サイケデリックロックの
代表格として知られる
クイックシルバー・メッセンジャー・
サービスの名盤『ただ愛のために』
ヒッピー、ドラッグ、ラブ&ピース
「こんな感じ」というのが少しわかった気分になったのが、グレイトフル・デッドの『ライブ/デッド』(‘69)に収録された23分におよぶ「ダークスター」を聴いたとき。この曲は、デッドのスタジオ録音盤とは明らかにサウンドが違っていて、当時のオーディエンスが求めるものが理解できた“気”がしたものである。90年代以降、デッド、ジェファーソン、QMSらの60s〜70sの発掘ライブ音源が次々にCDでリリースされるようになり、日本と違ってアメリカでの彼らの人気は凄いものだったということを再認識した。
モンタレー・ポップ・フェスティバル
フェスのあとは、シスコに移住するヒッピーたちが激増し、彼らはデッド、ジェファーソン、QMSのコンサートに大挙して参加する。その多くがドラッグを楽しむという目的ではあったが、アーティスト側もドラッグ漬けで演奏していることが多く、この時代のサンフランシスコ・サウンドはドラッグ抜きでは語れないことから、サイケデリックロックとかアシッドロックなどと呼ばれることになったのだ。フィルモア・オーディトリアムのオーナー、ビル・グレアムは3大グループをしょっちゅう出演させていたので、シスコでの3大グループの人気はうなぎのぼりで、レコード会社の多くが彼らと契約しようと躍起になっていた。僕の個人的な感想では、サンフランシスコで活動していた多くのロックグループは、ライブとスタジオ録音では別人のように違う。これがサンフランシスコ・サウンドの特徴で、レコード会社はもっと売れると考えていたのかもしれないが、実際にはジェファーソン・エアプレインが2〜3曲のヒットを飛ばすのみであった。デッドもQMSも全米レベルのシングルヒットなど考えておらず、巨大化したヒッピー集団が熱狂するだけで満足していたのではないだろうか。
クイックシルバー・メッセンジャー
・サービスの歩み
『愛の組曲』リリース後、ゲイリー・ダンカンがドラッグ中毒を癒やすために一時脱退、その穴を埋めるためにキーボード奏者のニッキー・ホプキンスが加入する。ホプキンスは、ブリティッシュロック界を代表するピアノ奏者である。ストーンズ、キンクス、ジェフベック・グループなどと彼は共演し、輝かしい成果を残している。そのホプキンスが参加してリリースされた『シェイディ・グローブ』(‘69)は、これまでのサウンドを一新し、スタジオ作でようやく満足のいく作品を作り上げた。ホプキンスに負うところは大きいものの、グループとしてのまとまりが感じられる異色ながらも好盤となった。9分以上におよぶホプキンス作のインスト「Edward, The Mad Shirt Grinder」はロックファン必聴のナンバー。全米25位。
本作『ただ愛のために』について
本作の後にリリースされた『What About Me』(‘70)は、『ただ愛のために』と同時に録音された6曲を含んでいるので、2枚組と捉えても良いかもしれない。どちらにしても、この時期の彼らは制作意欲も旺盛で、この2枚が彼らの代表作と考えるべきだろう。
このあと、ホプキンスとオリジナルメンバーのジョン・シポリナが脱退、デヴィッド・フライバーグは麻薬で投獄され、グループは大打撃を受ける。キーボードにバタフィールド・ブルースバンドの名手マーク・ナフタリンを迎え、71年に『Quicksilver』をリリースするが売り上げは伸びず、グループは失速していく(でも、僕は大好きなアルバム)。実はこの時、ロックシーンの中心はシスコからロサンジェルスへと移り変わりつつあり、ヒッピーも激減、すでにサイケデリックロックの時代は終わっていたのである。
今回は、日本でも小ヒットした「Fresh Air」が収録された『ただ愛のために』をセレクトした。日本で注目されることの少ないサンフランシスコ・サウンドの典型例として、ぜひクイックシルバー・メッセンジャ・サービスを聴いてみてください。
TEXT:河崎直人
おすすめ記事
-
『OKMusic』サービス終了のお知らせ
2024.02.20 11:30
-
音楽ファンの声、エールを募集! music UP's/OKMusic特別企画 『Power To The Music』 【vol.89】公開
2024.02.20 10:00
-
今年でデビュー50周年の THE ALFEEが開催する、 春の全国ツアー神奈川公演の チケット販売がいよいよ開始!
2024.02.13 18:00
-
音楽ファンの声、エールを募集! music UP's/OKMusic特別企画 『Power To The Music』 【vol.88】公開
2024.01.20 10:00
-
宇多田ヒカル、 初のベストアルバム 『SCIENCE FICTION』発売決定& 全国ツアーの詳細を発表
2024.01.15 11:00
人気
-
【連載】 Mrs. GREEN APPLE 大森元貴 『ナニヲなにを。』 - 第1回 『自己紹介を。』 -
2014.12.20 00:00
-
【連載】 Mrs. GREEN APPLE 大森元貴 『ナニヲなにを。』 - 第3回 『魔法の言葉は在るということ、を。』 -
2015.02.20 00:00
-
【連載】 Mrs. GREEN APPLE 大森元貴 『ナニヲなにを。』 - 第2回 『忘れられていることを。』 -
2015.01.20 00:00
-
【連載】 Mrs. GREEN APPLE 大森元貴 『ナニヲなにを。』 - 第16回 『巡り合いを。』 -
2016.03.20 00:00
-
【連載】 Mrs. GREEN APPLE 大森元貴 『ナニヲなにを。』 - 第5回 『新年度を。』 -
2015.04.20 00:00