演歌・歌謡歌手の歌唱力を再認識、紅
白の現場で感じた期待と課題

香西かおりのステージでは、橋本マナミが舞い、「真田丸」のメインテーマを弾いたバイオリニスト三浦文彰が音を奏でた(写真はリハーサル時)

 昨年大みそかに放送された『第67回NHK紅白歌合戦』は、大ヒット映画とのコラボなど様々な企画があり、番組部長が「歌以外でも楽しんで頂ける工夫を凝らしました」との見解を示した通り、演出面での“試行錯誤“、“創意工夫”がみられた。一方で、審査方法の説明不十分による勝敗の不明瞭さや、疑問が浮かぶ演出、ぎこちないやりとりもあったりと課題もあった。改めて紅白の意義を問う声が高まるなか、記者が現場取材を通して再認識したのは演歌・歌謡歌手の歌唱力の高さ。東京五輪へ向けて“ジャパニーズソウル”ともいわれる演歌・歌謡の魅力が若年層にも伝わればという期待である。

毎年繰り広げられる議論

 今回の紅白は、世帯視聴率では関東地区で、前半35.1%、後半40.2%といずれも前回を上回った。=ビデオリサーチ調べ=。2020年の東京オリンピック・パラリンピックへ向け、その直前である2019年までの通しテーマとして「夢を歌おう」を掲げ、「歌」と「歌以外」の両面で「楽しめる」ようにと、新しいチャレンジを試みた。セットでは今回から導入した2階席ステージや、演出面では大ヒット映画とのコラボ、AKB48紅白選抜、一般公募によるダンサー募集などなど。しかし、所々にぎこちないやりとりや疑問符が浮かぶ演もあった。

 ネットなどに投稿されている視聴者の声にはそうした点を指摘するとともに「紅白の意義は」「民法との違いは」と疑問をぶるけるものが多数あった。紅白の意義を巡る議論は、以前からなされており、毎年、紅白出場者歌手が発表される度に白熱している。「選考基準は?」「時代遅れ」「なぜあの歌手が出ない」「ヒット曲もないのに」という声があり、芸能人も民放のテレビ番組を通じて議論を展開してきた。

多ジャンルが一堂に会する

まさに圧巻の歌唱力で魅了した高橋真梨子(写真は紅白リハーサル時)

 そのなかで、紅白の最大の魅力は「様々なジャンルが一堂に会する」という点だと指摘したのは、紅白リハーサルの囲み取材で語った演歌歌手の五木ひろしだった。五木は1971年の第22回に初出場し、以来回数を重ね、今回は46回目の出場となった。

 紅白における時代の移り変わりを見てきた五木は「紅白は、全てのジャンルが一堂に会する日本最高の音楽番組、という認識で。この紅白を観れば日本の音楽の全てが観られる。そういう意味では、色んなジャンルが、普段なかなか一緒になることがない人達が一つになってお届けできることは、まさに国民的音楽番組」と語った。

 紅白は全世代を対象にした番組作りのため、それぞれの世代に配慮した「ジャンル」を選考しなければならない。今回の出場歌手のジャンルを大まかに括ると、アイドル=9組、ポップス=16組、ダンス・テクノ=4組、演歌・歌謡=14組、(ロック)バンド=4組。※この分け方には異論もあると思うが分かりやすくする意味でご容赦願いたい。

 ポップスと演歌・歌謡などがこれだけの数で一堂に会するのは、カラオケ番組やものまね番組などを除いてはなかなかみられない。また今回は、星野源「恋」には二胡とバイオリンの協奏、香西かおりでは大河ドラマ『真田丸』のメインテーマを弾いたバイオリニスト三浦文彰も参加するなど、普段はなかなか見られない組み合わせもあった。

演歌・歌謡の魅力

ポップスだが、絢香の歌唱力もずば抜けていた(写真は紅白リハーサル時)

 消費形態の多様化や音楽の好みがより細分化され、国民的ヒット曲が誕生しにくいなかで、一つの音楽番組を全世代で視るというのは環境的に難しくなりつつある。そうしたなかで、実際に記者がリハーサルなどを取材して再認識したのは歌謡・演歌歌手の歌唱力の高さ。歌謡・演歌の“迫力”が若年層にも伝われば…というものだった。

 記者が普段、歌謡・演歌のコンサートを取材する機会が少ないからというのもあるが、その歌声を目の当たりにして驚くのは歌唱力だった。静寂を経てサビ部で魅せるあの爆発力(声量)は度肝を抜く。演歌・歌謡は基本、歌い手、作詞家、作曲家と分業制をとっている。その分野で一筋、長年やってきている“職人”ともいえる。歌い手の歌唱の鋭さや完成度の高さは目を見張るものがあり、キャリアに裏付けされた迫力がある。演歌歌謡の曲目の多くは過去にヒットしたものが多いが、当時の時代背景と今は異なるがそれでも説得力がある。

 問題は、その歌唱力や迫力がテレビを通じて伝わるか、という点である。ホールを一気に包み込むあの歌声の迫力。演出面にいきがちだが、真に歌でみた場合、そうした演歌歌手の歌唱力が見どころとして若年層にも伝われば、再び注目が集まるのではないか。そして、普段接点のないジャンルを聴く機会があるのは紅白のような音楽番組ではなかろうか。

 音楽番組である紅白は、音楽への社会的価値観、消費形態の変化の影響を少なからず受ける。時代によって好まれるジャンルも変わる。日本のカルチャーが世界に注目を集めている今、東京オリンピック・パラリンピックへ向けてジャパニーズソウルともいわれる演歌・歌謡の魅力を見つ直すのも一つ。そして、発信側にも、視聴者を惹きつける、歌唱における見せ方、伝え方の「創意工夫」が求められる。(文・木村陽仁)

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