歌舞伎座『四月大歌舞伎』開幕レポー
ト 新作歌舞伎「平成代名残絵巻」で
平成を締めくくる

新元号が発表された翌日の4月2日、歌舞伎座で『四月大歌舞伎』が初日を迎え、昼の部では、平成と令和の節目を記念した新作歌舞伎が上演された。新作歌舞伎のタイトルは、『平成代名残絵巻(おさまるみよなごりのえまき)』。この演目を中心に、初日昼の部をレポートする。
※以下、ネタバレを含みます。前情報なしでご覧になりたい方はご注意ください。
平成から令和へ、節目を祝う新作歌舞伎
会場には、通常の花道に加えて、上手側に仮花道もつくられていた。舞台は、源平の時代の京都。拍子木の音とともに雅楽の調べで幕が開くと、舞台には雅な衣裳の出演者が並ぶ。客席からは、ため息とともに大きな拍手がわいた。栄華を極める平家の屋敷で、貴族たちの宴だろうか。衣裳は明るく華やかで、襖には咲き誇る桜と、枝を大きく張り伸ばした松の木が描かれている。建春門院滋子(笑也)、平宗盛(男女蔵)、平重衡(吉之丞)、平時子(笑三郎)が次々に舞を披露する。
『平成代名残絵巻』左から侍女=尾上菊三呂、平重衡=中村吉之丞、平時子=市川笑三郎、建春門院滋子=市川笑也、平宗盛=市川男女蔵、侍女=中村芝のぶ (c)松竹
本花道から、平知盛(巳之助)が、平徳子(壱太郎)を伴って登場。徳子は、桜の花の香りさえしてきそうな、うららかな舞を披露した。
場面は途切れることなく、桜満開の清水寺へ。鎌田正近(市蔵)と遮那王(義経が幼い頃に鞍馬寺に預けられていた時の名前)(児太郎)が再会を喜び、さらに常盤御前(福助)とも対面する。その後、遮那王は常盤御前から託された、源氏の白旗を巡って平家の追っ手や知盛と対峙するが、そこに宗清(彌十郎)が登場し、帝からの詞をもって、場をおさめる。彌十郎の台詞の中には「令和」の言葉がおり込まれ、この舞台をメモリアルなものにしていた。
幕が引かれたあとの両花道では、次世代を担う花形俳優の巳之助と児太郎が六方の引っ込みで最後を大いに盛りあげた。
『平成代名残絵巻』左から平知盛=坂東巳之助、平宗清=坂東彌十郎、遮那王=中村児太郎、常盤御前=中村福助、鎌田正近=片岡市蔵 (c)松竹
上演時間は、約40分。舞踊、大薩摩、立廻り、両花道をつかった台詞の掛け合いに、2人同時の六方など、観る者を楽しませる要素が多分に詰まっている。惜しいのは、タイトルから想像する限り、この舞台が最初で最後の上演となることではないだろうか。
40年ぶり上演、「野崎村」のエピソードゼロ
2つ目の演目は、『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)』。大阪の油屋の丁稚・久松(錦之助)は、野崎村の百姓の娘・お光(時蔵)という許嫁がいるにも関わらず、奉公先のお嬢様であるお染(雀右衛門)と許されない恋に落ちてしまう。
あるとき久松は、油屋の手代・小助(又五郎)の悪だくみにはまり、店を追い出される。野崎村に帰った久松は、お光の父・久作(歌六)にすすめられ、お光と祝言を挙げることになる。かねてより久松に思いを寄せていたお光は、心を躍らせる。しかし、そこにお染が訪ねてきて……。
「野崎村」(久松が村に帰ってきてからの場)は、人気の演目としてしばしば上演されている。しかし「座摩社」は、1979年1月以来、40年ぶりの上演になるのだそう。
「座摩社」では、小助の悪だくみも喜劇的に描かれ、笑いどころがいっぱい。「野崎村」だけをみるよりも、お染の健気さや、まだ若い久松の戸惑いに同情が増し、油屋の後家・お常(秀太郎)の優しさも、お光と久作の悲哀も、際立って感じられた。両花道を使った演出も見逃せない。
親子三代で寿ぐ、藤十郎の米寿
3つ目の演目『寿栄藤末廣(さかえことほぐふじのすえひろ )』は、1851年初演の謡曲『鶴亀』をベースに、当代坂田藤十郎の米寿を記念して作られた舞踊なのだそう。女帝(藤十郎)の長寿を願い、鶴(鴈治郎)と亀(猿之助)、そして従者(亀鶴、歌昇、種之助)と侍女(壱太郎、米吉、児太郎)たちが舞いを踊る。
宮中から始まり、天からは藤の花、黄金色の雲の向こうに富士を臨む。藤十郎は、長男の鴈治郎、孫の壱太郎とともに、歌舞伎座を、艶やかな空気で満した。猿之助が華をそえ、長唄と琴の演奏にも加わり、「寿(ことほ)ぐ」という言葉の意味を体で感じさせてくれるひと時だった。
菊五郎✕吉右衛門、贅沢なキャスティング
昼の部最後の演目は、『御存 鈴ヶ森』。年若くしてお尋ね者となった白井権八(菊五郎)は、駕籠にのり江戸の町中まで行くはずが、夜の鈴ヶ森で下ろされてしまう。そこには褒賞金目当てに権八を狙う、ガラの悪い雲助たちがいた。襲いかかる雲助たちを見事にあしらう権八。そこに侠客・幡随院長兵衛(吉右衛門)が通りがかり、声をかけるのだった……。
立廻りでは、雲助(左團次、楽善ほか)や飛脚(又五郎)たちが作るテンポ良く笑いを作る中、菊五郎が美しい刀さばきで観客を魅了する。最後に籠から、幡随院長兵衛(吉右衛門)が登場すると、「待ってました!」「播磨屋!」と次々に声がかかった。吉右衛門の台詞の深さ、大きさ、心地よさは、斬りあいの直後で神経を高ぶらせていた権八の、そして観客の心を大きく動かした。
夜の部は、仁左衛門が11年ぶりに齋藤実盛役を勤める『実盛物語』。猿之助は腕の大怪我からの復帰以来初、2年ぶりの『黒塚』。そして、昭和40年に六世歌右衛門が復活上演した「廓文章(吉田屋)」の後日譚『二人夕霧』(出演:鴈治郎、東蔵、魁春、孝太郎ほか)が上演される。
昼夜を通し豪華な配役の『四月大歌舞伎』は、4月2日(火)~26日(金)までの開催。平成の最後のひとときを、歌舞伎座で華やかに名残り惜しんではいかがだろうか。
取材・文=塚田 史香

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