初公開のモネ《睡蓮、柳の反映》を含
む、約160点の作品が集結! 『松方
コレクション展』レポート

今年開館60周年を迎える国立西洋美術館にて、美術館設立の土台となった松方幸次郎のコレクションに光を当てた展覧会『松方コレクション展』(会期:〜2019年9月23日)が開催中だ。
会場エントランス
神戸の川崎造船所を率いた実業家の松方幸次郎は、20世紀初頭に、まだ日本に存在していなかった“西洋美術を専門とする公共の美術館”を作るという目標を掲げて、作品の蒐集を行なった。
左:フランク・ブラングィン 《松方幸次郎の肖像》 1916年 国立西洋美術館蔵(松方幸次郎氏御遺族より寄贈) 右奥:フランク・ブラングィン 《共楽美術館構想俯瞰図、東京》 国立西洋美術館蔵(2010年度美術作品購入募金の補助により購入)
コレクションは、多様な時代や地域、ジャンルから形成され、1910年代から20年代という短期間の間に築かれた。日本のために買い戻した約8,000点の浮世絵を含めると、作品総数は1万点におよぶ規模を誇っていたという。
展示風景
ところが、昭和の金融恐慌の影響により1927年に造船所が経営破綻に陥ると、コレクションは売り立てられ、国内外に散らばっていく。作品の一部はロンドンの倉庫火災で焼失し、第二次世界大戦末期には、フランス政府に敵国人財産として取り上げられる運命を辿ることになる。
展示風景
国立西洋美術館は、1959年にフランス政府から寄贈返還された松方コレクションの受け入れ機関として設立された。本展では、散逸した松方コレクションの買い戻しによって、近年新たに収蔵された作品が複数展示されている。特に、2016年にルーヴル美術館にて発見されたクロード・モネの《睡蓮、柳の反映》は、1年間の修復期間を経て公開となった。モネ、ルノワール、ゴーギャン、ゴッホにロダンなど、世界各地に散らばった作品たちが再会する会場より、本展の見どころをお伝えしよう。
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール 《アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)》 1872年 国立西洋美術館蔵 左:ハイム・スーティン 《ページ・ボーイ》 1925年 パリ国立近代美術館・ポンピドゥーセンター蔵
右:エドヴァルド・ムンク 《雪の中の労働者たち》 1910年 個人蔵(国立西洋美術館に寄託) 左:ウジェーヌ・ドラクロワ 《馬を連れたシリアのアラブ人》 1829年頃 国立西洋美術館蔵

時代に翻弄され続けてきたコレクションの歩みをたどる
松方コレクションについて、国立西洋美術館 主任研究員の陳岡めぐみ氏は、「造船業の仕事のために、何度も渡欧を繰り返す中で、人脈を広げながら蒐集をしていった。特にロンドンとパリを中心として、欧米諸国の都市で集めた美術品を基にしている」とコメント。
本展は、ロンドンを中心に松方が蒐集した作品を展示する前半、パリを中心とした後半といったように、コレクションの形成と散逸を追いながら、現代に至るまでの約100年間にわたる、松方コレクションの系譜を辿る構成となっている。
左:作者不詳 《聖ヤコブ伝》 国立西洋美術館蔵 中央:カルロ・クリヴェッリ 《聖アウグスティヌス》 1487年または1488年頃(?) 国立西洋美術館蔵 右:ブラッチョリーニ礼拝堂の画家に帰属 《戴冠の聖母子》 国立西洋美術館蔵
さらに、松方が集めた作品の数々を紹介するだけでなく、松方コレクションの調査研究によって新たに発見された歴史資料の展示にも注目したい。1939年にロンドンの倉庫火災で焼失した約900点の作品は、長らく詳細不明であったが、2016年に保管作品リストが見つかったことで、その内訳が明らかになった。本展覧会では、倉庫に保管されていた松方コレクションの、貴重な作品目録が展示されている。
パンテクニカン倉庫保管絵画等リスト:松方幸次郎資産 テート・アーカイヴ蔵
また、陳岡氏は、「松方が当時、どのような環境のなかで蒐集をしていたのかということを追体験できるような構成にした」と語り、展示ディスプレイにもこだわったことを明かした。本展では、絵の入っていない空の額や、作品が世界を旅した証となる歴史的痕跡(ラベルや書き込みなど)が残った裏板なども併せて展示している。
左:シャルル・エミール=オーギュスト・カロリュス=デュラン 《母と子(フェドー夫人と子供たち)》 1897年 国立西洋美術館蔵、右:オリジナル額
モーリス・ドニ 《ハリエニシダ》 1917年以前 国立西洋美術館蔵
モーリス・ドニ 《ハリエニシダ》(裏板)

西洋の巨匠たちの作品が一堂に会する
現地の画家との交流や画廊めぐりを通じて幅広いジャンルの作品を購入した松方は、1916年から18年にかけて、ロンドンを中心に1,000点を越える作品を蒐集した。しかし、それらの多くは1928年以降のコレクション散逸期に売り立てられてしまう。
左:テオフィル・アレクサンドル・スタンラン 《帰還》 1918年 国立西洋美術館蔵、右上:リュシアン・シモン 《墓地のブルターニュの女たち》 1918年頃 国立西洋美術館蔵 右下(左):テオフィル・アレクサンドル・スタンラン 《第一次世界大戦の素描》 1915年 株式会社ジールハウス蔵、右下(右):クリストファー・リチャード・ネヴィンソン 《あの呪われた森》 1918年 国立西洋美術館蔵
ロンドンでは、イギリスを代表する画家のひとりとして活躍していた友人のフランク・ブラングィンが、松方の収集を手助けしていたそうだ。一説によると、松方がはじめて購入した作品は、ブラングィンによる造船所の作品だったとも言われている。第3章「海と船」では、ブラングィンの作品や、船や海景を主題とした作品群が見られる。
右:シャルル=フランソワ・ドービニー 《ヴィレールヴィルの海岸、日没》 1870年 株式会社三井住友銀行蔵、左奥:ウジェーヌ=ルイ・ジロー 《裕仁殿下のル・アーヴル港到着》 1921-1922年 国立西洋美術館蔵
1918年に松方は、パリのロダン美術館館長のレオンス・ベネディットと、ロダン作品のブロンズ鋳造に関する契約を結んだ。第4章「ベネディットとロダン」では、世界有数のロダン・コレクションを築いた松方が蒐集した作品をじっくり堪能したい。
中央:オーギュスト・ロダン 《接吻》 1882-1887年頃(原型) 国立西洋美術館蔵
第5章では、1921年から22年にかけて、パリを拠点に松方が入手した作品群を紹介する。印象派の巨匠モネが住むジヴェルニーのアトリエを訪ねて、画家本人から直接作品を購入したのも、この時期にあたる。
右:ピエール=オーギュスト・ルノワール 《帽子の女》 1891年 国立西洋美術館蔵 左奥:クロード・モネ 《並木道(サン=シオメン農場の道)》 1864年 国立西洋美術館蔵
左:クロード・モネ 《舟遊び》 1887年 国立西洋美術館蔵
右:フィンセント・ファン・ゴッホ 《ばら》 1889年 国立西洋美術館蔵
左:ポール・ゴーガン 《扇のある静物》 1889年頃 オルセー美術館蔵 右:ポール・ゴーガン 《ブルターニュ風景》 1888年 国立西洋美術館蔵

1923年には、コペンハーゲンの実業家から優れたフランス絵画34点の購入に成功した松方。第6章「ハンセン・コレクションの獲得」では、エドゥアール・マネやエドガー・ドガ、モネ、アルフレッド・シスレー、カミーユ・ピサロなど印象派絵画の名品が集う。
右:エドゥアール・マネ 《自画像》 1878-1879年 石橋財団ブリヂストン美術館/石橋財団アーティゾン美術館蔵 左奥:エドゥアール・マネ 《ブラン氏の肖像》 1879年頃 国立西洋美術館蔵(松方幸次郎氏御遺族より寄贈)
左:クロード・モネ 《積みわら》 1885年 大原美術館蔵 右奥:クロード・モネ 《ラヴァクールのセーヌ河》 1879年 個人蔵

修復後初公開となる“幻の大作” モネ《睡蓮、柳の反映》
本展の目玉作品のひとつが、展覧会終盤で公開される《睡蓮、柳の反映》だ。本作は、松方が1921年に画家から直接購入した、モネの代表的な連作《睡蓮》の中の一作。第二次世界大戦以降、長らく行方不明だった本作は、2016年にルーヴル美術館で発見され、翌年に松方家に返還された。さらに松方家から国立西洋美術館に寄贈されて、修復を行なったものが初披露される。
クロード・モネ 《睡蓮、柳の反映》 1916年 国立西洋美術館蔵(松方幸次郎氏御遺族より寄贈)
国立西洋美術館 研究員の邊牟木尚美氏は、「これほど大きく、破損したモネの作品はめずらしい。モネの大作の保存修復は前例がなかった」と振り返る。画面上部が失われている原因については、以下のように説明した。
「当時は、フランスを占領下に置いていたナチスの捜索を逃れるため、作品をパリの北西部にある農家の村に疎開させていました。そのため、作品の保存環境が良くなかったのではないかと考えられます。本作はおそらく上下逆さまに置かれていて、(上半分が)床に接していたので、水や湿気の被害を受けたのではないかと推定されます」
また、科学調査の実施により、本作に使用している顔料が、同時代のモネの《睡蓮》の作品と同様であることが確認された。作品の表面にニスもかかっていないことから、過去に修復の手が入っていないことも明らかになったという。
クロード・モネ 《睡蓮、柳の反映》デジタル推定復元図 制作:凸版印刷株式会社 監修:国立西洋美術館
邊牟木氏は、「1920年代に松方がモネから直接購入をして、今まで日の目を見ることがなかった。修復を終えて、みなさまにご覧いただけることで、松方の積年の夢が叶ったのではないか」と語った。
『松方コレクション展』は2019年9月23日まで。松方コレクションの波乱に満ちた航海の軌跡を、名画の数々と共に楽しめる機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

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