俳優・中谷美紀が、芸術と光悦への“
濃すぎる”思いを語る 特別展『本阿
弥光悦の大宇宙』トークセッション

2024年1月16日(火)から3月10日(日)まで東京国立博物館 平成館(東京・上野)で開催される特別展『本阿弥光悦の大宇宙』。その魅力を伝えるトークセッションが11月21日(火)に同館で開催され、本展の音声ガイド音声ガイドナビゲーターを務める俳優の中谷美紀と東京国立博物館学芸企画部長の松嶋雅人氏が登壇した。刀剣鑑定の名門家系に生まれ、工芸、陶芸、書など幅広く類稀な才能を発揮した本阿弥光悦の軌跡を辿る本展。芸術に精通する中谷が独自の視点で語ったトーク内容は、本展に興味を抱く入り口としてふさわしいものになった。
中谷美紀が語る本阿弥光悦の印象は?
来年1月に開幕する特別展『本阿弥光悦の大宇宙』。トークセッションの講堂に用意されていたポスターに書かれていたキャッチコピーは「始めようか、天才観測。」。あのロックバンドの代表曲を彷彿とさせるフレーズに、思わず「ダジャレか!?」と心の中でツッコミを入れてしまったが、安心してください、展覧会の中身は大マジメですよ!
特別展『本阿弥光悦の大宇宙』メインビジュアル
トークセッションには本展担当研究員の松嶋雅人氏による展覧会概要説明の後に中谷美紀が登場し、両者による本阿弥光悦へのリスペクトあふれるトークが展開された。
このイベントの前に音声ガイドの収録を終えたばかりという中谷は、最初の挨拶で「とても大好きな芸術家であり、尊敬するアーティストである本阿弥光悦の展覧会に携わることができて光栄の極みです」と喜びの表情。そして、まず始めに松嶋氏から「本阿弥光悦という芸術家にどういう印象を持っているか?」と尋ねられると次のように答えた。
「光悦はとてもイノベーティブで、現代でいうとAppleのスティーブ・ジョブズのような人だと思います。例えば、ジョブズがリード大学を中退した後に、勝手に大学に潜り込んで聴講していたのがカリグラフィーの授業で、それが美しいフォントに結びついたところは美しい書を残した光悦のイメージと結び付きますし、謡という面でも、音楽をとても平易に届けるツールを提供して多くのアーティストを助けたところにジョブズが光悦に通じるところを感じます」
それを受けた松嶋氏は「光悦の造形が今も何かしらの影響を与えているように、ジョブズも世界的に影響を与え続けているという点で確かに両者は似ているかもしれません。そういう風に見る人それぞれの視点で人物像を思い浮かべながら鑑賞するのが、こういった展覧会の楽しみ方のひとつですね」とコメント。
重要文化財 紫紙金字法華経幷開結(部分) 平安時代・11世紀 京都・本法寺蔵  ※会期中、部分巻替えがあります。
二人が感じる、光悦の「書」が放つ魅力とは?
光悦が晩年を過ごした京都の鷹峯を訪れたことがあるという中谷は、「北山杉というものを初めて実際に見て、その丸太を使ったお茶室が印象的でした」と、その時のエピソードを披露。次に能書(達筆)で知られた光悦の書に話題が及ぶと、自らも書道を嗜み、多彩な芸術に精通する視点から、次のような印象を述べた。
「光悦の書は音楽のように見えます。まるでフォルテッシモとピアニッシモが順番に現れてくるような。シンバルでバーンって華やかな音が聞こえたかと思ったら、弦の繊細なピアニッシモが、本当に蚊が泣くような繊細な音で聞こえてくるみたい。リズミカルで緩急があって本当に楽しくて、私もあんな字が書けたらいいなって思います」
松嶋氏も「研究者の中にはジャズを感じると言う人もいます」とこれに同調。その上で「晩年の光悦は中風を患ったために身体の自由が利かなくなってしまったこともあり、書の中に真行草が混合しています。楷書だけ、行書だけという書が圧倒的に多い中で、光悦はなぜか混ぜてしまうんです。それは美的センスよりも肉体的な変化の方が強くて、結果的に我々に美しく響いてくるのかもしれませんね」と話した。
さらに「光悦は仮名も美しいですよね。とても流麗ではんなりとした字もあれば、猛々しい字も書いている」と中谷。これについて「シチュエーションに合わせていたんでしょうね。私たちが美術館で見る光悦の書は散らし書きが多いので、そこにリズミカルさや音楽性を感じると思うんです。でも、例えば、前田家の高官に宛てた手紙などでは行頭が揃ってたり、字の濃さが変わらなかったり、きちんとした字を書いています。『本阿弥行状記』では光悦のことを『異風者』と評していますが、それは当時にとって“稀な才能を持った人”という意味で、決してエキセントリックなイノベーターではなく、しっかりした社会性も持ち合わせていたんでしょう」と松嶋氏から解説を受けると、「ピカソがキュビズムに目覚める前はきちんとしたデッサンができたというところにも似ていますね」と頷いていた。
重要文化財 鶴下絵三十六歌仙和歌巻(部分) 本阿弥光悦筆/俵屋宗達下絵 江戸時代・17世紀 京都国立博物館蔵 
重要文化財 鶴下絵三十六歌仙和歌巻(部分) 本阿弥光悦筆/俵屋宗達下絵 江戸時代・17世紀 京都国立博物館蔵 
中谷美紀からトーハクへ大胆な提案も
その後、トークは東京国立博物館の展示活動に関する話題に。
「今の若い方はサステナビリティにご関心の高い方がとても多いと思います。そういった意味では本物の美術って、この先も何百年、何千年にわたって大切に保管されていくものだと思いますし、若い方にぜひ関心を持ってご覧いただきたいと思うのですが、何かそういった取り組みはされていますか?」と尋ねた中谷。
それに対して松嶋氏は「当館は日本と東洋の古美術を中心に扱っていて、それをどうやって多くの方々に知ってもらうかということに腐心しています」と答え、さらに「これは私個人の考えでもあるのですが、現代の生活文化と古い日本の生活文化は断絶しているわけではなく、何かエッセンスがつながっています。数百年前、千年前の精神が陸続きで今の日本にもちゃんと残っていると思っているんですよね。現代の美術あるいは文化はもちろん、ポップカルチャー、映画、テレビアニメ、漫画などものにも、いま当館で展示されているようなもののエッセンスがつながっていると思っています。そういった現代文化と古美術のつながりを示す展示も意図的に行っています」と回答。さらに中谷が「由緒正しき古美術もお持ちな東博だからこそ、それらと現代の作家さんとの融合といいますか、橋渡し的なことにも取り組んでいただけたら、いち美術ファンとしてとてもうれしいです」と答えた。
また、この話題では「観光立国を目指すのであれば、芸術や文化はセットみたいなもの」と述べた中谷から「最近の来館者の半分近くは外国の方々だと伺っていますし、現代はモノ消費からコト消費に皆さんの関心が傾いていますから、これをチャンスに『春画展』なんてやってみたらいかがでしょうか?」という大胆な提案も。「真剣な意見として、そういうことをきっかけに若い方や外国の方にもたくさんご来場いただけると思います」と自らの案をプッシュしていた。
最後に「本阿弥光悦という人は、国内の戦乱が続いている中で生まれて、徳川の世になる時に新しい造形を生み出して400年近く後にも力を及ぼしている。それは単に造形が視覚的に美しいからだけではなくて、それらが当時の社会にあった力や思いに動かされて登場してきたという背景に依るところも大きいと思います。ぜひ、この展覧会に来ていただいて、何か響くものを見つけていただきたいです」と松嶋氏。一方で、中谷は「拙いながら心を込めて、松嶋先生の研究の成果である本展のガイドを務めさせていただきましたので、ぜひご利用いただけますと幸いです」と語り、本イベントを締めくくった。
本展は第1章「本阿弥家の家職と法華信仰―光悦芸術の源泉」、第2章「謡本と光悦蒔絵―炸裂する言葉とかたち」、第3章「光悦の筆線と字姿―二次元空間の妙技」、第4章「光悦茶碗―土の刀剣」という全4章で構成。国宝《舟橋蒔絵硯箱》や、光悦の指料と伝わる唯一の刀剣で約40年ぶりの公開となる《短刀 銘 兼氏 金象嵌 花形見》などが展示されるほか、重要文化財の《鶴下絵三十六歌仙和歌巻》が全巻一挙公開される。
重要美術品 短刀 銘 兼氏 金象嵌 花形見 志津兼氏 鎌倉~南北朝時代・14世紀 
国宝 舟橋蒔絵硯箱 本阿弥光悦作 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵 
重要文化財 赤楽茶碗 銘 加賀 本阿弥光悦作 江戸時代・17世紀 京都・相国寺蔵 
特別展『本阿弥光悦の大宇宙』は、2024年1月16日(火)から3月10日(日)まで東京・上野公園の東京国立博物館で開催。

文=Sho Suzuki 写真=オフィシャル提供

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