【奥華子】『奥華子 10th Anniversa
ry Concert Tour 2015 ~弾き語り~
』 2015年7月18日 at よみうりホール

取材:石田博嗣

 “このツアーをどう終えるかによって、また自分自身が変わるような気がする”と本誌インタビューで語っていた、デビュー10周年のアニバーサリーツアーが幕を開けた。12月20日の大阪・IMPホールまで全37公演が行なわれる本ツアー。“10th Anniversary”を冠とし、アルバムを携えたツアーではないということで、そのメニューは必然的に10年の歴史と想いを紐解くようなものとなっていたーー。

 大観衆の拍手に迎え入れられ、ステージに登場した奥華子。グランドピアノと向き合い、静かに、ゆるやかに、そしてやさしく、旋律が紡ぎ出された瞬間、緊張感とはまた違う張り詰めた空気が会場に広がる。やがて、そのイントロダクションが聴く者の心を穏やかな気持ちにさせていき、そこにたおやかな奥の歌声が乗ることで、場内は彼女の歌世界の中にどっぷりと浸かる。どこかのアーティーストが“ピアノは打楽器”と言っていたが、まさに鍵盤に落とされる指の力の入りようが、切々と届けられる歌声の後ろで、その楽曲の主人公の切ない感情の起伏を表現しているかのよう。そのまま歌世界の深みへと導かれていったことは言うまでもない。
 
 最初のMCで“この10年分の感謝…ここまで続けてこれた感謝の気持ちが、みんなに届けられるように歌えたらいいなと思ってます”と語った奥。インディーズ時代の楽曲や代表曲に定番曲、さらには新曲に至るまで、“実は一番好きな曲”や“意識して失恋ソングを作った曲”や“自分自身に喝を入れるために作った曲”などと思い入れやエピソードを交えながら、10年を彩る楽曲たちを披露していく。“失恋ソングの女王”と称される奥だけに、当然のようにそれらの大半は恋愛の感情を綴ったものだが、そこで歌われる“あなたに出会えた奇跡にありがとう”という想いだったり、“あなたに出会えたことが私を強くしてくれた”というメッセージが、10年を支えてくれているファンへの感謝の気持ちにも思えたのは、きっと僕だけではなかったはず。

 そして、もうひとつ印象的なことが。これは今日に限ったことではないが、奥と観客の心の距離。本公演はホールということで、物理的な距離はステージから最後列まで…しかも、2階席まであるだけに、意外に遠い。しかし、MCではひとりひとりに語りかけるようにトークをし、それに観客もさまざまな声を返し、アットホームでフレンドリーな空間が生まれていたし、ファンの“私、今日誕生日!”“俺も!”という声に応えて「Birthday」の一節をアカペラで歌う場面も。さらに、アンコールのオーラスでは客席に降りて、2階席までフロアーを駆け回り、ファンとハイタッチし、コミュニケーションを深めていた。きっと観客たちは、まるで路上ライヴのような距離感で彼女の存在を感じていたに違いない。
 
 また、今日のライヴでは“ひとりひとりに物語があって、それにぴったりはまったったら、自分のテーマソングだって思えるじゃない? そういう少しでも寄り添える曲を作りたい”とも語っていた奥。きっとそれが彼女にとって歌うことの原動力なのだろうが、その想いがちゃんと曲に落とし込まれているからこそ、10年間そういう曲を歌ってきたからこそ、それに共鳴であり、共感したファンがライヴに駆け付けていると言える。会場を埋める老若男女さまざまな客層であり、そこに咲き乱れている笑顔を見て、そんなことも実感していた。

 “毎回のコンサートが特別になるように頑張りたいです”という言葉を残して、幕を閉じたツアー初日。この特別な時間を残り36公演…さらには12月23日の東京・昭和女子大学人見記念講堂でのバンド&弦カルバージョンによるスペシャル・コンサートまで続けていけば、客席から多くのものを受け取り、冒頭の発言通りに彼女自身も変わることだろう。そういう意味では、デビュー10周年のアニバーサリーであり、11年目の扉を開けるためのツアーが始まったということだ。

セットリスト

  1. 現在ツアー中のため、セットリストの公表を控えさせていただきます。
奥華子 プロフィール

オクハナコ:シンガーソングライター。キーボード弾き語りによる路上ライブをはじめ1年間で2万枚のCDを手売りし驚異的な集客力が話題となり2005年メジャーデビュー。劇場版アニメーション『時をかける少女』の主題歌「ガーネット」で注目を集める。聴く人の心にまっすぐ届く唯一無二の歌声は年齢問わず幅広く支持されている。また数々のCMソングや楽曲提供を手掛けるなど活躍の場を広げている。奥華子 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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