声優・速水奨が語る「伝統と革新のバ
ランス」 『印象派 モネからアメリ
カへ ウスター美術館所蔵』

声優・速水奨が『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』の音声ガイドのナレーターを担当する。2024年1月27日(土)から4月7日(日)まで東京都美術館(東京・上野公園)にて開催される本展。印象派がヨーロッパやアメリカへもたらした衝撃と影響をたどる構成となっており、アメリカ・ボストン近郊に位置するウスター美術館より、ほとんどが初来日となるコレクションがお披露目される。

声優として40年以上のキャリアを持ちながら、最前線で活躍する速水が感じる「印象派」と「伝統と革新」とは。収録を終えたばかりの現場からお送りする。
『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』
印象派はもっと前の時代のものだと思っていた
――今回の『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』ではタイトルの通り、ウスター美術館所蔵のコレクションが集結しますが、この展覧会の印象はどのようなものでしたか?
そうですね。印象派が誕生して150年ということなんですが、正直僕はそんなに美術に詳しくなくて、印象派ってもっと前の時代だと思っていたんですよ。ところがまだ150年ってことは、それこそ僕のひいおじいさん、ひいおばあさんが生きていた時代の芸術の動きなんだということを感じた途端に、非常に親近感が湧きましたね。
――ウスター美術館も1898年開館、120年ちょっとの歴史ですし、はるか昔という感じではないですよね。
そう、子供の頃にそう思っていたということは、今よりももっと近い時代の話なわけだし。
――今回音声ガイドを担当されていますが、展示される作品の中で気になっている作品はありますか?
いくつかあるんですけれども、例えばモネの《睡蓮》は有名ですが、今回改めて「こんな風に描かれているんだ」と目を見張りました。今までちゃんと見たことがなかったのかもしれないですが、光とか水面に映るいろんなものの変化を感じながら描かれている。モネは《睡蓮》という絵を250点以上の連作で描いているんですよね。これは凄いと改めて思いました。さらに今回ポール・シニャックという画家の絵も来るんですが、点描で描かれた作品で、これもすごい印象的なんです。パレットの中で絵の具を混ぜずに直接(カンバスに)絵の具を置いて描くことで、人の目の中で色を混ぜてほしいということなんですけど、見る角度や位置だけではなく、こちらの思いによっても絵が変わってくるという意味で、すごく象徴的な印象が残る一枚かなと思います。
“感じるもの”をもっと表していくことが大事だと思っている
――印象派はそれまでの写実主義から「自分の目に映ったものの印象を、そのまま表現する」という芸術運動、いわゆる今の言葉でいう絵画のムーブメントであり、現在は印象派としてカテゴライズされているものですが、速水さんも声優としてずっと最前線で活躍されています。お芝居で表現するっていうものに対して、印象派というものに共感みたいなものはあるのでしょうか?
演劇を学んできた人間にとって、基本を大事にして、教えられた通りにきっちりと演じる、語るというのが大事だと思われた時代がありました。でも、今の声優業界というもので求められる仕事とか、実際に触れていく作品たちに対しては、もちろん基本は必要ですが、それだけではなくて、五感を超えたものが備わってないと、表現できないものが実際あると思うんです。そうしたときに僕たちも見えているもの、聞こえているものだけじゃなくて、“感じるもの”っていうのを、もっと表していくことが大事なんじゃないかなっていう思いがあって。その部分はこの印象派と繋がっている気がしますね。
――声優さんの仕事も多様化していますしね。なかなかそれまでの形どおりには……
いかないし、それと同時にコメントを求められることが非常に多くなりました。そのコメントを発するこちら側の準備というか、最低限の知識も必要なんですが、今回のようになにかに触れたときに、自分の感受性を言葉として人に伝えられないといけない場面があって。これって非常に難しいんですけれども、やりがいのあるものだなと感じていますね。
常に自分が新しい波の中で柔らかく漂える存在でありたい
――今回の音声ガイドでは、ある画商に扮して鑑賞者をナビゲートされると伺っています。
そうなんです。
――「アメリカに渡った印象派」という今回のテーマに即したものだと思うのですが、アメリカの印象派というのは、元々フランスで起こった印象派に忠実であろうとする人たちもいれば、アレンジを加えて独自の情景で描く画家たちも現れ、それらが今回の展示には含まれています。速水さんも青年座研修所から劇団四季を経て、声優になられていますが、こういう新しいものにどんどんチャレンジされいてる印象があります。ご自身の中で「伝統と革新」のバランスみたいなものってあるのでしょうか?
つい先日歌舞伎を見に行ったんですよ。歌舞伎ってもちろん、能とか狂言の流れを組んでいるんですけれども、常に新しいものを取り入れていますよね。『ワンピース』をやってみたり、「初音ミク」ちゃんを参加させてみたり。なんか僕の中で伝統って守るべきものというよりも、栄養にしていいものという気がするんですよね。
――栄養にしていい、ですか。
そういうものを咀嚼(そしゃく)して、自分の中に変化が起きたら、新しいものが生まれてきてもいいと思うんです。歌舞伎を見て特に思ったのは、新しいものが出てきて、でもそれも50年、100年経ったらまた伝統と呼ばれて、新しいものが生まれて……その繰り返しこそが「伝統」っていうものなんじゃないかなと思いますね。
――なるほど。
伝統を壊してやるんだ、っていろんな運動が過去にもあったと思いますが、これらも全て伝統に重きを置くがゆえに、そういう行動をしているんじゃないかと思うし。それって常に繰り返されるものなんじゃないかな。今僕が大事にしているものは、自分が培ってきたもの、今自分の肉体で表現できることももちろんなんですけれども、「何かを残す」というよりも、「常に自分が新しい波の中で柔らかく漂える存在でありたい」っていうのが一番大事かなと。
――まさにそれは今回の展覧会の中で表現されてそうですね。印象派もアメリカに渡ったことで、ちょっと雰囲気が変わってくるのが面白そうだと思っています。
全然変わりますよね。窓の外の風景に見えるビルや町並みもどこかアメリカナイズされていて、面白いですね。
――改めて音声ガイドの収録で意識したところはどういう部分でしょうか。
ナレーターとしてきっちりと作品をお伝えするというスタンスに加えて、キャラクターとして聞いてくださる方にわりと身近に寄り添うようなキャラとして存在する。ガイドとしては皆さんが初めて聞く単語や名前もお伝えしなきゃならないので、はっきりと聞き取れる、ってことはもちろん大事です。それとは別に、エスコートしている方が「ある画商」が感じている若干の興奮や感動のような、語る側の人間の心の動きっていうのを感じてもらえるようにやらせて頂きました。
――最近は展覧会の音声ガイドを声優さんが担当されることも増えてきたと思います。速水さんのファンもこの展覧会に来られる方もいると思いますし、逆に音声ガイドを機会に速水さんに興味を持たれる方もいると思います。そういう新しいファンや、芸術との出会いの架け橋になられているっていう感覚はありますか?
そんな大げさなものはないんですけれども、ただ音声ガイドがまさにガイドとして、邪魔じゃなかった、って思ってもらえれば一番いいですね。自然に聞こえて寄り添えるのが一番だと思うので。今回は印象派がフランスからアメリカに渡ったように、この美術館でこの絵たちと出会うことによって、きっと皆さんの心がアメリカやフランスに旅できるんじゃないかと思いますので、ぜひ美術館に足をお運びください。
速水奨が音声ガイドのナレーターを務める『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』は、2024年1月27日(土)から4月7日(日)まで、東京都美術館にて開催。その後、各地へと巡回予定(八王子会場では音声ガイドの貸出は未定)。

インタビュー・文=加東岳史 撮影=大橋祐希

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