【奥華子】今の自分だからこそ作れる
もの
約1年半振りとなる待望のアルバム『遥か遠くに見えていた今日』。自身でも“奥華子の今を切り取った”と語る意欲作が完成した。
取材:石田博嗣
今回もアルバムのテーマを決めるとかはなく、作りたいものを作っていったのですか?
そうですね。曲がある程度集まってから、恋愛ソングばかりじゃなくてメッセージソングもあったほうがいいかなって「スタンプラリー」を作ったり、弾き語りが欲しいと思って「Mail」を弾き語りにしたり、あとから調整はしましたけど。
そんな中で、1曲目はライヴDVD『コンサート2007春~TIME NOTE~ at渋谷C.C.Lemonホール』とオムニバスアルバム『Cocktail2』(2003年発表)でしか聴けなかった「Rainy day」なのですが、この曲を今回入れようと思ったのはなぜなのでしょうか?
インディーズの頃に作った曲で、ピアノの弾き語りを集めたオムニバスアルバムに入っているから一応音源にはなっているんですけど、いつかはメジャーで出したいと思っていたんですね。ライヴでは人気な曲だし。だからって、軽い気持ちでは出せない…一度出したものを新たに出すことの難しさは知っているし、次は弾き語りでは出せないし。で、シングルの「最後のキス」をレコーディングした時、最高のメンバーで録れるってことになったので、そのメンバーと「Rainy day」をやったらいいものができるかもしれないと思ったんです。だから、このアルバムに入れたいからっていうのではなかったんですけど、すごく満足してるし、すごくいいものになったから、その自信からの1曲目なんですよ。これこそが奥華子だなって思えるし。歌詞にしても、こういう歌詞が書けたらいいなって思えるし。
え!? それは当時はこういう歌詞が書けたけど、今は書けないとかで?
全然書けないですね(笑)。百何十曲ある中でトップ3に入るほど、すごく気に入ってるんですよ。ある意味、すごく遠回しの言い方をしているんですね。それをまったく怖がらずに書いている感じがあって。今だったらもっと分かりやすく書いたりする…《歪んだままのカーブミラーは 意味も無く僕を映して》とか、今、そういう発想はできないです。歌っているテーマは今と変わらないのに。当時は頭がやわらかかったんでしょうね(笑)。
『MAST』のTVCM曲「プロポーズ」はバラードだったので、最初にTVから流れた時は驚きました。
“幸せの、入り口に”というキャッチフレーズがあって、そこに向けて奥華子らしいバラードっぽい曲でっていうオーダーだったんです。なので、“幸せの、入り口に”をイメージしての曲になりましたね。一緒にいたいと思える人に出逢うのってすごいことだと思うんですよ。《一度だけの人生だね 愛しあえる人に出逢えた奇跡》ってフレーズがあるんですけど、それは子供に対して思うかもしれないし、恋人かもしれないから、その人の人生を思えるようなスケール感で、幸せが広がるようなものをイメージしながら歌詞と曲を同時に作っていきました。
次の「彼女」はストリングスも入っていますけど、アコギの弾き語りという。
珍しいですよね、ピアノが入っていないって。…今までないんじゃないかな? 普通にキーボードでデモを作って、ストリングスもアコギも入れていたんで、それをレコーディングでやろうとなったんですけど…あ、その時点でピアノは入れてなかったんだ!
アレンジも華子さんですが、この曲はもうギターの弾き語りだと。
うん。ギターが鳴ってましたね。途中からピアノが入ってくるようなデモを作ってたんですけど、イントロのギターはあのままです。ピアノも弾く気満々だったのに、ないほうがいいって言われて(笑)。
アコギをバックに歌っているせいか、歌が淡々と聴こえてきてきたのですが、その感じが冷めてしまった彼女の想いとリンクしていると思いました。
仮歌とまではいかないんですけど、ストリングスを入れる前に歌ったテイクのものなんです。もちろん、本チャンで何回も歌ってみたんですけど、このテイクの無機質な感じがいいって。
この曲はどんなイメージで作っていったのですか? 珍しいシチュエーションですよね。
“あなたが好きだったような自分にはもうなれない”っていう…だから、今までは好きになってもらうために無理をしていたというか。でも、無理をしていることに自分でも気付いてなかったんです。好きだった気持ちが消えていくって歌ってるんですけど、冷めた瞬間って“なんで、この人を好きだったのか全然分からない”ってなるんですよ。
それ、女性特有の感情だと思いますよ。
そうかも(笑)。どんどん気持ちが冷めていって、“会いたい”とも言えなくなる…嫌いになったわけじゃないんだけど、別にもう会いたくないっていう。そういうお別れの曲って歌ってないなって。
珍しく、振られるのではなく、振るほうの曲なんですね。
確かに! あんまりそういう曲ってないですよね。
なのに、愛した日々を忘れないでって言ってるという。
あはは。そこがずるいところなんですけど、そういうとろこってあると思うんですよ。自分が一番のままでいたいっていうか。新しい彼女ができたらむかつく、みたいな(笑)。そういう本音の部分です。
女性特有ですね(笑)。「ほのぼの行こう」はゲーム(ニンテンドー3DS用ソフト『牧場物語 3つの里の大切な友だち』)のイメージソングなのですが、これはゲームに寄せて作ったという感じですか?
そうですね。牧場の画像を検索して作りました(笑)。この曲って他の曲とちょっと方向性が違うじゃないですか。最初はアルバムに入れるつもりはなかったんですけど、奥華子ってCMソングで知ってくれている人も多し、実はこういうタイアップものが得意分野なんじゃないかってところもあり、入れようってことになったんですよ。
三拍子の軽快さだったり、ほのぼのとした音色がアルバムのフックになっていますよ。
それは良かったです。キーボードの中に入っていた民族楽器っぽいものを入れて作っていきました。
さっき話にも出たメッセージソングの「スタンプラリー」はライヴ向きの曲でもありますね。
ライヴのことは考えていなかったんですけど、明るくてアップテンポの曲を作りたいとは思っていて、そこにメッセージを乗せたいなって。毎回、アルバムの中にはこういう曲が入っているので、そういう感じですね。で、最初はドラムとギターと私のピアノという3人でセッションしようと思ってたんですけど、レコーディングした日というのが「彼女」も一緒に録っていて、たまたまバイオリンを弾いてくれたふたりが残っていてたんですよ。他のメンバーのこともよく知っているから“私も弾こうかな〜”“弾いて弾いて”って感じで、即興でセッションしたんです。その場のノリみたいなものがありますよね。録ったものを持ち帰ってストリングスとかを加えたんですけど、いい意味で最初に思い描いていたものとは全然違うものになりました。
ラストがアルバムのタイトルにもかかっている「遥か遠くに」なのですが、この曲についてもお願いします。
サビの部分だけは数カ月前からあったんですけど、最後の最後までできなくて。でも、アルバムのタイトルを決めないといけないってなった時に、この曲の《遥か遠くに見えていた未来》というサビのフレーズから取ろうと思って。で、恥ずかしくても自分を曝け出して、今の自分だからこそ歌えるものを作りたいと思って作りました。
そのアルバムのタイトルなのですが、遥か遠くに見えていた未来は今日のことということで?
すごく先のことだと思っていたのに、あっと言う間というか。でも、大人になったら大人の恋をしていると思っていたのに、中学生の頃に恋をしていた気持ちと全然変わっていなかったり。そういうことって誰にでもあるじゃないですか。時間は有限なのに、ずっとこのまま続いていくと思ってた、ずっとあなたがいると思ってた…とか。今回のアルバムってどの曲もそういうものが大きなテーマとしてあると思うんです。
確かに、そういうことを歌った曲が多いですね。
無意識だったんですけど、どの曲にもそういうフレーズがありますね。ラーメンって熱いから美味しいわけじゃないですか。冷めたラーメンは超不味いし。アイスクリームなんて溶けてしまうと原形すらなくなるし。そういう今じゃないといけないことって恋愛だけじゃなく、仕事とかでもあると思うんですよ。そういうことを「アイスクリーム」では歌っているんですけど、さっきのテーマに合っていますよね。
どんなアルバムが作れた実感がありますか?
“遥か遠くに見えていた今日”というタイトルを付けたのは、歳を重ね、今の自分だからこそ作れるもの…「Rainy day」は昔の曲ですけど、それも今だからこそ最高のメンバーと録音ができたので、奥華子の今を切り取ったアルバムになりましたね。
デビュー10周年を経て完成したアルバムでもあるし、奥華子の歌はこういうものだというのを改めて実感しましたよ。
それは良かった。それに加え、自分ひとりではできなかった「キミの花」とか「ほのぼの行こう」とかもあるから、初めて奥華子を聴いてくれる人は“あ、こういう曲もあるんだ”って思うような、カラフルなアルバムにはなったかなって。
そういう意味では、後付けかもしれないですけど、アー写やジャケ写のテイストがアルバムの雰囲気に合ってるなって。「最後のキス」〜「アイスクリーム」という終盤のどっぷりゾーンにしてもスドーン!と落ちるものはでないし。
うんうん。全体的に明るいですよね。きっと、奥華子の曲ってそんなに暗くないんですよ。
ん〜、それはどうかな?
あはは。根は暗いんだけど、明るくなりたいんですよ(笑)。そこですね。
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