【水樹奈々】テーマは“解放と融合”
    ! 近藤奈々と水樹奈々が今ひとつに

    1年7カ月振りとなるニューアルバム『SMASHING ANTHEMS』は、アニメタイアップ曲4曲を含みながら、歌手・水樹奈々としての今の想いが詰め込まれた作品に仕上がった。
    取材:榑林史章

    言葉を生み出すという部分でも、ここか
    ら新しいことが始められそう

    アニメ主題歌やシングル曲といったこれまでの水樹さんと、ジャズやソウルのテイストの感じられるアルバム楽曲という、ふたつのベクトルが同居したアルバムになりましたね。

    はい、今回のテーマは“解放と融合”です。生まれてからデビューするまでの“近藤奈々”(本名)としての私が、吸収してきた演歌や歌謡曲。歌手“水樹奈々”として過ごしてきたこの15年で学んだ、ロックやデジタルサウンド、シンフォニックな音楽。対極にあった両者を融合させることで、新しいものが生み出せるのではないかと思いました。“解放”という部分は、歌声に大きく表れています。デビューして間もない頃は、ポップス調を意識して演歌を連想させる歌唱法はセーブしていたのですが、逆に解放することでそれが自分のカラーになるのではと思い、節回しやビブラートのかけ方に変化が現れ、試行錯誤を経て現在のかたちになっていきました。そうして解放されてた声に、今年アコースティックライヴを経験したことでさらに解放された心の動きを乗せることで、よりストレートな楽曲を生み出すことができました。

    水樹さん作詞作曲の「エゴアイディール」はジャズのテイストがあって、歌詞には水樹さんのこれまでの経験も重ねられていて、このアルバムを象徴するような曲ですね。ジャズというのは最初からアイデアとして持っていたのですか?

    曲を作るのにあたってプロデューサーの三嶋さんから“ピアノが印象的で明るく、でも泣ける曲がいい”と、めちゃめちゃざっくりした難しいお題を与えられていました(笑)。それでアレンジはジャズテイストにしようと決めたのですが、それに合わせるメロディーを考えるのが本当に難しかったですね。

    ジャズはマイナーコードが基本なので、三嶋プロデューサーの言う明るさとはちょっと違ってきますよね。

    そうなんです。そのふたつが融合する絶妙なバランスを見つけるまでにとても時間がかかってしまって。『ADVENTURE』ツアーが終わってから2週間、毎晩ピアノの前で頭を抱えてようやく完成させました!

    曲ができた後、浅草に息抜きしに行ったそうですが。

    作曲と作詞では脳の使い方が違うので、切り替えの意味も含めて気分転換しに行きました。以前は温泉まで弾丸ツアーをしたりしましたけど、浅草方面は普段なかなか行かないのでいい機会だと思って。浅草寺では“いい歌詞が浮かびますように”と、頭にいっぱい煙をかけてきました(笑)。

    歌詞は、言葉の使い方や選び方が、以前とは変わった気がしました。前は若い子の目線でしたが、この歌詞は大人でも素直に自分と重ねて感じられる気がしたのですが、そこは意識していたのですか?

    特に意識していたわけではないのですが、飾らない言葉、自分の等身大の言葉で書きたいと思っていたので、そう言っていただけて嬉しいです。実は、ちょうど作詞をするタイミングで、知人の紹介で大岡信さんという詩人の先生の本を読ませていただいていて、とても感銘を受けたんです。大岡先生は80代なのですが、幅広い世代の方々の心を動かす素晴らしい言葉を綴っている方で。センスや使い方など、私の中にはないものばかりでとても感動しましたし、衝撃的でした。その後だったので、少なからず影響があったとは思います。この歌詞は私自身としてもひとつ脱皮できた感覚があったので、言葉を生み出すという部分でも、またここから新しいことが始められそうです。

    “エゴアイディール”というタイトルは、どういう意味で付けたのでしょうか?

    タイトルは“自我理想”という意味です。理想を抱くことは決して悪いことではありませんが、それに当てはめようとしても逆に枠にはまってしまってはつまらない。理想通りにならなくても、ありのままでいることで、もっと素敵な未来が見えるかもしれない。理想に縛られるよりも、解き放たれて思うがままに動いたほうが、その理想よりも遙か高くに飛んでいけるのでは…という気持ちを込めています。私自身、以前は人見知りで、思っていることがなかなか言えなかったし、今も距離が近くなればなるほど逆に遠慮してしまうところがあるので、そういう自分を変えたいという気持ちも込めました。

    《カッコ悪い僕の宇宙》という、若干自虐的にも取れる表現がありますが。

    人ってそう簡単には変われないと思うので。私自身も以前と比べたら、確かに積極的になったし、人とコミュニケーションを取れるようになりましたけれど、やっぱりまだ落ち込む時もあって。そんな自分を分かった上で、もっと頑張りたいという気持ちの表現です。

    「アンビバレンス」もジャズピアノが印象的なナンバーですが、水樹さんご自身、今ジャズに傾倒しているのですか?

    アコースティックライヴで、ジャズアレンジの曲を歌った時の影響が大きいですね。これまでもジャズテイストの曲にはチャレンジしていたのですが、これまでは大人っぽくしよう、演じようと頑張っていた意識があったというか。それを飾らずに歌える年齢になってきたのでは…と。

    何歳からジャズを歌ってOKとかは決まっていませんが、水樹さんの中ではどういう尺度なのでしょうか?

    歌った時の感覚なので、これはあくまでも私個人の感覚です。演歌もそうですけど、ジャズは行間を読むことや経験から滲み出る味など表現が大事だと思うので、子供の頃に演歌を歌っていた時は、よく“表現力が足りない。人生経験がないから味がない”と言われていました。自分では心を込めているつもりなのに、それが伝わらないと言われて、当時は意味が分からずどうすることもできなくて、ただただ悔しくて…そのことが私の中にずっと残っていたんです。でも、時間を重ねながらいろいろな楽曲と出会い、声優としてさまざまなキャラクターの人生をともに歩んできたことで、自分の中の引き出しが増えていろんなアプローチができるようになっていったというか…。今、このタイミングなら、ジャズにチャレンジしてもいいんじゃないかと思ったんです。

    OKMusic編集部

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