【熊谷育美】気負いしないぐらいの懐
の深さは欲しい
震災前日に作り終え、無事リリースまで辿り着いたニューシングル「雲の遥か」。自身も自然の脅威を経験し、美しい気仙沼の風景、心休まる時間の流れが詰まった本作を歌うことに大きな意味を感じるという。
取材:ジャガー
これまではピアノを主体とした楽曲でしたが、今作ではギターがフューチャーされていますね。
『雲の遥か』の大枠は2年前にできていて、その時はピアノで作ったんですけど、今回リリースするにあたって歌詞の手直しをしたんですね。だったら、装い新たにギターのサウンドで歌ってみようと思ったんです。
体の内からじわじわと温もりが伝わってきました。
自分でも新しい発見で、優しいギターの音色に寄り添うように歌いました。プロデューサーやディレクターさんと相談して、“違う服でもまとってみようか?”って本当軽い感じでやったんですけど。初めての試みということもあって面白かったですね。これまではピアノの弾き語りに近かったので、感情を鍵盤に叩き付ける感覚で歌い方もそうなってたんですけど、今回はすごく優しい気持ちで。
包容力もありますよね。包み込む“母親”という存在。熊谷さんが生まれ育つ気仙沼の雄大な自然を感じることができました。
そう言ってもらえると嬉しいです。この曲を作った2年前は気仙沼の実家で曲作りに没頭していた時期で。それで何て言うか…無意識なんですけどね。気仙沼の風景とか、空気感だとか、今までの曲もそうですけど、私が普段生活している中で触れるものが無理なく詰め込まれているんじゃないかと思います。朝起きて、ご飯作って、庭のお手入れをして(笑)…そんな感じで。だから、曲を作ってみて“あぁ、私はこんなことを考えていたんだ”って気付くことも多いですね、改めて自分を見直すような。あと、東北人ってわりと耐える気質で弱音を吐かないんですね。だから、曲中でも《もしも弱音を吐いたなら》と言ってますけど、堪えていた感情を受け止めるんだから、吐き出す人が気負いしないぐらいの懐の深さは欲しいなと思い、歌詞も曲も聴き手を包み込めるよう心がけました。
歌の主人公は、一番踏ん張らなければいけない状況にいて。苦しみながらも前をしっかり歩み出そうとしている姿に奮い立たされました。人それぞれ直面する場面で心に訴えかける曲ですが、聴き手に解釈を委ねている部分が多いように思います。
そうかもしれません。特定はしてないです、何も。だから、男の人がこの曲を聴くと違う感想を持たれるかもしれないし、ご年配の方に聴いてもらうとまた違った印象を受けるのかもしれない…それは自由に感じていただき、みなさんの歌にしてもらえたら嬉しいですね。
“雲の遥か”というタイトルのハマりも良いですよね。
人生って上手くいかないことも多々あって、自分自身も結構悩みやすかったりするんですけど、それが人生なのかなって。例えるなら、坂道をちょっとずつでも上っていくような感じかなっていうところからタイトルを付けました。距離はあるかもしれないけど、結局は全部つながっているもの。
ライヴで馴染み深い2曲目の「花びら抱いて」もそうですが、普遍的なテーマを歌われていますよね。“2年前に作った”とおっしゃっていても、最近できた曲のように感じましたし。
老若男女に聴いてもらえる曲が作れたらいいなっていうのが唯一あるからかもしれません。みんなに口ずさんでもらえる歌を作りたいし、そういう歌い手になりたい。それ以外は特にこだわりはなく。あと、故郷にいるっていうのが大きいかな。街に溶け込むいち市民として、何ら変哲のない生活を通じて感じることを歌っているので、普遍的なテーマになっているんだと思います。
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