40年目を迎えるブロードウェイミュー
ジカル『ピーターパン』が大幅リニュ
ーアル! 続投の吉柳咲良、新フック
船長・松平健、そして、新演出・森新
太郎に訊く

1981年の初演から毎年上演され、世代を超えて愛されてきたブロードウェイミュージカル『ピーターパン』。40年目を迎える今年、主演のピーターパン役は、第41回ホリプロタレントスカウトキャラバンのグランプリを受賞し、17年から10代目ピーターパンとして演ずる吉柳咲良が続投するが、フック船長役(ダーリング氏役)として松平健が初めて出演する。そして、演出は、新たに森新太郎を迎えることになった。
2020年8月2日(日)〜12日(水)に東京建物Brillia HALL(東京都豊島区)で行われる東京公演は、同作品ではおよそ20年ぶりとなる生オーケストラでの上演だという。節目の年に“大リニューアル”が予想される『ピーターパン』。どんな作品になるのか、吉柳、松平、そして演出の森に話を聞いた。
思いっきりアナログな『ピーターパン』に帰りたい
−−硬派なストレートプレイを中心に演出されてきた森さんが『ピーターパン』の演出ということで大変に驚きましたが、今どんな構想を抱いていらっしゃるのでしょうか。
森:ワクワクする構想がいろいろあるのですが、まずは思いっきり“アナログ”な方に帰っていきたいと思っています。いまの我々ってCGとかにあまりに慣れてしまっているので、ファンタジーなことを描くとなるとそういう映像表現の方に行きがちですが、やはりお芝居の世界というのは、もっと“アナログ”で粗っぽいところがたくさんあった方がいいと思うのです。特に今回の場合、子供の“ごっこ遊び”の延長として作った方がいいんじゃないかな、とさえ思っていて。というのは、そもそも原作者のバリ(※ジェームズ・M・バリ)は子供たちと公園で戯れながら“ごっこ遊び”の中で生まれたお話を『ピーターパン』に取り入れていったんですよ。その感覚を我々も大事にしなくちゃいけないんじゃないかなと。つまり、本当の意味でのネバーランドの造形ですよね。どこにもない国という設定なので、ある意味なんでもありなんですけど、こちらが全部しつらえてしまうのではなくて、半分以上を劇場にいる子供たちの想像力で補ってもらうような…例えば、無地の布一枚で森を出現させられるかどうか、海を出現させられるかどうか、とかそういう世界だと思うんですよ。
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』チラシビジュアル
潤色はフジノサツコさんが担当してくださるので、彼女がどこまで書き込むか未知ではありますが…たとえ動物や妖精がたくさん出てきても、パペットみたいなアナログな方法を駆使して、その時に操っている黒子の人間が堂々と見えてもいいんじゃないかな。そこは“ごっこ遊び”の延長なので。「後ろで操っている人間いるじゃん」と思いながらも、いつの間にか、それが人形じゃなくて生きているもののように見えてくるはずです。だってそもそも、空を飛ぶ表現をワイヤーでやるというのも、バリの時代には最先端の技術なんですよ? でも今の子供たちだったら、あれワイヤーで吊るしているだけじゃんって、簡単に思うと思う(笑)。少なくとも僕が子供だったら、そう思いますね。
ーーえっと...ピーターパンが飛ばない、ということではないですよね?(笑)
森:飛びます。そこはあえて飛ばしたいですね、『ピーターパン』だもの。でもワイヤーが“見えていないことにすること”は、やっぱりちょっと難しいんじゃないかな…要は作り手側としてそんなお約束ごとに安住してはいけないと思うんですよ。俳優の熱量、そして演出的な工夫をありったけ投入することによって、いつしか自然に目の前からワイヤーの存在が消え失せてしまうような、そういう演劇ならではのマジックを目指したいんですよね。言うは易く行うは難しだと思いつつも、それが今回の大きな野望です。
フック船長に松平健。「盲点過ぎたが、これ以外考えられない」
ーーそして、キャスティングに関してですが、フック船長に松平健さん。これまた驚きでした。
森:フック船長って、愛嬌が一番ないといけないキャラクターなんじゃないかなと思うんです。悪党として描かれるので、ひたすら恐ろしい人物として造形するパターンもあると思うんですけど、でも実は一番みんなに愛されるべきはフック船長なんじゃないかなと。結局はピーターパンにやられちゃうんだけども、この人が一番自分の生き方に誇りを持っているというか、この人にはこの人なりの信念があって、それをちゃんと貫いている。この馬鹿正直さが、フック船長の魅力だと思いますね。
だから今回、衣裳に関しても、映画の『パイレーツ・オブ・カリビアン』みたいに豪華でかっこいいもののではなく、プランナーの西原さん(※西原梨恵)には、基本的に貧乏!とオーダーしました(笑)。だからこそ頑張っている、貴族みたいになろうとしている。そっちの方が滑稽味がでるし、ちょっと情けないぐらいの方が親しみが湧いて、いいんじゃないかなという気がして。
松平健
愛嬌という点では、松平さんは正直いうと、盲点過ぎて(笑)。でも、言われてみれば松平さんでしょ? 1回そう思っちゃったら、もうそれ以外のキャスティングは考えられなくなってしまって。直談判してでも、これは実現させなきゃいけないと思いました。それでやってくださるという話になって、本当にもう嬉しい限りです。ビジュアル撮影のときには、松平さんの方から「ブルーのシャドウ入れたらどう?」という提案がありまして、もちろん大賛成ですよ(笑)。芝居がかっていて、面白いじゃないですか。僕はかなり松平さんと通じ合えるのではないかなと、今からそんな予感がしています(笑)。
ーー松平さんはいかがでしょうか。
松平:森さんがおっしゃったように、個性あふれる、みんなから愛されるような、そんな人物がいいかなと思います。自分がやっていること、真面目にやっていることが笑われるみたいな、ね。
森:もうすでにね、この扮装だけで、笑えますよね(笑)。
ーー実際に、フック船長のお話があった時はどう思われましたか。
松平:大人にも楽しんでいただけるものにしたいんだというお話を(森さんの方から)いただいたので。我々も『ピーターパン』を見て、楽しめたらいいなと思いますよね。いわゆる、家族だけが楽しむんじゃなくて、大人もやっぱりウキウキするようなね。そんなものになればと思います。
ーー先ほどビジュアル撮影の時に、ブルーのシャドウをご提案されたというお話もありましたが、実際にフック船長の服を着られてみてどうですか。
松平:うん、バッチリ(笑)。昔の外国の俳優さんのプログラムを見ると、結構シャドウが青かったりするんですよ。
松平健
ーー演じることが決まってから資料を見たり、いろいろご覧になられたわけですか。
松平:昔よく見ていましたのでね。そういうところから思い出して、アイディアを得ました。
ーーフック船長を自分が演じるということにあたって、どんなイメージを今膨らませていらっしゃいますか。
松平:今?...大暴れしたいなと思っています(笑)
森:いや、本気でやられたら、もう殺陣ついていけないよ!吉柳!(笑)
吉柳咲良、4年目のピーターパン。「また新しく1からつくる」
ーーピーターパン役は、吉柳咲良さんが続投されます。
 
森:なにしろ僕と松平さんは(『ピーターパン』に関して)1年生ですからね。吉柳は3年やっていますから、大先輩です。...と今のうちに言っておきますが(笑)。たぶん歳をとってからの方が、つまり、大人になってからの方が少年役ってうまく演じられると思うんですよね。実年齢が近いと、気恥ずかしくてちょっと拒否感が出てしまうというか。現在の彼女の方が客観的に幼い者の心理や動きを捉えられるんじゃないかという気がします。...と言ってもまだまだ若いんだけど(笑)、ピーターパンの年齢を離れていけばいくほど、かえってのびのびと自由に演じられるはずです。もちろん、僕は僕で、遠慮なしにしごいていこうと思っていますが(笑)。
ーー今のお話を受けて、どうでしょうか。
吉柳:もう覚悟は出来ています。私はピーターパンという少年の役を3年間演じてきたとはいえ、これまでは実年齢に近いから、ありのままでぶつかっていけば大丈夫だろうという保険を自分にかけていた部分がありました。今年ピーターパンを演じるときには高校1年生になるので。より客観的に、多分13歳の時とは違う見方ができると思うので、新しく1から作っていけたらいいなと思います。
吉柳咲良
ーー森さんは、しごくと仰っていましたが...?
吉柳:はい、それはもう覚悟しています。頑張りたいと思います。
ーー森さんがおっしゃるように、実年齢が近いからこその演じにくさはありましたか。
吉柳:演じやすいように見えて、今の自分とほぼ変わらないから、普段やっていることと何が違うんだろう?という感じはありましたね。お芝居として考えるのは難しかったです。今は、ピーターパンのことを、客観的に子どもという目で見られるようになったと思います。
ーー吉柳さんと松平さんは今日初めてお会いになられたそうですね。
森:吉柳、今、すごく頑張っています。さっき宣伝用のビデオを撮っていたんですけど、松平さんとあの至近距離で睨み合っていました。僕には無理です(笑)。
吉柳:緊張します。松平さんの迫力がすごいんです。剣を向けるのが怖かったです。でも、ピーターとしては負けていられないので、震えながらも、頑張りたいと思います。
松平:強そうに見えて、そんなに僕は強くないんで。そんなに恐れることはないですよ(笑)。
ーー吉柳さんは『デスノート THE MUSICAL』で弥海砂役を演じられるなどして、経験を積んでいらっしゃいます。自分の中でも自信になっているのではないですか?
吉柳:そうですね。歌い方を『デスノート』で一気に変えて、声の幅や自分が出せる音域も分かってきたので、自信になりました。けれど、ピーターパンとは性別から何から全部違う役なので...『デスノート』は『デスノート』でやり遂げて、夏からはまた男の子に戻りたいと思います(笑)。
吉柳咲良
ーー松平さんは、高校1年生と共演することはなかなかないと思うのですが、どんなことを期待していらっしゃいますか?
松平:そうですね...(吉柳さんは)3年もやっているので、この世界をよく知っておられる。どういう風にやってくれるか。楽しみにしています。
『ピーターパン』というファンタジーを、素朴な演劇体験として 
ーー森さんは『ピーターパン』の演出を担当するお話の前から『ピーターパン』はご覧になっていたのでしょうか?
 
森:1回観ましたね。…僕ね、演出の依頼がないので、悔し紛れによくうそぶいていたんです。「一度でいいから『ピーターパン』を俺にやらせてみな?」って。そうしたら言い続けてみるもので、ある日本当に「やりますか?」と来て(笑)。いざやるとなったら、あまり偉そうに大口叩けないんですけどね...。
でも意外と、昔から『ピーターパン』とか、こういうファンタジーが好きなんですよ。母親によく人形劇とか連れて行かれたので、その影響かもしれません。明らかに嘘っこの世界だけれども、それに夢中になって没入していくという感覚が僕は好きだったから、今の子どもたちにもああいった素朴な演劇体験を味わわせてあげたいなという気がしているんです。
ーーこれまでの演出されてきた作品とはまた違う印象だったのですが、意外と原風景はこちらにあるんですね。
森:そうなんです。だからあまり抵抗はないんですよ。むしろ、今はワクワクしかないぐらいの感じですね。ホリプロさんも今回40年目の記念ということで、あなたの好き勝手やっていいということだったので(笑)、はい、やっていきたいですね。
左から 吉柳咲良、松平健
ーーミュージカルの演出は『パレード』をやられていましたね。
森:『パレード』のおかげは大きいと思います。『パレード』を演出していなかったら、もうちょっとミュージカルを怖がっていたかもしれないんですけど、『パレード』で1度経験したので、ある程度現場の感覚はわかります。あの時はスタッフとキャストに本当に恵まれて…感謝してもし尽くせないです。
ーーやはり、ストレートプレイとミュージカルは違うものですか。
森:全然違う!素晴らしい曲、素晴らしい歌が常にあるというのは、ストレートプレイとまるで違いますよ。毎回そこを頼れる、そこを信じられるのはすごく心強いですよね。ストレートプレイはそれがないから、失敗する日はとことん失敗する(笑)。『ピーターパン』なんて素敵なナンバーの宝庫ですからね、演出家にとっては幸運以外のなにものでもないですよ。...でもまだミュージカルに馴染めていないところもある。発声なんかでも、僕は平気に「もっと叫んで!」とか言っちゃうタイプ。俳優さんは心の中で、「いや、喉を痛めるわけにはいかないから」と文句たらたらだと思うんですけどね。まあ、今回もなにかと問題になるんじゃないかな(笑)。
吉柳:頑張ります。きちんとケアをしながら(笑)。
森:発声もさることながら、吉柳にはとにかく動いてもらうことになると思いますね。こんな活きのいいパワフルな奴はいないというぐらいの男の子を演じてもらわないと。等身大でやられたのでは物足りない。爪の先、髪の先にまで生気を漲らせて、観る者すべての心をしびれさせてほしい。
ーーフック船長に関してはどういうところを大切にしてほしいと思っていらっしゃいますか。
森:松平さんのフックは、もう畏れ多くて...(笑)。パワフルなのは大事だと思います。この芝居で一番面白い二人が対決するわけだから。フックは頭の悪い子分をたくさん引き連れているわけでしょ?その中で一番頭悪くないといけない。ピーターとフック船長の二人に共通している点は、力を抜かず、フルでやらないといけないこと。子どもどころか大人を引き込まないといけないから、単純にエネルギーはないといけないのかなと思います。...でもそれは松平さんに言わなくても、松平さんはすごいですから。もういるだけですごいじゃないですか(笑)。
松平:そうですね。ファンタジーの中ですから。悪い人とはいえ、愛嬌のある、夢の中の人でいたいなと思います。
左から 吉柳咲良、松平健
ーー「愛嬌」をどんな風に出されるのか、楽しみです。
 
松平:それは台本を見せてもらって、どこで出すか考えたいと思います。ピシッと決めるんだけれども、それが笑えるといかね、自分だけ格好いいと思っているとかね。
森:そうそう、こないだ松平さんとお話した時に、「俺はどんな登場をするんですか」と聞かれて。「もう神輿乗っています」と答えました(笑)。頭の悪い家来たちがみんなでわっしょいわっしょい、それぐらいのイメージですと。もしかしたら何回か神輿から落ちるかもしれないし。まぁ、わからないけれど(笑)。
ーーでは、いろいろとお話を伺いましたが、最後に改めて意気込みをお願いします。
森:なんといってもファンタジーですから、一番肝心なことは、見ていて、ずっとハラハラドキドキが続くことじゃないかなと思いますね。伝統ある作品なので、これまでもいろいろな趣向が凝らされてきたと思うんですけれど、私は私なりにいろいろ企んでおりますので、皆さんが今まで見たことのないような『ピーターパン』になることは間違いありません。従来の『ピーターパン』ファンの方はもちろん、今まで「『ピーターパン』なんてファミリーミュージカルで自分には馴染みがない」と思っていた方にも、是非足を運んでいただけたらと思います。喜びと切なさにあふれる『ピーターパン』をお約束します。
松平:お客さんにとにかく楽しんでいただけるように、夢のあるものに仕上げていきたいなと思います。頑張ります。
吉柳:3年間、ピーターパンをやってきたとはいえ、全て新しくなるので、今までのことは一旦リセットしようと思います。もう1度『ピーターパン』というお話についてちゃんと考えたいし、今までやってきた技術面などは体が覚えていてくれると信じて頑張ります!
取材・文=五月女菜穂

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