SION

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【SION インタビュー】
アレンジしてもらった音を聴いて、
“やった!これは面白いぞ”と思った

“ここにこいつと住みたい”って歌う
「Smoky House」が入ったのは良かった

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ところで、今作の全10曲中9曲は2017年以降にリリースしてきた『Naked Tracks』から選んだものですが、「浮世は回る水車」という新曲を書き下ろしていますね。

書き下ろしというか、毎日書いて溜めている曲があるから、そこから選んだんだけどね。

その「浮世は回る水車」の中で《いつからか勝ち負けの/ライバルは俺になった》と歌っていますが、ライバルである自分自身はSIONさんから見ていかがですか?

いやぁ、負けることが多いよね。

多いですか?

志がそこまで高かったわけでもないのに…志が高くなったから今の位置にいるんだけどね。“天下獲るぞ!”ってタイプじゃないし、もともとレコードを1枚出せたら死んでもいいくらいの気持ちだったから、屋根があって、雨風を凌げて、好きな子と一緒にいれて、何とか食っていけたら、もうそれでいいっていうのがずっとあるんですよ。だから、でかいとこに住んで、でかい車に乗ってみたいなのがない。でも、今回のレコーディングが終わって、出来上がったアルバムを聴いた時も思ったんだけど、また次に行くために残すんだよね。“なんでここを遠慮したんだろう?”とか“ここ、もうちょっとこうしておけば良かった”とかってところを。それが同録の醍醐味でもあるし、それは自分で“やったぜ!”って思える曲を書かなきゃ勝てないのに、まだ書けるような気がするんだよ。もうさんざん書いてきたんだけどね。でも、まだそんな気がするよ。

そういう意味ではしぶといと?

しぶといと思う。だって、こんなに好き勝手やってるのにだよ。デビューした時、レコード会社はめちゃめちゃ予算をかけてくれたんですよ。その代わりにキャンペーンに行かされたんだけど、夜は会社の偉い人たちに酒を注がされたりして。当時、地方のキャンペーンに偉い人たちが来ることってあまりなかったし、そんなことさせられて腹が立ったんだろうね。その帰り道に部長に後ろからドロップキックしてさ(笑)。そりゃあ、“SION なんてもうやらない!”ってなるよね。チャンスをピンチに変えるプロなんですよ(笑)。

普通、ピンチをチャンスにですよ(笑)。

何回、チャンスをピンチに変えてきたことか(笑)。なかなかできることじゃない。それにもかかわらず生き延びてるんだから、やっぱり相当しぶといよね。

SIONさんとバンドがまるで対話しているような演奏は同録ならではだと思うのですが、ほとんど一発OKだったそうですね。レコーディングの時、集中力を高める秘訣とかあるんですか?

ブースに入ってヘッドホンして、クリックを使う時も使わない時もあるけど、スッとそこに…“そこに”っていうのは歌詞の中ってことなのかな? レコーディングって不思議なもので、歌詞が手元にあるんだけど、歌詞を読みながらその向こうの景色がいつもより見えて、その間を気持ち良く行ったり来たりしていたっていうのかな? そんな感覚があるんですよ。

アレンジが戻ってきた時、“やった! これは面白いぞ”と思ったとおっしゃっていましたが、びっくりするようなアレンジはありましたか?

「どんな日も眠ってしまうんだな」の間奏のあとのところかな? ピアノが♪タンタタン、タンタタン〜ってリズムになるところがあるんだけど、なぜだかすごく感動したね。ジャズの人だからリズムを倍に刻んでジャズみたいになることもあるだろうと思ったけど、実際に耳にすると心地良いんだよね、カッコ良い〜!って。

「ポンコツを楽しむさ」はドラムとベースだけの演奏で、しかもワンコーラスはドラムだけという。

ピアノを入れる予算がなかったから、なんとかふたりで頑張ってくれたんじゃない?(笑)

そんなことはないとディレクターさんもおっしゃっていますよ(笑)。

それでどこまでドラムで引っ張れるかっていう(笑)。でも、昔は棒でその辺の石を叩いたりしながら歌ってたんだから、俺は何だってできるんだけどね。

では、ドラムだけのところもガイドのメロディーラインは聴かずに?

ないないない。だって、誰も正しいメロディーラインを知らないんだから(笑)。要は俺が“これはこういう歌です”って言えばいい(笑)。

「やるだけやったら」「誰の振り子」のような曲が穏やかさの中にタフな印象も残す全10曲を聴きながら、コロナ禍になってからの2年も含め、この5年間、SIONさんがどんなことを考えていたのかが分かるような気がしました。

2020年からは全員が何回か泣いたと思うし、苦しかったと思うよ。まだ苦しいけどね。

でも、そんな時でも「笑っていくぜ」でSIONさんに《笑っていくぜ キメていくぜ/俺たちはこれからさ》と歌ってもらえると、頑張ろうという気持ちにもなれるんじゃないかと思いながら聴きました。

昔からいちいち“何だ、この野郎!”って思うタイプだったんだけど、まぁ、そんなもんだよ。いろいろな人がいるって考えるようになって、それからまたいちいち頭にくるようになったんだよね。レジで金を投げるような人がいるとさ、“おい、こら! なんで投げるんだ!”って、なんか若い頃よりも腹が立つようになった。だから、「笑っていくぜ」でも《見る物聞く物全部にこの頃やけに/向かっ腹が立つのは》って歌ってるけど、ちょっと気をつけないといけないなって(笑)。でも、頑張ろうって思ってもらえるなら、流行るような音楽じゃないかもしれないけど、何かのきっかけでね、聴いてもらえると嬉しいよね。

今回、選んでもらって嬉しかった曲はありましたか?

「Smoky House」は、もしかしたら俺じゃなくても書けるかもしれない。だけど、2020年はできる歌できる歌が苦しい歌ばかりでさ、“何か明るいことないかな? 俺、子供の頃、何か楽しいことを考えてなかったかな?”って思った時に、“今だったらなんだろ?”と、夢の城を思って出てきた曲なんだ。“ここにこいつと住みたい”って歌うこの曲が入ったのは良かったな。あと、「あの日のまんま」と「どっちを選ぶよ」。ピアノと俺だけのレコーディングがすごくてね。大矢がどんなコネを使ったのか、音響ハウスの一番でかいスタジオでピアノの林くんとふたりだけでレコーディングしたんだけど、それがまぁ気持ち良くてね。

やはり2020年は歌を作ってもやはり苦しいということが多かったのですね?

苦しいというか、悲しいというか、そういう時のほうが曲が生まれやすいっていうことに、ちょっと傷ついたりしたね。“何なんだよ、それを金に換えるのか”みたいなさ。昔、「記憶の島」(1989年3月発表のアルバム『Strange But True』収録曲)って曲で《アリバイの為に 歩きたくもなかった》と歌ったことがあるけど、それは何をしている人にもあると思うよ。でも、まだ続くんだろうし、そして今コロナ禍どころじゃない国があるしね。“屋根と壁があるだけでいいじゃないか。贅沢だぞ”ってくらいに思わないとね。

あと、今回のアルバムの曲は、やはり同じ編成でライヴでも聴いたみたいです。

どこかのタイミングでね、4人でお披露目できたらいいんだけど。ただ、The Cat Scratch Combo(以下、CSC)のツアーがもう決まっているし、きっと野音(毎年恒例の日比谷野外大音楽堂公演)もやると思うし。夏ぐらいにどこか涼しいところで4人が集まれたらいいけど、何せ忙しい人たちだから。

初対面の人は苦手とおっしゃっていましたが、レコーディングを通して3人とは仲良くなったのですか?(笑)

“ライヴやりたいね”って、みんな言ってくれるよ。だから、“俺とやると評判が落ちるよ”と一応言ったんだけどね(笑)。3人ともいい感じの大人で、いい感じの子供で。演奏の引き出しがどんだけあるんだ!?っていう。特にピアノの林くんとは、ふたりでこれまでの歌をやりたいって、さっき言った2曲をやった時に思ったよ。歌が入るタイミングが難しい歌があるんだけど、フッと入っていけた、あの気持ち良さは忘れられないな。俺よりだいぶ若いんだけど、一緒にやれたら楽しいと思う。本当にワクワクするんだよ。それは全体的に言えるんだけど、特にピアノはね。気持ち良かった。俺が勝手に思っているだけだったらいけないけど、すごく合うんだよ。お互いに好きな体温だと思う。彼もきっと楽しかったんじゃないかな? もちろん4人でもまたやりたいし、THE MOGAMI、CSCに加え、また楽しいものが生まれたなって。今回のアルバムが出来上がった時、タイトルぐらいは自分でつけなきゃと思って“これも好き”とGoogle翻訳に入れた…だって“これが好き”にしたら他の連中に悪いでしょ?(笑) そしたら“I like this, too”って出てきたから、もうタイトルはそれでってなりました。

取材:山口智男

アルバム『I like this, too』2022年4月20日発売 BAIDIS/テイチクエンタテインメント
    • TECI-1779
    • ¥3,300(税込)

ライヴ情報

『SION & The Cat Scratch Combo Tour 2022』
6/01(水) 愛知・名古屋CLUB QUATTRO
6/02(木) 大阪・umeda TRAD
6/09(木) 東京・新宿LOFT

※SION & The Cat Scratch Combo
(SION/藤井一彦/清水義将/相澤大樹)

SION プロフィール

シオン:1960年生まれ、山口県出身。85年に自主制作アルバム『新宿の片隅で』で衝撃的にデビューし、86年には『SION』でメジャーデビューを果たす。その独特な歌声、ビジュアル、そして聴き手の心に深く刺さる楽曲の数々は、日本のミュージックシーンにおいて唯一無二の存在。多くのアーティストから敬愛されるミュージシャンズ・ミュージシャンであり、SIONをリスペクトしているミュージシャン、俳優、タレントには枚挙にいとまがない。長年培った充実したライヴパフォーマンスには定評があり、年齢、性別を越えた幅広いファンに支持されている。SION オフィシャルTwitter

「誰の振り子」MV

OKMusic編集部

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