【フジファブリック】新たな挑戦から
見えてきたフジファブリックの未来
フジファブリックが完成させた、新たな挑戦をアピールするコンセプトミニアルバムの第二弾『GIRLS』。山内総一郎(Vo&Gu)の言葉からは今回の挑戦がバンドの今後を見据える上で有意義なものになったことがうかがえる。
取材:山口智男
今年も残すところ3カ月になりましたが、10周年のアニバーサリーイヤーだった昨年同様に今年も忙しい1年になりましたね。
そうですね。“BOYS”と“GIRLS”というコンセプトを掲げたミニアルバムを2枚リリースするチャレンジを楽しむ1年にしようと思ったんですけど、蓋を開けてみれば大変でした。ミニアルバムを2枚出すなんて、なんで言っちゃったんだろうって(笑)。楽しんではできたんだけど、ミニアルバム2枚って曲数で言ったらアルバム1枚分ですからね。しかも、プロモーションは倍(笑)。プロモーションしていただけるのはありがたいことですけど、やっぱり曲作りが大変でした。
フジファブリックの新しい面を見せたい、やっていないことに挑戦したいと年明けにおっしゃっていましたが、具体的には今回の2枚でどんなことをやりたいと?
大きなテーマを設けて曲作りするという、自分たちがメジャーデビューした時に四季盤を出した頃の曲作りに10年を経て一度立ち返るということと、これまでほぼセルフプロデュースでやってきたので、自分たちを客観的に見られる人と一緒に作業してみたいという、そのふたつがありました。“BOYS”と“GIRLS”というコンセプトは、世の中にある歌のほとんどがラブソングにもかかわらず、あまりアプローチしてこなかった…自分たちがチャレンジしていないテーマということと、作る時に無理がないということから決めました(笑)。
2作続けて、プロデューサーとして参加している百田留衣さんは昔からの知り合いだそうですね。
ギターを始めた頃だから…15歳ぐらいだったのかな。僕が練習に行ってたスタジオの店員のお兄ちゃんだったんです。その後、留衣くんはGIRAFFEというバンドでデビューするんですけど、僕が音楽を始めた頃、いろいろ影響を与えてもらったんですよ。新たなフジファブリックを見せるためには誰と組んだらいいだろうと考えた中のひとりに留衣くんがいて、久しぶりに連絡を取ってみたんです。
その百田さんがプロデュースした前作の「Green Bird」、今回の「夜明け前」ともにメロディーだけでも勝負できる普遍的な魅力を持った曲になりましたね。
そう言ってもらえると嬉しいです。留衣くんは中島美嘉さんとかYUKIさんとか、いろいろな方のアレンジや作曲をやっているんですけど、バラードを含むしっとりした曲が得意だという印象があったので、「夜明け前」をお願いしたらいいんじゃないかって思ったんですよ。この曲は自分たちの“手癖”感を極力なくしたかったんです。例えばビートルズ感(笑)。最初はどうしても出ちゃってたんですけど、よりバラードに近づける方向で、鍵盤のアレンジに寄せて、言葉が生きるいいかたちにまとめることができたと思います。
曲や音の幅を広げるというテーマが一番にあったと思うのですが、“BOYS”と“GIRLS”の2枚を聴くと、みなさんが楽しみながら作っていることが伝わってきましたよ。
今回はプロデューサーやゲストを迎えたこともあって、知らなかったことや知りたかったことを知ることができたという意味で、知識欲が満たされる経験になりました。それに個人個人、ダイちゃん(金澤)だったら歌以外の全てをひとりで作った「裸足のバレリーナ」があったり、加藤さんのベースから始まる「キノウ」では加藤さんらしい色を出せたり、そういうところも含め、楽しめましたね。
ブラックミュージックやAORにもアプローチした“GIRLS”は、やんちゃなイメージでいろいろな曲に挑戦した“BOYS”とは違って、大人っぽい印象がありますね。
ソウルミュージック的なダンスミュージックはもともと好きで、フジファブリックでやったらどうなるかな?ってずっとやりたいと思ってたんですよ。今回、憧れの人だったCHOKKAKUさんをプロデューサーに迎えて、例えばテンションの効いたスティーリー・ダンっぽいコードを加えてもらったことで、ちょっと毒っけのあるAOR感を出せたんじゃないかな。CHOKKAKUさんが手掛けたSMAPの曲が大好きなんですよ。小学生の頃、ジャニーズの曲がめちゃめちゃ好きで、そこでCHOKKAKUさんの名前を知ったんですけど、「Girl! Girl! Girl!」のストリングスとホーンを使った華やかなアレンジを一緒にやってくれる人は誰かなと考えたら、CHOKKAKUさんが一番ぴったりだって思いました。
「Girl! Girl! Girl!」ではギタリストとしてもこれまでとは違うアプローチをしていますね。
これまで避けてきたスタンダードなプレイ…避けてきたというか、これまでは歌とぶつかるような違和感のあるフレーズを心掛けてきたので、ペンタトニック・スケールにチョーキング一発みたいなプレイはちょっと違うかなって思ってたんですね。でも、「Girl! Girl! Girl!」はそういうスタンダードなプレイが曲の雰囲気に合うと思ったから挑戦してみました。CHOKKAKUさんはもともとギタリストなんですよ。ヴォイシング含め、大人な感じのプレイを今回教えてもらえたのも楽しかったですね。
“BOYS”と“GIRLS”の2枚を作って、新たに見えてきたことはありましたか?
プロデューサーと組んでも自分たちの根本は揺るがなかったので、何をやっても大丈夫なんだって改めて思いました。そういう意味では、まだやってないことがいっぱいあるので、今後やりたいと思ってはいるんですけど、まずは新たな自分たちのスタンダードを提示しないとダメだなと思うようになりました。やってないこともたくさんあるけど、それもやりながら“楽しいわー”だけじゃなくて、次は自分たちのスタンダードになり得る作品を作らないといけないと思ってます。まだまだ足掻かなあかんってネタが増えました(笑)。でも、それって幸せなことですよね。
- 『GIRLS』
- 【12インチアナログ盤】
- HRLP013
- 2015.11.03
- 2970円
- 『GIRLS』
- 【初回生産限定盤】
- AICL2968〜9
- 2015.10.14
- 2484円
フジファブリック:2000年、志村正彦を中心に結成。09年に志村が急逝し、11年夏より山内総一郎(Vo&Gu)、金澤ダイスケ(Key)、加藤慎一(Ba)のメンバー3人体制にて新たに始動。奇想天外な曲から心を打つ曲まで幅広い音楽性が魅力の個性派ロックバンド。「銀河」、「茜色の夕日」、「若者のすべて」などの代表曲を送り出し、『モテキ』TVドラマ版主題歌、映画版オープニングテーマとして連続起用された。数多くのアニメ主題歌も担当。18年には映画『ここは退屈迎えに来て』主題歌、そして劇伴を担当。19年にデビュー15周年を迎えアルバム2作を発表。同年10月に大阪城ホール単独公演を大成功させた。21年3月に11thアルバム『I Love You』を発表。23年には4本のツアーを開催した。24年4月にデビュー20周年を迎えるが、目前となる2月に12thアルバム『PORTRAIT』をリリースする。フジファブリック オフィシャルHP