SUPER BEAVERが持つ底力と止まること
を知らない快進撃の理由を見た、過去
最大規模の単独公演を振り返る

都会のラクダSP~真夏のフジQ、ラクダにっぽんいち~

2023.7.23 富士急ハイランド・コニファーフォレスト
7月22日と23日の2日間、富士急ハイランド・コニファーフォレストに計4万人を動員した『都会のラクダSP~真夏のフジQ、ラクダにっぽんいち~』。SUPER BEAVERにとって最大規模の単独公演となる初の野外ライブは、これからまだまだ増え続けるに違いないSUPER BEAVERのキャリアにおけるマイルストーンの一つとして、今後、記憶されることだろう。
そんな記念すべきライブを、この日、渋谷龍太(Vo)は「到達点」と言った。そのココロは以下の通り。
「今日という1日がゴールでもなければ、通過点でもないことは重々承知しています。しかしながら俺たちにとっては、あなたとようやく踏むことができた到達点。だからこそ、やっと俺たちはここまで来た、と思うんだ。その俺たちの中には、もちろんあなたも入っています。(力を込めて)俺たち、ようやくここまで来たぜ!」
撮影=青木カズロー
オープニングのジャムセッションからなだれこんだインストの「→」から、ともに始まりを歌った「361°」「青い春」を、「やろうぜ富士急!」「見せてくれ!」と渋谷と柳沢亮太(Gt)が観客に発破をかけながら繋げ、「予感」で観客のシンガロングを富士山の麓に響き渡らせた直後に、到達点とは言ったもののという気持ちを込め、「ゴールでも何でもない。まだまだ一緒にやりたいことはたくさんある!」と声を上げた渋谷は続けて、「もっともっと楽しい音楽をあなたと作るためにまだまだやるつもりでいるけど、この立派な到達点。19年目の俺たちの中で史上最高の、史上最強の1日に! 音楽に! あなたと一緒にしたい!」と宣言する。
そして、序盤から早くも生まれた一体感と高揚感をさらに高めるため、ゴスペルを思わせるようなハンドクラップを使った「美しい日」を、狙いを定めるように披露すると、「いかがですか? 一緒に作ってくれますか? 俺たち4人だけでやったっておもしろくないんだよ、何にも。あなたがいなきゃ意味ないの!」という直前の渋谷の言葉に応えるように観客が曲の冒頭からシンガロングの声を上げたのだった。
撮影=青木カズロー
「いいじゃん! いいじゃん! 『美しい日』って曲です。今日みたいな日のことを言います。俺たちが(その美しい日を)作ってます!」(渋谷)
その美しい日を――前掲の史上最高および史上最強の1日を、“あなたたち”ではなく、“あなた”と渋谷が呼ぶ観客と作るために厳選した全21曲のセットリストの中に散りばめた、さまざまな趣向がこの日の見どころということになるのだと思う。その意味では、ゲストのピアニストと渋谷の2人だけで演奏した「人として」、ピアノに加え、8人編成のストリングスも迎え、荘厳さと壮大さを演出しながら、激情溢れる演奏を際立たせたロックナンバー「グラデーション」、曲が持つ普遍性を最大限に表現したバラード「儚くない」――夕暮れ時という絶妙のタイミングで披露した3曲を一番のハイライトとして伝えるべきなのかもしれない。しかし、ライブバンドとしての実力が試されるという意味では、この日はハプニングという見どころがあったことも忘れずに伝えておきたい。
それはオールディーズ風の魅力もあるロックンロールナンバー「irony」で訪れた。客席の真ん中に伸びた花道の先端にあるサブステージで演奏していた柳沢のギターが突然鳴らなくなったのだ。しかし、すかさず渋谷が機転をきかせ、「ギターの音が鳴ってないんだから、もっと聞かせてくれよ!」と訴えた言葉に観客が応え、声を上げながら、ギターを交換するまでの時間を繋いだことを考えれば、ハイライトとまでは言えないまでも、現場至上主義を掲げるSUPER BEAVERらしい展開だったと思うし、後述するように持ち前の向こう意気を表明する機会にもなったのだから、見どころの一つだったと、ぜひ言わせてもらいたい。
撮影=青木カズロー
「お喋りしようか」
フロムライブハウスを掲げるSUPER BEAVERらしい怒涛の展開を見せつける後半戦の直前、渋谷に促され、メンバーそれぞれに渋谷が言う到達点を迎えた気持ちを語ったので、それも記しておきたい。
「マジでやばい2日間です。最高です。ありがとうございます。見えないと思うけど、今日はあそこ(客席の背後)に富士山が見えちゃってるから、恵まれてる気になってます。(俺たちは)持ってますね。自分たちで(フードやかき氷の)ブースを出したことも含め、いろいろ楽しいことを考えながら、ライブもしっかり届けて、総合的に何か人に伝えたり届けたりすることを、4人とチームと仲間と一丸となってやれた2日間で、またバンドが大きくなったと思うし、とても強くなれた気がします」(上杉研太/Ba)
「さっき機材のトラブルもあったけど、別にいいやなんてまったく思ってないし、しっかり悔しいと思ってます。けど、そういう時に助けてくれるあなたがいるってことを改めて実感させてもらいました。本当にありがとうございます。別にそれがライブだと言い訳するつもりはないけど、これはライブだ!」(柳沢)
「(感極まって)やったぜー! コニファー!(と叫ぶ)」(藤原“35才”広明/Dr)
そんなふうに3人が語った感慨は感慨として、もちろんあるにはあるが、それだけでは満足しないのが、やはりSUPER BEAVERなのだと思わせたのが、「4人でオンステージして、でかい音を鳴らして、でかいところでやって、はい、満足なんてわけがない」と続けた渋谷の言葉だった。
「あなたがいてこそ成り立つって全員に自覚してほしい。俺がいなかったら、私がいなかったら、今日きっとこんなふうになってないだろうって最後に思ってほしい。誰も傍観者にさせたくない。俺たちは全員、当事者にさせたいと思っている。フロムライブハウス、19年目の新人。ここからライブハウスにしようと思ってます。ついてこられる人はどれだけいますか!? かかってこい!」(渋谷)
撮影=青木カズロー
曲のキモであるコール&レスポンスができないという理由からコロナ禍中は封印していた時期もあるという「秘密」から始まった後半戦。そのコール&レスポンスを、SUPER BEAVER史上最大の歌声の大きさで響き渡らせると、「嬉しい涙」、コロナ禍が明けたとき、観客とシンガロングすることを想像しながら作ったに違いない「ひたむき」とアンセムの数々を、白煙、花火、火柱と特殊効果も交えながら繋げ、観客とともに熱狂を作り上げていく。そして、ステージに置いた複数のミラーボールに眩いライトを反射させ、星空を描き出した富士急ハイランドの空に、これまで何度もSUPER BEAVERのライブのクライマックスを飾ってきた「東京流星群」を放つと、前述した「秘密」のコール&レスポンスを超える観客のシンガロングが響き渡ったのだった。これにはさすがの渋谷も面食らったのか、「めちゃくちゃいいじゃないか。ホントにすごい。すごいよ!」と快哉を叫んだあと、一瞬言葉を失い、「……すごいです。ありがとう!」と言った。
前段で、後半戦について書いた怒涛の展開は、あくまでも選曲と巨大なステージを(藤原以外の3人が)縦横無尽に駆け回るパフォーマンスに関する表現であって、渋谷のMCは逆に言葉を重ね、前半戦以上に丁寧に観客に対する気持ちを語っていったように思う。
中でも一番印象に残っているのが次の言葉だった。
「この場所に立っているからこそ、あなたと対峙させてもらっているからこそわかることが幾つかあって、よそは知らんが、俺たちにとってはこれが音楽だと思う。あなたがいてこそ成り立つこれが俺たちにとっては音楽です。俺たちがバンドマンでいられる理由はあなたです。ほんとに、今日は改めて思うね。心の底から」
渋谷が「ありがとうございます」と締めくくると、柳沢、上杉、藤原の3人が「ありがとう」と声を重ねた。すると、“こちらこそ”という思いとともに客席から「ありがとう!」という声が飛んだ。
本当にその通りだと思う。この後も渋谷は観客に対して、「ありがとう」と言い続けたが、そうじゃないんだよ。いや、4人だけで再出発したバンドの道のりを知っているから、渋谷が言いたことはよくわかる。しかし、「ありがとう」と言いたのは、こっちのほうなのだ。SUPER BEAVERに出会えたからこそ、SUPER BEAVERのようなバンドがいるからこそ、僕は自分にとってかけがえのないものとして、音楽を聴き続けているんだと思う。もちろん、自分にとってそういう存在は彼らだけではないが、そんな幸せをくれたSUPER BEAVERに、こちらこそありがとうと言いたい。心の底から。
この日、彼らの曲と、それぞれに向こう意気に溢れた演奏を聴きながら、そして、渋谷の言葉を聴きながら、改めてそんなことを思ったのだった。
撮影=浜野カズシ
「今日、俺らにできる最上級はこれかもしれない。だから、明日のことを考えずに今日、全部置いていくつもりでやるっていうのも1個かっこいいことかもしれないが、俺は今日、全部置いていきながらもあなたと一緒なら明日まで持っていける気がするんだよ。俺はそうやってこの先の約束を、もっともっと先の約束を、あなたとしたいです! だからこそまた来てくださいなんて、あなたに頭を下げるようなかっこ悪い真似はしない。俺はライブを見に行くとき、人に会いに行くとき、どうか来てください、お願いしますと言われて出向いたことは一度もない。俺は勝手に会いたくなったからあなたに会いに来た。勝手に会いたかったから自分たちで足を運んだんだよ。あなたにもそうであってほしい。そのためならまだまだやるよ、俺たち。ドキドキしてくれよ。ワクワクしてくれよ。かっこよかったって思ってくれよ。俺たちはその用意ができてる。自分で決めて、自分で来たら、最高の時間を約束する。俺はそういう関係でいたい。俺は頭を下げないし、あなたにも下げられたくない。俺たちは仲間だからな。だからこれからも俺たちでやってやろうぜ。俺たちで見せてやろうぜ。あなたがいてこそSUPER BEAVERです。19年目の新人SUPER BEAVERからあなたに過去最大の『アイラヴユー』」(渋谷)
メンバー全員で《愛してる愛してる》と真っ直ぐに歌う「アイラヴユー」、再会を約束する「ロマン」、そして、ライブが終わったあと、それぞれの生活に戻って、それぞれの人生を再び歩き始める観客一人ひとりにエールを送る「最前線」と繋げ、本編を締めくくってもメンバーたちの溢れる思いは止まらなかった。
撮影=浜野カズシ
来年2月に日本武道館3デイズ公演を開催することを発表してから、彼らがアンコールに演奏したのはエモーショナルなロックナンバー「ありがとう」とバラードの「愛する」。ともに4人だけで再出発したSUPER BEAVERが、「ありがとう」で歌っているように観客をはじめ、仲間と言える人たちに見つけてもらったことで、ライブハウスシーンに活路を見出した頃に作った曲だ。
大団円を飾るように花火が上がった。
ダメ押しを思わせるアンコールの選曲が、最大規模の単独公演の意味を改めて物語っていたように思う。そこにSUPER BEAVERが持つ底力と止まることを知らない快進撃の理由を見た気がした。

取材・文=山口智男
撮影=青木カズロー、浜野カズシ

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