チェリスト・横坂源「みなさんと心と
心のやりとりができれば」 ソロ・リ
サイタル『elegy』インタビュー 

チェロの横坂源が、2021年3月に続いて、2022年3月19日(土)に大阪のザ・シンフォニーホールでリサイタルをひらく。今回のピアノ共演は、2007年の仙台国際音楽コンクール優勝者であり、現在は東京藝術大学で准教授を務める、津田裕也。二人の出会いは、横坂がチェロ部門で第2位に入賞した、2010年のミュンヘン国際音楽コンクールであった。
――今回のリサイタル『elegy エレジー』は、どのような意図でプログラミングをしましたか?
前回(2021年3月)『elegy』を冠した1回目では、ラフマニノフのチェロ・ソナタを最後に、そのほかに小品を並べたプログラムでした。今回はその続編ということで、同じようにソナタ一つと小品でプログラムを作りたいと思い、ショパンのチェロ・ソナタを軸にすることにしました。
――どうしてショパンのチェロ・ソナタを軸にしようと思ったのですか?
最初に共演者とどのような作品を演奏したいのかが頭の中にいつも思い浮かびます。戦友でもある津田(裕也)さんとはメンデルスゾーンやショスタコーヴィッチなど様々な作品をご一緒してきました。素晴らしいお人柄から生み出される音には、美しさと深遠さが感じられ、今回はショパンのチェロ・ソナタをご一緒したいと思いました。
――ショパンのチェロ・ソナタはどういう曲ですか?
チェロ・ソナタは、ショパンの晩年に書いた作品で、全体を孤独な雰囲気が包み、一人では背負いきれない悲しみのようなものを感じます。
ショパンは美しいメロディ・メイカーで、お好きな方も多いと思います。しかし、このソナタの冒頭では、ハーモニーが歪み、衝動的な転調で高揚を繰り返していく様に恐怖すら感じ、内的な闇の深さを感じずにはいられません。一方、第3楽章は短い時間の中に夢のように美しい世界が詰まっています。そして独特のダンスの要素の入ったフィナーレ(第4楽章)。第4楽章のコーダでは、長調の響きの中にシューマン的な悲しさが感じられ、子供の頃の楽しかった思い出が一瞬で駆け巡り全曲を閉じます。全楽章を通じて大きなストーリーが感じられるでしょう。なかでも、第1楽章と第4楽章が大事なポイントとなります。デモーニッシュな曲だと思います。
一方、同じくショパンの「序奏と華麗なるポロネーズ」は、彼がポーランドを出る前の天真爛漫な作品。サロン・コンサート向けに書かれていて、美しい軽やかな曲です。ショパンの晩年のソナタと若い頃の「序奏と華麗なるポロネーズ」を組み合わせることによって、そのコントラストも聴いていただこうと思いました。
――ショパンのチェロ・ソナタを演奏する上で、どういう難しさがありますか?
音の響きのバランスですね。(チェロ・ソナタを5曲書いた)ベートーヴェンの作品とは異なり、ショパンのチェロ・ソナタは、チェロとピアノとのバランスを取るのに難しい部分があります。つまり、チェロが埋もれやすかったり、大事なところでピアノに厚みが出すぎたりと、バランスをイメージするのが難しいところがあるのです。その辺りを津田さんと一緒に話し合いながら、より自然な演奏ができたら​と思っています。
(c)Takashi Okamoto
――そのあとは小品が並べられていますね。まずはフォーレの「蝶々」と「エレジー」。
前回は、小品を散りばめて最後にラフマニノフのソナタに向かっていくという形でしたが、今回は逆で、最初にショパンのソナタをどんと聴いていただいて、そのあとはリラックスして小品を楽しんでいただこうと思っています。ヨーヨー・マやマイスキーが大ホールで小品をたくさん弾いていたように、小さな作品達もお楽しみ頂けたら幸いです。
フォーレの「エレジー」はコンサートのタイトルにもなっていて、今回も演奏します。そしてもう一曲、同じくフォーレでもキャラクターの違う「蝶々」を弾きます。シンプルな作りで、蝶々が飛び回っているような主部と、妖艶な中間部からなる幻想的な作品です。
――そのあと、クライスラーの「愛の悲しみ」、「美しきロスマリン」、チャイコフスキーの「メロディ」など、ヴァイオリンのために書かれた名曲が続きますね。
このコンサートをきっかけに幅広くみなさんにチェロを聴いていただけたらという思いもあり、「これなら知っているわ!」というお客さんもいたらいいなと、ヴァイオリンの有名な小品も選びました。チェロの良い領域に持っていけるかが重要です。「ロンドンデリーの歌」もクライスラーの版を使います。ピアノパートが洒落ていて美しい作品です。
――最後はチェロの世界では有名な、ポッパーの「ハンガリー狂詩曲」ですね。
この曲は、学生(高校生・大学生)の頃はよく弾きましたが、ずいぶん遠ざかっていました。とても久しぶりに演奏させて頂くので楽しみです。これは今回の小品のなかでは核となる作品。技巧的な部分もあり、視覚的にも楽しんでいただけるのではと思っています。
――今回ピアノを弾く津田裕也さんとはいつから共演していますか?
2010年のミュンヘン国際音楽コンクールに出場したときに、伊藤恵さんの紹介で、津田さんと初めて共演しました。ミュンヘンのコンクールではベートーヴェンのチェロ・ソナタ第5番、シューマンの「幻想小曲集」などを弾きました。その後、メンデルスゾーンのソナタなども演奏しています。
――津田さんはどういうピアニストですか?
津田さんのような方を天才というのでしょう。唯一無二の美しい音色と柔軟さがあり、一緒に演奏していると、まるでシルクの細やかな網目のハンモックに横たわるような居心地の良さを感じます。
――大阪のザ・シンフォニーホールでは何度も弾いてられますね。
ザ・シンフォニーホールには、学生の頃からすごくお世話になっています。最近では『三大協奏曲』というコンサートにも毎年のように出演させていただいています。
ザ・シンフォニーホールは素晴らしいホールです。大ホールなのに、お客様との距離が近く感じられ、後ろの席まで音を届かせるための距離感がつかみやすい良さがあります。それから、ホールの雰囲気が柔らかいですね。ホールに丸みや温かさを感じます。なので、心地よく演奏することができる大好きなホールです。また、大阪には熱心なお客様が多く、まるで海外のようで、演奏がお客様に伝わったかどうかが拍手ですぐにわかります。小品を大きなホールで弾く機会があまりないので、今回のコンサートは、自分にとっての勉強であり、挑戦の場でもあります。
――横坂さんの2022年のご予定はいかがですか?
未だに海外からのプレーヤーの来日が難しく、たくさんコンチェルトの代役のお話もいただいています。グルダのチェロ協奏曲や、ヨーヨー・マもために書かれたゴリホフのチェロ協奏曲など普段のレパートリーに無い作品も演奏させて頂く予定です。新しいレパートリーの開拓が今年のすごく大きなテーマですね。
――最後に3月の演奏会に向けて、メッセージをよろしくお願いいたします。
コンサートには、聴衆、作曲家、演奏者が集結し、人と人とが関わりあうことで心の豊かさを得ることのできる素晴らしい場所です。現在のような状況の中でも、このような機会を頂けることに心から感謝し、大阪の皆様と音楽の魅力を分かち合えることを楽しみにしています。
(c)Takashi Okamoto
取材・文=山田治生

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