生き方も装いも美しい、パリジェンヌ
の魅力に迫る 『ボストン美術館 パ
リジェンヌ展 時代を映す女性たち』
報道発表会レポート

芸術の街、パリに生きる女性、パリジェンヌ。彼女たちの装いやライフスタイルに注目し、18世紀から20世紀にかけて、パリジェンヌが歩んだ歴史を紐解く展覧会『ボストン美術館パリジェンヌ展時代を映す女性たち』(会期:2018年1月13日〜4月1日)が、東京の世田谷美術館にて開催される。都内で開かれた報道発表会より、本展覧会の見どころをレポートしよう。
パリという都市が、人々に感情を与える
本展は、政治や文化の中心がヴェルサイユからパリへ移った18世紀から、時代の変遷と共に多様な生き方を展開していくパリジェンヌたちを、ボストン美術館所蔵の作品約120点を通し、全5章に仕立てて紹介するもの。
世田谷美術館館長 酒井忠康氏は「本来は人々の感情が社会に映し出されて、その都市を形作るものであるところが、パリは逆なのではないか。パリという都市が人々に感情を与えて、長く住むうちに、いかにもパリらしい人間の顔つきになっていく。世界の中でも、パリは特別な匂いのする街」と、パリという街の特性を語った。都市が人々に作用を及ぼす様を、パリジェンヌと呼ばれる女性たちを通じて読み解いていく展示となっている。
レギーナ・レラング《バルテ、パリ》1955年 Gift of Leon and Michaela Constantiner 2010.429 Münchner Stadtmuseum, Sammlung Fotografie, Archiv Relang
華麗な装いが流行を彩る
哲学や文学を語り合うサロンの場を取り仕切る女主人。客人をもてなす彼女たちの生活様式や絢爛豪華な衣服は、第1章「パリという舞台 邸宅と劇場にみる18世紀のエレガンス」にみることができる。
《ドレス(3つのパーツからなる)》1770年頃 The Elizabeth Day McCormick Collection 43.1643a-c
18世紀のパリジェンヌについて学芸員の塚田美紀氏(世田谷美術館 学芸部主査 学芸員)は、次のように語る。「この時代に登場してくるのが、ダンサーとして活躍する女性たち。舞台衣装や髪型がそのまま流行アイテムになり、舞台という夢のような世界を現実にうつそうとしたのが、当時のファッションです」。
塚田美紀氏(世田谷美術館 学芸部主査 学芸員)
印刷技術の発展により、現代のファッション誌ともいえるファッション・プレートと呼ばれる版画が流通するようになった18世紀末。流行のファッションスタイルが色彩豊かに描かれることによって、パリジェンヌたちの情報伝達に役立っていたのだ。
絵画に見るパリジェンヌのイメージ
第2章「日々の生活 家庭と仕事、女性の役割」では、家庭における姿、あるいは労働者として働くパリジェンヌのイメージを描いた作品が登場している。ボストン美術館の学芸員が本展に《アイロンをかける若い女性》を選んだ理由として、塚田氏は「誘惑する眼差しを向ける召使いがいて、画面左に描かれた白い布は、よくみると今にも火がつきそうになっています。こうした含みのある絵は、当時のブルジョワの殿方に大変人気がありました。働く若いメイドに対して、ご主人様たちがどういうファンタジーを抱いていたのか、ということが非常によくわかる興味深い作品であるとして、本作品が出展されました」と語った。これらの作品は、当時のパリジェンヌの実態というより、男性から見たイメージを示す作品である。
ルイ=レオポルド・ボワイー《アイロンをかける若い女性》1800年頃  Charles H. Bayley Picture and Painting Fund 1983.10
また、第3章「パリジェンヌの確立 憧れのスタイル」では、印刷物などを通して海を渡ったパリジェンヌの流行の伝播を追う。ボストンの社交界で著名な女主人を描いたジョン・シンガー・サージェントの《チャールズ・E.インチズ夫人(ルイーズ・ポメロイ)》は、当時のパリで流行したファッションデザインを取り入れ、アメリカの女性がパリジェンヌになりきる装いを描いたものだ。
ジョン・シンガー・サージェント《チャールズ・E. インチズ夫人(ルイーズ・ポメロイ)》 1887年 Anonymous gift in memory of Mrs. Charles Inches' daughter, Louise Brimmer Inches Seton 1991.926
スキャンダルを巻き起こしたマネの代表作
そこにも登場したパリジェンヌ
本展の注目作品である、印象派のエドゥアール・マネが描いた《街の歌い手》は、第4章「芸術を取り巻く環境 制作者、モデル、ミューズ」でみることができる。
エドゥアール・マネ《街の歌い手》1862年頃  Bequest of Sarah Choate Sears in memory of her husband, Joshua Montgomery Sears 66.304
この絵のモデルを務めたヴィクトリーヌ・ムーランは、労働者階級出身のパリジェンヌで、マネの代表作《草上の昼食》や《オランピア》にも登場する常連モデルだ。モデルという仕事はふしだらであるという偏見が強かった19世紀、彼女は後にサロンに出品する作品を手がける画家として活動したという。
この作品をめぐるエピソードについて、塚田氏は次のように解説した。「労働者階級の女性を、まるで王侯貴族のように大きく、等身大に描いたマネの作品は酷評されましたが、作品を買い取ったのは、ボストンの女性コレクター、サラ・チュート・シアーズです。彼女自身、画家や写真家として活動しつつ、米国女性画家カサットとも親交がありました。カサットの勧めもあって、彼女が作品購入を決めたように、色々な女性の物語が何重にも織り込まれています」。
女性芸術家の活躍が目覚ましいこの時代、米国女性画家メアリー・カサットや、印象派の中心メンバーであるベルト・モリゾの作品も本展に出品されているので、合わせてチェックしたい。
メアリー・スティーヴンソン・カサット《縞模様のソファで読書するダフィー夫人》1876年 Bequest of John T. Spaulding 48.523
第5章「モダンシーン 舞台、街角、スタジオ」では、20世紀に入り、より自由になったパリジェンヌたちの魅力に迫る。
ゲアダ・ヴィーイナ《『ジュルナル・デ・ダム・エ・デ・モード』より、プレート170》1914年 Gift of Philip Hofer, Esq. 63.2578

シャルル・ナイヨ《ダンスする女性シリーズ<ムーラン・ルージュの舞踏会>より》1905年 Collection of Leonard A. Lauder
最後に塚田氏は本展覧会について、「パリが、新しい生き方を求める、強くてしなやかな女性たちの街であり続けたことがよくわかる展覧会」であるとコメント。時に美しく、したたかな彼女たちから多くのエネルギーを得られるであろうこの機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
Photographs ⓒ Museum of Fine Arts, Boston

イベント情報
「ボストン美術館パリジェンヌ展 時代を映す女性たち」
会期:2018年1月13日(土)〜4月1日(日) 休館日:月曜日 ※2月12日(月)は開館、翌13日(火)は休館
会場:世田谷美術館
開館時間:10:00〜18:00 ※入場は17:30まで
入場料:一般1500円(1300円)65歳以上1200円(1000円)大高生900円(700円)中小生500円(300円)※()内は前売り料金/団体(20名以上)通常前売は10月5日から2018年1月12日まで販売
主催:世田谷美術館(公益財団法人せたがや文化財団)、ボストン美術館、NHK、NHKプロモーション
http://paris2017-18.jp/
 

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