寺脇康文&宮澤佐江&六平直政がユー
ミンを語る! 舞台『朝陽の中で微笑
んで』インタビュー

ユーミン✕帝劇の最強コラボレーションが三たび登場となる。
11月27日(月)より開幕の『朝陽の中で微笑んで』は、ユーミンこと松任谷由実の楽曲をもとに、松任谷正隆脚本・演出、そしてユーミン自らが歌とストーリーテリングを担当する人気シリーズの第3弾。本作では、寺脇康文、宮澤佐江、六平直政ら豪華キャストを迎え、500年後の未来を舞台に壮大なSF純愛ストーリーが描かれる。
そこで、開幕を間近に控え、稽古に熱が入る寺脇、宮澤、六平の3名に直撃。謎のヴェールに包まれた本作の一端を語ってもらった。
松任谷正隆という才能は、唐さんや蜷川さんの域にある
ーーまずは今回の『朝陽の中で微笑んで』という作品についてお話しいただけますか。
寺脇 本作の根底に流れているのは、「生まれて、生きて、死ぬ」という、生命にまつわる壮大なテーマ。生命の誕生と、生きるということ、そしてそれが無となる虚しさを描いた非常に大きな作品です。死生観というのは、とても普遍的な題材であり、いろんな考え方ができるからこそ難しいものでもある。観てくださる方にも、登場人物を通じてじっくりと考えていただけるような、大きな愛を持った作品だなと思いました。
寺脇康文
宮澤 ある人物が非常に大きな行動を起こすのですが、決してそれは間違えているわけでも悪いわけでもなくて。世の中のルールから見れば悪いことなのかもしれないけれど、その人にとってそれが幸せであるならばいいじゃないというふうにも感じられるし、やってしまった以上、それを償う必要もあるんだとも思わせられる。すごくシンプルでわかりやすい話ですが、一言一言の台詞にものにすごく深みがあって。ハッピーなことも、悲しいことも、すべての感情が一本の線に沿って紡がれているような作品だなと感じました。
ここ最近、立て続けに舞台のお仕事をさせていただいていますが、自分が歌う場面のないお芝居はこれが初めて。私にとっても分岐点になる作品だと思います。心をこめて、私自身を捧げるつもりで演じさせていただければ。
宮澤佐江
六平 俺も彫刻をやっているからわかるんだけど、芸術って最後は好き嫌いがすべて。たとえばセザンヌは好きだけど、ゴーギャンは嫌いっていう人は世の中にいるわけじゃない? でも、そんなゴーギャンも立派な天才。要するに芸術の判断基準は、好きか嫌いかだと思うわけ。俺は状況劇場で芝居をやってきて、あれだって小汚いテント芝居だって毛嫌いする人はいたけども、どんなに嫌っても唐十郎が芥川賞も獲った天才である事実は変わらない。
何が言いたいかと言うと、俺は松任谷正隆という芸術家が書いたこの脚本がすごく好きなんだよ。言葉もいいし、世界もいいし、演技と由実さんの歌の化学変化もすごくいい。松任谷正隆という作・演出家にはセンスがあるよね。俺はこれまで唐十郎や蜷川幸雄という天才と何十本と芝居をつくってきた。そんな俺の目から見ても、松任谷正隆という才能は唐さんや蜷川さんの域にあると思う。斬新で、新鮮で、もしかしたら俺が今までやってきたどの作品よりも素晴らしいんじゃないかとすら思える。だからさ、とりあえず観てごらんと言いたいよ。絶対驚くから。
六平直政
ーー早速、松任谷正隆さんの名前が出ましたが、寺脇さんや宮澤さんは正隆さんの作・演出のどんなところに独自性や面白さを感じていますか?
寺脇 正隆さんは、自由に僕らを泳がせているようで、ちゃんとどちらの方向に進めば良いのか導いてくださる稀有な演出家さん。柔軟な部分と硬派な部分、両方がちゃんとあるんですよね。演出家によっては、役者の気持ちとは関係なく歩数も振り返るタイミングも決めてくる方もいらっしゃるし、好きにやってみてってだけの方もいらっしゃる。でも正隆さんは両方をちゃんと持っていらっしゃるんです。
役者に自由にやらせてみて、正隆さんの思う方向性と違うようであれば、ちゃんと指摘してくださる。一度泳がせることで筋肉をつけさせて、そこから理想の方向に導くというか。そういった優しさを持った演出家さんだなと感じています。
宮澤 寺さん(寺脇)のおっしゃった通りで。しかも教えてくださるときも、単に「こうして」と指示するのではなく、「こういう感情に持っていってほしいんだけど、そのためにはどこから持っていけるかな?」って常に逆算で話してくださるんですね。
私はアイドルを10年やっていて。振付で決められたフォーメーションに移動するときも、常にこのタイミングであの位置に行くには、何歩くらいここで自由に動いてから向かえばピッタリと合う、といったふうに逆算で考えるクセが身体に染みついているんです。だから、正隆さんの言い方が私にはすごくしっくり来るというか。じゃあ、ここでこの感情まで持ってこられるように、その前の芝居をもう少しつめてみようとか、あれこれ考えながら役と向き合っています。
鳴沢という男のイメージは、稽古に入って180度変わった
ーーでは、それぞれ演じる役柄について今思っていることなどお話しいただければ。
寺脇 僕は主人公の鳴沢という男を演じるんですけど、最初に台本をいただいた時に持った役の印象と、実際に稽古に入ってつくり上げている鳴沢というキャラクターが180度違うんですね。最初はこの鳴沢という役を、表情のない男だったり、動きのない男だったり、感情の揺れない男だったり、笑わない男といったふうに、ダークな面ばっかり捉えて演じようとしていた。
でも稽古が始まってすぐ正隆さんから「それは違うよ」と言葉をいただいて。ちょうど六平さんとのシーンだったんですけど、「六平さんは今の感じでいいです。だから寺脇さんが変えてください。六平さんに合う感じの演技にしてください。そしてこの鳴沢という男をここで印象づける演技をしてください」と言われたんです。最初はその言葉の意味がわからなくて。でも、いろいろと考えているうちに、あるとき、ピーンと来たんです、「そうか、逆のことをやってみればいいんだ」って。
どんなに暗い男だって、常に無口なわけじゃない。情熱も持つし、笑いもする。鳴沢は、ある想いがあって動いているだけ。だから明るいところは明るくつくり変えてみたんです。そしたらしっくり来て、正隆さんはこれをおっしゃっていたんだな、と。正隆さんは、まずは役者にちゃんと考えさせてくれる。たぶん最初から正解を提示されていたら、逆にそれを本当の意味で理解するのに時間がかかったと思う。自分で考えられたからこそ、ちゃんと自分でトンネルの出口を見つけられた。おかげで今は鳴沢という男を演じる上で迷いややりにくさは一切感じていないですね。
寺脇康文
宮澤 私はこの作品で舞台が今年4本目なんですけど、たまたま続いているということもあって、舞台への感覚がやっと身体に染みこんできたなという状態でこの稽古場に入ったんですね。おかげで、現場でもすごくリラックスして過ごせています。そんな今の私と、紗良という役柄がすごく一致するところがあって。たぶんもう少し前の私だったら、紗良との違いをいろいろ感じる部分があったはず。そういう意味でも、すごくいいタイミングで出会えた作品ですね。
変に力が入っているうちは紗良の良さは出てこない。それが自分でもよくわかるし、自然とのびのびやれるような状態を正隆さんがつくってくれているおかげで、すごくすんなり演じられています。本番に入ってからもあまり「紗良はこうだから」と固定しすぎず、毎日進化し続けるくらいの気持ちで演じたい。きっとその方が新鮮な紗良になるんじゃないかなという気がします。
宮澤佐江
六平 俺は医者の役なんだけど、ピンボールのようにぶつかっていく寺ちゃんと佐江ちゃんにフックを与えていくような役どころだね。面白いですよ、寺ちゃんとの長丁場のシーンがふたつもあるし。50年近くやっていれば、いい役者なんてのはすぐにわかるのよ。そこで言うと、寺脇康文という男はやっぱりいい役者だなって思うし、佐江ちゃんもいいよね。昔、蜷川さんが「売れてるっていうのは恐ろしいよ」なんてことを口癖のように言っていたけど、まさにその通り。第一線のアイドルグループにいた人間にしかないものがある。
いわゆる悪い役だけど、悪役だからっていかにも悪そうに演じちゃつまらないからね。ふたりにいいフックを与えられるようやりたいなとは思っていますよ。
六平直政
由実さんの歌をしっかり受け止めて、感じたものを表現したい
ーー何と言っても気になるのは、ユーミンこと松任谷由実さんとの共演です。
寺脇 こんな最高のシチュエーションはないですよ。稽古場でも、本物の由実さんの歌声をすぐそばで感じられる。すると芝居をしながら自分の感情がまた倍増されていくような感覚になるんです。
由実さんも稽古だから手を抜こうなんて素振り一切ない。毎回、本気で歌ってくださる。だから、僕らも本気で応えます。そうやって相乗効果みたいにお互いにエネルギーを渡し合うというか。僕らの演技を見て、由実さんもさらに気合いをこめて歌おうと思ってくださっていれば嬉しいし、たぶんそう思ってくださっているんじゃないかなと感じています。
宮澤 由実さんはどちらかと言うと、私のお母さん世代の方がよく聴いていた方。でもそんなふうに全然世代の違う私でも名前や声はもちろん知ってるし、聴いたことのある歌がいっぱいある。そんな偉大な方とご一緒できるということ自体、本当に贅沢だし幸せです。
しかも今回、歌っている由実さんに対して、私がその歌を感じ取って目を合わせるというシーンがあるんです。その場面は、毎回不思議な気持ちになりますね。自然と芝居をしていないです、あそこは。もう自分の身体に降りてきたものを、そのまま感じて動いているような感じで。今まで経験したことがないような感覚になります。たくさん稽古をやらせていただいていますけど、そのシーンは何度やっても決して鮮度は落ちないように。そのときの由実さんが私に歌ってくれた言葉だったり音楽を心でしっかり受け止めていきたいなと思っています。
六平 由実さんは、俺たちの世代のエポックスターだから。もうどれだけ素晴らしいかなんてこと、わざわざ俺が言うまでもないでしょう。しかもそれでいて笑いのセンスもあるんだよ。この間もね、盆(※回転舞台のこと)がまわる演出があって。そのときに「盆が回りますから、みなさんお客さんに顔を向けるように回ってくださいね」なんて指示が飛ぶわけですよ。そしたらそこで由実さんが「六平さんは後ろに顔描いちゃえばいいじゃない?」なんて言うわけ。それで俺が「後ろだけじゃなく左右にも描いたら一切まわる必要がないね」って返したら、「あ、そうね、そうしたらいいわ」って(笑)。面白いでしょ、言うことが。普通の人と発想が違うよ。そんな人の歌と一緒に芝居ができるんだから幸せですよ。ホンも演出も歌もいい。幸せな時間を送ってるなと噛みしめながら、毎日稽古をやってます。
(左から)六平直政、寺脇康文、宮澤佐江
取材・文・撮影=横川良明
公演情報

ユーミン✕帝劇vol.3 『朝陽の中で微笑んで』
■日程:2017年11月27日(月)~12月20日(水)
■会場:東京都 帝国劇場
■脚本・演出:松任谷正隆
■出演:松任谷由実 / 寺脇康文、宮澤佐江 / 水上京香、中別府葵、島ゆいか、山田ジェームス武、入絵加奈子、六平直政、斎藤洋介
■公式サイト:http://www.tohostage.com/yuming2017/

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