the GazettE、リリースから2年越しで
たどり着いたツアーファイナル バン
ドの信念と4年ぶりに轟いたオーディ
エンスの声が共鳴した武道館ライブを
振り返る

the GazettE LIVE TOUR2022-2023 MASS "THE FINAL"

2023.7.15 日本武道館
アルバムをリリースし、それを掲げて日本全国をツアーで回る――そんな“当たり前”が当たり前でなくなったこの3年ほど、the GazettEにとって苦渋を味わった時間は長かっただろう。それでも彼らは“当たり前”の形を変えることなく、己の信念を貫いた。
記念すべき10作目のアルバム『MASS』をリリースしたのが2021年の5月。多くのアーティストが配信ライブという形でなんとかファンを繋ぎとめていた時期ではあったが、彼らはこう断言していた。
「同じ空間でファンと一緒に作っていくのがthe GazettEの“ライブ”だから、画面越しでしか伝えられない配信ライブはやらない」
そこから秋に3本のデモンストレーションライブ、翌2022年3月に国立代々木競技場 第一体育館で開催した20周年公演を経て、ようやくアルバムツアーの幕が開けたのが5月。数多のバンドが次々にライブ再開に踏み切るなか、リリースからツアーまで1年という異例の年月がかかったのは“ライブをするからにはファンと同じ空間を共有する”という信念と、同時に“ファンの健康を守る”という意志を守った結果にほかならない。そうして全国のホールを回る『PHASE 01-COUNT"DECEM"』から始まった『MASS』ツアーは、各地で過去のアルバムと融合を果たした『PHASE 02-"The Unknown"』、大バコでのスタンディングツアー『PHASE 03-"LAST MILE"』を経て、その最終到達地点に約8年ぶりとなる日本武道館を選んだ。同時にアナウンスされたのは、本公演では不織布マスクを着用しての声出しが解禁されるということ。周囲の状況いかんにかかわらず、ツアー中は慎重に慎重を重ねてきた彼らのライブに、2019年から実に4年ぶりにオーディエンスの声が戻ってくるということで、当日の客席は見切れの限界までギッチリとファンに埋め尽くされることとなった。
RUKI(Vo)
開幕を告げるSEが鳴ると、手拍子から大音量で歓声の渦が広がり、その波動が靄となって視界を覆うかのような錯覚さえもたらしていく。晴れ舞台へと静かに入場した5人が放ったのは、もちろん「BLINDING HOPE」。ツアー全公演で幕開けを飾った楽曲に耳を傾け、時に身体を折り畳み、時にステージに向かって腕を伸ばすオーディエンスは、慣れ親しんだオープニングの集大成とも言える熱を、思い残す事なく心身に刻み込んでいるかのように見えた。続いて音玉で弾けた「ROLLIN’ 」で会場を揺らし、RUKI(Vo)が「さぁ、声聞かせろ、武道館!」と「NINTH ODD SMELL」に繋げば、猛烈に湧き上がる歓声に弦楽器隊はパワーコーラスで応酬。そんなメンバーの一挙手一投足を左右の大型モニターはリアルタイムで映し出し、the GazettEが確かに今、此処に存在して息づいている事実を、ひたすらに訴えてくる。同じ時間と空間をファンと、そして声を分かち合う――これこそがthe GazettEの真の“ライブ”なのだ。
「なんかさ、今日声出すの初めてじゃん、このツアー。思った以上に感動した」と照れたように告白したRUKIが、「今日は規制も何もないから、声枯れるまで行けよ!」と煽ると、以降、メンバーのプレイとオーディエンスの歓声が怒涛の音塊を成し、場内を席捲していく。前へと進み出たREITA(Ba)が頭を振って激情を露わにする「DAWN」に、戒(Dr)のドラミングがヘヴィなビートでヘッドバンギングを呼ぶ「HOLD」、激情の中で渦巻くトランスにRUKIも《堕ちろ…》と呟き狂気のデスボイスを放って宙を掻く「裏切る舌」と、メンバー個々のエモ―ションも前面に。「さぁ、手あげろ!」の号令に見渡す限り拳の海が広がった「NOX」から、「13STAIRS[-]1」では客席とのコール&レスポンスもブランクを感じさせないシンクロ率で、声を封じられていた間もthe GazettEとファンは途切れることなく絆と信頼を積み重ねてきたことを実感させた。
麗(Gt)
そしてステージ上方に置かれた『MASS』のロゴ電飾がブルーに染まると、ツアー全公演を通して高め続けてきた叙情パートが幕を開ける。大型モニターの映像が途絶え、暗い照明がメンバーをシルエットだけで投影するのは、刺激的な視覚のみならず聴覚から第六感までを研ぎ澄ませてthe GazettEの表現する楽曲世界を感じ取ってほしいという想いの表れに違いない。まずは「DRIPPING INSANITY」でエモーショナルなRUKIの歌声がる哀しみを場内にじっくり染み渡らせると、おどろなSEから始まった「濁」では彼の叫びが――それまでのような煽動のためのシャウトではなく、どうにもならない感情の発露としての轟きが響き渡る。大振りでスティックを振るう戒と大きく身体を揺らす麗(Gt)の上手組に、じっと動きを抑える葵(Gt)・REITAの下手組というシルエットでのコントラストも鮮やかだが、続く「THE PALE」では4人ともに不動の体勢に。それでいて深淵なる宙と儚い己に対する嘆きを吐き出すRUKIのボーカルにシンクロし、その演奏はどんどん熱を増して美しき焔となるのだから、心の熱は高まるばかりだ。さらに麗と葵のアコースティックギターが洗練の度を極めて、切ない希求を描く「MOMENT」まで。本ツアーで数十回にわたり、ほぼ形を変えることなく綴られてきた物語は、ここに心揺さぶる集大成を迎えたのだった。
歓声が存在する久々のライブに「今日は格別面白いな!」と評したRUKIは、声が上から振ってくる武道館の構造を説明してオーディエンスに再び叫ばせ、「みんなの声に包まれて上から声が来て。それがたまらなく気持ちいいです」とニヤリ。「(武道館を)今夜もライブハウスにしてやろうぜ!」と宣言して「BARBARIAN」を投下すれば、再びLEDモニターにメンバーの姿が映し出され、狂乱の時間が戻ってくる。「FRENZY」ではRUKIも花道の端まで飛び出し、「ATTITUDE」のイントロの電子音が鳴ったとたん場内から“UNTIL DIE!”の大合唱が沸いて、「ABHOR GOD」では「全員、頭ぶん回す用意できてんのか!?」と壮観なヘッドバンギングの海が出現。客席に拳と声が吹き荒れる「UNFINISHED」で爽快に突き抜けて本編は終了したが、そこを定位置としていたアルバムラスト曲「LAST SONG」が披露されなかったことに、今日の公演が単なるツアーファイナル以上の意味を持つことを感じ取ったオーディエンスも多かったはずだ。
葵(Gt)
「アンコール!」の声は10分を超えても止むことなく、まずステージに現れたのは楽器隊の4人。戒が「また、こうしてみんなの声が聞けて、本当に本当に嬉しいです。もう明日のことなんて考えなくていいから。今日はとことん、行けるところまで行こう」と最終日にしかできないMCをして、オフマイクで「かかってこい!」と叫べば、センターに陣取ったREITAの一吠えから「GO TO HELL」で客席もろともジャンプを繰り出す。そこにRUKIが加わって「赤いワンピース」に「貴女ノ為ノ此ノ命。」とインディーズ時代の人気曲で狂喜するオーディエンスを踊らせ、後者の大サビでは共に歌う声まで。また、懐かしの曲だからこそ、花道まで大きく展開する派手なパフォーマンスと引き締まった演奏を両立させる余裕と貫禄に、結成21年というキャリアの重みを感じさせられたことも明記しておきたい。
ここで「今までの想いはSNSでなく、このステージで話すと決めていたから少し聞いてください」と、ツアーファイナルでようやく声出し解禁を果たせた今の想いをRUKIが語り始めた。この数年、当たり前が奪われた感覚になりながらも、いつかは終わると信じ、希望を込めて『MASS』というアルバムを制作したこと。いつだって「これが最後になるかもしれない」という想いでステージに立ち向かい、真剣にバンドに命を捧げ、様々な試練を乗り越えて今日のツアーファイナルにたどり着いたこと。中でも「煌びやかに見えるステージは、血の滲む想いで勝ち取ってきたものです。最高の景色をみんなと作れたこと、改めて感謝します」という言葉は、ファンには窺い知れない場所で彼らが戦い続けてきた事実を物語っていた。その上で「自分らのバンドは世の中がどんな状況だろうと、自分らの思う正しさを貫いてきました」と、エンターテイメントの形を変えつつあった世間に抵抗してきたことを明言する。
REITA(Ba)
「どんなときも強い気持ちでいられたこと、自分たちのバンドの在り方を貫けた理由は、たった一つだけです。ここにいるお前ら、みんながいたからです。このバンドを信じて、カッコいいと思ってついてきてくれるみんなを裏切れない、その期待に応えたいと、いつだって思っているから。俺はこの場所で同じことに感動できて、熱くなれるみんなを誇りに思っているし、世界一カッコいいと思っています。俺は自分のバンドが一番カッコいいと今、胸を張って言えます。だからみんなも、the GazettEというヴィジュアル系バンドを愛していることを誇りに思ってください。改めて、ここまでついてきてくれて、愛してくれて本当にありがとね」
ステージでは常に己を偽らない彼とはいえ、ここまでファンへの愛と信頼をストレートに告白した記憶は筆者には無い。じっと耳を傾ける客席に向かい、さらにRUKIは続けた。
「俺らはこの先も、ずっと命をかけてthe GazettEを続けるし、待ってくれるみんながいる限り、いつだってこのツアーのように乗り越えてみせます。進化はしていくけど絶対に変わらない存在――そんな居場所であり続けたいです。そして一生the GazettEと一緒に生き続けてください」
そう真摯に言い置き「声を出せるライブって最高だよな! マスクしていても届いてるよ。今夜もっともっと声聞かせてくれ!」と煽られてしまえば、場内のボルテージも最高潮になるしかない。「INSIDE BEAST」のクラップで激烈な一体感を招き、イントロから歓喜した「Hyena」でオーディエンスはサビのフレーズを大合唱。“オイ!オイ!”と拳が振り上がってタフな空間を作り上げる「UGLY」に、これまでのツアーでもライブを締めくくってきた「TOMORROW NEVER DIES」では、演奏がカットアウトした瞬間、大歓声をあげる客席を5人が感慨深そうに見渡すシーンもあった。そこから「武道館! 悔い残すんじゃねーぞ! 聞こえるか!」と言い放つRUKIにドッと返る声の音圧も上がり、麗は上手花道の突端まで走り切って、想いの丈をエモーショナルなソロにぶつけていく。バンドとオーディエンスが文字通り“共鳴”し、耳に届く音と体感できる熱を伴って、想いを一つの“MASS=塊”へと具現化する――そこに発生した厚くて熱いエネルギーは、ただ“圧巻”と言うほかなかった。
戒(Dr)
曲の終わりに咆哮を爆発させたRUKIが「武道館、最高です。ありがとう!」と言い残し、全員がステージを去って、お馴染みのエンドSEが流れても、今日はリリースから2年をかけてたどり着いたアルバムツアーの最終日。アンコールを求める声は鳴りやむことなく、再登場して「久しぶりに、その“アンコール!”の声聞いたの、やっぱ嬉しいね」(RUKI)と、今度はメンバーそれぞれがリアルな声を聞かせてくれた。「本当に不安や戸惑いの中で始まった、この『MASS』という作品・ツアーなんですけど……」と口火を切った戒は、「一緒にこの空間を守ってくれたメンバーとファンのみんなに本当に感謝してます。また必ず同じ空間で一緒に暴れましょう」と約束。麗も「この『MASS』ツアーでみんなの顔を見て、直接リアルな自分の気持ちを伝えることが何より大事と気づいた」と話し、昨今の不安定な社会情勢から、今後の規制の可能性に触れた上で「この一瞬、一本一本を大事にしていきたい。皆さんが応援してくれる限り、僕ら頑張るんで」と誠実に伝える。REITAは開口一番「疲れたよね! みんなへの愛の言葉を考えてたんだけど、疲れちゃって全部飛んじゃいました」と笑わせて、「全力で楽しんでくれて、みんなには感謝しかありません。改めてライブの魅力に気づかされまして……俺たちの特別で大切な場所は、これからも守り続けるんで、ついてきてください!」と頼もしく断言。順番を最後にされた葵は「大体みんなと同じ」と嘯きながらも、「これからもみんなと一歩ずつ歩んでいこうかなと思っております。みんなはthe GazettE好き?」と問うて返ってきた満場の「好き!」に、すかさず「俺も」と茶目っ気たっぷりに返して、彼らしい愛情表現を示してくれた。
そして「次の曲は、俺らが初めてこの武道館に立ったとき、最後にやった曲です。聴いてください」とコールされたのは「未成年」。初の日本武道館ワンマンの最後、この曲が終わった瞬間にメンバーにも内緒だった銀テープが飛んで、彼らの涙腺を決壊させたのは17年も前のことだ。正確で心地いい戒のビート、センターのお立ち台からベースソロをぶっ放すREITAの堂々たる佇まい、間奏にアウトロと艶やかなフレーズを奏で続ける麗と、朗々とコーラスを入れながら堅実に支える葵とのギターハーモニーと、そのパフォーマンス力は当時から飛躍的に進化しているが、あの日RUKIが「一生かけて頂点狙うんで、ついてきてください」と告げた心意気は変わらない。それを証明して「最後の曲です」と贈られたのは、やはり「LAST SONG」だった。『MASS』ツアーの全公演でRUKIのみが歌ってきたナンバーは、「声、聞かせてくれ!」という彼の願いに応えて会場中で大合唱され、《彷徨う声 此処で》という印象的なサビの一節が本公演の告知映像でフィーチャーされていた意味を明らかにする。この3年、アルバムのリリースから数えても2年もの間、人々の心の中に彷徨っていた声は遂に外へと解放され、此処で巨大なうねりを生み出していったのだ。それは「LAST SONG」という楽曲が作られ、『MASS』に収めると決められた瞬間から、the GazettEが夢見てきた光景であったと、続くRUKIのMCが明かしていく。
「この歌にすべての願いをかけてきました。今夜、その夢がったことに感謝します。必ずまたデカい姿で帰ってくるから、必ず待っててください。愛してます」
the GazettE
5人が去り、エンドロールと共に客席の景色がモニターに映し出されると、筆者の後列にいたファンが「みんな楽しそう。幸せですね」と呟くのが耳に飛び込んできた。その言葉は、2年もの時間をかけてthe GazettEの望みが最高の形で果たされたことを、何より明白に物語っていたと言えるだろう。さらに、12月25日にパシフィコ横浜 国立大ホールにて11年ぶりとなるクリスマスライブがファンクラブ限定で開催されること、新たなリリースが来年に予定されていることがモニター上で告知された。そこに映し出されたキーワードは“新黑奏”。the GazettEの“NEXT SCENE”は、新たな幸せをファンに運んでくれるに違いない。

取材・文=清水素子
撮影=田辺 佳子 / KEIKO TANABE、上溝恭香 / Kyoka Uemizo、林 雅子 / Maco Hayashi、日吉純平 / Jyunpei Hiyoshi

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