくださるかもしれませんね。
いえ、笑わせる気は一切ありません。笑わせる気持ちでやると絶対に失敗しますから。「ここがおもしろいでしょ」、「ここで笑ってください」はお芝居として薄くなってしまいます。笑いを突き詰めた人たちが大真面目に芝居をやれば、どうやってもコメディがにじみ出るもの。役を演じるということがまず大事です。笑いに走ると、単に「紅ゆずるが笑わせている」になっちゃう。自分の役として筋道を立て、物語のなかの人間関係のおもしろさを見せたい。たとえば吉本新喜劇さんも、まず物語を充実させたうえで、それぞれのギャグがあります。笑わせることだけではなく、泣かせることもあった。生身の人間がやることのおもしろさは、そういうものだと考えます。
――たしかに、お笑いコンテストではないですもんね。
お芝居のコメディは、「1分間に何回、笑いが起こったでしょうか」ということではありません。絡みのおもしろさ、デコボコのおもしろさ、あと摩擦のおもしろさ。それが演劇というものですよね。
紅ゆずる
――宝塚時代も、紅さんは「稀代のコメディエンヌ」と称されていましたが、そのあたりははっきり意識されていらっしゃったんですか。
宝塚時代は、意識はした上でいろいろ使い分けていました。役として使い分けていたというか。宝塚歌劇を観劇したことがないという方は、「こういう世界は付いていけなさそう」とイメージを持っているはず。あと「格式が高そう」とか、「なぜ今、拍手が起こるんだ」とか。遠くの席からだと「みんな同じに観える」とか(笑)。
――ハハハ(笑)。
入り込めば確実にハマっちゃいますけど。ふらーっと気軽に観ることができる世界ではないように感じるかも。しかも、コメディはほとんどやりませんから。でも、そのなかで自分が笑いを起こすことで、宝塚歌劇という存在を身近に感じてもらえるんじゃないかって。特に関西には笑いが好きなお客様が多いですから。だから、役としておもしろいことをやる部分と、紅ゆずるだからおもしろいことをやる部分、両方を意識していました。
――紅さんの自らの口から「宝塚歌劇の登場人物はなんとなく同じに観える」という話を聞けるとは思ってもみませんでした。
宝塚歌劇を熟知している方は「いや、全然違うじゃない」となるだろうし、私もそう思います。だけど、初めて観る方の目線を忘れないようにしていました。なぜなら「もう一回、宝塚歌劇を観に行きたい」と思っていただきたかったから。そのためには、そういう捉え方はちゃんと持っておくべきなんです。そして「あの組のトップスターはおもしろいらしいぞ」と思ってもらったりして。やっぱり笑ったあとは、当然だけど楽しいじゃないですか。私は悲劇も好きだけど、そこは味わいが変わる。まず楽しませたいということを意識していました。
●「『ごっつええ感じ』で私の性格が変わったかもしれない」
紅ゆずる
――宝塚歌劇団時代の紅さんは、その場の空気を掴んでお芝居を変化させているようにも思えました。
でも、気持ちが乗ったからと言ってアドリブを突然やることはありませんでした。ちゃんと前もって「ここはアドリブを入れます」と伝えるんです。たとえばお芝居をしていて「ここでもう一歩踏み込めば楽しめる」と実感すれば、次の舞台時間までに「あそこでもう一歩あれば、もっとおもしろくなるはず。だから何かをすると思います。一言、二言、話すかもしれないし、それによってお客さんから笑いが起こって、いろんな間が生まれるかもしれない」とその都度、舞台関係者には報告していました。
――そういったやり方をしたなかで、どういった作品が印象的でしたか。
二番手時代に出演した、当時の星組トップスターの北翔海莉さんが主演の『こうもり』です。北翔さんはおもしろいことが大好きな方で、いろんなところにアドリブも入れていらっしゃった。私は、ちゃらんぽらんな親友の役だったので、まともに向き合ってはだめなんじゃないかと感じたんです。役柄的にもアドリブをやっても良さそうだなと。そこで、階段を降りる場面で、降りたと見せかけてまた上がってとかを繰り返していたら、まわりも「いやいや、普通に降りろよ!」って(笑)。
――まさに吉本新喜劇的ですね。
やっぱり私は、吉本新喜劇さんを観て育ってきましたから。あと、ダウンタウンさんからの影響も大きいです。『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)で、私の性格は変わってしまったかもしれない。おもしろいことが大好きでしょうがなくなりましたから。当時の番組出演者の方はどう考えていらっしゃったか分かりませんが、どこか「別に笑わせるつもりちゃうねん」という、ひねくれていて天邪鬼な雰囲気を私は感じていました。そこがたまらなく好きで。吉本新喜劇さんの笑いは、親切な笑い。「ここは笑いどころですよ」と気づかせてくれるもの。ダウンタウンさんが作るコントは「どっちでもええねん」というテイスト。それでも最後は絶対に笑わせてくる。どちらの仕掛けも好きですが、でも『ごっつええ感じ』を観たときは「新時代が来た」と衝撃的でした。
紅ゆずる
――分析がすごいですね!
いえいえ、私は芸人さんじゃないからあくまで推測ですけど。でも宝塚歌劇団では、あの場所でコメディをやりたい人はほとんどいないはず。だけど私はそういう背景もあって「こういうタカラジェンヌがいても良いんじゃないか」と。たとえば大地真央さん、真矢みきさんは、すごくおもしろかったから。「そこに続きたいな」と。大先輩にこんな言い方はおこがましいですが、お二方もそれをやり抜く信念が素晴らしかったんだと思います。宝塚歌劇でコメディをやるなんて、腹をくくって「よしやるぞ」とならないとできませんから。
――そういうものなんですね。
そのためには自己プロデュース力も必要になります。『タカラヅカ・スカイ・ステージ』(宝塚歌劇専門チャンネル)などもありますし、自分を売り出すチャンスを見極め、そしてキャラクターを確立していこうと、常にいろいろ考えていました。私自身のキャラクターを確立させることができれば、めちゃくちゃ悲劇であっても、ギャップでより魅力的に感じていただけるかもしれない。
――なるほど。
やりたいことと、やるべきことは違う。見せたいことと、見せるべきことも違う。でもやっぱり自分がやりたいことをやるのが良いし、やるべきこととリンクできれば一番強いですよね。私はコメディエンヌと言われたかったところもあるけど、それ以上に「異端児」と呼ばれたかったんです。「変わっているね」と。なぜなら、一律じゃない存在だから。個性はすごく大事だし、個性のあるトップスターが好きでした。もちろん宝塚歌劇団では二枚目ができないとトップはつとめられない。だから、二枚目でありながら個性派でいようと。つまり、やりたいこととやるべきことの両立ですよね。
●「本名の自分、紅ゆずる、そしてそのあいだに紅子」
紅ゆずる
――そういった個性の先に、紅子という紅さんが宝塚時代に生み出したキャラクターがあるわけですね。あのインパクトはすごいです!
あ、紅子! うんうん、ぶっ飛んでいますよね(笑)。きっとお客様も「宝塚歌劇でなにを見せられているんだろう」と思っていたはず。でも誰も悪い気にさせないし、タカラジェンヌとしていろんなことをおもしろおかしくイジったりして。
――紅子のInstagramのアカウントは、あまりに好き勝手すぎて、「これって乗っ取られているんじゃないか!」と思っていますから(笑)。
紅ゆずるが言えないことも、紅子だと言える。ファンのみなさんと繋がれるキャラクターなんです。あと、紅子をやるときは気持ちが楽なんです。写真のポージングとかも、「どこでなにをやってんの」と(笑)。
――そういう部分も含めて、紅さんはこれからもっと、自分をおもしろく見せていこうとしているんだなと思います。
自分に嘘をつくような表現者にはなりたくないですね。演じることもそうですけど、「こうあるべき」みたいな人にはなりたくない。本名の自分、紅ゆずる、そしてそのあいだに紅子みたいなキャラクターがいてくれて。いろいろな使い分けを大切にしていきたいです。そこでやりたいことをやっていく。そして、それが実際にやりたいお芝居につながっていってほしいなと思っています。
紅ゆずる
取材・文=田辺ユウキ 撮影=田浦ボン

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