GRAPEVINE、最新シングル「雀の子」
ーー全編関西弁の歌詞、衝撃的で刺激
的な楽曲はなぜ生まれたのか

7月26日(水)に配信されたシングル「雀の子」。兎にも角にもサウンドも言葉も衝撃的に刺激的であり、その攻めた姿に痺れるしかなかった。アルバム『Almost there』が9月27日(水)にリリースされることも発表されたが、そちらも刺激的で攻めたアルバムであることは間違いない。GRAPEVINEは珠玉の楽曲と異形の楽曲という奇跡のバランスで成り立っており、そのあたりについても異形の楽曲「雀の子」を踏まえた上で、ボーカルの田中和将に話を訊いている。「雀の子」を聴いた全ての人をざわつかせたであろう、大きな要因である関西弁の歌詞についても語ってもらった。まず今は「雀の子」を聴き込んでもらい、是非ともアルバムを楽しみに待っていて欲しい。それまでの合間に良ければ、このインタビューも読んでもらえたら、よりGRAPEVINEの世界に興味を持ってもらえるに違いない。
ーーアルバム『Almost there』が9月27日(水)にリリースされますが、いつ頃から作業を始められていましたか?
春くらいから動き出して、3月、4月と曲を作っていて、そん中にあったのが「雀の子」だったりして、プリプロを5月、6月にして、6月、7月でレコーディングですかね。
ーーアルバムレコーディングとしては、スピーディーでスムーズですよね。
自分で言うのもあれですが、「書け」と言われたら、いくらでも出てくるんですよ。良いか悪いかは置いといて。亀井君(Dr)がいっぱい書いていて、負けられへんなと。
ーーGRAPEVINEの強みはメンバー3人共に曲を書けるこことですよね。
西川さん(G)は最近そんな書かないんですけど、キレキレギターかましときゃ存在感あるんで。まぁ、外タレなんで。
ーー確かに西川さんがギター弾く姿は存在感あって外タレみたいですよね……。でもメンバーに負けてられへんと思う関係性は凄く良いですよね。
負けてられへんは言い過ぎですけど、亀井君だけやなくて、バランスとして、みんなで書いた方がおもろいアルバムになるので。
ーー前作『新しい果実』(2021年5月リリース)も今作も、田中さんがほぼ半分くらい書かれていますよね。
家でやるのがつまらなくて、一時期書いてなくて。それよりスタジオでメンバーとセッションして作る方が刺激的で。家でひとりでやってると「何やってるんやろ……」と思って、全部仕上げられなくて。だから、その時は亀井君の曲とセッションの曲でのアルバムでしたけど。後、まぁ、その何と言うんですかね、今は何でもありやなと。エエ曲やなくてもエエやろと。前作、前々作くらいから、アルバムに1曲2曲エエ曲あれば、後は異形の曲でも大丈夫だろうと。昔は、Aメロ、Bメロ、サビ、大サビという曲っぽい体裁のエエメロディーに捉われていたけど、そんなの世の中いっぱいあって。でも、そん中にほんまのエエ曲って全然無いじゃないですか。だからいらんのだと。エエ曲風のエエ曲じゃないのっていらんと思いません? いらんのですよ。ウチには亀井君という天才的メロディーメイカーがいるんで、その珠玉の1曲があれば、後は好き勝手暴れ回って良いという安心感があるので。亀井君が先に作ってくれていたデモテープに2、3曲エエ曲があって、後は好き勝手やったれと。そこは上手いバランス取れたなと思ってます。
ーー90年代や2000年代初頭までの昔は、シングルCD全盛の時代だったので、絶対にエエ曲で売らなアカンみたいな流れがありましたけど、今はサブスク時代で、そこまで捉われずに、どんどんシングルというか1曲単位で気軽に配信が出来る時代になりましたよね。
今は世の中を見てて、何が売れてるかわかりにくい時代。テレビの主題歌でも売れてなかったり、街では聴けへんのにTik Tokでブレイクとかね。売れる曲の傾向はあるかもですけど、大多数は若者が動かしているので。でも、我々がそれをやっても仕方ないですから。若者に媚びてもしょうがないですし、それにエエ曲風は世の中に五万とあるわけで。だから「雀の子」みたいな異形の曲があって、亀井君の珠玉の曲があればよい。
ーー田中さんと亀井さんの役割のバランスは素晴らしすぎますよね……。
まぁ別に役割を意識してるわけじゃないし、僕もいい曲を書きたくなる時もあるし、亀井君にも異形の曲はありますしね。ただ、気持ちとしては若者に媚びたり、流行もんに寄せたり、今の日本のロックに寄せても仕方ないので。でもね、CDセールスが全盛だった時期は多かれ少なかれ、自分でも歌詞わかりやすくとか、アレンジも聴く人に親切にとか、そういうことを忖度して考えてましたよ。日本の音楽は時代的にガラパゴスなとこがあって、分野によっては止まっている。それが悪いとは言わんけど、例えばアニメタイアップソングとはこういうもんみたいな。そら、「ロックバンドかっこ悪い」と言われるわとなりますよね。
ーー確かに定型文のステレオタイプなマニュアル通り、みたいな曲が多いですもんね……。当たり前ですが、GRAPEVINEには、昔からそういう曲が全く無いんです。特に今回の「雀の子」のように刺激的で攻めている曲をシングルとして出すことに痺れまくりました……。
僕は違う曲をシングルと言っていて。まさかの「雀の子」でいくとは攻めてるなと。攻めの姿勢やったら、その方がいいですし。
ーー前のアルバムの時も「ねずみ浄土」というこれまた刺激的で攻めた楽曲がシングルやったので、それが続いていてたまらなかったです。
「ねずみ浄土」の時も僕は違う安パイのを推していて。
ーースタッフチームの攻めた姿勢は凄いですね……。
嬉しいですね。自分のそういう小っちゃいとこは情けないですね(笑)。まぁ、ポップな曲が絶対ウケるわけではないし、何が正解かわからないので、「雀の子」でザワザワしてくれたら、これが正解かなと。
「雀の子」リリックビデオ
ーー「雀の子」の何が凄いって、サウンド面はもちろんなんですが、田中さんによる全編関西弁の歌詞が衝撃的で……破壊力が凄いんですよ……。初めて聴いた時に町田康さんの文体を思わず思い出したんです。全編関西弁で表現した『口訳 古事記』を読んだばっかりの時期でもあったので。
あれおもろいですよね。僕も昔から町田さんは好きで、今回に限らず影響を受けています。後は野坂昭如さん。「雀の子」は関西弁で歌詞を書いていて、これやったら、町田さんの言葉を借りるなら、「やたけたな」感じが出ているかなと。やけくそな感じで、おっさんの哀愁が出るんで。そういう「やったんで」という感じの映像を思い浮かべていたら、(小林)一茶の「雀の子そこのけそこのけお馬が通る」という句が出てきて。俳句も川柳も詠歌(よみうた)ですから、言葉のアクセントで楽しんでるという基本は音楽と同じなんで。(俳句や川柳は)メロディーがあるわけじゃないけど、何となく調子はあるし、短い言葉の中で含蓄勝負するわけですよね。3分でストーリーという(音楽の)世界と5・7・5の中でという(俳句川柳の)世界は近いですよね。
ーー俳句川柳と音楽は近いところが確かにありますね。関西弁で歌詞というのは以前から考えていたのですか?
関西弁でというのは考えてなくて、たまたまですね。歌詞を考えている時に関西弁がはまって、韻の踏み方の仕掛けも思いついて。今後これ続けようというわけでも無いですしね。今回は「雀の子」自体が割りとロックなギャーッとしたフィジカルな曲なので相性がよかった。淡々とした曲やったら、こうなって無かったでしょうし。町田康さんや野坂さんも関西弁じゃない作品も多いですし、それも好きですからね。まぁ、気が向いたらやるかもですけど。
ーー田中さんはデモの時点でほぼ完成型を作られると聞いていますが、「雀の子」もそうだったのですか?
デモには、あのイントロは無くて、でも曲の仕掛けはほぼほぼありましたね。プリプロでメンバーと合わせている時に、このイントロを思いついて余計に異形になって。いつもですけど歌詞はデモの時には書いてなくて、プリプロで曲がバンドのものになっていく中で、歌詞をイメージしていくんです。いつも通りホニャララ英語で歌っていただけで、関西弁は全く思ってなかった。ただストレンジなものを作ろうという意識はあったので、結果になりますが関西弁になったかのなと。
ーーあのイントロにまずむちゃくちゃ掴まれるので、最初はイントロが無かった事には驚きました。
何かイントロを付けたいなと色々と考えていて。サビにはディストーションのイメージがあって、でもディストーションを使うのは久しぶりで。実はあんまり歪ませないバンドですからね。だけど、このアルバムはディストーションを多用したロックっぽいアルバムになりましたけど。黒人がやるロックのイメージもあって、キザイア・ジョーンズ、リヴィング・カラー、プリンス、イヴ・トゥモア、タットモスあたりの感じというか。黒人がギターをギャヒーンと弾くイメージがあったので。黒人のギターって、いい意味であまりこだわりが無くて、そういう雰囲気が欲しくて。それが何かやたけた感じにも繋がりましたね。
ーー「雀の子」を聴いた人は最高にザワザワすると思いますし、いい意味でアルバム『Almost there』が全く想像つかないので、むちゃくちゃ楽しみにアルバムを待ちはると想います。
確かに「雀の子」からは想像つかないすよね、アルバムは(笑)。
取材・文=鈴木淳史 撮影=河上良

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