刀剣男士のあたたかな子守唄に包まれ
て  ミュージカル『刀剣乱舞』〜三
百年の子守唄〜 ゲネプロレポート

1月20日(日)に幕を開けたミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜。その初日公演直前におこなわれた公開ゲネプロおよび囲み会見の模様をレポート。
ときは天分11年12月、三河・岡崎城付近。遠征からの帰路、予期せぬ時間遡行軍の襲撃に遭遇したにっかり青江と大倶利伽羅は、急ぎ立ち入った城内で松平軍と時間遡行軍との乱戦に巻き込まれる。応戦虚しく松平の重臣が次々と討ち死にする中、瀕死の状態にあった松平宏忠はその胸に抱いた赤子をとっさに側に居たにっかり青江へと託すのだった──。
2017年に“刀ミュ”第3弾として上演された「三百年の子守唄」の再演となる本作は、刀剣男士たちの「子育て物語」。たったひとり取り残された赤ん坊=のちの徳川家康を無事育て上げることで、時間遡行軍によって今まさに改変されようとしている歴史の軌道修正を行うという、壮大な大河ドラマである。
再演に際してはさまざまなブラッシュアップが施されているが、まず目を引いたのは木肌の質感を生かした5層のセット。グレーやホワイトの無彩色だった前回と比較すると、このほうがより長い年月をかけて紡がれていく物語だというドラマ性が浮かび上がるよう。上方、左右に配された刀を交差したようなフォルムの飾りのシャープさも効いている。
そのセットのすべてをつかって、にっかり青江と大倶利伽羅のもとへ石切丸、千子村正、蜻蛉切、物吉吉貞が駆けつけ颯爽と敵を蹴散らしていく冒頭。戦いながら一振りごとの決めアクションに合わせてスクリーンにキャラクターの姿が大写しになっていくオープニングの一連の流れもわくわくする鮮やかさだ。
ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより
ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより
今回の編成で隊長を務めるのは石切丸。演じる崎山つばさは祈祷の刀としての落ち着きや包容力だけでなく、戦乱の世に散って行く無数の命の前で憤り苦悩している魂の震えを丁寧に表現。そんな石切丸の背中をしっかりと見つめふんわりと支えていくのはにっかり青江。演じる荒木宏文は戦闘スイッチ代わりに長い髪をすっとひとなでする仕草も素敵。アンニュイでシルキーな存在感が美しい。
ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより
妖刀としていくつもの伝説を持つ千子村正を演じるのは太田基裕。人々が己に向ける奇異の目に対する哀しみや諦めにも似た思いを持ち前の強さで胸に閉じ込め、あくまでもお茶目に振る舞う様が愛おしくなる。同じ村正の一派である蜻蛉切は千子村正の一番の理解者。演じるspiはその質朴で誠実な生き様、人柄のまっすぐさを非常にピュアに体現してくれた。
ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより
徳川家康の愛刀である物吉貞宗を演じるのは横田流儀。幸運を引き寄せる刀剣らしく、笑顔を絶やさず周囲を元気づける明るい存在だ。常に戦場を求める孤高のファイター・大倶利伽羅を演じる牧島輝は今回唯一の初出演メンバー。寡黙だが思いやりのある堅物を、迷いなく登場させている。
ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより
桶狭間の戦いほか大きな戦闘シーンはそのどれもが非常にハード。刀剣男士それぞれの特性をきっちり反映させた殺陣は豪壮であり華やかでありスリリング! 立ち居振る舞いにも磨きがかかり、ひとときも目が離せない。

一方でドラマ部分は家康と刀剣男士たちの間にゆっくり確かに流れていく時間の大切さが刻み込まれ、静かに熱い展開。本作の魅力はまさにそこで、血気盛んに熱量で押していたこれまで2作とはまた違う感触、違う佇まいで刀が人のカタチを得、人のココロを得て初めて知る苦悩、喜び、希望……すべての感情を噛みしめながら「愛」というモノを獲得していくさまをとても温かな眼差しで語ってくれている。
ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより

ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより
みんなに慈しみ育てられた家康もまた、周囲の人間たちを大事に思いやってくれる愛の人。人がいて、刀がある。演じる鷲尾昇が放つ豪快で人間味にあふれたオーラは、刀剣男士たちのみならず観客の心にも染みてくるぬくもりがあった。家康の息子・信康(大野瑞生)と吾兵(高根正樹)が織り成す“名もなき人々”へのエールも忘れ難い。
ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより
ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより

歴史を掻き回すのではなく、歴史に寄り添う刀剣男士たちを描いた「三百年の子守唄」。改めて物語を反芻し6振りの顔ぶれをみていると、「ああ、このメンバーだからこそこういうテイストの芝居が実現したのだな」と納得させてくれるチームカラーがある。前回の経験と、ここへ行き着くまでの間に培った刀ミュファミリーとしての自信が、すべてに対して奥深さを与えてくれている。劇中繰り返し歌われる子守唄のように静かに強い在りよう、包み込むような大人の魅力はもちろん2部のライブパートでも大いに生かされているが──その全貌は是非会場にてじかに触れ、確認していただきたい。

ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより

じっくりしっとり派のストーリー✕華やかな大人のパフォーマンスショーで観客を魅了するお得な構成。今回もまた、クセになる1本が完成した。
会見コメント
石切丸役:崎山つばさ
年末はNHK紅白歌合戦への出陣もあり、激動の稽古期間だったのですが、その分いろいろな経験をさせていただきまして、注目度が高まる中、こうして幕を開けられることをうれしく思います。キャスト・スタッフ一丸となって、最高の作品がお届けできるように励みたいと思いますのでよろしくお願いします。
ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより
にっかり青江:役荒木宏文
年末年始にかけてたくさんの方にミュージカル『刀剣乱舞』を知っていただく機会があり、本作が今年一発目の作品ということで、とても大きなプレッシャーは感じているのですが、自信を持ってお届けできるものを準備してきました。ぜひ、このミュージカル『刀剣乱舞』がよりたくさんの方に知っていただけると嬉しいです。
千子村正役:太田基裕
初演から2年、その間もこの千子村正と向き合う時間が頻繁にあったのですが、その中でいろいろ自分の中で膨れ上がったものをあえてなるべく削ぎ落として、いい緊張感の中、この役とまた向き合いたいと思っております。素敵な初日になることを祈りながら、頑張りたいと思います。
ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより
蜻蛉切役:spi
再演ということで、ここにくるまでにみんなでいろんな経験をしましたし、前回より確実に深まったことがたくさんあります。初めて出会ったころの緊張感を大事にしながら、観に来るお客様一人ひとりの背中を押せるような素敵な作品にできたらと思っています。

ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより

物吉貞宗役:横田龍儀
初演のときは、このミュージカル『刀剣乱舞』が初めての2.5次元ミュージカル作品だったのですが、それから2年経って自分がどれだけ成長できたか、ということを感じながら毎日稽古してきました。主様たちにどれだけ自分が物吉貞宗として成長できたかというのを見てもらえたらうれしいなと、今日の初日をすごく楽しみにしています。頑張ります。
大倶利伽羅役:牧島輝
この作品への、たくさんの人の期待をとても感じていて、それに応えられるように頑張りたいと思っています。再演ということではありますが、僕自身にとっては初めての出陣となりますので、初演だという心持ち、新鮮な気持ちで演じたいと思います。

ミュージカル『刀剣乱舞』〜三百年の子守唄〜 ゲネプロより

演出:茅野イサム
この「三百年の子守唄」は、今から2年前、2017年の春にミュージカル『刀剣乱舞』シリーズの3作目として上演されました。この作品は間違いなく、我々のミュージカル『刀剣乱舞』のレベルをぐっと押し上げてくれたと思っています。それはここにいる出演者個々の舞台俳優としての経験の深さやスキルの高さ、また「阿津賀志山異聞」「幕末天狼傳」を経てのスタッフの技術の向上という点が大変大きかったと思います。この作品が、ミュージカル『刀剣乱舞』のハードルを上げてくれ、これからはこれを超えていかなくちゃいけないというものを設定してくれたことが、その後の作品につながっていると思います。
昨年末、NHK紅白歌合戦への初出場を果たしまして、この2019年はこのミュージカル『刀剣乱舞』第二章の始まりだなと思っています。その開幕を飾る作品が「三百年の子守唄」ということは、演出家として大変うれしく思っています。また必ず彼らはさらにこの作品のハードルをぐっと上げてくれると思います。
ストーリーとしては変わっていませんが、演出は大きく変わっていますし、当然出演者も個人個人の役をより深めていますので、観に来てくださる方はぜひ楽しみにしていただきたいと思います。
取材・文=横澤 由香 撮影=岩間辰徳

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