また会おうねの「Bye for now」 Reo
Naが紡いだ『HUMAN』の世界 ツアー
ファイナルレポート

2023.7.13『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”』@LINE CUBE SHIBUYA
“絶望系アニソンシンガー”ReoNaの2ndアルバム『HUMAN』がリリースされて早4ヶ月になる。一年を均等に割れば季節が一つ回ったことになるが、今のReoNaをさらけ出したこのアルバムを携えた全国7公演のコンサートツアー『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”』のファイナル、LINE CUBE SHIBUYA公演が7月13日に開催された。
LINE CUBE SHIBUYAでのライブは2020年に開催された自身初のハイブリットライブ『ReoNa Online Live "UNDER-WORLD"』以来。発声OKとなっている今回は、あのときとまた違う空気になるというのは開演前から感じられた。
客席から発せられる熱気が凄い。折しも今年の夏は殺人的な猛暑ではあるが、それ以上についに迎えるファイナルに向けての期待値の高さが伺えた。
『ReoNa Online Live "UNDER-WORLD"』はアニメ『ソードアート・オンライン(以下SAO)』の楽曲を詰め込んだコンセプトライブだったが、今回のツアーもSAOの世界観を描いたアルバム収録曲「Weaker」から始まった。
物語の始まりを告げるファンファーレが鳴り響く中、照明が明滅する。歌い出すそのとき、ステージの中央にはReoNaがいる。僕らは弱いから、強がって足掻いて生きている。絶望と己の弱さに向き合って行く決意のお歌。一曲目からReoNaは自分の世界を見せてつけてくる。
二曲目は「生命線」、鮮烈な命の線に見立てられる赤いライトが無数にステージを縫っていく中、その細い足二本でしっかりとステージに立つReoNa。「ないない」の蠱惑的でゴシックな世界観、「Alive」の空と大地とあふれる光を感じさせる感覚、楽曲によってスケールも雰囲気も変わっていく様を見ながら、シンガーとしての表現力の広がりを心から感じた。
表現力が広がったということは基礎となるシンガーの下地がしっかりしたということもあるのだろう。見えないところで積み重ねた努力がステージで実を結ぶ。ツアー初日も拝見したが、この日は特に一声目からの伸びが素晴らしかった。
「改めましてこんばんわ、ReoNaです」
十分歌い上げてきたと思えるタイミングでの挨拶、まずお歌を届けるというReoNaらしい展開だ、客席も歓声や拍手でReoNaに応える。コロナ禍では感じられなかったダイレクトな感触。
タイアップ曲満載のパートから続いた次のパートが、今回のライブで最も特筆すべきパートだった気がする。ReoNa個人のパーソナルな思い出に寄り添った「FRIENDS」、そして絶望を詳らかに描いた「絶望年表」、傘村トータが描くおとぎ話の終わりと、終わらなかった世界のお話「さよナラ」。
簡単に言ってしまえば“ReoNaが寄り添う別れや絶望を表した”パートなのかもしれないのだが、今回のツアーを通して彼女の成長を最も感じられたのもここだった。
この三曲はある意味ReoNaの人生の切り売りが音楽になっているような楽曲たちである。そのためこれまでも彼女はどこか切実に歌い上げて来た気がしている。だがこの日は違った。軽やかなのである。
「FRIENDS」も「絶望年表」もReoNaの別れや辛さを追体験するのではなく、自分の抱えている悩みや絶望を投影できるようなしなやかな強さがあった。「絶望年表」などは彼女のキャリアの中で最も重い楽曲なのだと思っているが、心地よい上質なフォークポップになっていた。
それはReoNa自身が何かを“超えてきた”ということなのかもしれない。過去は捨てられない、いつまでも人生に付いてくるもの。でもそれを超えたところで、彼女は誰かに寄り添う気持ちを持って歌い続けているようだった。主観の“お歌”から俯瞰の“お歌”へのメタモルフォーゼをリアルタイムで体験したような感覚。
その軽さと楽曲の素晴らしさ、ReoNa自身の歌唱があるからこそ、そこに心も体も委ねて客席は「自分の辛さ」を預けることができる。当事者から観測者へ。包み込める歌が歌えるようになったからこそ、どんな絶望にも優しく寄り添える。それがReoNaが手に入れた本当の意味での「一対一」のような気がする。
俯瞰的視点を感じられるからこそ、童話を模した「さよナラ」もすっとその悲しみと生きていくことが心に染み渡ってくる。バンドマスター荒幡亮平の奏でる、水底から湧き上がる泡のようなピアノと紡いだ「一番星」の叙情性も秀逸。続くパートが傘村トータが作り上げたNHK「みんなのうた」のために描き下ろされた「地球が一枚の板だったら」というものも素晴らしい構成だった。
MCでは「今回のツアー、ほぼ全箇所で雨が降ったかもしれない…なんて言ってもサウジアラビアでも降りましたから」と自身の雨女ぶりを語ると客席からは笑い声も起こる。MCで興味深かったのは些細な言葉の使い方だ。ReoNaのMCはコンセプチュアルで、曲の世界観を構築するものの一環でもあったが、この日のReoNaは「楽しんでる?」と非常にフランクな言葉を使っていた。
多分これまでだったら「楽しんでいますか?」と発したであろう言葉の違い、心の距離がファンと近づいているような気がした、これもまた新しい形での「一対一」だ。
今回のツアーで美味しかったものナンバーワンは?と聞かれて、北海道のジンギスカンは美味しいと答えたあとに「でもバンドメンバーは一緒に行ってくれなかったんですけどね…」とぼやくとまた客席からは笑いが。人間味を感じられる瞬間。辛いよね、という共感から、一緒に辛さを分かち合う存在にReoNaはなっている。
ReoNa楽曲で最もポップネスな「ライフ・イズ・ビューティフォー」も、ここに来てそのポテンシャルを最大限に見せてくれていると感じた。「生きてりゃいいのよ」と言いながら微笑む姿はデビュー当時には考えられなかった表情、その仕草一つ一つが新鮮に見える。
「踊る準備、できてますか?」その言葉でそれまで着席していた人もすべてが立ち上がる。合言葉のあとに続くのは勿論「シャル・ウィ・ダンス?」だ。ファイナルのスペシャルバージョンとして総勢10名のシャドウ・ダンサーズを率いてすべての観客と歌い、踊る姿はもう見慣れてきたが、客席のグルーヴはどんどんと上がっていく。その火照った体と心をクールダウンさせるように歌われるのは、生と死をスリリングに歌った「メメント・モリ」。そこから間髪入れず歌われた「VITA」では会場の盛り上がりは最高潮に。
照明効果と共にバンドメンバーも全力で音を届けにくる。荒幡亮平が膝をついて鍵盤を叩く、山口隆志が激しくギターを奏でる、比田井 修が鼓動のようにドラムを鳴らす、二村 学が叩きつけるようにベースを響かせる、そして縁の下を支えるマニュピレーターの篠﨑恭一の存在を忘れてはいけない。一人掛けてもこの音は僕らのもとに届かない。歌を歌うことと同時に、絶望に寄り添うことを選んだReoNaという一人のシンガーが今歌う「命の物語」。他の誰でもない、ReoNaが言うからこそ特別な意味を持つ「忘れない」という言葉の重さ。
心拍の高まりを感じつつも展開された「ALONE」。ライブの終りが近づいているのを感じる選曲。何度も演奏されてきた名曲だが、今日は特段と軽やかに高く高く響いて聴こえた気がする。それをReoNaの成長と呼ぶのだろうか?デビューからずっとReoNaと共にあるTVアニメ「ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン」のキャラクター、神崎エルザ。ReoNaが歌唱を担当した、彼女の影を感じざるを得ないこの曲を聴いてはじめて、ReoNaがエルザの手を引くような感覚を覚えた。エルザと共に歌い続けた絶望少女が、初めてエルザを導いているような強さと優しさ。
その強さと優しさは表題曲「HUMAN」で最後の開花を見せる。その歌を聴く一人ひとりの思いに寄り添ってくれているようで、どうしても涙が溢れる。孤独を感じながらも一人ではいられない世界と、「それでも」と言い続けながら、どうしようもなく生きていく自分。裏切られることも、裏切ってしまうことも、悲しみも喜びもどこまでも自分だけの物。みんなひとり。だからこそ訴え続けてきた一対一のお歌の時間は一つの完成を見せた気がした。でもこれも通過点にしか過ぎない。ギターを持ったReoNaは、どこまでも人間としてそこに居る。
ReoNaのライブにアンコールはない、デビューから言い続けられてきた言葉。今年でソロデビュー5年を迎える彼女がこのツアーの最後に選んだのは澤野弘之と組んで作り上げた「SACRA」。曲中でさらさらと桜の花びらが舞い散り、降り注ぐ。まるで春が別れを告げるように、薄桃色のカーテンの向こう、ReoNa。リフレインしながら響き渡る「Bye for now」のシンガロング。今はサヨナラ、だから、きっとまた会いましょう。別れは出会いのはじまり、既に10月からのファンクラブツアーも発表された。武道館というアーティストとして大きなマイルストーンを超えたReoNaは進化しつつ、成長を見せながら歩み続けている。
「一生歌い続けるために」いつ話を聞いても必ず彼女が言う言葉。どんなに強いアーティストになっても、どれだけ凄いところで歌っても、ReoNaの絶望はその全てに刻まれている。刻まれているからこそ、理解できることだってあるだろう。あなたが忘れないでいてくれるなら、僕らだってあなたを忘れない。約束のようなツアーの終わりに、ReoNaは笑顔で光の道を去っていった。その背中に次の出会いの約束を感じながら。
レポート・文=加東岳史

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