ヒグチアイ 尊敬する先輩シンガー・
山田将司(THE BACK HORN) &Salyuを
迎えた自主企画『好きな人の好きな人
-声 明 -』をレポート

HIGUCHIAI presents 好きな人の好きな人 - 声 明 -

2019.4.30 渋谷CLUB QUATTRO
W / Salyu山田将司(THE BACK HORN)
移り変わる時代に対しての寂しさや慈しみ、来るべき時代への希望や夜明け、そして期待や不安……。この日は明らかに世の中全体がいつもとは違った日を迎えていた。
この日とは4月30日。平成最後の日であり、令和初日前夜であった。そしてその感慨深い雰囲気は神妙深さと共に終始この渋谷クアトロにも漂っていた。
ヒグチアイが"好きな人"を招き、共演する自主企画シリーズ『好きな人の好きな人』が、今回は“声明”との副題にてこの場所で行われた。この日ヒグチが意中の人として告白したのは、THE BACK HORNの山田将司とSalyu。共に尊敬する先輩シンガーにして「この2人に影響を受けていたんだな……と改めて思った」「自分の原点のような歌声を持つ2人を迎え届けた」とライブ中に言わしめた歌い手たちであった。加え各々歌とギターや鍵盤による弾き語りスタイルにて贈られたこの日。そのネイキッドな伝達手段な分、より楽曲に宿された真意や想いがダイレクトに機微を交え伝えられた。やはりこの日のもたらす感慨深さが各々去来していたこともあったのであろう。各位タイプも声質も伝達スタイルも違うのだが、そこに寂しさや慈しみ、闇からの出口を感じさせる微かな光や一条の希望の火がぽっと灯ったかのように、平成から令和へと連なり引き継がれるが如く響いた歌の数々も印象深かった。
会場に入るとヒグチが選曲としたというBGMが場内に流れていた。80'sから比較的最近の曲まで、「並べるとかなり支離滅裂」とは本人の弁なのだが、パラレルでオムニバスながら、ヒグチがこれまで繰り返し聴き、自身の一部や糧になっていると語る洋邦の楽曲が我々を迎えてくれた。それらが組み合わさり、ブレンドされ様々な道程やシチュエーションを経て、あの独自のヒグチの楽曲に至っていたのかを辿らせる。

山田将司(THE BACK HORN)
一番手はTHE BACK HORNの山田将司が任された。それまで若干言葉を交わした程度ではあったが、今年2月のAge Factory清水とヒグチの共演を山田が観に行き、その際に邂逅。かつては近い顔立ちをしていたと噂されていたと語る。「さっき一緒に並んだけど似ていないよ。近い顔だちだけど……」と場内を和ます。アコギ一本の立ちスタイルにて歌を運んだ山田。ピンスポが当たる中、ポエトリーリーディングを交え、そばにいて欲しいとの愛しさを感情移入たっぷりに放った「月光」が歌に込めた密かな決意を会場中に静かに広げていく。スリリングさとブルージーさを交えた「ピンクソーダ」ではガナりを交えた歌を伝えると、強弱と緩急を武器にダイナミズムを宿した「がんじがらめ」がインパクトのあるフレーズと共に生命力を場内の隅々にまで染み渡らせる。対して、その後の凪のように優しい歌が会場全体を包んでくれたのは「きょう、きみと」であった。今日にまつわる幾つかの出来事が次々と歌われる中、肝心な部分はあえて歌い表さず、聴き手に委ねられていく。

山田将司(THE BACK HORN)

後半はカバーが続いた。「今日この曲をやるのがふさわしいでしょう」と中島みゆきの「時代」を歌った際には、みなが平成を振り返り令和へと思いを馳せていく。和なテイストを有したスターダスト・レビューの「木蓮の涙」に於いては哀愁性と悲痛にも似た「会いたさ」「愛しさ」が場内に満ちるのを見た。そして最後はアルペジオの爪弾きに乗せて「キズナソング」が。どこかキリリとした雰囲気を置き去りに彼は去った。
山田将司(THE BACK HORN)

続いてのSalyuはアットホームさとはやや異なる帰還にも似た安堵感で場内を満たしてくれた。ガットギターの羊毛と2人座って各曲を贈った彼女。呼吸を合わせ時々アイコンタクトを取りながらライブは進んだ。
まずはギターの爪弾きの中、キーの高低差を交えて丁寧に歌われた「emergency sign」がしっかりと聴き手の心を掴んでいく。続く「リスク」では、まどろみと不思議な浮遊感の中、間には寂しげな口笛が遠い記憶を呼び起こしてくれた。
「時代の節目を共有できるなんて不思議。平成最後に素敵な女性に出会えた」とヒグチを讃える。
Salyu
「この節目に相応しい曲を」と入った「ライン」では、澄んだ透明感あふれる歌声の中、いつか巡り会えるその日を信じての思いが駆け巡り、自由にたゆたうように歌った「HALFWAY」では自分が恋をしていた頃を思い起こさせキュンとした気持ちになった。また、「自分もこれまでこの曲を歌うことで沢山癒されてきた。同じようにみんなも癒せたら」と告げ入った「to U」では繋がりや絆を想起させる同曲が、包まれていく時空を超えた安堵感にて集まった者たちの「自身」を慈しませてくれた。
Salyu
「羊毛さんが素敵な曲を作ってくれました」と入った未発表曲「vermilion」が優しげで陽だまりのような温かさを広げ、「新しい時代の幕開けにふさわしい曲を持ってきた。一人一人に素晴らしい時代が訪れますように」との祈りにも近い願いを込めて歌った「Lighthouse」の際には、心機さが場内に呼び込まれていく様を見た。

ヒグチアイ
尊敬する先輩たちを受け、ヒグチアイがステージ中央に配された鍵盤を前に座る。鍵盤の調子を問うように弾かれる単音から優雅ながら隙間の多いタッチへ。「ココロジェリーフィッシュ」が漂うようにゆらゆらとフロアに放たれていく。それは優雅とは対照的な不安定さ。<欲しいのは未来>と放つ歌が場内に手を伸ばす。変拍子を交えたピアノリフレインの中「永遠」が現れる。<ここからは私のものだ> <永遠は光に照らされた一瞬だ>と歌いながらも、どこか帯びている諦念。その不安定さやアンバランスさも彼女の歌の魅力だと大いに納得したりする。
「バスタオル」以降数曲は未作品化の曲が続いた。その「バスタオル」は、現在幸せの中にいることを実感しながらも不安や未来の不透明さの予期とが同居した楽曲。新品やくたびれたバスタオルを例えに、強く生きなきゃと内観しつつも、どこかこれまでになかった大丈夫感が漂っている気がする。他にもこの日、歌われた未発表曲たちは、どれもどこか伴侶感があった。次曲「そのまま」も然り。根底には長続きしないかも……との不安を抱きつつも今は信じていたい。そんな気持ちが伝わってきた。また、こちらも未発表曲「聞いてる」においては、段々と上がっていくピアノのキーが高揚感を煽り集まった者たちを鼓舞していく。
ヒグチアイ
平成元年生まれのヒグチ。それもあり「時代を感じながら生きてきた」「平成の方が良かったと言わない未来にしたい」「令和生まれ? 若いねぇ」と言わないように(自戒)しなくちゃと笑う。その後歌われたエレガントに広がっていくピアノ音も特徴的であった「朝に夢を託した」では、<逃げたい> <今が楽ならいいのかな>とアンビバレンツな気持ちを拾うことが出来た。
「今を生きて、ずっと続けて次の時代も迎えたい」とヒグチ。「自分の気持ちや感情の処理場が歌だった」と続け歌われた「備忘録」では、自分よどうかこの時代を生きてきたことを忘れるな、と歌われているように響いた。繰り返されるハミングと共に徐々に白色を増しホワイトアウトしていくステージ。そこを経た本編ラストは「癖」に辿り着いた。
ヒグチアイ
平成の最後に、やはり「らしい」曲を遺しておきたかったのだろう。予定にはなかったアンコールが特別に1曲加えられる。「この曲で平成を終わりにしたい」と「わたしはわたしのためのわたしでありたい」へ。風を味方に今後も時代をサバイブしていく。辛さや怖さがモチベーションや力になり糧になることを彼女の歌は知っている。幸せにはなれないかもしれないが、少なくとも歌にはなる。そしてそれはもしかしたら何処かの誰かの大切な宝物(歌)になるのかもしれない……。どこか彼女の歌のメカニズムが垣間見れた気がした。
2019年秋にはニューアルバムを、11月には東阪にてフルバンド編成のワンマンライブも既に発表しているヒグチ。ライブ中の「次のことが発表できることが嬉しい」との言葉からは、そこに向けての高いモチベーションや更なるポテンシャル、そしてありありとした自信も見受けられた。
ヒグチアイ
次の年号の幕は上がった。「名前が変わるだけ、毎日の生活はそう何も変わらない」とうそぶきながらも、心のどこかでは何か一変することや、いいことが待っていて欲しいと期待している自分が居たりする。なんだかそれってヒグチの歌の主人公たちのようだ。諦念を吐きながらも信じている一縷の望み……。やはり令和はいい時代にしなくては……。帰路、この日、贈られた節目にふさわしい歌の数々を想い返しながら、喧噪の真っただ中の渋谷スクランブル交差点に向けて歩き出した。間もなく年号が変わろうとしていた。

文=池田スカオ和宏

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