横田栄司が語る、小栗旬主演、吉田鋼
太郎演出の『ジョン王』への想いとは

ウィリアム・シェイクスピアが手がけた全戯曲37作品の上演を目指し、1988年にスタートした彩の国シェイクスピア・シリーズ。そのシリーズ第36弾にあたる作品が2020年6月に上演が決まった『ジョン王』だ。演出を担当するのは、蜷川幸雄亡き後、その志を継いで2017年にシリーズ2代目芸術監督に就任した吉田鋼太郎。主役となる私生児、フィリップ・ザ・バスタードを小栗旬が演じるこの作品で、タイトルロール(題名となっている役)でもあるジョン王には横田栄司が扮することになった。早々に行われたビジュアル撮影の合間に時間をもらい、横田に作品のことや、吉田や小栗への想いを聞いた。
ーー今回、ジョン王役を演じることになり、率直なご感想としてはいかがですか。
シェイクスピアを志したことのある人間なら、やはりタイトルロールを演じることには憧れるものですが、僕も一度はやってみたいと思っていて、その願いをかつて蜷川さんが『ジュリアス・シーザー』(2014年)の時に叶えてくださったんです。でも、ジュリアス・シーザーの場合はタイトルロールとは名ばかりで、物語の途中で死んじゃうんですよね(笑)。今回のジョン王も、実はイギリス人の間では悪名の高さで有名な王様で、そういう意味では『ハムレット』とか『リチャード三世』のような、スカッとしたタイトルロールではないんです。鋼太郎さんに「僕は演出もやらなきゃいけないから、ジョン王は横田くんがやってくれよ」って言われたんです。でも演出が大変だからと言っても、鋼太郎さんが演じるフランス王役だってかなり大変なんですけどね。いやあ、でもやっぱりタイトルロールができるのはうれしいですよ。ただ微妙な役どころでもあるので、これはまた別の覚悟も必要です。とにかくジョン王は一筋縄ではいかない王様なので、そのへんの覚悟、心構えをまた新たにしているところです。
横田栄司
ーー一筋縄ではいかない王様というのは、あっちの権力についたり、こっちについたりして、王様っぽくないからですか?
そうですね。他力本願だったり、忖度に足元をすくわれたりするし、意志がすぐブレるし、本当にハッキリしない人物なので。それでいて口にする言葉は、シェイクスピアのセリフだからということもあるけど、大げさでね。そして、たくさんしゃべる。きっと、何らかの想いがあるからたくさんしゃべるんだろうとも思うので、そういう意味では人間の持ついろいろな面を、この役の中に再現してみたいとも思っています。
ーーそういう風にブレる人間だと、演じにくかったり、難しかったりするものですか。
難しいでしょうね。しかも、ジョン王の場合は死に方も微妙なんです。どうせなら、みんなからメッタ刺しにされるとか、槍で串刺しにされるとかドラマティックに死にたいところだけれど。子供の目を奪おうとしたりするひどい面もあるし、かと思えば急にローマ教皇にたてついちゃうエキセントリックな面もある。そのわりに、なんか全然ダメじゃん、この人ダメだ! っていうところもあるし。だからスケールは大きく、器は小さく(笑)。漠然としたイメージですけど、そんな感じで演じたいです。
ーー物語については、どう思われていますか。
ものすごく面白い部分と、なかなかちょっと難しいところがありますね。血筋を使ってフランス側に加担している人もいれば、イギリス側の血筋のところにオーストリアが絡んできたりと、国と血筋が複雑に入り乱れて物語が進行していくので。でも、役者が演じることで戯曲よりかなりわかりやすくなるはずです。だから読むよりも、観て楽しくなるシェイクスピアだと思いますね。シェイクスピア作品って、だいたいそうなんですよ。それと、1対1、誰か対誰かの会話、ダイアローグで続くシーンがわりと多いので、言葉のエンタメ作品だとも思います。血沸き肉躍る戦争ものとか、立ち回りで見せるものではなく、頭脳戦であったり権謀術数であったり、そういうものもひっくるめて考えると、言葉のエンタメという側面が強い作品なんじゃないかと。そういう意味でも、きっと、しゃべってしゃべってしゃべって……という感じの作品になるのではないでしょうか。
横田栄司
ーー吉田さんは、どういう風に演出をされていく方なんですか。
鋼太郎さんの演出は、意外と静かな立ち上がりなんです。結構激しい言葉が稽古初日から飛び交う蜷川さんスタイルの、対極ですね。まずは台本を読もうよと、初日はまず読むところから始まります。その後も「そんなにがんばらなくてもいいんじゃない?」とか、「自分にリアリティがないような大声は出さなくてもいいよ、そんなにがんばって嘘つかなくてもいいよ」と、自然に自然に、少しずつ少しずつ、その役のリアリティをみんなが自分自身で見つけられるように、静かに導いてくれる印象です。なだらかに、上がっていくイメージだというか。
ーーちょっと意外ですね。
意外でしょ(笑)。決して、トップダウンじゃないんです。こっちがやることにも、「ああ、そういうのもアリだね」と認めてくれて「段取りをとりながら軽くやっていこう、そんなにがんばるな、まだ大丈夫だから」って。そこからだんだん、「ここはちょっと激してみようか、ここは売り言葉に買い言葉だからさ、パパパパン! って言ってみようか」みたいに少しずつ肉付けしていってくださる印象です。そういう意味では、オーソドックスといえばオーソドックスかな。
ーーでも、そこには蜷川イズムみたいなものも。
もちろん、あります。自分が見たいものに対する欲望はお二方とも強い人だし、最終的に求めているものは高いクオリティのものですしね。
ーーそういう意味では、シェイクスピア作品に敷居の高さを感じてしまうような方でも、吉田さんの演出だと受け入れやすいかも?
はい。それは僕も、そう思います。さらにそこには人気の高い、若い俳優さんが参加してくれるというのも大きいです。でも、それも決して人気だけではなく、実力もある人たちばかりで、蜷川さんや鋼太郎さんを慕って出てくれるので、それもこのシェイクスピア・シリーズの強みですよね。蜷川さんにしても鋼太郎さんにしても、二人と一緒にお芝居をやりたい、作品づくりの現場にいたいという人があとをたたないですからね。『ジョン王』には小栗くんが出ますけど、『ヘンリー八世』には阿部寛さんでしょう。過去にも『ヘンリー五世』は松坂桃李くん、『アテネのタイモン』は藤原竜也くん。やっぱり、観る側の敷居はどんどん下げたいですからね。それに実際に、鋼太郎さんが演出するシェイクスピアって、ものすごくわかりやすいんですよ。「シェイクスピアって、こんなに面白いんだ!」って思わせてくれる。これはひとえに、鋼太郎さんの教養が本当にすごいからなんですけど。
横田栄司
ーーそして改めて、共演して感じる舞台俳優としての小栗旬さんの面白さ、魅力とは。
彼って基本的に、なんというかいつもドギマギしているんですよ。すごく堂々としているようには見えるんだけどね。ウキウキしているのもわかるし、楽しそうなのもわかる。なんというか、陳腐な言い方でいやなんだけど、舞台上でいつもイキイキしているのがよく伝わってくるんです。ただ、舞台に対するおそれも、しっかり持っている人でもある。普段の彼は、どっちかというとクールなことを装っていることが多いんだけど、本当のところはクールではなく、実は血の気の多いヤツなんだなということが、舞台上ではとってもよく伝わるんです。とにかく、心の振幅が大きい人なんだろうとも思う。だからこそ魅力的だし、それが客席にも伝播(でんぱ)していくんだと思います。彼自身も、芝居が心から好きなんですよ。一時、観てない芝居はないんじゃないかというくらい、よく劇場に通っていましたから。今はさすがに、あそこまで頻繁に通うのは難しいみたいだけど。でもとにかく、いろいろな人の舞台をよく観ていた。劇場を愛しているし、舞台俳優を尊敬してくれていて、そして演劇を好きだからこそ、自分が出るとなったら命がけでやれる人なんです。それが本番中、舞台上に滲み出てきているんだと思う。素敵な役者だな、と思いますね。
ーーでは、最後にお客様へお誘いメッセージをいただけますか。
シェイクスピアの中ではそれほど有名な作品ではないどころか、最も人気のない作品だと言われることもあるそうですけれども、でも僕たちの作る『ジョン王』は、必ずお客様の期待を裏切らないどころか、「これ、なんで今までやらなかったの?」って思ってもらえるくらい、面白い芝居になるはずです。それは僕がお約束します。鋼太郎さんのもと、みんなで力を合わせて、旬も僕もその日にできるすべてをぶつけて、新しい『ジョン王』を作っていきます。ぜひ、劇場へお越しください!
横田栄司
取材・文=田中里津子 撮影=福岡諒祠

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