「自信を持って臨めたら」 川﨑皇輝
主演ミュージカル『町田くんの世界』
稽古場レポート

2015〜2018年に別冊マーガレット(集英社刊)にて連載された、安藤ゆきによる人気漫画『町田くんの世界』がこの度初めてミュージカル化され、2024年3月29日(金)〜4月14日(日)にシアタークリエ 、4月19日(金)〜4月21日(日)に梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演される。
物静かでメガネ。そんな外見とは裏腹に成績は中の下。アナログ人間で不器用……なのに運動神経は見た目どおりの町田くん。そんな町田くんが周りのみんなを変え、みんなに愛されていく新感覚人間ドラマ。そんな『町田くんの世界』が、東京2020パラリンピック開会式やミュージカル『チャーリーとチョコレート工場』、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』など幅広いジャンルの演出を手掛けているウォーリー木下のもと、ミュージカル化される。
開幕まで1ヶ月を切った3月5日、都内で行われている稽古場が報道陣に公開され、出演者らによる取材会も行われた。その様子を写真とともにお伝えする。
ミュージカル『町田くんの世界』の稽古の様子

ミュージカル『町田くんの世界』の稽古の様子
この日、公開されたのはプロローグから1場まで。冒頭の「Colors of Our Hearts」は、全員で歌うメインテーマ曲。「もしかしたら/もしかしたら/今日あなたがくれた微笑みが/鮮やかに世界を塗り替えて」「今日あなたがくれた一言が/灰色の世界を晴らすかもしれないんだ」といった歌詞が心に残る曲で、ウォーリー木下も「素晴らしい曲です。全部が実は詰まってて、今回の『町田くんの世界』を観終わった後にもう1回聴くと、いろんなことがわかるような仕掛けになっている音楽になっています」と解説していた。
ウォーリー木下
音楽・作詞・演奏の和田俊輔
そして続く「おはようありがとう」という曲では、主人公の町田くんが朝目覚めて、学校にいくまでの平凡な日常を描く。交差点の真ん中で立ち止まってしまったおばあちゃんの手を引いて交差点を一緒に渡ったり、持っていた風船を話してしまった子どものために風船の紐をキャッチしたりと、町田くんの優しさや人となりがギュッと詰めこまれたシーン。
印象的だったのは、舞台機構がひたすらに回転し続ける演出。舞台上の上手と下手にそびえ立つ2つのイントレはブリッジで繋がっている。その舞台機構はグルグルと回転し続け、俳優たちは上へ下へ右へ左へとあちこちからいろいろな役として現れながら、歌ったり芝居をしたり。舞台機構を回すのも基本的には俳優が回しているのだが、そのスピードの調整やタイミングを細かく確認している姿も見られた。この演出が作品全体としてどんな意味を持つのか。全体を通して早く見てみたいと思った。
(右から)演出のウォーリー木下、出演する吉野圭吾、川﨑皇輝、長澤樹、湖月わたる
続いて、質疑応答の時間が設けられた。
ーーご自分の役目と役柄も一言お願いいたします。
川﨑皇輝(以下、川﨑):町田は本当に全人類を皆兄弟・家族と感じて、 本能のままにと言っていいのかわかりませんけども、優しさで周りの人をどんどん包み込んでいって、周りの人の気持ちを温かく染めていく、そんなキャラクターですので、町田くんのある意味人たらしなところを今回は演じさせていただければなと思っております。よろしくお願いします。
長澤樹(以下、長澤):猪原さんは孤独を抱えた、居場所のない女の子なんですけど、町田くんと出会って少しずつ変わって、恋することを知る、居場所を知る女の子になっています。 町田くんに悶々とする日々を送りますが(笑)、その辺をぜひ見ていただけたら嬉しいです。
湖月わたる(以下、湖月):町田くんのお母さん役をさせていただきます。このお母さんは春の日差しのように明るく温かい女性です。我が家はですね、兄弟が6人いる大家族なんですが、 父親が海外出張で長い間不在が続いておりまして。そんな家庭ですので、ちょっと長男の一(はじめ)とお母さんは特別な絆、信頼関係に結ばれているのではないかと思っています。そんな彼が恋をして成長していく姿を母親としてしっかり見守り、 支え、背中を押してあげられたらいいなと思っています。どうぞよろしくお願いします。
吉野圭吾(以下、吉野):僕は健一という役をやらせていただいます。そして、他もたくさんいろんな役を演じるわけなんですけれども、代表して健一のことをいうと……自分の夢を一生懸命えようとするんですけれども、それで家庭が崩壊していく……。
川﨑:言葉にするとすごいですね(笑)。
吉野:家庭を崩壊させてしまう。ひかりちゃんという高校生の娘がいるんですけど、それの父親です。はい。
ミュージカル『町田くんの世界』の稽古の様子

ミュージカル『町田くんの世界』の稽古の様子

ーーウォーリーさんに伺います。この『町田くんの世界』という原作の魅力と、それがミュージカルになることでどのように魅力が膨らむか。そして、主演の川﨑さんの魅力を教えてください。
ウォーリー木下(以下、ウォーリー):原作の『町田くんの世界』は1話1話は割と完結している話なんですけど、言葉がすごく好きな漫画です。最初にそれがありました。で、町田くんという、ちょっと取り留めもないというか、本当にこんな人いるのかな?と思いながら読んでいたんですけど、僕の思いみたいなものは舞台に入れているので、それは見ていただいたらと思ってはいるんですが……本当にこんな子いるのかなと思う子が、きっと本当にいるんだと信じたいなっていう気持ちにすごくさせてもらえる作品で。
最初は普遍的なお話かなと思ったんです。けど、読めば読むほど――つまり、一人の男の子がたくさんの人を変えていくことは多分いつの時代もあるんだけど、今の日本に置き換えて読むと、それはそれでいろんな分断とか差別とか僕たちの中で小さい争いがたくさんあって。それをどうやったら解決できるんだろうとみんな思って生活していて。でもそれが町田くんという存在で変わるかもしれない……みたいなことを考えられると、とても面白いなと思ったので、ミュージカルにするにあたっても、そこを大事にしています。
日本人が歌にして歌って、日本人が演じて作れるミュージカルとしてはすごくぴったりな題材だなという気もしたし、それを今のお客さんに観ていただけるというのも、とてもやる意義を強く感じております。そういう魅力があると思います。
で、川﨑皇輝くんの魅力は、まず第一印象は地頭がいいですね。もちろん戯曲をたくさん読んだり、この作品に向き合うまでにいろんな経験をしたことが大きいとは思うんですけど、どうやったら自分がこの作品に貢献できるか、もっと言うと、現場で楽しくハッピーかつみんなが前向きになれるような空間を作るためには時に厳しいことをしなくちゃいけなかったり、その場で決めなくちゃいけないことたくさんあったりするわけですが、皇輝くんは瞬時にパパパっと決めてやって見せて。今までできないということが一つもないし、それはそういう準備をしてきたんだなという印象がすごくあります。
これからもっともっと大変になっていくので、また新しい川﨑皇輝くんが出てくるような気もしてて。それもすごい楽しみです。
川﨑皇輝
ーー今のウォーリーさんの言葉を受けての感想など聞かせてください。
川﨑:直接自分の印象を言っていただく機会はなかなかないので、お言葉をたくさん言っていただけることは本当に嬉しいなと思いますし、これから出てくる新しい川﨑皇輝っていうのは、なんなんだろう、僕も全然わかってないので、そこはウォーリーさんについていきながら、皆様で見つけていただけたら、僕としてはすごく嬉しいななんて思っています!
ーーシアタークリエで、ミュージカル初主演。稽古を重ねて、今の心境を聞かせてください。
川﨑:クリエはミュージカルを語る上で外せない劇場だと勝手ながら認識をしているんですけども、実際にこのクリエという場で、ミュージカルに出演する、それも主演で出る。最初はそこに驚いたと記憶していて。
とはいえ、劇場自体にはとても馴染みがあります。毎年ちょうどこの時期に事務所主催のライブをクリエをやっているので、毎年伺ってましたし、僕が所属している少年忍者が初めて単独ライブやったのもシアタークリエ。なので、とても思い入れも馴染みもある劇場なんですけども……実際にこの劇場にミュージカルで主演となると、 馴染みのある楽屋、楽屋口、舞台袖、舞台上がきっと見え方が変わるんじゃないかなと予想していて、今ドキドキしてます。
ただ、稽古を重ねる中で、皆さんとご一緒して、本当に皆さん優しくて、温かくて! 偉そうな言葉になっちゃうかもしれないんですけども、本当に皆さん頼もしくて、きっと助けていただきながら最後にやり切れるんじゃないかなと感じてますので、自信を持って挑めたらなと感じています。
ーーお稽古をする中で気づいた、町田くんの魅力を聞かせてください。

川﨑:全員に等しく接するのが町田くんだなと思っていて。そんなことを考えたことが今までなかったんですよね。兄弟も出てくるし、 健一さんみたいな大人も、クラスメートも出てくる中で、ある意味で対応が全く変わらない。それがか町田くんの不思議なところでもあり、これはすごく魅力的だなと思っていて。人によって対応変えないというのは、 演じさせていただく中で気づいた変化だったんですけど、ある意味素敵なとこなんじゃないかなと今では感じています!
ーー座長としてカンパニーを率いていく心境を教えてください。
川﨑:座長としては、今回のフォトセッションのように、全員で並ぶときに真ん中にいるというので、初めて座長を実感してまして。 あんまり「座長だからこうしよう!」みたいなのは、いいのか悪いのかわかんないですけど、深く考えていなくて。ただ、やっぱり座長という場である以上、自分らしく、楽しもうとずっと思っているので、楽しい空気作りに一役買っていけたらなと思いながら、日々稽古させていただいてます。
長澤樹
ーー長澤さんは猪原さんという役の視点から見たときに、町田とはどのような存在に感じていますか。
長澤:猪原さんは居場所がない、孤独な女の子というところから始まっているので、(町田くんは)そこに居場所を与えてくれる人じゃないかなと思って。さっきの歌でもあったんですけど、「あなたがくれた一言が」というように、本当に小さな小さな仕草とか動きに救われてるんじゃないかなと思っているので、そういう意味でも、救世主というのはちょっと言葉違うかもしれないんですけど、そんな存在なんじゃないかなって思っています。
ーー長澤さんご自身はどうですか?例えば、同じクラスに町田くんみたいな人はいてほしいですか?
長澤:いてほしいなって思います。実際にやっていて、町田くんみたいな人で溢れたら、絶対もっと世界が素敵になるんじゃないかなって思うくらいに、町田くんという人は本当に素敵な人だなと。……でも、このお稽古が始まってから、日常を過ごしてるとちょいちょい町田くんみたいな人が、いっぱいいることに気がついて。電車の席を譲ったりとか……ちょっとした町田くんって、きっとみんなの心の中にいるんだろうなと思います。
ーーお稽古が始まってから、長澤さんの中で変わられたことはあるのでしょうか?
長澤:いっぱいありますね。見え方とか考え方とかも含めて色々変わったなと思いますし、自分の中にちょっと優しさを持ちたいなと意識するようになりました。このミュージカルで伝えたいことはたくさんあると思うんですけども、一つは優しさなんじゃないかなと思っているので、まず自分がそれを持つところから始められたらなと思っています。
湖月わたる
ーーお母さん役を演じる上ですごく1番大事にしていることを教えてください。またお母さんからみて、町田くんの家族はどんな家族ですか?
湖月:今回のカンパニーは11人とスウィング2人の計13人の結構コンパクトなカンパニーでして、もうみんなを子どものように思っています(笑)。毎日みんなのいいところを探したり、しんどくないかな?痛くないかな?と、 愛情を注ぎながら、母親像を作っていけたらいいなと思っています。
今回劇中の子どもたちはですね、 にぎやかな動物園のような家族でございまして。1番上が高校生で生まれたてもいますけれども……5番目の“ケイゴ”という幼稚園児役を吉野圭吾さんが演じます。この演出がですね、これぞウォーリーさんマジックと言いますか、素敵な手法できっと皆さん「愛おしい」と感じていただける家族になっておりますので、ぜひ楽しみにしていてください。
――こんなに優しさに溢れた町田くん。どういう風に育てたら町田くんのような子になると想像されますか?
湖月:今回は出てこないんですけれども、私の旦那さんが一つのことに夢中になる、 爬虫類を愛している研究者なんです。一つのものに対する愛情と言いますか、それがきっと町田くんの中に愛情として伝わっていると思いますし、このお母さんの明るさといいますか、人に好かれて、みんなに太陽の日差しを与えてあげれるようなところもあって…….生活環境ですかね(笑)。ただね、反抗期がないのが心配で。母親としては嬉しいやら、心配やらという感じですけども、でも、きちんと大きな壁にぶち当たって、恋をしてくれるので、ほっとしている感じです(笑)。
吉野圭吾
ーー健一という役の他にも色々な役を演じられるとのことで、さまざまなキャラクターを演じる上で難しいなと感じる点や楽しいなと感じる点があれば教えていただければと思います。
吉野:今回のルールとしては役によって衣装を変えたりすることがあまりないので、体一つで次から次へと役を代わってかなきゃいけないんです。なので、これちょっと演技力が試されるなと! これは僕だけではなく、全員そうなんですけど。それが面白さでもあり、うまくできたらいいなと楽しみにしています。町田くんは町田くん役オンリーで、猪原さんはちょっとあるんですよね? 他の役やったりしてますよね? 楽しみですね〜!
ーーすごく和気藹々とされている印象を受けたんですけれども、吉野さんから見て、このカンパニーはどんなカンパニーですか?
吉野:いや、明るい、明るいです。とっても! 多分皇輝くんが持ってるオーラがそうで、これがみんなに伝わって、明るく一丸となって。……今、演劇の限界を超えようとしてるんですね。新しい演劇を見せようとみんなで奮闘してるんです。ウォーリーさんが「演劇はスポーツだ」と言っていますし。そんな感じで楽しくやっています。
ーーウォーリーさん、どういった点で演劇を超えようとされているのですか?
ウォーリー:演劇の限界を超えようなんて、おこがましくて言っていないです(笑)。割と全員で物語を語る形式の演劇で、自分の役だけをやるというよりかは、全編通して1時間50分とか2時間ぐらいになるんですかね。1幕ものですけども、舞台上に基本出ずっぱりで、『町田くんの世界』という物語をみんなで語るわけです。
観てもらいたいのは、物語だけではなくて、やっぱり“俳優”を観て欲しいんですよね。もちろん舞台だから生身の肉体とか生身の言葉とかを感じてもらいたいですし、「あれは一体どこまでがフィクションで、どこまでが俳優さんのリアルなのかな?」なんてことを楽しみながら。でもそれが結局、『町田くんの世界』を作り上げてるという、ぐるぐる回るような仕組みになっています。
取材・文・撮影=五月女菜穂

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