佐々木大光主演の舞台『フォーティン
ブラス』 舞台写真とオフィシャルレ
ポートが公開

2024年3月1日(月)~3月18日(月)まで、東京・紀伊國屋ホールにて上演。そして、3月23日(土)と24日(日)には兵庫・AiiA 2.5 Theater Kobeで開催される、『フォーティンブラス』のオフィシャルレポートが届いたので紹介する。
フォーティンブラスとは、シェークスピアの代表作ハムレットの中に登場するノルウェーの王子の名前。長いハムレットの物語の中で2回だけ登場するこの「脇役」にスポットライトを当てて、横内謙介が俳優の視点から書き下ろした作品が、この舞台『フォーティンブラス』である。劇団善人会議(現、扉座)で初演された後、1995年紀伊國屋ホールで草彅剛と井ノ原快彦の共演で、2001年、扉座で高橋一生を客演に迎え上演。さらに2003年東京グローブ座オープニングシリーズとして長野博と村上信五の共演で、2021年にはBunkamuraシアターコクーンで戸塚祥太と内博貴の共演で上演された。世界中に数あるシェークスピアの書き換え戯曲の中でも、群を抜いて注目を集めてきた日本の名作である。
今回、主人公フォーティンブラス役を佐々木大光、そして道化のオズリック役を演じる鈴木悠仁に加え、オフィーリア役に木﨑ゆりあ、ハムレット役には荒井敦史、そして、矢島舞美と伴美奈子がWキャストで謎の老女役。さらに吉田智則、武田義晴など、手堅いキャストたちが集結した。
■オフィシャル 舞台鑑賞レポート
まず、上演会場が紀伊國屋ホールというのが、この作品を象徴する設定だ。“役者の聖地”と呼ばれ、長年愛されてきた会場で、役者の楽屋話をすることに大きな意味を持っている。
公演開始のアラームが鳴り響き、暗くなった劇場。幕が閉まった状態で舞台袖から登場したのは、佐々木大光が演じる羽沢武年だ。演劇好きな青年の羽沢(佐々木)は、本番会場に向かうという設定で、客席の間を歩き回る。冒頭からの思わぬファンサービスに、会場からは驚きの声があがっていた。
『フォーティンブラス』舞台写真
舞台の幕が開く。そこで上演されていたのはシェークスピアの代表作、ハムレット。しかも、ハムレット王子が最後の決闘をするクライマックスの名シーンだ。最高潮を迎えるはずだが、どこか上手くいってはいない。なぜなら、ハムレットを演じる大スターの黒沢正美(荒井敦史)が下手な芝居をしており、舞台をボロボロにしていたからだった。
『フォーティンブラス』舞台写真
公演終了後、あまりに酷い出来栄えだったために、出演者達は楽屋裏で愚痴をこぼしはじめる。正美(荒井)に反抗をする羽沢(佐々木)をなだめていたのが、木﨑ゆりあが演じるオフィーリア役の刈谷ひろみと、武田義晴が演じる墓堀役の田之倉信だった。お酒を飲みながら役者論を語る佐々木、木﨑、武田の姿は、まさに売れない役者のリアル。役者を志したものならだれもが経験したであろう感情で溢れていた。しかも、会話のさなかにも役者同士で小さなアドリブをいれてくるため、会場からはクスクスとした笑い声が上がっていた。
『フォーティンブラス』舞台写真
『フォーティンブラス』舞台写真
愚痴が最高潮に達した時、突然、舞台奥の階段からスモークが立ち込め始める。異様な空気があたりを包むと、そこには甲冑を身に纏った騎士の亡霊(吉田智則)が立っていた。自らを「フォーティンブラスの父」と名乗る亡霊は、息子のフォーティンブラスを探していた。すると、信(武田)が道化に徹して立ち回ることで、亡霊との会話を成立させる。武田のオヤジギャグによって、なぜか佐々木が爆笑するという自由な展開を見せつつも話は進む。芝居に対してやる気をなくしていた羽沢(佐々木)だったが、舞台裏でもフォーティンブラスに演じることでやる気が生まれ「父の敵のハムレットを討ちます!」と亡霊に宣言。佐々木は、コミカルな役から徐々に目の色を変えて本気になっていく、という熱演を見せてくれた。
一方、佐々木同様に、作品の中核をなす存在が、鈴木悠仁が演じる岸川和馬である。役者に憧れている和馬(鈴木)は、ハムレットのすべてのセリフを記憶するほどの情熱を持っていた。しかし、出演する役はオズリックという脇役。パンフレットのインタビューで鈴木は「僕はいい加減な人間ですが、和馬は真面目な性格なんですよ」と語っていたが、舞台上では、無口で常にどこか怒りを秘めている和馬役を熱演。しかも、和馬(鈴木)と付き合っている新人女優恵子(遥りさ)が、良い役を欲しくて正美(荒井)に近づいていってしまう。それをうけて和馬はさらに怒りを燃やしていった。
『フォーティンブラス』舞台写真
『フォーティンブラス』舞台写真
『フォーティンブラス』舞台挨拶より
長年、劇場に出演をしてきた老女優の松村玉代(矢島舞美と伴美奈子のWキャスト)によって、亡霊(吉田)の正体が、すでに死んだ役者の岸川和春……つまり、和馬(鈴木)の父と判明。和春は、主役の経験はないが、名脇役だった。舞台に対する未練から、亡霊に姿を変えて現世に舞い戻ってきていたのだ。こうして、亡霊を中心に、偽物の息子であるフォーティンブラス(佐々木)と、本物の息子の和馬(鈴木)という三角関係が加わり、より人間関係は複雑化していく。
そして物語は進み、新人女優が自分の夢と現実を語るあたりから、作品のボルテージはさらに上がる。役者を夢見るが売れない羽沢(佐々木)、バラエティーあがりとバカにされるひろみ(木﨑)、家族を捨てて役者に走った父に対する怒りを持つ和馬(鈴木)。そして、大スターの正美(荒井)でさえ、自分の演技が評価されないことに憤りを感じていた。それぞれが役者として、夢と現実の狭間で必死にもがいていた。
正美(荒井)に対して反旗を翻したのは羽沢(佐々木)だった。「俺たちは逃げて来たんじゃない。この舞台をきっかけに羽ばたいていくんだ!」と、役者としての熱い言葉を叫ぶ。それが、まわりの役者たちの心に火をつけた。
そして、ハムレットの舞台の幕があがる。役者達の演技は抜群に良くなっていて、昨日までの舞台とはまったくの別物。長年、舞台に立ってきた玉代(矢島と伴美のWキャスト)は、今回の舞台が「わがままな演劇の神様に愛された」と表現するほど、熱を帯びた作品になっていた。
『フォーティンブラス』舞台写真
『フォーティンブラス』舞台写真

『フォーティンブラス』舞台写真
楽屋裏でも、ひとつの奇跡が起きようとしていた。正美(荒井)に喧嘩を売り、オズリック役をおろされた和馬(鈴木)。舞台を去ろうとする和馬(鈴木)に対して、羽沢(佐々木)は役者の生き方、役者の覚悟を語りかける。たった2回の登場シーンにどれだけの想いを込めているかを、フォーティンブラスの役を演じることで伝える。感情が高まり、内側から溢れてくる熱い涙の必死にこらえながら語る佐々木の熱演に、会場の観客は目を奪われる。そして、その熱い言葉を浴びるのが和馬(鈴木)だ。影響を受けて、気持ちが変化していく姿を、言葉ではなく、背中で語る鈴木の表現力に観客はさらに作品の中に引き込まれていく。

舞台は再び、作品の冒頭で演じていたハムレットのラストシーンとなる。吹っ切れた正美(荒井)が出すパワーが、周りの役者の演技力を引き上げていた。舞台上に再び戻って来た、オズリック役の和馬(鈴木)を見て、正美(荒井)も嬉しそうに一瞬だけ小さく微笑んだ。
『フォーティンブラス』舞台写真
『フォーティンブラス』舞台写真
舞台はついにクライマックスを迎える。ハムレットが倒れたことで、舞台上に羽沢(佐々木)が演じる、フォーティンブラスの2回目の登場シーンとなる。この時、羽沢(佐々木)の後ろには亡霊もついてきた。作品と主軸となる役者達の物語、劇中劇のハムレットの物語、自分の生き方と向き合う亡霊の物語、様々な物語が交差してきた舞台のラストシーンは、フォーティンブラスとしての生きた羽沢(佐々木)の言葉で締めくくられる。万感の思いを込められたセリフが会場を包み、大団円の絶頂を迎えて、舞台は幕を閉じた。

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