ナナヲアカリの豊かな表現力と新鮮な
歌声のコンビネーションで魅せる、全
曲コラボレーションによる新作EP『D
OPING!!!!!!』はいかにして完成した
のか

最新EP『DOPING!!!!!!』は、収録されている全曲がコラボレーション。多彩な布陣のフィーチャリング、サウンドプロデュースで完成した各曲が圧倒的に楽しい。ナナヲアカリの豊かな表現力と向き合えると同時に、新鮮な歌声のコンビネーションでワクワクすることもできる作品だ。各曲に込めた想い、制作エピソードについて語ってもらった。
――全曲がコラボレーションですね。
はい。好きなみなさんとのコラボ作品を1枚作れたらいいなと、なんとなくずっと思っていたんです。一昨年の12月頃に「メルティックヘル」の制作に着手し始めた後、「FASHION」のお話も頂いて、コラボがたまたま続いたんですよね。それがきっかけとなって、全曲が様々なアーティストさんとコラボレーションしたEPを作ることになりました。
――『DOPING!!!!!!』というタイトルは、なかなかインパクトがあります。
タイトル通り、ドーピングしています(笑)。お互いのいいとこどりをしているので。
――「チューリングラブ」とかもそうでしたけど、コラボ曲ならではの楽しさは、もともと感じていたんじゃないですか?
そうですね。たくさんディスカッションをして和気あいあいと楽しんで作れるのがコラボなんです。今回も制作がすごく楽しかったです。
――もともと幅広いタイプの曲を歌いたいというのがナナヲさんの中にあると思うので、そういう点でもコラボは楽しいんでしょうね。
そうなんです。もしかしたら1人でやるのと比べても、マインドの違いはそんなにないのかも。明確にフィーチャリングとかプロデュースとか銘打っているので、聴いてくださるみなさんの方が新鮮に感じる部分があるのかもしれないです。
――「FASHION feat. GaL」は、NintendoSwitch™用ソフト 着せ替えファッション&コミュニケーションゲーム『ファッション ドリーマー』CMソングですね。
はい。CMソングのお話を頂いてからGaLさんと制作を始めたので、ゲームの世界とナナヲをリンクさせた曲になっています。
――『ファッションドリーマー』、面白そうです。ファッションに興味がある女の子とか、夢中になっているんでしょうね。
そうだと思います。私も3DSの頃にファッションを題材にしたゲームに夢中になっていたんです。だから『ファッションドリーマー』は、「こういうゲーム、小学生の頃めっちゃ好きだった!」とテンションが上がりました。ファッションに対する感性も磨くことができるゲームだと思います。
――ゲームの世界観を踏まえつつ、GaLと曲の制作を進めたんですね?
はい。ナナヲ自身も洋服がすごく好きなので、『ファッションドリーマー』とリンクする部分がたくさんあったんです。私は基本的にはストリートファッションが好きなんですけど、場面に応じて着替えるのもすごく好きなんですよね。服を変えると気持ちや自分の芯にあるものも変化するというか。ちょっと性格も変わるような感じがあるんです。
――スーツを着ると普段よりもちゃんとした性格になるような感じとか、僕も覚えがあります。
やっぱりそうですよね? 服が持っているそういう力とかにもフォーカスした曲にしたいとGaLさんとお話をした結果、とても難易度の高い曲が完成しました(笑)。
――怒涛の展開です(笑)。
初めて聴いた時、“この曲のキー、なに?”ってなりました。キーがいろいろ変化し続ける曲ですからね。
――“ナナヲさんなら歌いこなせるに違いない”というのが、クリエイターのみなさんの中にもあるんだと思います。
そうかもしれない(笑)。「FASHION」の難易度の高さには、かなりしびれましたよ。でも、そういうのをクリアする楽しさもあるんです。練習のしがいがありました。
――《もし世界が終わるとしても 世界中でほめられたい》というフレーズがあるのも、この曲の面白さです。
「今日も世界でほめられろ❤」というキャッチフレーズのゲームでもあるので、敢えてスケールを大きくしました。
――世界が終わるのにほめられたいって、ものすごい承認欲求ですよね。
ほんとそうですよね(笑)。“絶対に生きのびたい”とかよりも“ほめられたい”“最後の最後までいいねが欲しい”というような感覚は、すごく今時な感性な気もします。
――《どんな終末さえ シェアしていたい 私がミューズ》というフレーズもインパクトがあります。
こう言い切ってしまうのって、なんかかっこいいですよね。ここまでファッションにフォーカスした曲を歌ったことは今までになかったので、そういう点でも気持ちが良かったです。
20代前半の頃は何に焦っているのかもわからないまま常に追われている感じだったけど、最近、加齢に対するネガティブな感情が一切なくなってきて。
――ナナヲさんのファッションに注目しているファンのみなさんは多いですよね?
そうかもしれないです。私はもともと服が好きで、自分で作ったりすることもあるので、ファンのみなさんが服に興味を持つきっかけになることもあるみたいです。“衣装がかわいかったので調べてみました”と、同じ服を買ってくれたりもするので。
――この曲をGaLと制作することになったのは、どういう経緯だったんでしょう?
素顔を公表しないで活動しているクリエイターチームなので、ずっと気になる存在だったんです。だからこの機会にぜひご一緒したいと思いました。私は普段からいろいろな曲をディグるのが好きなので、気になるクリエイターさんは、結構いるんです。
――ネット出身のクリエイターは、個性豊かな方々がたくさんいますからね。
そうなんです。何かのきっかけで注目されて、スターになってもおかしくない人たちがたくさんいると思います。ボカコレとかを聴いていると10代前半の子たちとかの作品もありますから。DTMソフトを使ってリズムゲーム的な感覚で作っちゃう小学生とかがいるのかもしれないですね。
――ボーカロイドでしか表現できないような怒涛の展開を遂げる「FASHION」を歌えてしまうナナヲさんは、やはりすごいですよ。
ありがとうございます。中学生の頃、初音ミクとかボーカロイドが憧れだったので、“難しい曲を歌いたい!”っていう気持ちは今でもすごくあるんです。
――「メルティックヘル feat. 超学生」も、すごい展開の曲ですね。ナナヲさんと超学生さんは、歌声のキャラが正反対なのも面白いです。
超学生くんも最近のインターネットから飛び出してきた新世代のスターですからね。彼はSNSの使い方や自己プロデュースの仕方がすごく上手いですし、ずっと気になっていたんです。この曲はTikTokとかSNSにフォーカスしているので、超学生くんと歌いたいなと思いました。お声がけをしたら超学生くんも私のことを知ってくださっていたので、すぐに打ち合わせをしてナユタン星人さんと一緒に制作を進めることになりました。
――超学生さんとは、どのようなことを話しました?
“切り抜き命”みたいな昨今のSNS事情についてとかめっちゃお話をさせていただきながら作り込んでいきました。超学生くんはとても論理的にインターネットを運用して、狙ったところにちゃんと届けていくタイプなんです。だからこの曲に出てくる悪魔くんにもロジカルに全部を知り尽くしているキャラとして歌ってもらうことになりました。
――TikTok、インスタグラムをやっている人にすごくリアリティを感じてもらえる曲だと思います。
そうですね。SNSとの向き合い方に疲れているところもありつつ、“バズりたい”という願望もどこかしらで抱いていると思うので。相反する感情が表裏一体となっているSNSを表現できた曲なのかなと感じています。この曲は音もすごく気持ちよくて、歌の掛け合いも気持ちいいんですよね。
――「チューリングラブ」が好きな人は、この曲にもはまると思います。あの曲もSouさんとの掛け合いが気持ちいいですから。
Souくんは音域が高いんですけど、超学生くんは低音に特化したボーカリストなんです。ここまで声質のコントラストがはっきりしたフィーチャリング楽曲は、もしかしたら初めてなのかも。
――「あなたじゃなくても feat. 澤田 空海理」も歌声のコンビネーションが素敵です。ものすごく切ないラブソングに仕上がりましたね。
ありがとうございます。デュエットソングです。結構前にこの曲の土台となるメモを書いていたんですよね。“どういう曲を歌いたいかな?”と考えていた時にメモを見つけて、“これを形にしよう。この温度感は澤田 空海理だろう”ということになったんです。
――男女それぞれが抱いている気持ちが歌われていて、とても物語を想像できます。
もう終わりなのに終わらせていない2人を描きたかったんです。そういう人ってめっちゃいると友達の話を聞いても感じるんですよ。“そんなだったら別れたらいいじゃない?”って言っても“そうなんだけど。うん……”って別れなかったりするので。傍から見ると幸せそうなんですけど、中身は地獄だったりもして。
――この曲のMVも切なかったです。何気ない日常の幸せをたくさん捉えた感じの映像ですけど、2人の心がまったく通い合っていないのがわかりますから。
すごくリアルに作り込んでいただけたMVです。
――この曲を聴いた小中学生くらいの子たちは、恋愛のリアルな部分を学んでいるのかも。
ものすごい英才教育ですね(笑)。
――(笑)。聴きながら改めて感じたんですけど、ナナヲさんは曲で描かれている登場人物に完璧になりきりますよね?
なりきるというか、なれちゃうというか(笑)。私の中で大きく分けると“ナナヲアカリ”と“ダ天使ちゃん”という2つのスイッチがあるんです。
――歌っている曲のキャラクターに日常生活が引っ張られることとかはありますか?
それは滅多にないです。昔はそういうこともあったんですけど。
――俳優さんは、演じているキャラクターに引っ張られることがあるみたいですよ。
俳優さんは、そのキャラクターになっている時間が長いですからね。歌は4、5分とかなので、そこまで引っ張られることはなくなりました。
――ナナヲさんがスイッチを切り替えてキャラクターと完璧に同化する感じは、「NOBODY KNOWS PARTY feat. 玉屋2060% (Wienners)」を聴いても感じます。「あなたじゃなくても」の対極にあるような歌ですからね。
最近の私の中にある願いが一番こもっているのが、実は「NOBODY KNOWS PARTY」です。ぱっぱらぱーな感じの曲なんですけど(笑)。“優しい世界にしましょう!”という曲です。SNSとかを見ていると他人に対して優しくない人が多過ぎるのを感じて、“なんで?”って悲しくなった時期があったんです。玉屋さんもとてもピースな方なので、“わかる! 俺、そういうのがあるから全然SNSをやりたくないんだよね”とおっしゃっていました。そういうお話を経て、こういう曲になっていきました。
――変態紳士クラブのGeGさんがプロデュースした「Jewel」も、温かいメッセージが伝わってくる曲です。
この曲は、演じていないナナヲアカリですね。GeGさんはもともと個人的に好きで、プロデュースされている曲をずっと聴いていたんです。レコーディングはGeGさんの大阪のスタジオに行って、打ち合わせから爆速でしたね。ナナヲのイメージのビートを頂いて、それを聴きながら歌詞を書いていきました。そういえば、歌を録ってくださったエンジニアの方は私と地元が一緒で、最寄り駅が同じなんですよ。そんなお話もできて、面白かったです。
――器用に生きられず、回り道するような人生を肯定する気持ちが伝わってくる曲です。
20代の前半くらいの頃の私は何に焦っているのかもわからないまま常に追われている感じだったんです。でも、今になって振り返ってみると、焦ったり、悩んだり、くすぶっていた時期も“まあ、いっか”と肯定できる感じがあるんですよ。こういうことを歌える自分になれて良かったなと思っています。
――年齢を重ねると、受け入れられることの幅が広がるというのはありますよね。
そうなんです。最近、加齢に対するネガティブな感情が一切なくなってきていて。そういうことも含めて伝えられたらいいなと思っています。
――年齢を重ねたからこそ歌える歌は、今後も生まれていくんじゃないですか?
そうだったらいいですね。例えばむちゃくちゃかっこいいジャズ、ブルースとか、まだ自分が歌っていないジャンルの曲への憧れはありますから。
――「I LOVE MEでいられるように feat. 湊あくあ」は、BPMがものすごく速いですね。
そうなんです(笑)。“理由はないけど、自分のことを褒めて認めよう!”という曲です。「NOBODY KNOWS PARTY」や、広い意味で言えば「メルティックヘル」もそういうテーマですね。他人に優しくするためには、まずは自分に優しくするべきだと思うんですよ。自分に余裕がないと他人に対して強く当たってしまったりもしますから。あくあちゃんも活動を通してそういうことを伝えていると感じて、それはナナヲアカリとリンクする部分なのかなと。あと、この2人で歌うんだったらバラードとかよりも、やっぱりアッパー系なのかなと思って、こういう曲になりました。
――これを歌いこなせるナナヲさんと湊あくあさんは、やはり只者ではありません。
あくあちゃん、すごかったですよ。完璧に歌いこなしていて、それに刺激されるものがありました。
――これをもし1人でカラオケで歌おうとする人がいたら、ものすごい勇者です。
やって欲しい(笑)。歌ってくれたら嬉しいです。1人チャレンジが流行ったら面白いですよね。
――チャレンジする人がいるかも。歌ってみたくなる曲でもあると思うので。
この曲、楽しいんですよ。こういう速い曲って、問答無用で楽しくなっちゃうんですよね。乗っちゃうと、あっと言う間に終わっちゃうんですけど。
――楽しいと同時に、元気になれるメッセージがまっすぐに伝わってきます。
嬉しいです。意外と励まされる人が多い曲なのかもしれないですね。
――この曲で歌っているように、ご自身のことを愛せていますか?
そうですね。昔はネガティブ過ぎて自己肯定感が鬼低かったんですけど、ここ1、2年はアイ・ラブ・ミー過ぎて“誰か止めて!”っていう気持ちです(笑)。
――(笑)。ネクラロイド(※)の頃があったとは思えないですね。(※アルバム『ネクラロイドのあいしかた』2017年8月発売)
ネクラロイドの時代を切り抜けて、今は“誰か止めて!”の人になってしまいました(笑)。
――(笑)。今回のEPは、素敵なメッセージもたくさん込められた作品だと思います。
ありがとうございます。そうかもしれないです。もちろん曲それぞれの物語があるんですけど、歌いたいことを自然に詰め込んだ結果、全体的にポジティブなものになっていったのかなと思います。
――ジャケットのアートワークも素晴らしいですね。さすが寺田てらさんです。
もう、かわい過ぎます! コラボしたみなさんに縁のあるアイテムも散りばめられているので、いろいろ探しながら見るのも楽しいと思いますよ。
――このEPがリリースされるのは、ツアーが終了した後ですね。どんなツアーになったと感じていますか?
新曲を各地で1曲ずつ増やしていったんですけど、聴いてくれる人が目の前にいるからこそ説得力を増す曲もありました。「メルティックヘル」もそうでしたね。SNSに対するシニカルなことも言っていますけど、あれがあったからこそ繋がれたのがライブに来てくださったみんななので。ライブで歌いながら、そういうことをすごく感じました。新曲の意味をより強く、リアルに実感できたのが、今回のツアーだったと思います。
――ネットへの動画投稿から始まったナナヲさんの音楽活動ですが、お客さんの前で歌うライブに対してはどんな想いがあったんですか?
もともとライブを観に行くのは好きだったので、憧れはあったんです。もちろん最初の頃はめちゃくちゃ緊張しましたけど、緊張よりも憧れが上回ったというか。
――ネットで音楽に触れるのが主体のお客さんも、ナナヲさんがきっかけでライブの楽しさを知っているのかもしれないですよ。
そうですね。“人生初ライブです”とか言ってくれる人もいて、めっちゃ嬉しいことです。ライブで音楽を聴くって、やっぱり何にも代えられないものがありますから。
――今後、海外でのライブの機会も増えていくかもしれないですね。昨年の11月に始まって今年の1月にファイナルを迎えた『RPG TOUR』も、北京、上海、広州公演がありましたから。
中国で私はnana(ナナ)って呼ばれているんです。かわいい愛称で嬉しいです。海外でのライブもどんどんやっていきたいですね。欧米も行きたいなあ。
――海外の人にとってもナナヲさん曲は新鮮だと思いますよ。今回のEPに入っているようなサウンドは、アメリカやイギリスとかの音楽にはなかなかないタイプですから。
J-POPならではの曲もたくさんありますからね。
――ガラパゴスとか否定的なことを言われることもありますけど、J-POPならではのサウンドは誇ってもいいと思います。
そうなんですよね。これは文化だなと私も思っています。「FASHION」みたいなえぐいコード進行をする曲が好きな人は海外にもいるはずなので、そういうみなさんと出会っていきたいですね。

取材・文=田中大 撮影=大橋祐希

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