「エンタメの最高峰の舞台を」~堤幸
彦と片岡愛之助が語る『西遊記』への
思いとは

2023年11月から2024年1月にかけて、日本テレビ開局70年記念舞台『西遊記』が上演される。
『西遊記』は、16世紀の明の時代に書かれた中国の小説が基となった作品で、孫悟空を中心に、三蔵法師一行が天竺を目指す物語として広く知られている。日本では1978年に日本テレビ開局25年記念番組として制作された堺正章主演のドラマの印象も強い。今作は45年の時を経て、令和版の「日本テレビ開局70年記念舞台」として、大型アクションスペクタクルになるという。演出を手がけるのは堤 幸彦。
孫悟空を演じるのは片岡愛之助。三蔵法師役は小池徹平、猪八戒役は戸次重幸、沙悟浄役は加藤和樹、玉竜役は村井良大が務める。さらに、三蔵一行に立ちはだかる妖怪の首領・牛魔王を松平 健、その妻・鉄扇公主を中山美穂、ふたりの息子・紅孩児を藤岡真威人が演じる。
どんな作品になるのか、堤 幸彦と片岡愛之助に話を聞いた。
宙乗りは基本です。期待していてください。
ーー今作に参加する心境をお聞かせください。
堤:僕は数年前から『西遊記』をやりたいやりたいと、ブツブツひとり言を言っていたのですが、機が熟して、このようなカタチで大大的にできるようになりました。大変ありがたいです。
ーーどうして『西遊記』をやりたいと思われていたのですか?
堤:僕は日本テレビさんに、『真田十勇士』『魔界転生』『巌流島』と大きな舞台を演出するチャンスをいただいてきまして、いまその最高峰、エンタメの最高峰の舞台をつくりたいと思っていました。それが『西遊記』ならば、さまざまなキャラクターを登場させられますし、単におもしろいだけではない、人々の、あるいは妖怪たちの、おもしろみ、かなしみ、切なさみたいなものが出せると思っています。演出のテクノロジーにも大胆に挑戦していきたいですし、自分の中でとてもやりがいのある作品です。
愛之助:僕はまず、『西遊記』というタイトル、そして自分が孫悟空役だと聞いて、とても驚きました。そして、子供の頃に見ていた堺正章さんのドラマのイメージが強かったので、この作品を舞台にすることができるのだろうか? と思いました。ただ、演出が堤幸彦監督だと知って、これはもうできるに決まっている、と(笑)。あの世界観を崩さず、それ以上のものをつくることは、堤監督にしかできないと思います。そこに出演させていただくことに非常に幸せを感じております。
(左から)片岡愛之助、堤 幸彦
ーー『西遊記』という作品はさまざまにアレンジされていますが、今回どのように脚本化しようと考えていらっしゃいますか?
堤:中国の『西遊記』はものすごいボリュームですが、それゆえに自由に発想できるという側面があります。そのうえで今作は、そもそものテイストは踏襲しながらも、全く新しい創作のストーリーにしたいと思っています。この作品は、コロナで鬱屈した時間を過ごした我々の突破口と言いますか、明るい劇場空間を楽しんでいただける要素になりうると信じていますので、そのように原作を捉え直しているところです。また、1978年に放送されたドラマ『西遊記』の強い印象はほかならぬ出発点なので、そこも含めてつくっていきたいと思います。
ーー令和という時代も反映されるのでしょうか?
堤:時代の空気のようなものは背景的なテーマになってくると思いますが、今回はそれよりも、キャラクターたちが醸し出すおかしみや悲しみを出していきたいです。なので、活劇であり、人間ドラマであり、お客様が笑って泣いてというところに終始できるような脚本になると思います。
ーー愛之助さんは先ほど、「堺正章さんのドラマのイメージが」とおっしゃっていましたが、ドラマ版にはどんな印象がありますか?
愛之助​:僕の実家は厳しくて、テレビは国会中継とNHKしか見てはいけなかったんです。だけど唯一、見てよしとされていたのが『西遊記』なんですよ。だからその作品の孫悟空を務めさせてもらえるのはびっくりしましたし、本当にうれしかったですね。見ていた印象というと、当時は子供ですからね、“觔斗雲(きんとうん)”があればいいなと思っていました(笑)。その頃はもう歌舞伎の舞台に出ていましたので、觔斗雲があれば家から劇場までひとっとびだ! なんて(笑)。あとは“分身の術”があれば、歌舞伎で休んだぶんの宿題もやってもらえる! とか。
堤:ははは!
(左から)片岡愛之助、堤 幸彦
ーーそういうシーンは舞台でもありそうですか?
堤:もちろんですよ。
ーー愛之助さんは宙乗りも経験されているので、フライングはいけますね。
堤:宙乗りは基本です。
愛之助​:基本ですよね(笑)。めちゃくちゃ期待していてください。
獲得してきたものを今作ですべて出したい。
ーーお互いの印象をお聞かせください。
堤:歌舞伎の舞台で拝見した愛之助さん、ドラマに出演している世間でおなじみの愛之助さん、何度かお食事をさせていただいたときに感じた愛之助さん、この3つの方向がすべて違う方です。今作では、キュートで華があるというところで中心に立っていただく方だと思っているので、胸を借りて……
愛之助​:そんなそんな。
堤:共につくりあげることができるといいなと思っています。千穐楽が終わった後に「いやぁ、よかったですね」と言える同志になっていただけるとありがたいです。
愛之助​:恐縮です。僕は堤監督の作品を拝見して、どんな見方や考え方をすればこういう舞台がつくれるんだろうなと思っていました。これほど作品に引き込まれ、そして最新の技術を使いこなせる方は、僕は堤さんくらいしかいらっしゃらないと思っているんです。それと、これは今日も思いましたが、お話がとてもおもしろいんです。アンテナがどれだけあるのかということも思い知らされます。常に張り巡らされて、お仕事のことを考えていらっしゃるんだなと。そういう、見習わなくてはいけないところがたくさんある素晴らしい先輩とご一緒させていただける機会なので、役者として一段、二段と上がれたらなと思っています。
(左から)片岡愛之助、堤 幸彦
ーー堤さんのアンテナはどんなところにあるのですか?
堤:今回の舞台のために、いろんな使い方ができる“万能装置”みたいなものをオーダーしているんです。それは、お城になったり、道になったり、海の中になったり、空の上になったり、そういうことができるものなんですけど、装置のデザインの大元は、山手線の大崎駅(東京)にあるんです。
ーーえ、大崎駅ですか?
愛之助​:意味がわからないですよね(笑)。
ーー(笑)。
堤:大崎駅には、少し離れた場所にも雨に濡れずに行けるように設計された場所があるんですけど、それを見て、「これだ!」と思ったんですよ。だから装置は「大崎1号」「大崎2号」にしようと思っています。
愛之助​:(笑)。僕は絶対大崎駅に行って、自分の目で確かめたいです。
ーーちなみに、そういったテクノロジーを使ってどんな挑戦をされるのですか?
堤:これまでの間でもプロジェクションマッピングが進化してLED背景になっていったわけですが、それをきちんと道具として使い切りたいなと思っています。それができるくらい(テクノロジーの)レベルが上がってきているので。そしてこのデジタルに勝つために、人間の集団芸みたいなものも盛り込んでいきたいです。この集団芸というところは僕が今まであまりやってこなかったジャンルのひとつでもあります。
ーーどんな『西遊記』になるのか楽しみにしています。
堤:今年68歳になりますが、これまでの演出テクノロジーの変化の中で獲得してきたものを今作ですべて出したいと思っています。しかし、その技術やワザにのみ頼るわけではなくて、やはりそこは人間が演じるおもしろみが必要なんですよね。これが舞台の原則です。今回は、そんなことを考えながら、僕の中でのエンターテインメントの最高峰をつくりあげていきたいと思っています。どうかご期待ください。
愛之助​:今回ご一緒させていただく皆さまは、それぞれが様々なジャンルで作品の座頭を張っていらっしゃる方ばかりで、超豪華キャストです。そしてそこに堤監督の演出ですから。僕はもう、切符を買って自分も観に行きたいです。
堤:無理です!(笑)
愛之助​:(笑)。自分も舞台で育ってきた人間ですので、歌舞伎で学んだこと、歌舞伎以外で学んだこと、いろんなことをこの舞台で出し切っていきたいです。そして、お客様も含めみんなで一緒にこの『西遊記』という物語をつくりあげていきたいと思っています。『西遊記』の物語をご存知の方もご存知でない方も楽しんでいただける作品になると思いますので、ぜひご期待くださいませ。劇場でお待ちしております。
(左から)片岡愛之助、堤 幸彦
取材・文=中川實穗

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