アートフェア東京 エグゼクティブ・
プロデューサー來住尚彦が語る『art
KYOTO』とは?【連続インタビューVo
l.4】

東京国際フォーラムにて3月に開催された『アートフェア東京2019』のエグゼクティブ・プロデューサーである來住尚彦氏へのインタビューの第4回目。今回は9月に開催される『artKYOTO』について訊いた。

『アートフェア東京』が目指すべきもの
――來住さんはすでに次に向けて動き出されているとは思いますが、まずは『アートフェア東京2019』についてお聞きできればと。
僕の場合はいつもそうなんだけど、3月開催の『アートフェア東京2019』の前、2018年の11月ぐらいにはもう2020年の事を考え始める訳です。それもひとりで。2019が終わった時には、次にどういう風な展開や告知をするかっていうのを前もって決めておかなきゃいけないから。今年の『アートフェア東京2019』には6万人以上のお客様にいらっしゃっていただいたんですけど、僕の中では会期中に来年どうするかなってもう考えている。
――凄い人数でした。
そうですね。たくさんの方にいらっしゃっていただいた中で、実は自分が一番楽しんでいました。
――確かに、ワクワクされていると感じました。
展示にワクワクするのはもちろんですが、色々なお客様が楽しそうな顔をしてらっしゃるのを見るのがワクワクするんです。
――自分が仕掛けたイベントでお客様がどう過ごしているかっていう事が気になると。
僕がコンサートの演出とかプロデュースをする時は、コンサートが終わって扉を出た時にお客さんがどれだけ楽しそうな顔をされているのか、皆さんが笑顔であるのか、というのを目指している。『アートフェア東京』でも、どういう風な顔をされて出てこられるのか、というのが楽しみなんです。
――『アートフェア東京2019』で、開催前から考えていたことで、狙い通りできたもの、逆に予想を超えたものや、これはうまくいかなかったなっていうところはありますか?
まず、予想通りではなかったのは売上ですね。前回(2018)が29億2千万円の売り上げだったので、今年は40億円行くと豪語してましたが、結果は29億7千万円。微増で終わってしまったというところです。これについては自分の予測とは違っていたなと。去年が約6万人の来場者でチケット代が4千円。今年に関しては、チケット代を5千円にした。実は僕としては6万人を超えることは目標ではなかったんですよ。
――チケット料金を上げることで、ゆったりと見ていただけるようにしようとされていたと?
チケット代を上げたのに来場者が昨年より増えちゃったんです。嬉しい誤算ではあるのですが、アートを購入される方々に来場していただきたい、というのがあったんです。でも、皆は反対して来年はチケット代上げませんよね?って言われるんです。
――そこは難しいところですね。来場者は増えて欲しいけど、実際に購入する方々がゆったり見れるようにしたいという、ジレンマがあるのですね。
この頃思うのは、興行というのはどういうものなのか、ということをなかなかご理解いただけないことが多い。とはいえ、一般には知らないのが普通ですよね。そういうどういった方針で運営していくのか、という点は難しいところがあります。
――次に来場された方々についてお聞きしたいのですが、改めてどのような方々に来ていただきたいと思われているのでしょうか?
アートを趣味と同時に仕事にしている人ですね。資産としてもアートを考えている方々。そういう人たちも主役であるべきだと思うんです。『アートフェア東京』はギャラリーとアーティスト、アートを買いたい人の3者が主役なんです。ただ、いきなり購入するというのは難しいとは思うので、アートに興味があるような方々を少しでもお招きできるようにしたい。なので、当日券のチケット料金は上がりましたが、学割とか早割ペアとか、あとは2時間という制限付きのワンコインで楽しめるレイトパスなどを用意しました。アートを見やすい環境があること、興味を持っている様々な立場の方々が来場しやすいこと、という2軸がうまくまわるようにしたいと思っています。
――普段は積極的にギャラリーに足を運ばないような方々もいらっしゃっていて、実は皆さんアートへの関心が高いのだと思いました。
そうですね。いわゆるハイソサエティの方々だけではなく、一生懸命良いものを見て、色々な良いものを感じることを楽しんでいる方々に、もっともっと参加してもらいたいと思っています。そういうセンスを磨く、センスを持っている方々の期待にこたえたいんです。
――素敵ですね。多数のアート作品があるということだけではなく、誰もがアートを楽しめるあの空間があるということが素晴らしいです。
皆アーティストが生み出すものだから、自己主張するわけです。買い手と売り手で互いに球を投げあっている。でも、その中に汚い球はない。赤い風船とか黄色い風船とか色々な風船があって、どれを見ても綺麗だし、集まったらそれはそれで綺麗なんだけど、そこには変な混じり物はなくて、それぞれが主張しているというのが『アートフェア東京』の素晴らしいところであり、目指すところなんです。

『artKYOTO』を開催する意義とは
――次はいよいよ、9月に開催される『artKYOTO』ですが、こちらを京都で開催する意義、また『アートフェア東京』との違いはどういったところなのでしょうか?
まず、2019年の9月にこのイベントを開催しなければいけない理由について。令和の時代に然るべき文化イベントをやりたい、それと同時に2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会がある。その時に海外の方々にご満足いただけるようなものを、絶対に作らなくてはいけないという、2つの目的のために京都に決まったんです。
――京都であるということが大事であり、また2020年のオリンピックへの橋渡しを作る必要性を感じられたと。
京都には暮らしの中に文化があり、季節や生活に根ざしつつ、新たな視点でアートの体験を生み出す場を作りたいと考えました。ただ、世界遺産でもある二条城を使うというのはなかなか大変でした。そこで、前々から色々ご支援していただいている京都市長の門川大作さんに、さっき上げた理由を告げた上で「二条城を貸してください」と言ったら、「分かりました。一緒にやりましょう」と言っていただいて実現しました。
――來住さんの熱い想いが伝わったからこその実現なのですね。
開催時期を9月の1週目にした理由もあります。ICOM(国際博物館会議)という世界中の美術館や博物館の館長が集まる大会が9月に京都で開かれるのですが、この会議に参加する人たちに来ていただきたかったんです。ICOMのエクスカーションプログラムの中にアートフェアを入れることに決まりました。ICOMは9月1日から7日まで、『artKYOTO』の開催は9月6日からなんです。
――世界中の美術館や博物館の館長にも見てもらえるタイミングを作り出したわけですね。
そういった方々にどれだけ日本の文化をご紹介できるかできるか。今回の『artKYOTO』の開催は先ほどお話した目的から始まっていますが、さらにICOMと連動する事によってもっとイベントが面白くなり、日本の文化を世界中の人たちに知ってもらいたいという思いがある。
――そんな熱い想いからの『artKYOTO』ですが、『アートフェア東京』とはどのように違いを打ち出されるのでしょうか?
『アートフェア東京』はやはり東京の画廊の方々が中心に集まっています。そうなると近代美術、コンテンポラリーっていうのが中心になります。京都の場合は工芸や器など、古美術のブースも予定しています。あとは世界遺産でもある二条城で、例えば畳の上でコンテンポラリーアートを置いたらどうなるか、であるとか、写真を置いたらどうなるかとか。庭や縁側に作品を置くのは難しいだろうか、といった二条城という会場ならではの展示ができるんじゃないかという話をしています。31の参加美術商・ギャラリーの方も決まっていて、その中でも海外のギャラリーも京都でやるという話をしたら参加したいという声が出ています。京都の魅力って、日本人以上に海外の方々が興味を持っている。今回のことから日本の凄さ、京都の凄さを改めて感じました。
――海外の方からすると、京都というのは、分かりやすいブランドでもあり、行ってみたい場所でもあるのですね。
色々と考えています。あとはどれだけの規模でやるか。『アートフェア東京』は東京のすべての人が知っている訳ではないですよね。でも、京都はもしかしたら街全体を巻き込めるかもしれない。今年は無理でも2020年にはそこまで行けるかもしれない。京都のお祭りのひとつとして認知度を押し上げたい。
――面白いですね。『アートフェア東京』では現代アートが多いという印象があったのですが、『artKYOTO』ではもっと日本の伝統を感じさせる違うものが見られるという。
ただ、難しいのは二条城は国宝なので入るには、靴を脱いでもらわないといけないんです。海外の方々にそれをどういった演出にすると分かってもらえるのか、という事を考える必要がある。
――靴を脱ぐこともエンターテイメントにすると。それは面白いですね。
そういったことを一心不乱に考えちゃうんですよ(笑)。靴を脱ぐことが、エンターテイメントになり、日本を感じされることもできればと考えています。あと『artKYOTO』で京都に新しい風を吹かせなければならないと思っていて、そのためには3つのものが必要だと思っています。
――それはなんでしょうか?
若者、馬鹿者、余所者。この3つが必要だと思います。そういう違う者が入ってきた時に面白いものが起きるんです。今回、京都から見れば僕は余所者です。ですが、中心にいるのはやはり京都の人たちなので、僕はバックアップに徹するというスタンスを貫いています。馬鹿者なので、分からない事もある。その時は素直に分からないと言って、教えを乞う。そうやって色々と僕が裏方に回ってやっているのが『artKYOTO』なんです。
――『アートフェア東京』とはまた違った難しさがあると。
東京の場合は僕がパーティーの司会もセレモニーも仕切る。でも京都は違う。京都の皆さんにやってもらって、興行として難しい部分は僕がバックアップしますという作り方です。見え方の違いというんでしょうか。何かあっても一生懸命やっていて、嘘がなければ後で理解はしてもらえます。もちろん知恵の足らなさがあった時には何やってんだって言われるかもしれない。でも一生懸命考えて、嘘をつかずに分からなければ、分からないと素直にいって教えてもらうという事。それにしっかりとやり続けていれば、批判をする人は10年経ったらいなくなります。
――続ける事が大事なんですね。
『アートフェア東京』を始める時に、ある画廊の人から「來住さんて夜の世界の方みたいですよね」って言われたんです。確かにテレビ局は夜の仕事ですし、それに六本木とか銀座へよく行く、という話してことで勘違いをされたのかもしれないですが、自分が今まで会った事がないジャンルの人に会うと、人は皆カテゴリ分けをするんです。昔から「お前は何中?」「何年卒?」「大学はどこ?」みたいなやり取りがあるじゃないですか。そういう自分の基軸っていうのを日本人は気にする訳です。そこから外れると、自分と違う世界の人間としてカテゴリされる。
――確かに。日本にはそういった村社会的なものはまだまだありますよね。
日本でのビジネスはそういう所も考えながらやらないと難しい。
――では最後に今回の『artKYOTO』で來住さん的に目玉にしたい事とは?
ひとつは今、京都で活躍しているギャラリーに展示してもらうという事。あとは二条城の東南隅櫓等の歴史的建造物や庭ですね。日本の風景と皆さんが持ってくるアート作品を合うかどうか。フォーラムの場合は変えようがないんですが、京都の場合は池もあるし、茶室もあるし、沢山の白壁や玉砂利など、そういうのをどうやって使うか。本当は京都全体を使ってやりたいんですが、そうすると広範囲になりすぎてしまう。だけど二条城の中に限定すれば、アートで包む事ができるかもしれないと思ってます。
――世界遺産に飾られてるものを、買って持って帰れるっていうのはいいですね。
それもありますね。二条城の様々な客間に飾ることができることで、世界中ここでしかできないアートフェアが出来る。皆さんがいらっしゃることを楽しみにしています。
來住尚彦氏が考える日本のアートのあり方。東京と京都――より高みを目指すアートの祭典『アートフェア東京』と『artKYOTO』。
そんな來住尚彦氏がプロデュースする2019年9月7(土)~9日(月)に京都で開催される『artKYOTO』をぜひ体感して欲しい。

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