UNISON SQUARE GARDEN、『Patrick V
egee』のツアー完遂 「これだけ楽し
いものを手放すわけにはいかない」

UNISON SQUARE GARDEN TOUR 2021-2022 「Patrick Vegee」

2022.1.26 東京ガーデンシアター
「リリースから1年以上待たせてしまって申し訳ない気持ちももちろんあるけど、その分、何回も聴いてしっくりくる曲になっているんじゃないかと思います。が、今日はそのイメージを全部ぶっ壊したいと思っています」
2020年9月にリリースされた8thアルバム『Patrick Vegee』のツアーが1年以上を経て実現した。感染症対策ガイドラインを守りながら、2020年以降もツアーを積極的に行ってきたUNISON SQUARE GARDEN。その活動からは“やれる方法があるなら、普通にライブやるっしょ”、“だってロックバンドだし”といった姿勢が伝わってきたが、とはいえ会場に来るのが難しい人も多くいる現状を鑑みて、アルバムのツアーはすぐには行われなかった。冒頭で引用した斎藤宏介(Vo/Gt)のMCは、そんな背景から出てきた発言である。なお、その間に行われていたのは『USG 2020“LIVE(on the)SEAT”』や『Revival Tour "Spring Spring Spring”』、『Revival Tour “CIDER ROAD”』など新しいコンセプトのツアー。実践を重ねつつ、変化し続ける現状を見つつ、今ツアー実現のタイミングを窺っていたのだろう。
7thアルバム『MODE MOOD MODE』(2018年)、そして結成15周年(2019年)を経てリリースされた『Patrick Vegee』。このアルバムの性質、およびツアーで注目すべきポイントを個人の主観から述べるとすれば、
・ポップに開けた前作に対し、ストリングスやブラスもほとんど入れず、この3人で鳴らす音や生のアイデアにフォーカスしたアルバムである
・ゆえにサウンドの質感は生々しいが、読後感としては温かみがあり、そこに“アニバーサリー以降”の空気が感じられた
・ある曲の歌詞の最後のフレーズが次の曲のタイトルに繋がっている(例:<ジョークってことにしといて。>という歌詞で終わる「夏影テールライト」の次に「Phantom Joke」を配置)など、“アルバムは曲順通りに聴くのが最高では?”という提案として、より分かりやすい工夫が取り入れられている
・とはいえ、アルバム同様ライブの曲順にもこだわっていて、2つを別物と考えて組み立てていくタイプの彼らが、ツアーでも全く同じ曲順で演奏するとはこれまでの傾向からしても考えにくい
・では、ライブではどこをどう変えて、物語を構成していくのか
・また、唯一ストリングスが入っている「春が来てぼくら」やライブでは同期が必要な既存曲、そして「Simple Simple Anecdote」や「101回目のプロローグ」など温かい言葉が詰まった曲がどこに配置されるのか
といった感じだろうか。これらを踏まえてツアーファイナルを振り返りたい。
まず、1曲目は「Simple Simple Anecdote」だった。6th~7thアルバムではアルバムの1曲目=ツアーの1曲目だったため、「Hatch I need」が来ると思いきや……。意表をつく選曲だ。しかもライブならではのアレンジとして、斎藤がギターを弾きながら、サビから歌い始めるオープニング。『Patrick Vegee』は“コロナ禍を受けて”といったテンションが全く感じられないアルバムだった。しかし、バンドとリスナーがいざ対面した今、聴く人の気持ちをふっと軽くさせてくれる言葉が何よりも先に届けられたこと、そこに意味を感じずにはいられなかった。歌のみで伝えた冒頭を経て、肩肘張らないシャッフルビートが観客の身体を解していく。
斎藤が一言「ようこそ!」と告げると、田淵智也(Ba)のベースリフ、そしてクレッシェンドしていく前奏から「Hatch I need」へ。その後、斎藤がすぐに「マーメイドスキャンダラス」を唄い始めるのはアルバムを踏襲した流れだが、さらにその後、「Invisible Sensation」を唄い始めるのが今ツアーならではのポイント。曲間0秒で2曲連続演奏するところを3曲連続に変えることで、音源にあった良さを損なわないようにするどころかその上を狙っていくなんてズルい。3人が同じフレージングで動いてからの開放感溢れるイントロに、客席のテンションもぶち上がる。
「UNISON SQUARE GARDENです!」とシンプルに挨拶した斎藤は、イヤモニを外して拍手を聞き、頭を下げる。冒頭に引用した発言があったのはこのタイミングだが、その直後に演奏された「フライデイノベルス」は<君を待ってる時間>が長く続いた今ツアーの背景と奇しくもリンクしていて、不意打ちでグッときた。その後は1stアルバム収録の「カラクリカルカレ」から、最新曲の「Nihil Pip Viper」へ。「Nihil Pip Viper」のサビのドラムは他曲に比べてシンプルだが、シンプルだからこそ鈴木貴雄(Dr)の“一音入魂”ぶりが感じられる。そして、その音圧、初速の速さ、音符一つひとつの芯を射貫く感じを保ったまま、途中ツービートに変わるアウトロ、そして次曲「Dizzy Trickster」イントロの怒涛のドラミングへと向かっていく様が凄まじい。ドカーンとコードを鳴らす斎藤と田淵は満面の笑顔。斎藤が大きく息を吸ってから唄うラストフレーズ、<この高揚感は誰にも奪えない>は今日も私たちの心を代弁してくれているようだった。
暗転の緊張感の下、静かに始まったのは「摂食ビジランテ」。静寂と激動を行き来する演奏に対し、“その時演奏している人にだけ赤いピンスポットが当たる”という照明演出も印象的で、重心の低いバンドサウンドは続く「夜が揺れている」でさらに勢いを増していった(特に「夜が揺れている」のドラムはしばらく忘れられそうにないくらいすごかった)。そしてベースラインが導く「夏影テールライト」で一気に空気が明るくなる流れ。1曲挟んでアルバム通りの曲順に戻った形だが、「夜が揺れている」と「夏影テールライト」には“夏の花火”という共通のモチーフが登場していて、この並びからは、曲と曲を言葉で繋いでいったアルバム構成に通ずる遊び心を感じた。
バンドサウンドと同期による壮大なオーケストラが一体となる様が美しい「オーケストラを観にいこう」は『MODE MOOD MODE』ツアーで一つの山場となった曲だが、同じ手は二度も使わない。直後、幸福な余韻をぶった切るように「Phantom Joke」が鳴らされ、“ポップな『MODE MOOD MODE』を経ての揺り戻しとしての『Patrick Vegee』”というのがここでも体現された。あまりに豪快かつ痛快なひっくり返しっぷり。鈴木がドラムを叩きまくり、斎藤もギターを掻き鳴らしまくる中、田淵が両手を大きく広げていた。“どうだ、ざまあみろ”と言わんばかりに。
鈴木が一人ステージに残り、8分の6拍子の、テクだけではなく歌心も感じられるドラムソロを披露。斎藤と田淵が戻ってくると、強烈なロールを機にセッションに入り、それぞれのソロを経て、「1!」「2!」と鈴木がシャウトする数字に応じてキメを鳴らしていく。変則的なそのキメがどうやら聴き覚えのある感じに変わってきたぞというタイミングで「世界はファンシー」に突入。複雑に聞こえるがハッとするほど静かになる瞬間もある曲で、削ぎ落とし、研ぎ澄まし、無二になっていったユニゾン17年の現在地を示す。
田淵がモニターに足をかけながらベースをガシガシと鳴らす「スロウカーヴは打てない (that made me crazy)」は、音色含め遊びまくっている間奏のギターも聴きどころ。リバイバルツアーを挟んだからか、わりと久々に感じられた「天国と地獄」、「シュガーソングとビターステップ」までを終えて客席から拍手が起こると、斎藤はやはりイヤモニを外して観客のリアクションを聞いていた。本編ラストは、アルバムの最終曲でもある「101回目のプロローグ」。伴奏がなくなり歌のみになる箇所では、斎藤がマイクを右に逸らし、心からの歌を直接届ける。〈世界が七色になる!〉という歌詞に合わせて場内を七色に染める照明演出も相まって、感動的なラストとなった。
ツアーファイナルも終わりに近づき、「“嬉しい”と“ホッとしてる”が混ざりあった気持ち」と斎藤。そして「絶対に(ライブを)やっちゃダメと言われたら“うるせえ!”と言ってまでやるつもりはないけど、ルールを守りながらでも楽しいものができると知っているから。これだけ楽しいものを手放すわけにはいかない」といった想いを明かしつつ、今回会場に来られなかった人も含め、気が向いた時にフラッと来たライブが楽しいものであればいいし、そのために自分たちは当たり前にライブを続けたいと語ったのだった。そんなMCもあったアンコールのラストには「春が来てぼくら」を演奏。唄われる歌詞どれもが今日に重なるように感じていると、斎藤が<これまでの大切が続くように、なんて>という言葉にグッと息を吹き込んだ。
会場全体が明るくなり、先ほど「ライブの楽しさはライブでしか埋められないからね」という斎藤の言葉に共感の拍手を送った観客たちも照らされる。世界がどんなに変わっても、変わらず、ただただロックバンドであろうとする彼らの音楽に心を高鳴らせている今この瞬間。それこそが私たちにとっての“何度目かの木漏れ日の中”であり、“追い風”でも進める理由、そして信じていたい“未来”だ。演奏を終え、顔を上げたメンバーは晴れやかな表情。あの時私たちは、違う瞳で同じ春を見ていた気がする。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着