大ブレイク待ったなし、メジャー2nd
アルバム『正気じゃいられない』から
露になるマハラージャンという稀有な
エンターテイナー

コミカルでユーモラスなイメージを身にまといつつ、音楽は非常に精巧に組み立てられた優れたダンスミュージック。妙なタイトルの曲ばかりずらりと並べながら、ターバンで隠した頭の中に溢れているのは極めてリアルな時代を撃ちぬくパワーのあるメッセージ。マハラージャンの本性がいよいよ露わになりつつあるメジャーセカンドアルバム『正気じゃいられない』は、得意のファンク、ダンスミュージックに加え、ディスコ、シティポップ、グランジロックにまで翼を広げた一大娯楽大作に仕上がった。リリース後には初のワンマンライブも決定し、状況はまさに大ブレイク待ったなし。会社員からアーティストへ、パーソナルな表現者から大舞台で輝くエンターテイナーへ、成長し続けるマハラージャンの今を読み解くSPICE初登場インタビュー。
――アルバムに先駆けて配信リリースした「心の傷三部作」が、めちゃめちゃツボだったので、その話からしていいですか。社会人時代を回顧して心の傷を歌うという、すごいテーマでしたけれども。
ありがとうございます。2019年にインディーズで出した「いいことがしたい」というEPは、社会人として感じた違和感や、まさに心の傷を描いた作品だったんですけど、今ふたたび原点回帰というか、「心の傷」をあらためて曲にするということをやってみました。
――第一弾「先に言ってほしかった」は、ファンクやダンスミュージックが得意のマハラージャンとしては異色の、グランジロックっぽい曲調に驚かされました。
2021年にメジャーから出した「セーラ☆ムン太郎」は、ダンスミュージックな感じのものでしたけど、それだけじゃなくて、もっと様々なジャンルの楽曲を届けていきたいという気持ちがあったので。僕は本当にいろんな音楽が好きで、聴いてる側としても同じジャンルを続けると飽きちゃうというか、違うものを聴きたいと思うタイプなので。こだわりすぎずに、「好きであればやる」という感じでやってみました。歌詞は、タイトルだけをたくさん書いたメモを見ていた時に、「先に言ってほしかった」というワードが僕の中に飛び込んできて、すごくかわいそうに思ったというか、「そんなことをメモする人がかわいそうだな」と。
――あはは。自分じゃないですか。
そうなんですけど、僕がというよりは、客観的に「かわいそうだな」と思ってしまって、そのワードに強さを感じたので曲にしました。具体的に何があったのか、当時のことは覚えてないです。「もう作っちゃったのに」とか、「ここまで来たのに開いてないんだ」とか、いろいろあると思うんですけど、でも、作っちゃったのに要らなかったというのがいちばん腹が立ちますね(笑)。たぶんそういうことだったと思います。
マハラージャン
――第二弾「比べてもしょうがない」は、哀愁のディスコチューン。
曲を作って仮歌を入れている時に、♪比べてもしょうがない、って自然と歌い始めていて、そのままタイトルになりました。もともと夜が似合う曲にしようと思っていて、失恋をかかえた夜の寂しさと、タイトルを重ねて作った感じです。「比べてもしょうがない」という言葉にどうやって意味づけするか、曲の雰囲気や自分のやりたいことを考えながら、あとで歌詞をまとめていくという形でした。
――そして第三弾「持たざる者」は。マハラージャンらしい軽快なファンクポップチューンになってます。
まず「持たざる者」というタイトルが決まっていて、ダンスミュージックにすることも決めていたんですけど、タイトルが硬いから、なんとか柔らかくしたいと思っていた時に、別の曲のアイディアで「ジェイソン村田」という言葉があったので。ここに入れたらいい感じになるかな?と思って、それを組み込んで曲にしたということです。
――なるほど。って、理屈はわかりますが、意味がわかりません(笑)。
そうですか(笑)。
――良い意味で言ってます(笑)。ジェイソン村田って誰だ?という、シュールな面白さがあって。
音楽って、意味わかんないけどかっこいいって大事じゃないですか。僕はそう思っていて、意味がありすぎちゃうものよりも、一見「は?」と思うぐらいのものを、歌ならそれでいいと思っているので。でもこの曲でいちばん大事なのは、♪持ってるって信じたら世界は輝いた、のところなので、そこだけが聴く人に伝わればいいんです。踊れる曲なので、踊ってもらえればうれしいですけど、ポジティブなメッセージも込めています。
――なるほど。確かにそうですね。意味わかんないとか言って失礼しました。
いえいえ。僕も、ポジティブなメッセージを込めてる曲はいいなって、これを作りながら思いましたね。ポジティブだから踊れるということもあると思うので。もともと「持たざる者」と言いながらも、「持ってる人」の曲にしたいという思いがありました。自分はまだ何も持ってないけど、持ってると信じる気持ちが大事だなと。そういう曲にしました。
マハラージャン
――聞いてよかった。どうですか、会社員時代を懐古した「心の傷三部作」を出してみて、こういう曲を作ると、心の傷は浄化されていくものですか。
もうだいぶ浄化された状態です。インディーズの頃と、この三部作で、決着をつけたかなと。もう会社員でもないですし。いい意味で変化してきていて、インディーズの「いいことがしたい」から比べると、怨念が薄くなってきています。自分が面白いと思うものをそのまま歌詞に落とし込むことが、どんどんできるようになっているなと思います。
――ちなみに、前に勤めていた会社の人って、マハラージャンが今やってることを知ってるんでしたっけ。
もちろん知ってます。「良かったね」って。
――それはうれしいですね。
やっぱり得意なことを、好きなことを頑張るのは大事なことだなと思いました。それは僕の活動を通して、伝わる人には伝わるだろうなと思ってます。
――素敵です。そしていよいよ、ファーストからおよそ1年振りに登場するセカンドアルバム『正気じゃいられない』。ファーストが自己紹介ならば、セカンドはどういうものがいいのか、イメージはありましたか。
最初は特に何も考えていなかったんですけど…いちばん最初にできたのが「正気じゃいられない」という曲だったんです。僕の大好きなビッグバンドのサウンドなんですけど、なかなかこういうものって作れないと思っていたので、「やってもいいよ」と言ってくれた周りの人たちに感謝です。この曲ができたことによって、ほかの曲が見えた…というか、「なんか行けそうな気がする」と思いました。
――「正気じゃいられない」の音作りは本当に贅沢だなと思います。そしてアルバムのリード曲「その気にさせないで」は、明るくてソウルフルで、すごくポップ。突き抜けてます。
明るい曲はいいなって、「持たざる者」を作ってから思ったところがあったので。こういうポップな、誰でも聴ける曲というか、いい意味で音楽的にディープなところがあまりない曲が作れたのは、成長だと思ってます。この曲はあえてバンド編成をシンプルにして、逆に目立つように作ってます。今まで恋の歌はあまり作ってこなかったんですけど、これに関しては恋の楽しさを歌う曲になってます。
マハラージャン
――もう一つのリード曲が「君の歯ブラシ」。「その気にさせないで」にも歯ブラシというワードが出てくるから、これってひょっとしてつながっているのかな?と。
そうなんです。実はこの2作は連作で、「恋の始まりと終わり」を描いています。2曲ともミュージックビデオが公開されているんですけど、どちらも峯岸みなみさんに出演していただいていて、「その気にさせないで」のほうはすごくかわいいダンスをやってもらって、出会いのシーンがあるんですけど、「君の歯ブラシ」のほうでは二人は別れていて、未練を断ち切るために歯ブラシで便器を磨くというシーンがある。いかがでしょう?
――いやあ、怖いです。怖くて想像したくないです。
僕、やったことあるんです。
――うわあ。マジですか。それはすごい経験。
そういうことをやった自分が忘れられなくて、「いつか歌詞にしよう」と思ってました。
――それは怨念ですね。社会人時代の怨念は消えたけれど、恋愛の怨念はまだありそう。
そうですね(笑)。怨念というのは、音楽にとってはいい材料になると思います。
――深すぎます。この2曲のつながりはヤバいです。
実はその2曲だけではなく、アルバムの頭から全部つながっているんですよ。
――マジですか? え?
「正気じゃいられない」が、「この人、好きかも」という予感で、「鼻の奥に米がいる状態」は、ひとめぼれの状態。「その気にさせないで」と「君と歯ブラシ」で出会いと別れがあって、「比べてもしょうがない」は失恋の悲しみを引きずっている。「エルトン万次郎」以降は、そのあとの気持ちがフラットになった状態の曲で、というつながりが実はあります。作ってるうちに、並び替えていたら「そういうふうにできるな」と。
――すごい! すみません、気づかなかった。
いえいえ。
――まさにアルバムですね。昨今、アルバム全体の物語の流れまで考えて作る人は、少なくなりつつあるので。
そうですね。もともと、タイトルが特徴的というか、文章みたいなタイトルが多いので、つなげて文章にできないかな?と思っていたんです。文章ではないですけど、意味のつながりを持たせられて良かったなと思います。
――ぜひみなさん、飛ばさないで、全曲じっくりとお楽しみください。アルバムのラストを飾る「遠回り」が、またすごくいい曲で、シティポップ風にメロディアスでグルーヴィーで、気持ちいいエンディングになってます。
いちばん最後に「遠回りしていこう」という曲は、最後っぽくていいんじゃないかと思うんですね。曲自体は、大きい声で歌う曲を作りたいと思って、歌詞はあとから曲に合う言葉を考えて書いたので、ほかとはちょっと作り方が違います。この曲だけは正統派の作り方をしていますね。「こういうこともできますよ」と(笑)。
マハラージャン
――いろいろ、布石になってますね。そして限定盤のみ収録のボーナストラックは、なんと山下達郎「BOMBER」を真正面からカバーしてます。
すごく好きな曲で、ライブでやりたいと思っていたんですけど、カバーしておくとライブでやる口実ができるので。演奏は僕一人でやるはずだったんですけど、山下達郎さんの名曲を変な感じにはしたくないので、僕がギターとベースを弾いて、「ドラムとキーボードは入れさせてください」ということで、この編成になりました。ドラムの澤村一平(SANABAGUN.)さんとキーボードのTAIHEI(Suchmos/賽)さんはすごい仲良しで、みんな山下達郎さんが好きなので、3人で楽しみながらできた曲ですね。すごく楽しかったです。
――マハラージャンと達郎さんの音楽との共通性は、あると思いましたね。「君と歯ブラシ」のシティポップ感とかもそうですし。
そうですね。
――このセカンドアルバム、どんなリスナーに届くことを期待してますか。
僕自身が音楽好きで、かっこいいものをすごく求めていたので、そういうものを求めている人に届いてほしいです。高校の頃にできるだけたくさん音楽を聴こうと思って、いろんなものを聴いたんですけど、その中でかっこいいものって何十曲のうちの1曲だったりして、そういう要素を自分なりに詰めたアルバムなので。今はサブスク時代ですけど、出会えないようなジャンルのものもあるなと思っていて、たとえば「正気じゃいられない」みたいなジャンルのものは、普通のポップスを聴いてる人はあんまり出会わないと思うんですよ。そういう人にも聴いてほしいと思います。「こういうものもあるんだ」って、もっと広く、音楽の好きな人に届いたらいいなという気持ちはあります。
――素晴らしいですね。マハラージャンチャンネルですね。いろんなジャンルのかっこいい曲、面白い曲がじゃんじゃん聴ける。
ある意味そうかもしれないです。
――今日はお話を聞けてすごく納得してます。マハラージャンはアーティストであり、同時に様々なジャンルのいい音楽の紹介者でもある。
ありがとうございます。あと、せっかくなのでちょっと、しゃべってもいいですか?
――もちろんどうぞ。
「鼻の奥に米がいる状態」と、「エルトン万次郎」は、いろいろと隠していることがある曲なんです。たとえば「エルトン万次郎」は、エルトンと万次郎の間に何かが隠れていて、それをイマジンすると何かが出てくる仕掛けになってます。今大事なことはやっぱり平和だと思っているんですけど、その中で最強な曲は「イマジン」だと思うんですね。そこにみんなも思いをはせてほしいという裏テーマがあって、気づく人は気づくという、なぞなぞみたいなことをやってます。
――素晴らしいですね。イマジンさせるアーティスト。
全体的に冗談なんですけど、でもやっぱり大事なことを歌いたいという気持ちです。
――マハラージャン、かっこいいです。何も考えずに聴いても楽しくて面白い音楽だけど、こちらがグッと踏み込む距離によって理解度が変わって来る。ほかにもそういう謎や仕掛けがいっぱい仕込まれているアルバムだと思います。みなさん、謎解きも楽しんでいただければと。
ありがとうございます。でも発売からしばらくして、誰も気づかなかったら自分から言います(笑)。
――みなさん気づいてください(笑)。そしてライブがありますね。記念すべき初ワンマン公演「レッツ・ターバン!」、7月22日は東京のLINE CUBE SHIBUYAで、8月5日は大阪の心斎橋BIGCATで。何を見せたいですか。
熱量の高いお客さんが集まってくれると思うので、そのみなさんに楽しんでもらえるものを考えてます。ライブのメンバーはいつもと同じなので、グルーヴもいい感じになっていると思います。インディーズの曲、新しい曲も織り交ぜて、踊れるライブにしたいと思います。いろんな音楽が好きな人にも楽しめると思うので、ぜひ来てほしいです。
取材・文=宮本英夫 撮影=大橋祐希

「その気にさせないで」

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