シリーズ構成・待田堂子に聞く、「…
…」で表現できること【「ルプなな」
リレーインタビュー第6回】

 シリーズ形式でお届けしている、テレビアニメ「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する」のリレーインタビュー。第6回はシリーズ構成と各話脚本を担当した待田堂子さんに話を聞いた。(取材・構成:揚田カツオ)
(c)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会構成はラストシーンのイメージありき
――原作を読んだ第一印象をお聞かせください。
待田:ライトな作品だろうと思っていたのですが、読んでみたらとても深くて。リーシェはゴロゴロしたいと言っているものの、やっていることは自分以外の人たちが幸せになるように行動していたりと、扱っているテーマがしっかりしていて、地に足のついた小説だなと。あとは、リーシェがまだ15歳なのに「できる女の子」だというギャップが面白かったです。
――シリーズ構成を担当するにあたって、ポイントにされた部分はどこですか。
待田:原作が3巻ほど出たあたりで構成を考え始めました。先生からは今後の展開をいただいていたのですが、それはバラせないし。ただリーシェ自身は気づいていませんが、少しずつアルノルトにひかれていく感じがあったので、リーシェとアルノルトの関係性に主軸をおきつつ、お話を進めていけばいいのかなと思ってはいました。あと、ラストシーンのイメージが監督にあったのも大きかったですね。
――ああ、そうなんですね。
待田:「原作のここまでをやれば、全体としていい構成になるだろう」という考え方で、私もその点については同感だったので、そこまでをどう12話でおさめようか、と。あとは分量です。この作品って、リーシェが出ずっぱりで、余計なサブプロットがほとんどないから、そこまでで精一杯だろうなと。あまりダイジェストにならないようにしないと、と思っていました。
――丁寧にやっていくことを心がけられた。
待田:はい。感情表現が大事かなと思っていました。
――原作の本編だけではなく、いくつか原作の特典小説からお話をいれこまれていたようですが。
待田:7話なんかがそうですよね。あれは6話でテオドールとの絡みがいったん終わるから、余韻もなくすぐに次の話にいくのもなあと。それもあって、先生が書かれている短編を入れたほうが、いいクッションになるかなと思ったんです。
(c)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会セリフの「文字数」がポイントだった
――監督から脚本制作にあたって、方針についてのお話はありましたか。
待田:「ト書きをしっかり書いてほしい」と。
――ト書きというのは、セリフ以外のキャラクターの行動や状況などをしめした文章ですよね。
待田:ええ。脚本はあくまでも設計図なんです。この先には絵コンテの作業がある。だから、セリフだけでなく、そういったところも絵コンテを描く人たちにちゃんと伝えてほしいと。たとえば「……」と三点リーダーを使うときも、カッコ書きでどんな気持ちなのかをできるだけ具体的に書いてもらいたいとおっしゃっていましたね。
 あと、はじめて経験したことでいうと、通常はペラ(縦20字横10字の用紙)枚数で大体の尺数を決めるのですが、今回は尺を図るためにセリフの文字数を数えたんです。
――聞いたことがない手法ですね。セリフ数を分数に換算していったということですか。
待田:そうです。文芸の武井(風太)さんが、切りのいいときにやってくれていたのですが……自分でも一度やってみてすごく大変で。
――原作の膨大な情報量を整理するにあたって必要だったのでしょうか。
待田:自分としては分からない部分なのですが、監督としてはタイム感が大事だったのかな、と思います。おそらくコンテに反映されているのだろうと。
――監督からの要望はほかにありましたか。
待田:あまりデフォルメはしないでほしいと。漫符やチビキャラはやらない方向とは最初からおっしゃっていました。リーシェはやろうと思えばやれるんですよ。漫符を使うとギャグとして落とせる強みもありますし。ただ、今回はそもそもギャグものではないですし、アルノルトは漫符がしっくりこなさそう。だからおっしゃる通りだなと思いましたね。
 たとえば4話で自室に帰ってきたリーシェとアルノルトが問答しているときに「お腹が空いていませんか」と言うじゃないですか。コミカライズだとリーシェが「ぐぅぅぅ」とお腹を鳴らしていたので、あれをいれた候補もあったと思うんですけど、今回の方針だとデフォルメ的な感じがあるので外してみたり、試行錯誤はいろいろとあったと思います。
(c)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会「雨川節」を残しながら
――シナリオ打ちはどのような様子だったのですか。
待田:意見を言いあったりはしましたが、みんなが同じ方向を向いていたと思うので、実のある本読みだったと思います。あと、監督はやりたいことがあるときもはっきりしているのですが、一方で迷っているときもはっきり「迷っている」とおっしゃるんですよ(笑)。その点は共有しやすくて、やりやすかったですね。
――脚本はかなり稿を重ねたと聞いたのですが。
待田:そうですね。でも、だんだん積みあがっていく感じがあるんですよ。前より絶対よくなっている感があったので、そこもすごくよかったと思います。あと、監督自身が考えを深めている場でもあったのだろうなと。プロデューサーや脚本家たちが話をしていて、監督はそれに意見を言ったり、聞いたりすることで、絵コンテの方向性もイメージされていたのかなと。
――今回の脚本でもっとも苦労された点はどこでしょうか。
待田:セリフの選抜ですね。取捨選択が大変でした。先生の設定を読みかえしたり、アニメ範囲より先の原作でどう言っているのかなとか。先生には「こういう考えで、こうしましたがどうですか」と投げかけると、お忙しいなかでも必ずお返事をいただけたのですごく助かりました。
――セリフの取捨選択をするときの基準はありましたか。
待田:説明セリフに近いものは、まとめられるものをまとめる。それ以外はキラーワードがあるのですが、そこは絶対残す。あと雨川先生らしさが色濃く見える「雨川節」みたいなものもあるんですよ(笑)。「先生が大事にしているんだろうな」というところも残す。たまに間違うときもありますが、想像しながら取捨選択していましたね。
――アニメ化範囲以降の展開を考えると「ここまで言える、言えない」の線引きが難しそうですね。
待田:その線引きは、正直こちらではできないので、おうかがいを立てました。それこそ続編があればどうするのかも考えてつくっていくと面白いのですが、今回の場合は、どちらかというと続いていく原作に抵触しないようにと考えたんです。そうすれば、続編をつくることになっても結果として齟齬(そご)がないものになるので。
――そういう意味で言うと、1話で過去生をどれくらい見せるかのバランスは難しかったのではないですか。
(c)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会待田:原作もコミカライズも、そこはかなり少ない分量で書いてあるんです。だけど、アニメだとそういうわけにいかなくて。1クールで必要になってくる、薬師として薬草を見極める能力とか、侍女時代があるから仕事を理解しているとか、商人や騎士もそうですよね。そのあたりは見せないと。ただ、そうすると逆にほかの過去生のリーシェをどこまで見せるのかがすごく大変で……。騎士生もふくめ原作に書いてあるものとないものがあったので、そこは先生のイメージをいただく必要があって、叩き台を出して書いていただいたんですね。
――かなり時間がかかりそうですね。
待田:実際に1話の前半は、一度保留になったんですよ。2話以降を先に固めていったんです。監督もまだしっくりきていなかったと思うんですよね。2話以降を順番にやっていくうちに見えてくるものがあったのかなと。無理やり1話を固めてしまうやりかたもあったと思うのですが、今回は丁寧に進められたと思います。
――雨川先生からは相当量の設定を先んじてもらっていて、かつ脚本のやりとりでも裏設定的な説明がいれこまれていたと聞いているのですが。
待田:そうなんです。原作の初見ではあれを読んでいないから、いち読者としての読み方しかできなかったのですが、つくり手だとそういうわけにはいかなくて。全然知らないで書いても、ありだとは思うのですが、決まっていることを最初に知って書くと、「これは言ったらダメなんだ」の線引きになるじゃないですか。まだ出てこないキャラについても相当量書いてありましたし、「実は裏でこう思っていました」みたいな話もありました。とくにアルノルトは、「……」の三点リーダーだけのことが多かったのですが、「ここは黙っているけど、じつはちょっとうれしいんです」といったことが併記できたので助かりました。おそらくその後の絵づくりに役立ったと思います。
目線や口元が心情表現に
――リーシェについては、どう魅力的に見せようとされたのでしょうか。
待田:リーシェって、歳は15ですけど、実際ループを何回も繰り返しているから、中身は相当大人じゃないですか。そのわりに恋愛に対しては無頓着だから、そこのギャップがうまく表せるといいなと思いましたね。ただ、アルノルトについては恋愛までいってないし、まだ道のりは長いですけど(笑)
――リーシェが4話でキスをするシーンがありますが、その直後であまり照れていない気がしたのですが。
(c)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会待田:そう(笑)。あれはすごく複雑で……。15歳の女の子が「いきなり男の子に」という感じは欲しいのですが、キスする理由が謎じゃないですか。それもあって、なかなか難しいシーンだったと思います。そういえば、あのキスシーンを4話のラストに持ってきて次回への引きにする、みたいな話もあったんですけど、少し後ろの情報量が多かったからまわせなかった、みたいなこともありましたね。そんなふうに切りどころをどこにするかは、毎回考えました。原作にそっていくとわりといい感じにできるから、それほど苦労はなかったのですが。
――なるほど。毎回ラストの強い引きはかなり意識されていたんですね。
待田:そこは最初から決まっていたんですよ。そういうオーダーありきで、シリーズ構成を書いたんです。「引きを強くしましょう」と。最近はそういう作品が少ないから、次につながるところを大事にしたい、といった話でした。
――アルノルトの魅力についてはいかがでしたか。
待田:彼の場合カメラが内面に入れないですし、内面を吐露するっていうシーンも、ほぼないじゃないですか。オリヴァ―との会話ぐらいでそれもあまりはっきりしない。だからどうなるのかなと思っていたのですが……放送を見て、アルノルトについて微妙な目線や口元で心情を表されていて、これが私の中では衝撃で……。
――ああ、それはオンエアを見て。
待田:ええ。そこで皆さんに魅力を感じていただけるとありがたいなと思いますね。
――アニメ版では、序盤で騎士生を描いていたこともあって、原作以上に冷たい印象もあったのですが。
待田:そうですね。最初からほほ笑んだりということは、あまりしていないんです。2話なんかは、一部をのぞけば本当に鉄仮面みたいな感じで。あまり最初から笑ってしまうと、リーシェの「この人はいずれ国を滅ぼす人」というイメージとずれてしまいますからね。だから、単純に効率を重視しているように見えるといいのかなと。アニメでいうと8話でお買い物に行くあたりからはちょっと人間味が出てくるイメージですね。
 なんというか、アルノルトはミステリーキャラですが、いつもうそぶいているなって思うんです。自虐的なことをいろいろ言うのですが「若いなあ」って(笑)。私からすると、そんなかわいいキャラでもありますね。
(c)雨川透子・オーバーラップ/ループ 7 回目製作委員会――この作品に携わるにあたって、あらたに得たものはありましたか。
待田:「分かってもらうこと」を目指すだけじゃない作品もあるんだなと。視聴者が感じたり、想像したり、推測する作品も面白くできるんだと新鮮な驚きがありました。あまり気にしても仕方ないのですが、脚本家をやっていると、それこそSNSなんかで「(お話の)意味がわからない」と書かれることもあって……。
――待田さんのご経験としても、そういうことがあったんですね。
待田:はい。直接的な表現をしていなかったりすると「話についていけない」となりがちでそのたびに反省していて。ただ逆に、だからといって分かりやすくしすぎても、今度はお話の面白みがなくなってしまう。そんな悩みがずっとあったんです。そんなときにこの作品に出合えて……。
 さきほどもお話ししたとおり、アルノルトってセリフは少ないし、微妙な三点リーダーも多いんですよ。でも、監督がこだわっていた心情表現もあいまって、面白がって見てくださる方がたくさんいらっしゃった。それを思うと「こういう作品でも伝わることがある」と再認識できて、それがうれしくて。今後の脚本家人生に、ちょっと自信がついたんです(笑)

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