SUPER BEAVER、映画『東京リベンジャ
ーズ』の大団円を飾るにふさわしい正
統派バラード「儚くない」に込めた想

全国19都市を回るホールツアー『都会のラクダHALL TOUR 2023 ~ラクダ紀行、ロマン飛行~』を開催中のSUPER BEAVERが、早くもニュー・シングル「儚くない」(C/W「グラデーション -Acoustic ver.-」) をリリース。映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 –決戦-』の主題歌として書き下ろした「儚くない」は、「グラデーション」を提供した『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 –運命-』と今回の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の前後編からなる映画の大団円を飾るにふさわしい正統派のバラードだ。「純粋に、めちゃめちゃいい曲を作ろうと思った」と作詞・作曲を担当した柳沢亮太(Gt)は曲作りに臨んだ時の意気込みを語るが、外部から迎えた音楽プロデューサー・河野圭とともに曲を磨き上げていったというエピソードが物語るのは、後述するようにノンストップかつストイックにライブに邁進しながら、制作にも意欲的に取り組むSUPER BEAVERのもう1つの姿だ。「めちゃめちゃいい曲を作ろうと思った」という試みがどんな成果に結びついたのかは、彼らの言葉から、バラードに対する思い入れとともに、ぜひ読み取っていただきたい。
現在のSUPER BEAVERは固い信念を持ちながら、場合によっては変化することも肯定的に受け入れようと考えているようだ。それは<儚いから美しいなんて 命には当てはまらなくていい>と歌いながら、新たな人生観が芽生えたことを想像させる「儚くない」からも窺える。それが19年目に突入したSUPER BEAVERなのだと思ったりもする。そんな彼らは自身最大キャパにして、初の野外ワンマン2デイズとなる7月22日(土)・23日(日)の富士急ハイランド・コニファーフォレスト公演『都会のラクダSP~真夏のフジQ、ラクダにっぽんいち~』、8~9月に5公演行う対バンツアー『都会のラクダSP~サシ飲み五番勝負、ラクダグビグビ~』に加え、すでに9月29日(金)から始まるツアー『都会のラクダTOUR 2023-2024~駱駝革命21~』の開催を発表している。SUPER BEAVERの勢いは、まだまだとどまるところを知らない。
上杉研太(Ba)
お客さんを取れる可能性もあるし、取られる可能性もある。だから、対バンはおもしろい
ーー5月17日に[Alexandros]主催の『THIS SUMMER FESTIVAL TOUR ‘23』でSUPER BEAVERのライブを見せていただきましたが、かなり気合が入っていましたね。渋谷さんももちろんですけど、メンバーみなさんの煽り方もこれまで以上に熱が入っていて。
上杉研太(Ba):対バンライブだったこともきっとありましたね。
ーーあの日はフルキャパで、お客さんの声出しもOKで。
上杉:そういう条件の中の対バンだったことが大きかったと思います。本当の意味で、対バン然としたライブになっていたんじゃないかな。
ーー渋谷さん、[Alexandros]にめちゃめちゃケンカを売ってましたね(笑)。
渋谷龍太(Vo):ハハハ。ケンカを売ってたわけじゃないですよ。 
柳沢亮太(Gt):煽り狂ってましたよね(笑)。
ーーケンカを売っていたと言うと、語弊がありますけど、「対バンって、マジで楽しいんだよということを、先輩に知ってもらいたい」とか、「対バンに呼んでもらったからには[Alexandros]の男の子スイッチを入れなきゃいけない」とか、けっこう挑発するようなことを言っていて。
渋谷:あれくらいのほうが絶対、おもしろいんですよ。
ーーそう思います。
渋谷:それに[Alexandros]とは2マンライブをしたことがなかったし、そもそも面識がそこまでなかったから。以前、1回だけちょっと喋ったことがあるくらいということもあって、完全に対外試合みたいにしたほうが、自分達を見てくださる方も、[Alexandros]を見に来てる方もきっとおもしろいだろうと思ったところもありました。

渋谷龍太(Vo)

ーー対バンライブの時は、対バンが決まってから、このバンドだったらというふうにセットリストを考えるんですか?
渋谷:楽器の持ち替えが僕はわからないから、まず柳沢に基盤を作ってもらって、絶対にこうしたいとか、こういうほうが持っていきやすいとかってところは、変えてもらうとか、こっちの曲にしたいとかって話をするんですけど。
柳沢:でも、このバンドとやらせてもらうからこういうふうにしようというのは、基本的にないです。ただ、そのバンドとはじめてましての場合は、僕らのことを初めて見る人もたくさんいらっしゃるだろうから、最近、リリースした曲とか、これは知ってもらえてるだろうという曲を取り入れるようにしています。一番考えるのは、どういうふうに入っていきたいかという意味で1曲目。頭からいきなりトップギアで行くのか、ぐっとこっちに目を向けさせるように始めるのか、そういうのはなんとなくイメージしつつではありますけど、誰とやるからどうかと言うよりは、その前後の自分達のライブとか、今の空気感とかを参考にします。20代前半の頃は、アグレッシブなバンドとやるから、自分達の持ち曲の中でもアグレッシブな曲を多めに入れようみたいなことを考えたこともありましたけど、超大真面目に歌えば、届くはずだと思うようになってからは、まったくそういうことは関係なく作るようになりました。『THIS SUMMER FESTIVAL TOUR ‘23』は2マンで、僕らが先攻だったから、言ってしまえば、どんなふうに始めてもよかったんです。けど、フェスの場合は前後でいろいろなアーティストが出演している中でSUPER BEAVERがSUPER BEAVERたるゆえんを、1曲目から見せられたらいいなということだけ、いつも意識しています。
柳沢亮太(Gt)
ーーなるほど。対バンを意識するわけじゃないんですね。8月3日(木)から『都会のラクダSP~サシ飲み五番勝負、ラクダグビグビ~』と題した対バンツアーが始まりますが、たとえば、Saucy Dogハルカミライの日では、セトリも全然違うものになるんじゃないかと想像していたのですが、今のお話だと、そんなに変わらないのかな。
柳沢:あぁ~。どうなるんでしょうね。まだ何も考えてないですけど、「あの曲、好きなんですよね」と対バンのバンドからひとこと言われただけで、その曲をやっちゃうこともあるんですよ(笑)。ただ、僕ら自体の攻め方と言うか、ライブのやり方はそんなに変わるものではないので、どの曲であっても、どうやってやるかみたいなところが一番重要だと思うんですけど、そもそも対バンに向けて演奏するわけではないので。
ーーそうですよね。あくまでもお客さんに対して、演奏するんですもんね。ところで、『サシ飲み五番勝負』の対バンはどんなふうに選んだんですか?
渋谷:後輩を呼びました。自分らの企画の『現場至上主義』も含め、ライブがかっこいいバンドを呼びたいとなると、どうしても先輩になりがちなんですけど、それをやり続けるのもなんだかなというのがちょっとあったので、年下とやりたいと思ったんです。5組それぞれに違うライブをしてくれると思うし、5組それぞれに持っているお客さんが欲しいですね。
ーーなるほど。そこはやっぱりもらわないと。
渋谷:もちろん取れる可能性もあるし、取られる可能性もある。だから、対バンはおもしろいんだと思います。[Alexandros]の時もその気概で挑みました。後輩とやることも大事だなと思います。後輩から教えてもらうことは多いですよ。
ーーそうですか。
渋谷:最近は先輩よりも全然多いと思います。自分達が貫いてきたものが少し変わることに対して、目を向けることって、それがいい方向に変わったとしても怖いじゃないですか。でも、そういう変化に直面するタイミングにいるバンド達なので、変化することが当たり前だから話を聞くとおもしろい。それに対して、何かを言うとかではなく、そんなことを考えてやってるんだという考え方は、年下のバンドからしか吸収できないものなので。それを自分がどう思うかはまた別の話として、そういう価値観をちゃんと聞ける機会は貴重だと思います。
藤原“35才”広明(Dr)
日々やってきたことを、しっかりと落とし込めるのがバラード

渋谷龍太(Vo)

ーーさて、話が前後してしまいましたが、今回、リリースするシングル「儚くない」について聞かせてください。その「儚くない」の制作は、今年4月19日にリリースしたシングル「グラデーション」と同じタイミングだったと思うのですが、『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』と『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』両方の主題歌をお願いしますというオファーだったんですか?
柳沢:結果としては、そうなんですけど、『東京リベンジャーズ』に「名前を呼ぶよ」を提供させていただいたとき、『2』が作られるということは、僕らもうっすら聞いていて、もちろん、それがいつになるのかは知らなかったですけど、作られるのであれば、また主題歌を担当させてもらえたらいいなとは思っていたんです。ただ、前回やったから、『2』もその流れでお願いしますということではなくて、『2』の制作が具体的に決まったとき、改めてそういうお話をいただいたんですけど、「気持ちとしては、『2』もSUPER BEAVERにやってもらいたいと思っています。ただ、作品としていいものを作りたいので、あくまでも楽曲を聴いてから決めさせていただきたい」ということだったんです。
ーーそうだったんですか。
柳沢:その時、『2』は『-運命-』と『-決戦-』の前後編に分かれることと、それぞれに主題歌を作ることを聞いて、まずデモを作るところから始めたんです。ただ、お話したようにその時点ではまだ主題歌として使われることは、まだ白紙の状態だったんですよ。
ーー結果、アンセミックなロックナンバーだった「グラデーション」に対して、今回の「儚くない」が王道と言うか、正統派のバラードになったのは、どうしてだったんですか?
柳沢:『東京リベンジャーズ』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』で第1弾、第2弾、第3弾ということではなくて、『2』は前編と後編に分けてはいるけど、物語が大団円を迎えるのは、後編の最後みたいなことは、最初に聞かせてもらっていたんです。前編も後編もやらせてもらえるんであれば、SUPER BEAVERらしさと言うか、自分達が好きだと思っているところを、それぞれに違う視点から作りたいと考えて。だったら1曲は最後、すべてを包みこむようなデカい曲と言うか、言うなれば、純粋に、めちゃめちゃいい曲をこのタイミングで作りたいと思ったんです。だから、順番としては、「儚くない」のほうが先にできて、「儚くない」を最初に聴いていただいたら、「すごくいいですね」と言っていただけたんですけど、「ただ使うとしたら後編でしょう」となって、そこで改めて、前編の終わりは、そこから後編に向けて、高まる期待感とともに前編を見ただけでは割り切れない気持ちを、楽曲としても表現してほしいとオファーしていただいたんです。それで、「グラデーション」はサウンドとしては、やや不穏と言うか、ストイックと言うか、言ったらダークなところもあるものになったんです。明確に質感の違う2曲ができたのは、そういう流れがあったからなんですよ。
ーーバラードと言うと、ボーカルの力量が問われると言いますか、逆に力量の見せどころになるんじゃないかという印象もありますが。
渋谷:確かに出やすいですよね。出やすいし、出しやすいし、今、自分がどういう状況にあるのかがはっきりわかっちゃいますよね。それは技術的なことも含めて。だから、日々やってきたことをしっかり生かせたらいいなとは思ってました。逆に言えば、日々やってきたことをしっかりと落とし込めるのがバラード。もちろん他の曲もそうなんですけど、わかりやすいのはバラードなのかなと思っていて。今回も曲を受けて、ちゃんと表現したいと思ったことが反射神経で、表現したいとおりにできたので、具体的にどういうことをしたってことではないんですけど、曲を受けたその時の衝動のまま歌うということが今回もしっかりとできたと思います。
ーー反射神経で、曲を受けた時の衝動のまま歌ったとおっしゃいましたが、振り返ってみて、今回、ボーカリストとしてどんなことをやったと思いますか?
渋谷:最初に思ったのは、この曲の受け皿の大きさとか、テーマの壮大さとかだったんですけど、すごくパーソナルな出来事やパーソナルな人物が思い浮かぶ曲だと思ったんですよ。今までのSUPER BEAVERの曲の中でも一番、曲を受けた人間のパーソナルな部分が反映される曲かなと思ったので、自分を出しすぎると、ちょっと違うのかなと思いました。個人で思ったことや、自分が受けたものをそのまま表現しちゃうと、その色が濃く出すぎちゃって、この曲の糊しろが死んじゃうと思ったんです。だから、なるべくパーソナルな部分を排除しつつ、その気持ちだけ残すという濾過の作業みたいなのはちょっとありましたね。
ーー濾過ですか。
渋谷:渋谷龍太が経験してきたことだったり、考えていることだったり、思い浮かんだ出来事、人物だったりは、なるべく濾過して、出汁の要素しか使ってないみたいな。そういう表現を今回はしました。気持ちだけは薄めないように。そこが薄まっちゃたら元も子もないので、そこだけを意識しながら歌ったかもしれないですね。
ーー確かにパーソナルな曲だなというのは、聴きながら感じました。
渋谷:だから、聴き手の個人が投影できる糊しろはデカいほうがいい曲になると思いました。「俺はこう思ってる!」みたいなところは、この曲に対してはちょっと余分になる可能性があると思ったんですよ。

SUPER BEAVER

ーーバラードと言うと、とにかく感情を込めてというイメージがありますが。
渋谷:感情の込め方にも幾つも種類があると思います。具体的なものを思い浮かべながら、感情を入れるのか、一歩退いたところで感情を入れるのかってところで少し違ってくると思うんですよ。これは熱量の話ではなくて、自分の立ち位置の話なんですけど、今回は半歩ぐらい退いた感覚でしたね。
柳沢:それは曲の作り手と歌い手が違うってところも大きいと思うんですよ。
ーー作曲のみならず、作詞もしている柳沢さんは今回、パーソナルな歌詞を書いたという意識はあるんですか?
柳沢:この曲に限らず、常にそうなんですけど、僕は自分が味わったことがないとか、抱いたことがない気持ちを想像力で書くことはないんです。そういう意味では、少なからず僕個人がパーソナルに思っていることも入っていると思うし、そこに対して、バンドが思っていることやバンドが大事にしている価値観、人との距離感をどんどん含ませていくっていうのが、SUPER BEAVERとしての曲を作る作業なんだと思います。
ーーどう生きていきたいかという人生観を歌っているという意味で、<この世の終わりと思った別れ>や<もはや終われと思った挫折>を乗り越えてなお、バンド活動を続けているという感慨を、大人になったことを厳然と受け止めながら歌った「27」(2016年6月リリースの5thフルアルバム『27』に収録)と通じるところがあるのかなと思ったのですが。
柳沢:同じ物事に対する思考の変化を捉えたという意味では近しいところはあるのかなと思います。「27」を作ったとき、この感覚はちゃんと残したいと思ったものがあったんですよ。<時間が解決してくれる もう その通りだと思う>と歌っているんですけど、時間が解決するなんてことはありえない。だから、今、必死にやらなきゃとがむしゃらに思っていた時期を少しだけ越えた時に、気づいたらいつの間にか乗り越えていたと言うか、時間が解決したとしか言えない感覚があったんです。でも、それはその先の歩み方、生き方を選んだ自分自身が変えてきたとも言えるんじゃないかという視点の変化、考え方の変化に自分が気づいたとき、そのことを曲として残したいと思ったことをすごく覚えているんですけど、今回の「儚くない」もそういう考え方の変化を歌っているんです。歌い始めの2行からそうなんですけど。
ーー<いつまでもないと わかっていても いつまでもあってほしい>と歌っていますね。
柳沢:いつまでもあるわけではないということはわかっているから大事にしようという気持ちはこれまでもあったと思うんですけど、だから大事にするというのは違うんじゃないかと、いつの頃からか思うようになったんです。いや、違わないし、そうだとは思うんですけど、それだけじゃないという思考の変化というか、いつまでもないのはわかっているけど、いつまでもあってほしいに決まっているというか……もはや、わがままとも言えるんですけど(笑)、それを願いと呼ぶんじゃないかなと。そういう考え方の変化は年月の経過とともにあると思うんですよ。考えていること自体は一緒なんですけど、それをどう捉えるかによって、印象が変わってくるものがいっぱいある。そういうことを歌いたかったという意味で言うと、「27」と「儚くない」は曲の性格は似ている気はします。言われてみれば、ですけど。
ーー「27」では<大人になったんだ>と歌っていますが、それと同じような年月の経過に伴う思考の変化が「儚くない」にもあるわけですね。
柳沢:年齢を重ねたからこそ、見えるポイントと言うか、物事の捉え方みたいなものはあると思います。逆に言うと、見えるポイントが増えていくのが年齢を重ねることなのかなとも思います。
歌を聴かせるため、いつも以上に役割分担がしっかりできたサウンドに
柳沢亮太(Gt)
ーーなるほど、興味深いお話です。さて、ここからはアレンジについて聞かせてください。今回、多くのアーティストやバンドを手掛けてきた河野圭さんを共同アレンジャーとして迎えたのは、どんな理由やキッカケがあったんですか?
柳沢:特に大きな理由があるわけじゃないんですけど、サウンド・プロデューサーさんやアレンジャーさんとこれまでやったことがないから、1回やってみるのもいいんじゃないかというアイデアが近しいスタッフから出てきたんです。その時はまだ河野さんの名前が出ていたわけではなくて、漠然とした話だったんですけど、最初、超個人的には本当に要るんですかねと思いました(笑)。ただ、「儚くない」のような曲こそ、そういう人とやってみることで、これまでSUPER BEAVERの曲が届かなかった人の耳にも届けられるんじゃないか。なおかつ河野さんがSUPER BEAVERに合うという話からお願いしますってことになりました。
ーー今回、ピアノとストリングスが入っていますが、河野さんはそれ以外のバンドの演奏のアレンジにも関わっているんですか?
柳沢:そうです。ストリングスとピアノのアレンジは河野さんにお願いしましたけど、バンドの演奏に関しては大きなテコ入れをされたってことはなくて、どちらかと言うと、箇所箇所のクオリティをどんどん上げていってもらうと言うか、さらに丁寧にアレンジしてもらうと言うか、やや濁っているところきれいにしてもらうとか、そういうことをやっていただいた気がします。構成を変えたとか、メロディはこっちのほうがいいとかはまったくなくて、すでにあるものに対して、「すごくいいから、もうちょっと整えたら、もっといい感じになるんじゃないの」みたいなことだったと思います。
ーー結果、すごくいいものになった、と。
柳沢:そう思います。何よりも河野さんとの作業が楽しかったんですよ。
ーーさっき正統派のバラードと言いましたが、同時にロック・バンドらしいバラードだという印象もあって、個々の存在が際立って聴こえるところは、やはりSUPER BEAVERらしいと思いました。中でも、上杉さんのベースがすごくよかったです。フレーズ自体はどちらかと言うと、バラードらしいシンプルなものなんですけど、サステインを生かしたり、グリッサンドを生かしたり、プレイによって聴き応えあるものにしているという印象でした。
上杉:全部のセクションでいろいろなことはしていて、それこそ河野さんから、いろいろアドバイスをしていただいたんです。ピアノとストリングスも鳴っているけど、基本、ギター1本、ベース1本、ドラム1台でやるなら、ベースでも聴かせる必要があるだろうと考えて、3回あるサビも全部、フレーズを変えているんです。なので、けっこうドラマチックになったと思います。
上杉研太(Ba)
ーー音色については?
上杉:基本、いつもと一緒です。ただ、ギターの本数が少ないことも含め、アンサンブル的に印象的に聴こえるようになっているんだと思います。だから、休符やパッセージを入れるにしても音が際立つ分、めちゃめちゃシビアにアプローチしました。逆に言えば、そういうことが効いてくるってことなので、できるだけ効果的なものにするにはどうしたらいいか、河野さんと細かいところを詰めながらセクション、セクションでアレンジを考えていきました。これまでは1個のコードに対して、1個の動きを考えがちだったんですけど、河野さんは流れでと言うか、コード進行に対して、1つになるようなフレーズをいろいろ提案してくれて、あ、なるほどと思いました。自分にもあるっちゃあるけど、そんなに使ってこなかったひきだしを開けてもらったという印象があります。おもしろかったですね。
ーードラムはバラードということで、どっしり構えつつというところがあったと思うのですが。
藤原“35才”広明(Dr):そうですね。音の隙間が多い上にギターもそんなにダビングするわけではなかったし、ピアノが主軸という感じだったので、必要以上に音の長さを出さないようにチューニング、ミュートの具合は工夫しました。ギター、ベース、ピアノ、サビで鳴っているシェイカーなど、後から乗ってくる音も含め、完成形を共有しながら、全部の楽器の音がきちんと1つの楽曲として、「儚くない」という曲を生かせるように音の雑味を極力減らしていったんです。
ーー柳沢さんがさっき言っていた「濁りをきれいにする」っていうのは、そういうことだったんですね。
藤原:やっていることはちょっとしたことなんですけど、思い返すと、めちゃめちゃいろいろやったという感じはあります。ハイハットがミリ単位で閉じていたのが開いていくっていうのを1曲通して、初めてやってみたんですけど、河野さんからご提案いただいてやってみました。そういう新たな発見も含め、すごく楽しかったですね。
藤原“35才”広明(Dr)
ーーギターのアルペジオに歪みの成分を加えたところが興味深かったです。バラードだから、音色はクリーンでっていうのは、固定観念かもしれないですけど。
柳沢:でも、方向としてはそうでした。クランチっぽいと言うか、いつもに比べたら、歪みは抑えているんですよ。ギター・ソロだけ、部分的に歪ませていますけど。音数が少ないところで鳴るから逆に目立っているってことだと思います。
ーーそういうことなんですね。今回、ギター・アレンジは、どんなふうに考えたんですか?
柳沢:どう重ねていくかってところで言うと、バンドだけでやっている時はもう1本、入れようかとなるんですけど、今回はアコギが基本ずっと鳴っていて、エレキはイントロが終わると、Bメロまで出てこない。4人だけの時はギターの印象がデカくなることが多いけど、今回はギター、ベース、ドラムに加え、ピアノもあって、それぞれがそれぞれのセクションだけを守り、それが合わさって1つの音像になっていることがSUPER BEAVERの音源の中で過去一、強調されていると思います。いつも以上に、その役割分担がしっかりできたサウンドなのかな。歌を聴かせるために、そういうオケになっている。それが最初に言ってもらった王道ということだと思うんですけど、作り方がすごくポップス然としている。音の量と言うか、音の在り方が。そういう脳ミソで最初からアレンジしていけたのは新しかったと思います。それでも自分達が元々持っているクセと言うか、匂いは、マーキングしようとしなくても出てくるものなので、そこが合わさって、ちょうどいい曲になっている。そういう曲がやっとできるようになった。ピアノありきっていうのがすごくデカかったと思います。

SUPER BEAVER「儚くない」MV(映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』主題歌)

ーー「儚くない」はMVもぜひ多くの人に見てもらいたいと思うんですけど、撮影は大変だったのでは?
渋谷:大変でした。俺はびしょ濡れになりましたからね(笑)。ただ、この曲が持っているテーマや、さっき柳沢が言っていた年月の経過を、監督が季節の移ろいの中でちゃんと表現してくれたので、いいMV になったと思います。このMVを見たら、思うこととか思い出すこととかいっぱいあるだろうなと思ってたので、雨に濡れたり、風に吹かれたりは必然的な表現だと思いました。
柳沢:絵コンテで説明していただいた時に想像していたよりも3倍ぐらい風が強かったんですよ(笑)。ストリングスの方々にも参加してもらいましたけど、風が吹くと、ボディの中に葉っぱが入っちゃってやばいってサランラップを巻いてましたね。あの楽器1挺逝ったら、俺達に弁償できるんだろうかと。もっとも、そこまでのものを持ってきてないかもしれないですけど、そういうレベルの楽器を使っているみなさんだったのでちょっとハラハラしましたけどね。
渋谷:しかも、ちゃんと自然にある葉っぱだったから、小石が混じっているんですよ。扇風機の風に乗って、小石とか、何かわからない堅いものとかが当たるんです。雨や風に加え、「痛ってぇ」と思いながらの撮影でしたね。
ーー最後にベタな質問です。バラードの名曲をレパートリーに持っているロック・バンドは古今東西少なくありません。そんなロック・バンドのバラードの中からおひとりずつ好きな曲を挙げていただけないでしょうか?
渋谷:うわ、マジかー。いっぱいありますよ。
ーーぱっと思いついた曲でかまいませんよ。
柳沢:それを言ったら、俺はもうGLAYの「HOWEVER」を聴いて、いい曲だなとギターを始めているんで。
藤原:僕は今日来るとき、車で聴いていたので、AMAZARASHIの「ナモナキヒト」。あの曲はとても好きですね。泣いちゃいます。
上杉:いっぱいあるなー。いっぱいあるけど、銀杏BOYZの「東京」にしておこうかな。好きな洋楽のバンドのバラードもいっぱいありますけど、学生時代に、こういういい曲も作るのねって感動した記憶があって、それを思い出しました。
ーー最後に渋谷さん。
渋谷:「TOO MUCH PAIN」かな。THE BLUE HEARTSの。いやぁ、ムズい。スピッツとか、エレファントカシマシとか、THE YELLOW MONKEYとか、他にもいっぱいありますけど、この曲はロック・バンドのバラードっぽいと思いました。
柳沢:バラードはムズい。俺、子供の頃、完全にバラード派でしたもん。速い曲よりも全然。
渋谷:めっちゃ難しい質問でしたね。マジで悩みました(笑)。
取材・文=山口智男 撮影=大橋祐希

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