Best Tracks Of 2017 / Takato Ishi
kawa キュレーター、Takato Ishikaw
aによる2017年の年間ベスト・トラッ
ク!
5. Fitness Forever / Tonight ft. Kidsaredead
他ではあまりピックアップされてないかもしれませんが、今年リリースされたディスコ系だと今作が1番好きでした。伊ナポリ出身の7人組で、しなやかなリズム隊にストリングスや混声コーラスのアンサンブルで綺麗なメロディを鳴らしているイタロ・ポップ・バンドなんですが、今作はとにかくダンサブルな楽曲が目白押し。なかでもこの曲は、Burt BacharachやBarry Whiteがエレガントなディスコをやったかのような踊れる多幸感に満ちていて、ゲスト・ボーカルを招いて珍しく英詞で歌っているのもよかったです。加えて今作には、Daft Punk『Random Access Memories』を録ったエンジニアを迎えており、特にヴァイナルで聴くとわかるんですが、音がとにかくいい。たまに「イタリアの渋谷系」というパラレルな紹介のされ方を見かけますが、それくらいメロディ・センスの優れた曲をたくさん作っているバンドなので、イタリア語のボーカルに慣れてない方もぜひ一聴を。
4. Vulfpeck / Running Away (ft. Joey Dosik, David T. Walker & James Gadson)
個人的にいま1番来日してほしいバンドがこのVulfpeckなんですが、今年リリースした新作もやはりすごくよかったです。ポップネスに突き抜けた昨年のアルバムから知ったファンは今作の大人しさに多少肩透かしを喰らうかもしれませんが、実はこのくらいの温度感の曲はこれまで度々弾きこなしてきました。この曲は2012年くらいにレーベル・メイトが作った最近の曲なのに、70〜80年代モータウン周辺にタイムスリップしたかのような独特の聴き心地のよさがあります。ゲストの面々からしてそういう意図を漂わせてますが、それをアルバム全体に散りばめて、いつの時代でも聴けるポップ・ファンクをつくってみた、というのが今作の狙いなのかなと感じました。こういう昔の音楽を今の新しい音で伝えてくれる存在ってすごく大事だと思うのですが、それを遊び心満載かつ自然体でやっているところがVulfpeckの好きなところでもあります。
3. Thundercat / Show You The Way (feat. Michael McDonald & Kenny Loggins)
今年ジャズ界隈でKamasi Washingtonとともに注目を浴び続けたプレイヤーといえば彼でしょう。今年2月にリリースされた3rdアルバム『Drunk』が大きな話題を呼び、音楽メディア各誌の年間ベストにも多数ピックアップされるなど、今のメインストリームで最も勢いのあるベーシストだと思います。一見、天才肌に見えがちな彼ですが(そして実際そうなんですが)、裏ではすごくストイックな努力家でもあり、今作では特にボーカルがとても洗練されているなと感じました。過去作でもシルキーな声質を響かせていましたが、歌が上達したことによって70〜80年代AORのような歌モノが充実して、気がつけば耳に残るのはベースよりも歌という印象。中でも極みなのがこの曲です。巧みなフレーズも弾けてトータルの表現でも魅せれるベーシストとして、キャリアの幅をグッと広げた屈指の名曲だと思います。
2. Calvin Harris / Heatstroke ft. Young Thug, Ariana Grande, Pharrell Williams
『Funk Wav Bounces vol.1』収録曲だと「Slide」、「Feels」あたりが推されてますが、この曲も実はすごい名曲で、個人的にアルバムで1番ヘビロテしていたのはこの曲でした。この曲、シンギング・ラップ、ファルセット、バラードというゲスト3人の隠れたストロング・ポイントにスポットを当てて、それをチル気味なブギー・サウンドに乗せ、華麗なマイク・リレーを繋げてみたらビックリするくらい普遍的なポップスが生まれた、という魔法のような曲だと思います。アルバム全体の特筆すべきポイントとしては、タイム感の統一による徹底した聴きやすさがありますが、その狙いとしてはダンス・フロアよりも車のカーステレオから流れるような、日常のサウンドトラックをEDMのトップ・スターが作り上げたという一点に尽きるでしょう。本来ならばトップにしてもいいくらいアルバムともに最高の出来なんですが、サマソニはじめ他の公演でも脱EDMモードのライブを見せれてない(いまだEDMを求む多数オーディエンスをFWBに引き込めてない)という点で、今後に期待を込めてこの位置にしました。
1. 小沢健二 / 流動体について
「あらゆるものが絶えず変化し続ける世の中で、じぶんは意志をもっていまを生きているだろうか」と、いまや家庭を持つ身である今の小沢健二だからこそ書ける、いつ時代の都市でも流れるべき大衆音楽と言えるでしょう。個人的な話、1992年生まれの私にとって物心がついたころにはすでに小沢健二はNYに渡っていたわけですが、こうして時間軸が重なりリアル・タイムで活動を追えているいまこそ、私にとっての「LIFE」なのかもしれないと、今年を振り返ってそんなクサい感情を抱いた1年でした。
Comment
あくまで個人的な所感なんですが、今回挙げた5曲にも通底しているストリーミング時代の音楽的傾向を挙げるならば、「コラボ」、「温故知新」、「聴きやすいサウンド」があると感じました。横の繋がりによって新たな創作が生まれ、過去作を手軽に聴けることでリスペクトできる先達が見つけやすくなり、プレイリスト文化が広まり、かつ日常のシーンで流れても違和感のない楽曲が求められているのでは、と。特に「コラボ」、「温故知新」って要するに「ヒップホップじゃん」って思ったのですが、この5曲も根底ではそうだし、よく聴かれてるポップスにもヒップホップ的感覚が多く流れていると思いました。なので、今後はサウンドのセンスがいいのは前提として、そういう編集力で聴かせていくリリースがどんどん速度を上げて増えそうだと、個人的に感じた1年でした。今、ブラック・ミュージックが盛り上がっているのもそういう感覚と結びつきやすいからかなと思うと、今後しばらくこの流は続くだろうと、ほくほくしている年末でございます。
番外編 マイ・ベスト
【ベスト・プレイリスト】
『Soul Lounge』
■Takato Ishikawa 過去記事:https://spincoaster.com/author/takato-ishikawa
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