【それでも世界が続くなら
インタビュー】
生きることが悲しいことなら、
悲しいまま生きていくだけでいい
L→R 琢磨章悟(Ba)、篠塚将行(Vo&Gu)、只野うと(Dr)、菅澤智史(Gu)
2年3カ月振りにリリースされる『死にたい彼女と流星群』は、今年設立した主催レーベル・YouSpicaからの最初のフルアルバム。ここに至るまでにバンドが経てきたさまざまな出来事、抱いた想いについてメンバーに語ってもらった。
生きるって、誰かが言うほど
素晴らしくなくて、価値もない
今作のリリースに至る前には、クラウドファンディングによるレーベル設立プロジェクトがありましたよね。
篠塚
はい。高速道路で車が大破したのが発端なんですけど。
菅澤
もともと劣化が進んでいたんだっけ?
篠塚
そう、神戸に向かっている時だよね。
菅澤
静岡で煙を吹いちゃって。
篠塚
それで、僕が“もうバンドは終わりだな”っていう気持ちの引き金になって。当時所属していたレーベルも、コロナ禍で厳しい状況だったんですよね。その頃は実費でデモ音源のレコーディングを始めていたんですけど、バンドの金庫が底をついていたらしく、ガースー(菅澤の愛称)が内緒でお金を立て替えてくれていたのを知って。そういう状況で車が大破したので、“仲間に迷惑をかけてまでバンドやるのは無理だろ”と思ってしまったんです。
メンバーのみなさんにもそう言ったんですか?
篠塚
そうですね。メンバーには“俺はバンドを辞める。就職させてくれ”って言ったんですけど、ガースーに“このバンドをずっとやりたいから内緒で立て替えてた。だから、続けてほしい”と言われて。だったら“ファンに訊いてみようよ”と。自分たちのレーベルを作ることを前提に、“僕らの音楽は今後も必要ですか?”と。生きるか死ぬかをファンに託す気持ちでした。
その結果、クラウドファンディングの達成率は285パーセントでしたね。
篠塚
はい。正直なところ僕は諦めるためだったというか、無理だと思っていたので、びっくりしたんですけどね。
喉の手術をしたばかりの時期でもありますよね?
篠塚
そうです。それもあって、“もう今まで通り歌うのは難しいかな”と。壊す気で叫べないならもう意味がないというか。それに、僕個人で言ったら、曲を作るということに関しては、ある意味やりきったと思う部分もありましたし。
只野さんはどのようなことを思っていましたか?
只野
最初、その話を聞いた時は“ええ!?”って(笑)。自分のバンドをリリースするだけのレーベルだったらなんとかなるんじゃないかと思ったけど、“もしやるなら自分たち以外のリリースもしないと生き残る意味がない”って篠くんは言ってましたし。
篠塚
今回のことと全然関係なく、“もし自分たちでレーベルをやるなら?”とかなり昔から考えていたし、最初からそのつもりだったからね。
只野
そうだよね。“他の死にそうなバンドも掬い上げないと、俺たちが生き残ってレーベルやる意味ってなくない?”と言っていて、“篠くんらしいな”と思ったりしました。私は、ずっと悩みながら今に至ってる感じです。
琢磨さんはいかがですか?
琢磨
僕はレーベルとかそういうことはよく分からなくて。それよりも“みんなが行くならついて行こう”という気持ちだけでした。
レーベルうんぬんのということよりも、バンドを続けたいという気持ち?
琢磨
そうですね。“一生この友人たちを見届けよう”という気持ちだけというか。
篠塚
章悟はずっと“みんなとバンドをやりたいだけ”って言ってくれてたね。
琢磨
そうだね。
篠塚
章悟はメンバーやファンのことをすごく大事にしていて、それ以外は興味ないんだろうな、って僕も感じていましたね。
レコーディングされた曲はCDなどでずっと聴くことができますけど、バンドが活動をし続けていることは、ファンにとって何にも代えられないことですからね。活動していないバンドのライヴに行くことはできないですし。
篠塚
クラウドファンディングの際に何百ものコメントもらったんですけど、結構怒られたというか。“何でこんなになるまで頼ってくれなかったんですか!”とか、“やっと恩返しができます”とか。無理してるのがバレてるというか、長いこと心配かけてしまってたんだなと。
そして、設立されたレーベルがYouSpica。レーベルの方針も明確にしていますね。まず、所属したアーティストはたった一度だけの全国リリースをする。その他に“僕たちにしか見つけられないアーティスト”の発掘・育成・輩出、月1回のアーティスト発掘コンピレーションアルバムの配信リリース、反撃文化祭やライブイベントの定期開催。
篠塚
こう聞くと、今全部やっていますね。
あと、“それでも世界が続くならの子供っぽいリリース”も。
篠塚
そうですね(笑)。子供っぽいっていうのは、僕たちは他人に過剰に気を遣ってしまう人間なので、大人の都合みたいなものも理解しようとしてしまって。例えば予算的な部分とか、会社と会社のつき合いの関係で無理な部分とか、そういう部分で相手の立場を守るために諦めてしまっていたことも多いです。でも、今は自分たちのレーベルだからいろいろ度外視しているというか…まあ度外視していますよね。おかげでもう既に危機的状況になりつつあるんですけど(笑)。
(笑)。こうして新しいアルバムをリリースできることになったのは、クラウドファンディングとかで支えてくれたファンへの何よりものお返しだと思いますよ。
篠塚
もしそうなら嬉しいです。今はそれが僕の命綱なので。
達成率が100パーセントを超えたら新曲のMVを制作する旨も発表していましたけど、「変声期」「⽩昼夢から覚めるまで」「流星群」「永遠」のMVがすでに公開されていますね。
篠塚
お金はなかったけど、本来の目的はお金稼ぎじゃないというか、音楽じゃないですか。ファンの子たちが初日に100パーセントを超えさせてくれたので、じゃあそれ以上は全部音楽にして返そうと。コロナ禍の状況で最初に予算を切られるのは僕たちみたいな売れないアンダーグラウンドなバンドなので、この数年、レーベルからの予算が下りなくて、でも自分じゃ出せなくて、MVを連続で出すのって実質不可能なことでもありましたから。
只野
こんなに短いスパンでMVを出すのは久しぶりだよね?
篠塚
うん。
菅澤
初めてかも。
そういう動きも経ての今作ですが、こうして今も生きていることをすごく肯定してくれるアルバムだと感じました。“生きている”ってボロボロの日々を重ねることでもありますけど、“それでも生きてくれていることが嬉しい”と語りかけてくれるというか。
篠塚
大前提で“生きることって苦しいこと”だと思うんですけど、このコロナ禍の数年間はもともとあった“生きる苦しさ”に加えて、経済的、社会的な苦しさが上乗せされたと思うんです。僕はもう世の中のことは全部どうでもいいというか、僕の音楽を好きだと言ってくれた人たちと、僕が好きな人たちだけが幸せであってくれればそれでいい気がしていて。最低な話かもしれないですけど、それ以外の理由で曲を作ることはあっても、それ以外の理由で誰かに聴かせたいとか、聴いてほしいとはもう思っていないんですよね。歌いたいことはあっても、伝えたいことがない。だから、メンバーが幸せで、ファンが幸せになってくれるなら、あとはもうなんでもいい。
語弊があるかもしれないですけど、でも“生きることは素晴らしい”とは言っていないですよね?
篠塚
それはそうですね(笑)。生きることは素晴らしくはないですからね。ゆっくり受け入れるしかないと思うんですよ、この現実を。僕らは世界のどこかで誰かが死んだニュースがテレビで報道されても、なんとなくで流して観ちゃうじゃないですか。自分で思うより自分の命って誰かには価値はなくて。なのに、好きな人が死んだら悲しい。正しさ、素晴らしさを語る人はいますけど、そういう綺麗で飛躍した言葉より“現実はこんなに苦しい。生きるってつらいし、悲しいよね”で終わらせちゃっていいと思うんです。生きることが悲しいことなら、その悲しさを消そうとするんじゃなくて、“悲しさは消えない”と自覚して、悲しいまま生きていくだけでいい気がしているんです。
漠然とした“生きるって素晴らしい”より、“この人が生きていて、また会えて嬉しい”っていうほうが、どう考えてもリアルな実感というのもありますよね。
篠塚
そう思います。
相手も自分のことをそう思ってくれていたら嬉しいですし。そういうことをこのアルバムを聴きながら思いました。
篠塚
“死にたい”って願う人に対して、“生きるって素晴らしい”とは言えないじゃないですか。でも、“君が生きていることが僕は嬉しい”なら僕にも嘘なく歌えるんです。僕の本心なんで。死にたいくらい悲しいことも過去になれば存在しなくはなりますけど、脳には悲しさや痛みが残りますからね。
過去が現在の自分を作っているのは確かですからね。
篠塚
そうですよね。過去で言えば、僕はいじめられてた小学校の頃から今日まで何かもが悲しく見えていて。生きていることの何もかもが、なんか悲しく見えるんですよね。“どうやってこの悲しみと向き合えばいいのかな”って、よく考えてたんですけど、結局、もうそれすら諦めたというか。良く言えば、“悲しみがあるんだな”と受け止めるしかないというか。ただ悲しみは消えずに心の中にずっと有ると自覚したことで、少し楽になったというか、今の僕になったというか、脚色しなくてな済むというか、少しだけ本当のことが見えたというか…だから、僕はもう死ぬまで悲しいままでもいいし、だからこそ、ずっと音楽が好きでいられるかもと思ったんですよね。音楽は悲しみに寄り添ってくれることもあるので。
アーティスト
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