ヨシタケシンスケさん

ヨシタケシンスケさん

絵本作家ヨシタケシンスケ、子どもに
伝えたいこと「できないからこその“
どうするか”がスキルになる」

『りんごかもしれない』『ふまんがあります』『つまんない つまんない』など、独自の作風とユニークな発想で大人気の絵本作家、ヨシタケシンスケさんに、自分のルーツや作家として大切にしている思いなどを伺いました。

『りんごかもしれない』『ふまんがあります』『つまんない つまんない』など、独自の作風とユニークな発想で大人気の絵本作家、ヨシタケシンスケさん。
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4月18日から東京の松屋銀座で開催中の『MOE 40th Anniversary 島田ゆか 酒井駒子 ヒグチユウコ ヨシタケシンスケ なかやみわ 5人展』では、絵本情報雑誌『MOE』がまもなく創刊40周年を迎えることを記念し、人気の絵本作家5人の原画計200点が展示されています。
ヨシタケさんの原画も展示されているほか、過去の造形作品や、制作で実際に使っている道具やスケッチなども公開した貴重な展覧会になっています。
できないからこその「どうするか」がスキルになった――原画を拝見して驚いたのですが、実際の原画は、絵本のサイズよりとても小さいんですね。
ヨシタケシンスケ:ご覧の通り、僕は絵が極端に小さいし、色がつけられないため、デザイナーさんに色はお任せしています。
実は、絵本作家として一番やらなければいけないところが全部できていないんです(笑)。
でも、できないことを埋めていくのではなく、「あるものでどうにかする」ことにしました。王道ができないから、代わりに、どういうアプローチなら喜んでもらえるかということを、考えざるを得なかったのです。
僕の場合、そうして、「できないことが沢山あるからこそ、その人にしかできないことが生まれた」わけです。
そんな道の探し方もあっていいんじゃいないかなと思います。
これは、中高生の頃の僕がとても知りたかったことで、当時「できなかったら、あるものでどうにかする」なんて言われたら、きっとホッとしていたと思います。
――今回の原画展には、ヨシタケさん愛用のノートも飾られていますね。
ヨシタケ:はい、今も持っています(ショルダーバッグからノートを取り出す)。
このノートは、人一倍落ち込みやすくてメンタルの弱い僕が、自分を盛り上げるためのリハビリのようなものなんです。
絵本のネタをどうやって考えているのか聞かれることがありますが、僕の場合は、頼まれもしないのに、こうして勝手に考えてノートに描き綴っていることが練習になっていますね。
一番の短所が、現在では長所となって仕事に生かせている。自分を盛り上げようとしたら、たまたま人を喜ばせることにつなげられたという成功例だと思います。
社会でも仕事でも、自分が楽しんでこそ人を喜ばせられる。それは子育てでも同様です。お父さんやお母さんが楽しんでいるからこそ、子どももニコニコする。
だから子育てって、いかに親が楽するかってことだと思うんです(笑)。
子育ては新しい発見の連続――ヨシタケさんご自身も、2人の小学生のお父さんとのことですが、お子さんがいることは、絵本を描く上で参考になっていますか?
ヨシタケ:子どもを育てていなかったら、絵本は描けなかったと思います。
実は、初めての絵本『りんごかもしれない』の前にも、絵本を描きませんかというお話をいただいたことがあったのですが、その時はまだ子どもがいなくてうまくできなかったんです。
実際に目の前で一人の人間が育っていくと、気付くことが沢山ありました。「ああ、僕もやってたなぁ」と共感したり、あるいは「それはやらなかった」と違う部分で新しい発見があったり……。
絵本を作るとき、僕は「小さい頃の自分」にしか向けていないんです。小さい頃に知りたかったこと、納得いかなかった気持ちをどうにか形にしたいという思いで作ってます。
でも、そういう作り方をすると、自分しか面白いと感じないかもしれない。共感してもらえなければ、商品として成り立たないわけです。
そんなとき、自分の子が同じようなことをやっているのを発見して。
自分と同じ顔で納得していないのを見て、「あ、小さい頃に自分が思った気持ちは、共通してるんだ」「みんな同じことやるんだ」と、裏がとれたんです。
初めての絵本は自分の「好き」を全部詰め込んだ――ちなみに、ヨシタケさんご自身が好きな絵本はありますか。
ヨシタケ:1冊目の絵本を描くとき、「絵本ってなんだろう」と改めて考えて、自分がどんな絵本を読んでいたか思い出したんです。
僕の母は絵本が好きで沢山読んでくれました。その中でも、一番はじめに思い浮かんだのが、かこさとしさんの『からすのパンやさん』のパンがいっぱい描かれた見開きでした。
「お母さん、どれ食べたい?」「今日はこのパンが食べたい」って意見を言い合ったりして、絵本が親子の会話のきっかけになったんですね。
それで、自分が描くなら、そうした絵本の大好きな要素を全部入れよう。逆に、嫌いな要素は入れない。
小さい頃の甘えんぼうで疑り深い自分がニヤッとしてくれるものを作りたいと思いました。
『りんごかもしれない』は、1ページの中の情報量が多くて、これは楽しいと思える本にしました。絵本をきっかけにして、考えたり、人に話したくなったりする。
そういうものを作りだす絵本が好きです。
読み聞かせは無理にしなくてよい!?
読み聞かせは無理にしなくてよい――お母様にはたくさん読み聞かせをしていただいたとのことですが、ヨシタケさんはお子さんに読み聞かせはされますか。
ヨシタケ:あまりしないんですよね(笑)。「絵本作家だから、読み聞かせするんでしょう」とよく言われるんですが……。
子どもに「読んで」と言われることもありますが、本の趣味が合わないし、文字数が多いと面倒くさい。
だから、はぐらかしたり、「え、その本じゃなくて、こっちはどう?」なんて交渉したりします。それはそれで、親子の会話になっているかなと。
必ずしも、間違えずにきれいに読むことだけが本の楽しみ方じゃないと思うんです。
読み聞かせが苦手なら、「表紙だけ見て、意見を言い合ってみようか」とかでもいい。親子で盛り上がればいいんじゃないかな。
――今の時代は情報が多くて、親も「~しなきゃいけない」みたいな頭でっかちになっている部分がありますね。
ヨシタケ:読み聞かせに正解はないと思います。
「~して当たり前」みたいな情報があふれてますが、得意ではない、好きでもないなら、親だからといって、無理に読み聞かせをする必要はないと思います。
本はあくまできっかけにすぎないから、お互いが我慢しなくていい方法を探ればいいんじゃないでしょうか。
たとえば、別の企画を提案してみるとか。そういう”企画力”のほうが大事だと思います。
これは僕個人の気持ちなんですが、たくさん読み聞かせをしてもらっていると、その内、だんだん自分のペースで読みたくなってくるんです。
本の良さには2種類があって、1つは読んでもらってコミュニケーションをとる楽しさ、もう一つは自分で好きなペースで読んで、一人だけの世界に入る楽しさ。読み方。
それぞれの良さを併せ持ったものができれば、一番いいと思います。
夢は変わってもいいということを子どもに伝えたい――もし、自分のお子さんが「お父さんみたいな絵本作家になりたい!」と言ったら、どんなアドバイスをされますか?
ヨシタケ:……「なれたらいいねぇ」って(笑)。「なれるよ」とは言えないですね。
絵本作家自体は、絵本を描けば誰でもなれます。でも、プロとして長持ちするかは別の話。そして、叶わない夢があるということを伝えるのも、親の役目だと思っています。
たとえば、プロとアマチュアの違い、自分の作ったものを楽しんでくれるのは3人だけなのか、あるいは3万人いるのか。
そういったところであれば、今の自分だったら教えてあげられる。僕が自分なりに考えて体験してきたことを伝え、できる範囲で応援したいと思います。
この「できる範囲」というところも大事だなと思いますね。
――「夢は叶わないこともある」と、子どもに伝えるというのは難しそうですね。
ヨシタケ:夢はそこに到達することだけが、正しいことではないと思っています。途中で目的が変わったり、「こんなことになるとは」と方向転換したりするのも楽しい。
人生の醍醐味だと思っています。
小さい頃の僕は、「目的を持たなきゃダメ」「絶対あきらめちゃダメ」といったことに苦しめられていたんです。だから、「大人って結構いい加減なんだよ」ってことを知りたかった。きっと、同じように苦しんでいる人もいるはず。
頑張って夢に到達する人もいれば、コロコロと軌道修正する人もいる。今はコレでも、翌日変わっていてもいい。
「どこかで決めなさい」というのは、自分自身が一番言われたくなかった言葉です。自分が生きてきた経験として、「無理に選ぶ必要はない」ということを、ちゃんと言える大人でありたいと思います。
夫婦で意見があわなくてギスギスした時に、「こういうときは子どものかわいい写真を見れば!」とか、自分を立て直す手段をもっておくのが大事なんだと思う。
それは人それぞれで、写真だったり、好きな人のTwitterだったり。探してないと見つからないので。
探していると、「自分はこういうものが好き」だということがわかったときに、自分を盛り上げ直すスキルにつながります。
――ヨシタケさんにとっての、自分を盛り上げるツールは何ですか?
ヨシタケ:僕は、紙とペンさえあればよいです。文章が好きな方はブログで残すだろうし、写真で残す人もいるでしょう。
どういう形で記録に残し、あとに役立てるか、その手法は人それぞれなんです。創作活動の根っこにあるものは、自分を楽しませるものだと思います。
展覧会に込めたメッセージ
100%再現できないからこそ、イラストで描く面白さがある――ヨシタケさんは、何かを見たり考えたりしたとき、頭の中に絵が浮かぶのでしょうか。それとも、もう手が勝手に動くものなんでしょうか。
ヨシタケ:両方ありますね。たとえば、道を歩いていて、すごく面白い髪型の人にすれ違ったとします。そうすると、気になって、色々考えるわけです。
「あの人、どうしてあの髪型でヨシとしたんだろう」「なんか実験に失敗しちゃったんじゃないか」「本人は決まっていると思っている」とか(笑)。それをイラストに描くと、ドラマを感じるわけです。
でも、あの髪型を見た瞬間の面白さは、残念ながらイラストでは描ききれないんです。情報が減ってしまうから。
それを、一番ちゃんと記録できるのは写真なんです。イラストだと減ってしまう。100%再現できないから、悔しいんです。
それで、せめて「これからどうしても受かるわけにはいかない面接に行くのかな」とか、そういう方を面白がることにしているんです。
前後や設定を面白がる。こうやってイラストで残していると、イラストにしたときに一番面白くなるものを探すようになるんです。
何で記録を残すかによって、残すべき面白さが違ってくるということを、イラストを描くことで、気付くようになりました。
そして、イラストで一番効果的な面白がらせ方があるのが、だんだん自分の中でわかってくる。
それがイラストを描き続けていて楽しいことの一つでもあります。「こうすると急におもしろくなった」とか「イラストにすると面白くないな」というズレも面白いところでもあります。
――作家としては、「これは、人は楽しいのか」という点は考えなくてはいけないんですよね。
ヨシタケ:それが一番の悩みなんです。世の中には天才がいて、みんなが好きなものを作ってすごい結果を出す人もいます。
僕は天才ではないので、「自分はこういうのが好きなんですけど」というものしか作れない。それがたまたま、面白いと言ってくださる方が沢山いて、僕は今ここに座っているわけです。
それはもう運でしかないなと思っている。だから今後、「それはわかんないな」という可能性もあると思います。
――最終的には自分を信じて作っていくしかないと?
ヨシタケ:ここ数年でやっとわかったんですけど、自分が「人に面白がってもらおう」と思っているものを人に見せて、「面白くない」と言われたときの恥ずかしさって半端ないんです(笑)。
「みんな、こういうもの好きでしょ」と思って見せて、「好きじゃない」と言われたら恥ずかしい。
最低限、「自分は面白い」というものが担保としてないと、受けなかった時に立ち直れないんです。受けなかった時もありますが、その時に「自分は面白いと思うんだけどな」という心の支えがないと、次のものが作れないんです。
プロとして続けていくためにも、自分を面白がらせること、最後まで自分が楽しめていたかということは大事。結果が出なかったとしても、自分なりの満足度ができていたかが大事ということが、ようやく最近わかってきました。
それは、作家という仕事で人を面白がらせるという場合、100%の成功率ではないわけです。失敗したときにどうするか。「自分が気に入っているか」というのは、そのとき用の保険だったりします。
「余裕のない自分」を見て安心してほしい――そうすると、今回の展覧会では、ある意味ご自分を出しているとも言えますが、一言でいうと自分の何を展示していると思いますか。
ヨシタケ:独りよがりなところですね(笑)。自分のことで手いっぱいなんだなってところをわかってもらえればいいと思います。
人のために動ける人はすごいと思うのですが、僕みたいに、人のために動ける余裕のない人、自分自身を落ち込む状態から救い上げるのに精いっぱいな人っていっぱいいるんですよ。
――子育て中のお父さんお母さんもみんなそうですよね。
ヨシタケ:そうですね。僕は、自分を救いたくてしょうがないんです。そうしてできたものが、結果的に面白かったと言ってもらえれば、そんなにうれしいことはないです。
そして、「この人はこんなに余裕がないんだな」って(笑)。「こんなに余裕のない人でも絵本が描けるんだな」っていうメッセージになればと。それを若い頃の僕が見れば、すごく救われたと思います。
「自分のことしか考えていないんだな」ということが、今回の展示で見えてくれば、成功だと思っています。こういう方法論の人もいるという具体例を見せることで、「自分はどういう方法を探せばいいのか」というところにつながってくれればいい。
ひとつの特殊な例として、以下でも以上でもない見え方をしてくれればいいなと。展示を見て、「こういう人もいるんだ」って。

一つ一つの言葉を大切に、真剣に話してくれたヨシタケシンスケさん。小さなスペースに描き込まれた原画からは、ヨシタケさんの思いが伝わってきました。
毎日の育児で余裕のなくなっているお父さん、お母さんも、ヨシタケシンスケさんの絵本を子どもと一緒に開いて、のんびり眺めてみるのはいかがでしょうか。
MOE 40th Anniversary
島田ゆか 酒井駒子 ヒグチユウコ ヨシタケシンスケ なかやみわ 5人展会期:2018年4月18日(水)〜5月7日(月)まで
会場:松屋銀座8階 イベントスクエア
時間:10:00〜20:00PM(入場は閉場の30分前まで。最終日17:00閉場)
入場料:一般800円、高校生600円、小中学生400円
問い合わせ:松屋銀座 03-3567-1211(大代表)

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