デジタル化進む映像、アナログ重要が
高まる音楽 近年映画から考察

 近年、映画などにおける映像制作ではデジタル化が進む一方で、劇中で使用される音楽や、音楽を題材にした映像作品はアコースティックなサウンドが使用、あるいはクローズアップされている傾向にあるのではないだろうか。

 2016年も様々な映画が上映され、大いに盛り上がったが、皆さんは昨年公開された映画にどのような印象を覚えただろうか? 一つ感じられたことだが、映画のテーマの中で、例えば管楽器や弦楽器など、アコースティックな楽器をキーワードに用いたものが目だったように感じられる。ざっと挙げて見ても『青空エール』(ブラスセクション)、『四月は君の嘘』(バイオリン、ピアノ)など。これらは漫画の実写化で『のだめカンタービレ』以降の流れとして青春ストーリーにアコースティックなサウンドとスタイルを織り交ぜたビジュアルを追求したものと思われる。また映画ではないがテレビドラマ『仰げば尊し』(TBS系)にてやはりブラスバンドをフィーチャーしていた。

 さらにはもっと上の年齢層を対象としたと思われる『オケ老人!』といった映画もあった。一昨年は『マエストロ!』という作品もあり、オーケストラを持ち上げたものもある。また、直接のつながりや因果関係は不明だが、2015年の東京国際映画祭でも話題になった、ジャズトランぺッター、チェット・ベイカーの生きざまを元に描いた『ブルーに生まれついて(原題:Born to be Blue)』や、ニューヨークの映画祭で取り上げられた、ジャズ界の帝王と呼ばれるマイルス・デイヴィスを取り上げた『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』も公開されている。

 2017年には、弦楽四重奏の男女4人がメインキャストの新ドラマ『カルテット』(TBS系、出演・松たか子)をはじめ、橋本環奈が主演でフルートを披露する映画『ハルチカ』(3月4日公開)や、ダメダメ楽団の奇想天外な演奏旅行を描いた『東京ウィンドオーケストラ』(公開中、主演・中西美帆)などがあり、この流れは2017年にも何らかの兆候が見られると考えられる。これらの現状を鑑みて推測するに、アコースティックな楽器を奏でている姿、音が、求められている傾向にあるのではないだろうか。

 音という点だけでも、DTMをはじめとして、音楽ソフトが安価になり、且つ手軽に、早く、ハイクオリティーで作られるようになったといわれているが、実際豊かな音色を奏でるアコースティック楽器のサウンドは、未だにデジタルでは解明できていないところも多い。近年の新譜で時々耳にする、曲のイントロやアクセント的にストリングス、ブラスのサウンド、あるいはオーケストライメージのサウンドを入れた楽曲があるのだが、使い方なのだろうか…、何とも軽いオーケストラ音というイメージのものがなかにはあり、楽曲そのものが安っぽく感じられてしまったことがあった。

 もちろん何かの狙いで、あえてそういうチープな音を使用する例もあるかもしれない、あるいは人によってはそうは感じないという人もいるかもしれない。しかし、一方でそれは人々がようやく“≒では満足できない”ということに気づいたことの表れでもあるのではないだろうか。先に述べた「アコースティックな楽器」への需要傾向はそんな思いの表れにも感じられる。

 昨年筆者が足を運んだ、あるインデペンデントな映画祭にて、アニメ作品部門の作品上映を見た時に気づいたのだが、映像の技術は明らかにデジタル化が進んでいたものの、対して音楽はアコースティックなもの、中でもJazzはあれこれと使用されていた印象がある。ある区民センターのホールでの鑑賞だったが、ウッドベースの音がまるでJazz喫茶で聴いた時のようなリアルでエッジの効いたサウンドに仕上げられており、聴いていて心地よかった上に、デジタルで作られた絵を生き生きと見せる効果の一つになっていると感じさせてくれていた。

 世は大量消費の時代、残念ながら音楽も“質よりも量”的な傾向に向かいがちであるが、今一歩そうではない、本当に価値のある、磨き上げられた贅沢なサウンドを、心から楽しみ「良い」と感じてみたいと思っており、先に述べた傾向は、そういう人の思いが表れたものであれば、と切に願うところである。(文・桂 伸也)

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