「嵐には理想的な人間関係がある」明
治大学の名物講師がグループの魅力を
語る

SMAP、グループとしての違いは?

――関さんが嵐に興味を持ったきっかけを教えて下さい。

関:きっかけは『ひみつの嵐ちゃん!』です。今までと雰囲気が違う番組で、面白いコーナーがいろいろとあり、特に僕は「マネキンファイブ」というコーナーが好きでした。5人がテーマごとに自分のファッションを披露するコーナーでして、彼らのいいところは芸能人的な服装じゃないことなんですよね。5人がそれぞれ個性を出して、普通の男の子がデートに着ていくような服を自分なりのセンスで選ぶんです。それを観ていて「この人達は今までのジャニーズやアイドルというものとは少し違うな」と思って好感を持ちました。テレビドラマなどではときどき嵐を見ていましたが、グループとしての5人を意識して見るようになったきっかけはあの番組です。

――本書では嵐のブレイクの最大の理由を「バーチャルな最良の隣人であるから」としています。これはどういう意味でしょう。

関:ジャニーズのファンはすごくパイが大きいですが、SMAPは別として、基本的には女性の一定の年齢層が大きなファン層です。しかし嵐はそこに収まらず、本当に老若男女に好かれています。その理由は、恐らく圧倒的にテレビで観る機会が多いからだと思います。テレビCMには数多く出演しているし、バラエティでは相葉くんが、MC番組では櫻井くんが、というようにメンバーの誰かがいつも活躍していて、視聴者は自然に嵐と接することになります。ジャニーズファンか否かに関係なく、一般の人が身近なものとして嵐を感じられることが嵐の凄いところです。世情的に見て、都会の独居老人や過疎化が進んでいますが、そういう人達にとってはテレビというツールがすごく重要です。テレビをつけると必ず嵐の誰かが映っている、という状況は、彼らにとって心のやすらぎになっているような気がします。

ーー嵐が出演するCMの内容にも、親しみやすさを抱かせる要因があると、本書では指摘しています。

関:彼らは電化製品やビールなど、私たちが日常的に使うもののCMに出演しており、それが親しみやすさに繋がっていると考えられます。例えばビールのCMであれば、普段はジャニーズの番組を観ない父親層の認知度が上がります。そうなると、嵐が家族共通の話題として機能する、ということも増えるでしょう。実際、嵐をCMに起用する企業にはJALや日産など、家族で利用するサービスを提供しているところが目立ちます。従来のアイドルは、カリスマティックなイメージが先行していましたが、嵐の場合は同じ目線で行くところに皆が親しみを感じて、人気が高まったのではないでしょうか。

――親しみやすさという意味ではSMAPも、カジュアルダウンして成功した例と言われています。SMAPと嵐の違いについて、改めて教えてください。

関:SMAPの場合は、親しみやすさを抱かせる中居くん、香取くん、草彅くんら「バラエティ班」と、伝統的なアイドル感を保つキムタク、稲垣くんら「ドラマ班」のコントラストが魅力となっていると思います。一方、嵐の場合は、少なくともキムタクたちに当たる伝統的なアイドル像はあまり見られませんし、中居くんほど庶民的なわけでもありません。つまり「庶民対セレブ」という対立項のコントラストの面白さではなくて、むしろ「普通」なんだと思うんです。しかし、普通の人も皆同じなわけではなく、いろいろな人がいてそれぞれの個性がありますよね。嵐はそのひとつの典型のようなもので、SMAPのような分類もなく5人はそれぞれバラバラですが、それでトータルな嵐でもあります。そういった関係性を象徴するのが『紅白歌合戦』の司会で、SMAPの場合は中居くんが1人で務めましたが、嵐は全員でやりました。そこがパブリックイメージの違いだと思います。実際、紅白の歴史の中でもグループで司会をしたのは嵐だけですし、逆に嵐のメンバーが一人で紅白の司会を務めるというのは、しっくりこないのではないかと思います。嵐はあまりにも「普通」なので、なかなか気付きにくいところではあるのですが、そういった意味で今までのアイドルの既成観念を打ち破っているんです。

――たしかに嵐は「普通」な印象が強くて、いつの間にかブレイクしていた感じがします。

関:そこが嵐の嵐たる所以です。嵐がデビューしたのは、光GENJIも終わってジャニーズ人気が落ち着き、安室奈美恵さんなどが出てきた頃です。彼らの作品を見ていると、デビュー作は伝統的なジャニーズ系ですが、その後、DA PUMPなどのようなブラック系の要素を取り入れた作品を出したりしています。すごく試行錯誤している様が見えますね。伝統的なジャニーズアイドル路線を極めたのが『Happiness』あたりで、もう少し成熟した、隣人的な路線――つまりは現在の嵐のスタイルが完成したのは『truth』のあたりからだと思います。それ以降の曲は非常にうまくできていて、パート分けが均等になっていたり、必ず全員がきちんと前に出るようになっています。そのように成熟して、いわゆるアイドルっぽさを抑えた良質なポップスを提供できるようになったことで、ジャニーズに関心の低いリスナーにも届くアーティストになったのではないでしょうか。

■嵐メンバーの関係性を精神分析学で分析

――本書では、フランスの精神分析家、ジャック・ラカンが提示した「四つのディスクールと資本のディスクール」という“言説のネットワーク”を使って、嵐メンバーの関係性を読み解いています。関さんが考えるメンバーそれぞれの特徴を改めて教えてください。

関:まず櫻井くんについては、僕は「大学のディスクール」と位置付けています。彼は物事を理路整然と考えるタイプで、嵐においては5人の個性をうまく引き出す“言葉”を紡いでいる人だと思います。彼はキャスターもやっているし、性格的にも真実というものに対して几帳面な人らしいです。きちんと物事を考え、きちんと伝えるという意識が強いので、逆に言えばそのように物事を差配することもできます。いわば、言葉を使って5人の個性の秩序を作り出す基底になっている人ではないかと。例えばMCをするときに、他のメンバーのことも考えながら話を回していけるのが、彼の特徴かと思います。

――相葉くんについては、櫻井くんと同じように「語る人」と位置付けながらも、話す内容は対照的だと指摘しています。

関:相葉くんは、櫻井くんとは違って予測不可能な語りが特徴です。それは精神分析学のカウンセリングにも似ていて、カウンセラーからすると患者の言葉は予測できないものなんですね。しかしながら、そこには人間の心の豊かさもあります。だから相葉くんを「精神分析のディスクール」と位置付けました。その場に新しいものが必要なときは、知識の積み重ねとは異なるアプローチが大切で、相葉くんの言葉にはそれがあります。それによって皆が新しいことに気付きます。知識の積み重ねとクリエイティブなものは両方必要で、その言説の両翼を担っているのが、櫻井くんと相葉くんというイメージですね。

――では、松本くんと二宮くんはどういう役割でしょう。

関:櫻井くんと相葉くんが「語る人」であるのに対し、松本くんと二宮くんは「演技」に重きをおいた役割を担っています。まず松本くんは「主のディスクール」と位置付けました。松本くんは5人の中では一番カリスマ性を持っていて、主役的な立ち位置がしっくりくる人です。『VS嵐』などでは、メンバーが最後に松本くんに意見を聞くシーンがよく見られますが、これは彼が最終的な決定権を持っている「主」であることの現れでしょう。また、ドラマなどでも主役がよく似合うタイプで、逆にいうと、申し訳ないですが目立ちすぎて主役以外はあまりできないのではないかとも思います。一方、二宮くんはそれとは対照的で、あらゆる役柄を演じわけることができるタイプ。周りを活かすタイプとでも言いましょうか。たとえばドラマ『Stand Up!!』では、二宮くんが主役でしたが、その際もヤマピーや小栗旬さんといった他の役者を引き立てていました。精神分析学では、ヒステリーという病は「無意識の演技」であるとされています。演技には「観る者に演技と悟られず、また、意識的に演じてもいけない」という教訓がありますが、あらゆる役柄に馴染む彼の演技は、そんな「無意識の演技」に通じるものがあるのではないでしょうか。そこで彼のことは「ヒステリーのディスクール」と位置付けました。ヒステリーというとネガティブなイメージがありますが、その病は社会的に抑圧されていた女性や子どもの欲求不満が引き起こすものであるということが後に知られ、女性の地位の向上やさまざまな解放運動にも繋がりました。つまり、世の中のバランスを取ることにも繋がったということです。そういった意味でも、全体のバランスを取るのに秀でた二宮くんの役割と通じるものがあるかと思います。

――4人が相互に作用しあって嵐の関係性が成り立っていると。 リーダーの大野くんはどうでしょう。

関:大野くんは「資本のディスクール」で、4人にとって「+α」の存在にあたります。パッとみた感じは「4つのディスクール」が表現全般を担っていて、大野くんの役割は不明瞭に思えます。しかしながら、彼がリーダーであることはメンバーみんなが知っている。4人が相互作用している後ろで、大野くんが見ているという構図がわかりやすいでしょうか。実際に彼は、デビュー当時から他のメンバーより年上で、独特のポジションを担ってきました。歌やダンスのスキルが非常に高いだけではなく、芸術的な才覚も持ち合わせているにも関わらず、なぜかグループの中で突出して目立つわけではない。普通、それだけの能力があれば、その威光を使ってメンバーをコントロールするのが通常のやり方ですが、大野くんはあえてそれをしません。決して能力を誇示することなく、しかしその存在感でメンバーを統率するというか。こういうと語弊があるかもしれませんが、精神分析学でフロイトが言うところの「不気味なもの」に相当するポジションで、ミステリアスな魅力を放っています。実際、彼はドラマでも普通の存在ではない役柄が多いです。『死神くん』などはハマり役で、彼は死神として生きている人の背後にいて、その人生の終焉を見ている。この「いないように思えて、実はすべてを統率している」というのが、大野くんのリーダーとしてのあり方なんだと思います。

――なるほど。いったいなぜ我々は彼らの関係性に惹かれるのでしょうね?

関:テレビで彼らが会話しているのを聞くと、私たちの日常的な会話の延長線のように感じます。「芸能人が我々と違う特殊な世界の会話をしている」と感じることもテレビの魅力ではありますが、嵐の5人の会話は、我々が友達と普通に会話しているのとあまり変わりません。しかしその中で、メンバーがお互いの個性をよくわかっていて「ここで相葉くんに振ってみよう」という感じで話がどんどん進んでいきます。5人のディスクールがうまく作用しあっているんですね。そこに、我々はある種の理想の人間関係を見るのではないでしょうか。今の世の中は、友達や同僚など、身近で日常的な人間関係がうまく形成できないところがあるように思います。だからこそ、自分たちと同じレベルでありながら、たがいにリスペクトしつつ言いたいことが言える彼らの関係に、好感を抱いてしまうのだと思います。(松田広宣)

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