劇団創立30年、 MONO『はなにら』公
演で土田英生+渡辺啓太が会見~「“
30年よくやってこれた”と“とどまっ
たら終わり”という気持ちが書かせた

劇作家・演出家の土田英生を中心に、1989年に京都で結成された劇団・MONOが、今年で創立30周年を迎えた。シリアスなテーマと軽やかな笑いを両立させた作風と、京都を拠点にしたままで全国に発信し続ける劇団のスタンスは、いずれも関西の後進たちに大きな影響を与えたと言っても過言ではない。次回作『はなにら』は、30周年だから思い切り華やかに……ということにはならず、あえていつものMONOらしい、地に足の着いた会話劇にするそうだ。その記者会見が大阪で行われ、劇団主宰の土田と、昨年7月に加わった新メンバーの一人・渡辺啓太が、作品のことや今後の劇団の動きについて語った。

会見当日はバレンタインデー。「イギリスでは男性の方がチョコを渡すので」と言って、記者一人ひとりに土田がチョコレートを配ったりと、会見場は例年通り大変アットホームな空気が流れる。まずは「別れ」がテーマだという新作『はなにら』の内容について、土田が解説した。
「架空の火山島が20年前に突然噴火して、島が壊滅状態になった……というのが、話の前提になっています。自分の親や妻を亡くした人たちが、避難所で一緒に過ごしているうちに離れられなくなり、疑似家族を作って島で暮らしているという設定です」
土田英生
今回登場するのは、隣同士で住んでいる二つの疑似家族。片方は三人の父親と三人の子どもの六人家族で、もう片方は父と娘の二人暮らし。どちらも20年間平穏に暮らしていたが、六人家族の方の娘の一人が結婚を考えるように。しかしその相手が「島の裏切り者」扱いされている男だったため、周囲は猛反対。そしてこの出来事をきっかけに、全員が自分たちの奇妙な関係性を、今一度見直すようになる。
「あまり強いテーマはないんですけど、家族にこだわることと、島にアイディンティティを持つことと、新しいものを除外するという、ある対立概念を乗り越えて、“個”に戻って新しい結びつきを探しましょう……というのが軸にあります。
たとえば(愛知県出身の)僕は、昔関西の人たちから“自分おもろいと思ってるやろうけど、関西人から見たら全然やで“と言われたりしたんです。それは単純に言うと、関西=笑いみたいなアイディンティティを(関西人は)守ろうとしがちなんですね。それが侵された時に感じる不安みたいなのが、違う形での結びつきを生んで、敵を作って攻撃するという分断社会になってきている。それに対して僕は“そうじゃない方法もあるんじゃないの?”と言いたいんです。思想とかが違っても、取り敢えず皆が話せる場は欲しいという。
その辺のことを語るのに、血のつながりのない家族というのが、一番わかりやすいんです。“家族”という名のもとに勝手に結びついてるけど、ちょっとこれはおかしいんじゃないの? と。それで全員が頑張って個人に戻っていくけど、一方で彼らには20年間一緒に暮らした思い出や、いろんな感情があるわけで、その結びつきはなくならないよね……という、割とベタなお話です。これが喜劇かどうかは定義できないんですけど、僕はずっと笑えるものと笑えないものの境界線を書きたいというのがあって。人によっては笑えたり、あるいは笑えない部分があるとは思うんですが、楽しげな芝居にはなると思います」
MONO第45回公演『隣の芝生も。』(2018年)。今回加入した新メンバーも、トライアル的にゲスト出演していた。 [撮影]谷古宇正彦
このように、六人家族の方では分断社会を暗喩した関係を描きつつ、共依存状態となっている父娘の方は、はからずも現在のMONOの状況を反映したような構造になってきたそうだ。
「この二人も別れさせようと思って書き始めたんですけど、別れる理由が見当たらないんですよ。娘が“楽しいし、今別れなくてもいいよ”と言うのに続けて“わかった”って書いちゃったんで、父親の台詞。そういえば僕たちも、一度劇団解散の話が出た時に、結局“解散する理由がないしなあ”という感じになって、そのまま残ったということがありましたし。だからもしかしたら、ラストが“共依存っていいね!”で終わるかもしれません(笑)。
でもこの共依存の問題は、劇団30周年に向かない話だなあと、最近になって思うんです。長く一緒にいたという情に訴えて、つながりをアピールすることを否定しようとする芝居をやっているのに、演じる自分たちは“30周年おめでとう”と言ってるわけですから。その矛盾は感じるんですけど、多分人の中にはその両方があるんですよね。“30年ようやってこれた”という誇りと“そこでとどまったら終わりだ”という自戒が、こういう話を書かせたのかなと思います」
渡辺啓太
また今回は、劇団30周年記念公演であると同時に、昨年七月に加入した新メンバーを迎えての、初の本公演でもある。20年ぶりに劇団員を増やした一番の理由は「積み重ねがしたかったから」だと、土田は言う。
「2004年から男優五人だけでやってきたんですけど、同い年ぐらいの男五人の話って、そうバリエーションがないので、2008年ぐらいからゲストを呼ぶようになりました。でも劇団の活動を線で見る……自分なりに劇団の物語を作ってやっていきたいと思った時に、それが客演ばかりだと見えにくいんです。やはりキチンとしたメンバーと積み上げていきたいと思い、若い人を対象にワークショップを行って、そこから僕のプロデュース公演に出ていただいたりしながら付き合いを確かめて、四人の俳優に入ってもらいました」
その新メンバーの一人・渡辺啓太は、土田英生セレクション『算段兄弟』(2015年)などの出演を経て加入。昨年はMONOの『隣の芝生も。』で、大柄なのに妙に印象の薄い青年を好演して、しっかりとMONOの世界に溶け込んでいた。
MONO第45回公演『隣の芝生も。』(2018年)。右から二番目が渡辺啓太。 [撮影]谷古宇正彦
「初めてMONOを観たのが2004年で、単純に10何年間ファンだったので、入ろうと思いました。MONOばっかり観てて、他の劇団を知らないというのもあって」(渡辺)
「……それは良くないんじゃない?(一同笑)やっぱり幅広く観た上で選ばれたいから、こっちは」(土田)
「でも男五人だけでやってる舞台って初めてだったし、勝手に吸い込まれていったような、自分の中で。それからはずっと、その五人を観るのが好きという感じでした」(渡辺)
「たまらんなあ。新メンバーが入ったからといって、そんなに変わらないんですけど、ちょっと(元メンバーたちが)小奇麗になった気がします(笑)。五人だけの時は、集団が完全に家族化して、先(未来)を見なくなる可能性があることを危惧してたんです。でも新メンバーは今からというつもりでやりますし、もともといた皆も刺激を受けて、また先を見れるんじゃないかなと」(土田)
今では大半のメンバーが関西以外に居住しているものの、劇団と土田の拠点はずっと京都にあり、土田も「京都を離れる気はない」と言い切る。
「この前ヨーロッパ企画の上田(誠)君としゃべってる時に“東京に行ったらいいんじゃないの?”って言ったら、上田君は僕がどこかのインタビューで“京都にいたって東京の仕事はできるし、何で引っ越さなきゃいけないんだ”みたいなことを言ってたのを読んで“ああ、(京都でも)できるんだ”と思ったと。その当人が何でそんなことを言うのかと、割と絡まれた感じになって(笑)。自分でそう言ったことはあまり覚えてないんですけど、それはすごくありがたかったし、嬉しかったです。
(左から)渡辺啓太、土田英生
昔、京都が誇る先輩たちが、東京に行って東京の劇団になっていくのは、すごく寂しいなあと思ってました。それとやっぱり、自分が芝居を始めた場所が盛り上がってほしいというこだわりがあって、京都でやってきたんで。それで(MONOにならった)ヨーロッパ企画が今これだけ人気があれば、その下(の世代)も「あ、京都でやっていける」と思って……京都だけでなく、関西の演劇が活性化する材料になるんで。今は東京にいることも多いですけど、その思いがあるから、僕は京都にこだわってるのかなと思います」
最近MONOの活動は、年一回の本公演のみという年が続いていたが、今年は30周年ということもあり、『はなにら』以降もしばらく公演企画が続くという。
「この夏には東京と京都で、コントのような公演を一本やります。秋には、今僕らがレジデント・カンパニーになっている(長野県上田市の)[サントミューゼ]で、若いメンバーが中心の作品を。さらに来年の今頃には、30周年の最後として『その鉄塔に男たちはいるという』(第六回OMS戯曲賞大賞作品)を上演します。
これは古いメンバー五人でやるんですけど、同じ舞台を使ったアナザーバージョンを若手中心で作って、二本立てでやろうと計画していたら、ヨーロッパ企画が去年20周年で『サマータイムマシン・ブルース』と『サマータイムマシン・ワンスモア』を(同じコンセプトで)先にやってしまって。もしかしたら『鉄塔ワンスモア』ってタイトルになるかもしれません(一同笑)」
MONO第23回公演 『その鉄塔に男たちはいるという』(1998年)。戦争から逃げて、鉄塔に立てこもった男たちの姿を通して「争い」の本質を浮かび上がらせた。 [撮影]松本謙一郎
土田の生み出す上質の脚本と、それを最大限に体現する劇団員たちのコンビネーションで、派手さはなくても堅実に評価を固めていったMONO。そこで一息付くどころか、新しいメンバーを加えて、さらなる高みを目指していく。この静かなアグレッシブ精神で、次なる目標「京都であと20年続けて、50周年まで行く」を目指して、関西の演劇界を牽引し続けてくれるはずだ。
取材・文=吉永美和子

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