明石家さんま、4年ぶり主演舞台へ 
シリーズ初参加の松尾貴史、演出の水
田伸生とともに語った舞台『斑鳩の王
子』見どころとは

明石家さんまが、2020年以来、4年ぶりに演劇作品に主演する。さんまがテレビドラマや映画の演出家・水田伸生と組んだ演劇シリーズは、日中戦争時の漫才コンビの話『七人ぐらいの兵士』や高度成長期の新聞社の話『PRESS〜プレス〜』、明治維新の頃の仇討ちの物語『七転抜刀!戸塚宿』など、その都度、脚本家を変えながら、様々な名作を生んできた。
今回は、連続ドラマ『相棒』シリーズなどを担当する輿水泰弘が、時代をぐっと昔に遡って書いた、飛鳥時代・聖徳太子の物語『斑鳩の王子―戯史 聖徳太子伝―』。さんまが複数の人物の声を聞き分ける聖徳太子を演じる。
さんま主演の演劇に初参加となる松尾貴史は、どんな役でさんまと絡むのか。さんま、松尾、水田の意気込みを聞きに、稽古場を訪れると、さんまの愉快そうな声が高らかに響いていた。名付け親になった新劇場・IMM THEATER のこけら落とし公演でもあり、思い入れもひとしおのようだ。
明石家さんま(手前)、松尾貴史(奥)
――さんまさんが聖徳太子を演じることになったきっかけはなんだったのでしょうか。
明石家さんま(以下さんま):トーク番組『踊る!さんま御殿!!』をはじめたとき、人の話をよく聞き分けるようなイメージを持たれて、『聖徳太子みたいなやつやな』と言われたことがあるんですよ。それで、水田伸生監督と脚本の輿水泰弘さんが、僕に聖徳太子をやらせて苦しめようということだと思います。
水田伸生(以下水田):前回公演『七転抜刀!戸塚宿』(20年)が終わったあと、輿水さんと雑談の延長線上で次回公演の企画の話をしたら、歴史上の偉人はどうだろうとアイデアが出て。なら、奈良ご出身だし、聖徳太子のイメージがさんま師匠にはあるよねって。
さんま:歴史上の人物だと……肖像画を見ていただくとわかると思いますが、僕の顔は織田信長に近いんです。大昔のコンピュータがはじき出した、織田信長に一番近い芸能人ランキングでダントツで一位だったんですよ。それを受けて、豊臣秀吉を柳葉敏郎がやったとき(『天下を獲った男 豊臣秀吉』93年)、信長役にと、中島貞夫監督からリクエストされて、カツラ合わせに行ったら、足軽組頭役に変えよったんですよ(笑)。それですごいショックを受けまして。顔は似ているにもかかわらず、ドラマになると僕は織田信長役ではないっていう。でもその後、木村拓哉が映画(『レジェンド&バタフライ』23年)で信長をやり、たけしさんの映画(『首』23年)では加瀬亮さんが信長をやり、僕が織田信長をやらなくてよかったなと今はそう思っています(笑)。
――聖徳太子をどう演じますか。
さんま:僕としては飄々さを選んでいます。聖徳太子を演じようとはしてなくて、さんまが聖徳太子をやればいいと思っています。誰も知らないしね、聖徳太子がどうだったか。
――松尾貴史さんの役どころは?
松尾貴史(以下松尾):4役くらいあります。メインは蘇我馬子。厩戸皇子(聖徳太子)の奥さんのお父さんーー義理の父親ですね。あと、突然呼び出されるへんてこ神様。ほかに、一瞬出てくるような役を……。
さんま:もともとものまね名人やから。自由自在に演じ分けられてうらやましい。
松尾:いやいや、元がわかっていないですから(笑)。
さんま:そうそう、各々のイメージだからね。昔、我々の仲間が、ものまね歌番組で天平美人のものまねを自由にやりすぎて、えらいディレクターに怒られたことがあるんです。「誰も知りませんやん」「知らんけど、ばかやろう」って言われたという例もあります。
――今回、松尾さんは、さんまさんの舞台に初参加となりますが、出演のきっかけはなんだったのでしょうか。
水田:松尾さんとは連ドラでご一緒したことがあって。輿水さんとキャスティングについて話していて、松尾さん、いいねって、すぐにご連絡しました。
松尾:『七転抜刀〜』を見た帰り、お好み焼き屋さんで水田さんから雑談レベルで声をかけてもらって、時間があえば、呼ばれたらどこへでも……と答えたら、今回、正式にオファーをいただいて、あのときの話を覚えてたのかーって(笑)。
――さんまさんと松尾さんはこれまで共演は。
さんま:僕とキッチュ(松尾のこと)とは知り合ってから長いんですよ。僕の舞台の常連である山西惇、温水洋一、八十田勇一よりも実は早くから出会っている。
松尾:やさしい先輩だったんですよ。最初にお目にかかったのは、僕が、ワイドショーのリポーターとして突撃取材をやらされたとき、さんまさんに突撃したら、ディレクターに「アポなしで、何を考えているんだ」って怒られて。そうしたら、さんまさんの「やってやれや」って声が控室から聞こえてきて……。声が大きいからダダ漏れじゃないですか(笑)。それで無事取材が成立した。38年くらい前の出来事です。
さんま:僕は、キッチュの、大島渚監督のものまねが大好きで、共演したとき、何回もふったことを覚えています。そのうち、ものまねを捨てて、お芝居のほうに行かれて……。
松尾:いや、捨ててないですよ(笑)。
さんま:お笑いもやりながら、お芝居していて。今回、稽古している様子を見ていると、ああ、芝居が好きやねんなあと思いますよ。一生懸命台本を読んでいて。その横でみかんを食べてるおれが情けない(笑)。キッチュは長いセリフが多いんで、ずーっと練習しているんですけど、横で俺たちが、雑談していて。
松尾:おかげでセリフが入らへん。
さんま:そして、雑談に入ってくるんです。セリフ覚えているフリして、聞いてんのかい!って。
松尾:集中力ないんでね、つい、おもろいほうに流れてしまいます。
さんま:しかも、セリフがしっかり入っているフリしてすぐに、なんやったっけな?って稽古を止める。俺のほうが入ってたっていう。
松尾:いや、さんまさんも台本、持ってましたやん。
さんま:セリフは、本番、3日前にいれたほうが生きたセリフになる。僕はそういう作り方をしています。そっちのほうがいい。そうしないと、飽きてしまうんです。セリフに飽きることが一番こわいんで。
松尾:僕も初日に間に合えばいいってくらいですよ。
さんま:そうなんだ。
松尾:どちらかというと、台本に書いてあることは、さもその場で思いついたように、その場で思いついたことは、あらかじめ書かれていたかのように言うことが、昔から好きなものですから。さんまさんの現場の空気は、僕の体質には合っていると思います。ただ、それを、水田さんはどう思っているのか。
さんま:そうそう、僕らの上には水田監督がいるから。
水田:出演者全員がこの状態で。芝居の稽古なのか雑談の会なのか境目のないのが、さんま師匠の舞台の特徴だと思っています。
左から 演出の水田伸生、明石家さんま、松尾貴史
――そういう雰囲気を当て書きして、脚本ができているのでしょうか。
さんま:当て書きもちょっとはあるでしょうけれど、芝居の作り方が、役者さん、お笑い芸人と各々違うので、こっちは皆様にお願いして『さんま流』でやってもらうようにさせてもらってます。お笑いにはいろいろな作り方があるけれど、結局残るのは、“緊張と緩和”だけなんで。そこを、俺が出るからには、さんま流というのか、さんま風(ふう)にしたい。そこにキッチュたちには合わせていただきたい。そのために、今日もチャーハンをごちそうしました(笑)。
松尾:美味しかったです。
――リリースに「おしゃべり怪獣が10人の声を聞き分ける」とあって、おしゃべりだけど、他者の話もよく聞くってことですよね。
さんま:聞き分けるというよりも、聞きながら、次の展開を考えているっていうほうが正しいんですよ。
松尾:聞き分けるっていうよりも、聞き逃さないんですよ。
さんま:聞き逃さない(笑)。10人のミスを聞き逃さない。ほんとにそうかも。仕事上ではそうかもしれないですね。
松尾:ちょっとしたことを、時間差で突っ込んでくる。そこがね、油断も隙もないというかね、あのときのあれ、間違っていたのかなっていう恐怖があります。ありとあらゆるそこらへんに散らばっているものを全部、笑いの材料にされるかたなんでね。
さんま:ゴミ拾いか。
松尾:サステナブル。そういう意味で、聖徳太子の役はぴったりじゃないかなって気がします。
――『斑鳩の王子』はどんな話なのでしょうか。
さんま:ストーリー的には、確実な事実が残っていないので、本当と嘘が混ざったものになっています。驚いたのは、水田監督と打ち合わせしながら「この時代、戦争がないんだね」「入れましょうか」「そんな簡単に入れられるのか」って(笑)。
水田:人間って長い月日を経ても、そんなに進歩してないことが悲しいですよね。いまも地球上で戦争が起きていて。『日本書紀』に書かれているこの時代は暗殺の歴史なんですよね。お客様には、楽しい舞台を見て大笑いしていただきながら、これから先、地球はどうすべきか、そういう問いをちょっとだけ持ち帰っていただければと思っています。
さんま:そんな気持ちを、主役はまったく思っていません(笑)。
松尾:権力闘争や権力の奪い合いというものが軸になると思っていたのですが、当時どうだったかは誰も知らないから、お客様が物語を楽しむことに差し障りのない程度に、違和感最小限にするのが大事かなと思っています。
――今回、こけら落としとなるIMM THEATERは、さんまさんが命名したそうでうね。
さんま:テレビは表現の拘束がどんどん厳しくなって、やりたいことができない時代になってきているので、自分の好きな笑いを自分なりの表現で思いきりやって文句を言われない劇場をつくりたいと思ったら、ちょうど、会社から作ってくれってことになって。水道橋にIMM THEATER ができました。IMMは僕の座右の銘『生きてるだけで丸儲け』からとりました。ほんとうならIDMですが、所ジョージさんが、IDMというロゴで僕にジャンパーを作ってくれたことがあり、劇場はIMMにしました。ロゴのデザインを、ジミー大西が、生活が苦しいと言うんで、頼みまして。さらに、SNS映えする看板の絵も頼んで。いまのところジミーだけは潤っています。
――劇場のコンセプトも考えたのでしょうか。
さんま:収容人数は800以内にしてくれとお願いしました(705席)。700〜800くらいが僕にはひじょうにやりやすいんです。1000人超えると、細かいニュアンスが伝わらず、違う笑いになって、演出を変えなくてはいけなくなるので。
水田:今まで上演していたシアターコクーンが改修になってどうしようかと思っていたところ、さんま師匠に相談したら貸していただけてよかったです。
さんま:ええ劇場でしょう。
水田:ええ。ステージから客席を見るとびっくりしますよ。
さんま:ステージから空の客席を見ると、僕の顔になっているんです。これを見せるために入場料をとろうかという話があるくらいで。なんちゅう会社やねん(笑)。でもね、空いてるときに、ジミーをはじめとした、アーティストの個展などもやろうと思っていて。そういうときに見ることができるようにしたいと思っています。
――こけら落とし公演に対するお気持ちはいかがですか。
水田:本当に震えます。でも、師匠がついていますから安心です。
松尾:縁起物ですから、ただただ幸運と思います。
さんま:長年、こけら落とし公演に何度も出演してきましたが、常にプレッシャーがあります。でも、この『斑鳩の王子』をこけら落としでできることは劇場としてありがたいことです。
取材・文=木俣冬 撮影=山口真由子

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