KICK THE CAN CREWがかつてない流れ
で作ったEテレ『あおきいろ』6月のう
た「カメとピューマとフラミンゴ」の
制作方法、三者三様の動物たちとの共
通点とは

SDGsマインドを育むことをテーマに、様々な歌を放送するNHK『みんなのうた~ひろがれ!いろとりどり』。その5月のうたに続いて、6月からは『あおきいろ』(Eテレ)の6月のうたとして番組でオンエアされている「カメとピューマとフラミンゴ」。これを歌っているのは、何を隠そうKICK THE CAN CREWなのだ。5月24日から各音楽ストリーミングサービスから配信もスタートしたこの曲。番組で、アニメーションをバックに流れていたのはもちろんラップ。かつてない流れで作ったというこの曲の制作方法、そこには“ラップ”の使い手であるKICKだからこそ成し得たことがあった。さらに、今作の主人公であるカメとピューマとフラミンゴという見た目も特徴も違う三者三様の動物たちと、これまた三者三様のLITTLE、KREVA、MCU。その共通点とは一体なんだったのか。インタビューを通して3人にいろいろ聞いてみた。
――新曲が『みんなのうた~ひろがれ!いろとりどり』の5月の歌に決まったときは、どう思われました?
LITTLE:“みんなのうたか~”って。
――この番組について抱いていたイメージとは?
LITTLE:ちっちゃい頃に見た「北風小僧の寒太郎」?
KRAVA:あぁ――!! たしかに。それだ!
LITTLE:あれが印象に残ってますね。
MCU:俺はそれ、ピンときてない。
LITTLE:やってなかった?
――いやいや。60年以上やってますから。
MCU:何が流れてたかを憶えてないだけか。
KREVA:俺らの世代では子供の頃に必ず見てる、聴いてる番組だったから。そこで流れるというのは嬉しいなと思いました。
――しかも『みんなのうた~』にヒップホップ、KICKのラップが流れるんですから。この番組を通してこの曲が「“みんなのらっぷ”になったら」とKREVAさんも公式でコメントを出されていましたが。
KREVA:そうですね。プロデューサーの方が我々を選んでくれたんですけど。それが本当にありがたいことですね。
KREVA
――この曲は『みんなのうた~』のために書き下ろしたものなんですか?
KREVA:最終的にそこでも流れましたけど、最初は『あおきいろ』というSDGs番組の6月のうたというので書き下ろしたんですよ。そこから、それを『みんなのうた~』でも流しますよという流れだったと思います。
――『あおきいろ』の歌のコーナーはYOASOBI withミドリーズの「ツバメ」を始め、月ごとにSDGsの17の目標と関連した内容をテーマにした楽曲を通して“共生マインド”を育んでいくコーナーだそうですが。となると、KICKの場合も最初からテーマをドーンと渡されて、制作を始めた感んじだったんですか?
KREVA:そうです。ほぼ全部決まった状態で渡されましたね。LITTLEがカメで俺がピューマで雄志君(MCU)がフラミンゴで、多様性のことを歌いたい、お互いがお互いに無い物ねだりで、自分の特徴ではなく相手の特徴を羨ましがっていて、とか。そういうところまでガッチリ決まっているなかで、そこから曲を作っていく感じでした。しかも、本当にカメとピューマとフラミンゴが同時にひとところにいる。そのような共生が起こり得るのかというところまで検証してくれて。1人ずつその動物の生態を解説しているような資料を渡されて、それを見ながらラップを書いた感じでした。
――まずお伺いしたいのですが、ここまでかっちりと枠組み、使うアイテム、テーマまで決まっていて、貰った資料をもとにラップを書いて新曲を制作するというやり方は、KICKとしては初のことですか?
KREVA:そうだね。初めてですね。
――ここまで指定があるなかでの制作は、窮屈ではなかったですか?
KREVA:いや。全然なかったですね。雄志君は最初、よく分かんなかったんだよね?
MCU:うん。ミーティングしてるときに、向こうが何を言ってるのかよく分かんない状況でした。ZOOMでやったんですけど、ZOOMが苦手なんですよ。だから、開始2分後ぐらいに集中力が途切れてしまって。
KREVA:速いな!
MCU:そういう生態なんです(笑)。その後ちゃんと資料を読んでラップは書きましたけど。
――そもそも、なぜ先方はカメとピューマとフラミンゴを提案してきたんですか?
KREVA:俺たち(のライブ)を観て、プロデューサーの方はそう思ったみたいですよ。これは想像ですけど、プロデューサーさんのなかに、動物を(モチーフに)使って何かをやりたいなというのが元々あって、俺らのライブを観たときに動物を当てはめていったのかもしれないですね。それぞれの動物の生態を考えて。俺も最初はトラにいこうとしたんだけど“トラとカメは一緒にいないんですよ”っていうので、同じ食肉目ネコ科のなかでもピューマになったみたいです。ピューマか……ライオンのほうが書きやすかったんですけどねって言ったら“そうなんですけど、カメとライオンは一緒にいないんですよ。まだ、カメとピューマの方が可能性があるんです”という話だった気がします。
――そこまでリアルに共生しているかどうかまでを。
KREVA:がっちり考えられての、この3匹でした。我々は最後の多様性を歌うところ、お互いがお互いに憧れているんだけど、でも自分で自分のところにいくというところはしっかり考えましたね。あとは、資料をちゃんと見て、そこからズレないようにやろうねというのは最初に話し合いました。
――ラップを書き始める前に?
KREVA:はい。ここ(資料)に正解があると思うから、ここからハミ出ちゃって“いや。LITTLEさんはこう言ってるんですけど、カメはこういうことをしないんですよね”とか、“ピューマはそんな風に走ったりはしないんですよね”ってならないようにしようと。それをやっちゃうと文字数とかで曲の時間が変わってきちゃうから、とにかくこの(資料の)なかで各々ラップを書こう、という話をしました。
LITTLE
――こうして、決められた範囲のなかでラップを書くというのをやってみてどうでした?
MCU:逆に俺はありがたかった。生態を書いた資料を貰ってたから、自分で調べる手間も省けて。自分はそこに載ってないものを調べるだけでよかったから、書きやすかった。
KREVA:資料があると、“これだったらこう言えるな”という韻を踏むべき言葉も見えてくるから、やりやすかったな。
――あ! すいません。そもそもこの動物の振り分けに対して“俺はこんなの嫌だ”みたいな抵抗はみなさん、なかったですか?
KREVA:抵抗もなにも、我々がそう見えたっていうんだから。
LITTLE:僕も“そうだろうな”と思ったし。自分で書くにしてもカメかなって。
MCU:僕は“へー、そうなんだ”と思ったぐらい。
――では話を戻して。LITTLEさんは決められた中でラップを書いてみてどうでしたか?
LITTLE:この小節内で説明をして収めていくのは大変だなと思ったけど、書き終わったのを見たら“ちゃんと入った”“言いたいことが言えてる”って思ったので“すごっ! 俺ヤバっ! 天才!”って思ったんですけど。みんなのを見たら、みんな天才だった。
KREVA、MCU:わはははは。
LITTLE:俺、抜きん出てヤバいの書けたって思ったんですけど、俺だけじゃなかった(笑)。
KREVA:さっきのLITTLEの話を聞いて思い出したんだけど、与えられた資料の中にあった生態を“よくこの短い中で全部説明してくれたね”とプロデューサーの方が言ってくれましたね。歌だったら難しいだろうね。
MCU、LITTLE:そうだね。
KREVA:自分の特徴を言って、あいつのここが羨ましいと思ってるって言ってたら1匹分で1曲が終わっちゃうよね。ラップだからこれだけ説明ができたと思います。
――1曲のなかに3匹分入れられたのはラップだからこそ?
KREVA:(KICKは)3人でやってるしね。
――曲の尺も最初から決められていたんですか?
KREVA:そうですね。これで、ギリぴったりという感じです。
――ラストのユニゾンパートで《それぞれの眼に夕日が輝く》というところの夕日はKREVAさんチョイスのワードですか?
KREVA:俺だった気もするけど。そこもチェックが入らなかったっけ? 夕日は輝くものなのかどうかって。
――先方から?
MCU:いや。俺たちの。
KREVA:でも、その夕日が出てる時間帯が、また歩き出していくのにはいいんじゃないかなってところで夕日を出した気がする。
――この夕日、ポイントになってますよね。
KREVA:そうですね。動物たちが住んでる世界には夕日が合ってるんじゃないかと。ラストの3人で歌うところは、相当時間がかかりましたね。もちろんラップの順番を決めるところも、三竦み(さんすくみ)といって、お互いAはBをいいと思ってて、BはCをいいと思ってて、CはAをいいと思ってる状態になる順番とはどういうものなのか、とか。いまの長さの半分で3人でパスして歌っていったほうがいいのか、とか。歌う順番を変えて歌ってみて、そのなかで、やっぱりカメが最初か、とかね。そこら辺の試行錯誤はかなりしましたね。
――3匹の動物が互いに自分にはない相手の特徴に憧れているのが一番伝わる方法を探して。
KREVA:はい。それで、最終的には自分の個性を認めて、自分を好きになる。そこにいくにはどうしたらいいのか、というところも結構時間をかけてやった気がしますね。
――そこも、こういうことをメッセージしてほしいという要望があった訳ですか?
KREVA:指定されたものがあったんですよ。けど、それが“クサいな”、“嘘っぽいな”というものではなかったので、それを見ながら、あとは自分たちがそこから見える景色を探して書いていった感じですね。
MCU
――そうして自分たちの言葉に落とし込んでいったパートとして《君も誰かに憧れ その誰かは誰かに憧れ それが僕なのかもと思えるなら 自分の事を好きにやっとなれるかな》と結んでいったところは、この曲で一番グッときたところでした。
KREVA:三竦みの状態をどういう風に言えばいいのかを悩んで悩んで。最終的にはこういう見え方なんじゃないかというのをLITTEが提案してくれて。そこに言葉をつけていった感じですね。
LITTLE:ここがまとまったときは達成感がありましたね。言葉をいっぱい選んで選んで、これだとこれが言えてないのかって。
KREVA:そうそうそう。
――先方に入れてほしいと言われたメッセージをちゃんと入れ込んで。
KREVA:さらに、そこに自分たちが言いたい言葉も入れたいから。
LITTLE:宿題というかね、そのお題のもう一歩先にいくところを言えていたいじゃないですか。自分たちとしては。それを探して、探して。
――ここは一番“KICK THE CAN CREWとして”っていうところにこだわった部分と言いますか。
KREVA:そうそう。ま、雄志君はそういうときも“うん、うん”を1時間に1回ぐらい?
MCU:いや。2回は言ってるかな。(笑)
KREA:ゴメン。2回ね。
――そうして、このメッセージを伝えたあと、“誰かになるんじゃなくて僕がいいよ”と言ってカメとピューマとフラミンゴが歩き出すラストシーンの締めに、夕日が輝いている。これが、ドラマチックでジーンとくるんですよね。
KREVA:こうして自分たちが作ったものに、さらに絵が加わって。絵が加わったものを見て、絵に随分助けられて、より伝わりやすいものになったなと思いましたね。可愛いし、映像のリズム感もいいんで“さすがだな”と思いました。
MCU:素直に可愛いんですよ。絵が。
――あのアニメーションのなかのカメさんはLITTLEさんと同じようにキャップをかぶってましたよね?
LITTLE:そうですね。
KREVA:きっと合わせてくれたのかな。
MCU:LITTLEがキャップかぶってるっていうのはアイコンみたいなものだと思ったのかな。
――では、せっかくなので各々ラップを担当した動物と自分との共通点を教えてもらえますか?
LITTLE:カメさんと俺? ちっちゃなところ。
KREVA:でも、カメのなかでもデカいカメなんだよね。このお話の中に出てくるカメは。ミドリガメとかじゃないんでしょ?
LITTLE:うん。陸ガメ。
KREVA:俺はピューマ自体、生態とか全く知らなかったから、いろんな動画を検索して見たんですよ。そうしたら、本当に単独で行動してて。いろんなところに1人で行って餌を探してる訳。何をやるのも1人でやってて大変そうだなって思いました。怖そうって言われるってところは共通項なのかもしれない。そこをプロデューサーの方は感じたんじゃないかな。
MCU:フラミンゴとの共通項か……。
KREVA:食べてるものは一緒じゃない?
MCU:そう! って(笑)。あ、ほらご覧なさい!(と、組んでいる自分の脚の床に付いているほうの足先を指差して)片足(一同笑)。あとね、足が細いんですよ。
KREVA:そうなんだよね。
MCU:そこだけで俺のことをフラミンゴと判断したんじゃないかな。ピンクの洋服なんて着ないですし、集団行動もそこまで好きではないですし。あ! 引っ越しはすげー好きだわ。
KREVA:さすがNHKの敏腕プロデューサーになってくると、ライブを見ただけでそこまで分かっちゃうんだね。
MCU:え、個人情報まで?
KREVA:“アイツ引っ越し好きそうだな”って。
MCU:凄いな。知ってます? フラミンゴって、助走がないと飛べないんですよ。
――知りませんでした。
MCU:動物園では屋根がないところにフラミンゴっているでしょ?
KREVA:助走できないから飛べないんだ!
MCU:そう! その距離を設定して柵を作ってるんだって。
――これから出演するフェスやイベントではこの曲の初パフォーマンスが観られるのでしょうか?
KREVA:いやいや。やる、この歌?
LITTLE:言われるまで全然想像してなかったです。
MCU:似合わなくないですか?
KREVA:やるんだったら自分たちのファンの前だけでやりますね。
MCU:そうだね。
LITTLE:ワンマンとかのちょっとしたなにかとして。
KREVA:アンコールぐらいでね。
――KICKのなかでもそれぐらい別枠にいる曲ということですか?
KREVA:そうですね。まったく別枠ですね。
――この動物たちがプリントされたTシャツを作ってらっしゃったので、てっきりフェスでもやるのかと思ってました。
KREVA:この動物Tシャツは意図して作った訳じゃなくて、ずっと俺たち動物Tシャツ作ってるんで、ファンからすると何の違和感もないと思う。
LITTLE:急に動物が3匹になったから、なんで? と思ってたら、この曲で“なるほど”って感じじゃないかな。
――では今後のKICKの活動としては?
KREVA:ライブですね。フェスにちょこちょこ出て。
――でもこれは歌わないんですよね。
KREVA:はい。番組のアニメーション込みの映像が一つの作品として、この曲の正解だと思うから。まずそれを見てもらわないことにはね。いきなりライブでこの曲を突きつけられても、意味分かんないと思う。俺がファンだったら“えー、やるの? 他の人は分かんないよ”って思うから。これだけ説明をして、それを読んで、番組を見ていれば分かるけど「カメとピューマとフラミンゴ」っていきなり言われたら“?”って。
MCU:KICK、改名したんだと思うよ(一同笑)。KREVAとか“僕がピューマ”って歌うんだから、“え、これからは[Dr.P]だ”って(一同大ウケ)。Pだからこれからは両手が必要だぞって。
KREVA:それ、手が逆ね。
MCU:こうか(笑)。
KREVA:こうならないように説明をしなきゃいけないから、やりようがないんですよね。
LITTLE:だから、やるなら説明がいらない人のところがいいですね。
KREVA:絶対そう。あとちゃんと絵を流せる環境があるところ。それがベストだと思います。
――分かりました。それでは最後に、この曲について読者のみなさんに一言お願いします。
LITTLE:Eテレで流れてるとこを見てほしいですね。
MCU:ちっちゃい子にも見てほしいですね。
KREVA: KICKは次もオファーがあって、今回みたいに指定があって書いたものをもう録っていて。今後は、こういうのも増えてくるのかなって思いますね。いままでは全部自分らでやっていたけど、自分たちの曲を聴いて育った人たちが社会でパワーを持ち出して、我々に話を振ってくれたりというのが出てきはじめてるのかなって気がするから。そこでは、いままでやったことがないような曲も生まれてくるんじゃないかなと思います。
――そこは、KICKの多様性があってこそできることですよね。
KREVA:もともと多様性、SDGsの権化みたいな存在だから。
LITTLE、MCU:権化っ!(笑)
取材・文=東條祥恵 撮影=菊池貴裕
スタイリング=藤本 大輔(tas) ヘアメイク=結城 藍
<衣装協力>
・KREVA
ANTOSTOKIO(antostokio.com)
ANEI(JOYEUX/03-4361-4464)
・MCU
semoh(Bureau Ueyama/03-6451-0705)
Peace and After(BROTHERHOOD CORPORATION/press@peaceandafter.jp)
・LITTLE
MYne(THE PHARCYDE/070-6660-0692)
Cookman(BUDDYZ/03-5721-9951)
MAISON Birth(JOYEUX/03-4361-4464)

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